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【O・元素#8】 酸素の科学と産業を見ていく

元素は実験室だけでなく、社会や産業の現場で日々使われています.本記事では酸素の基礎的な性質から、製造・輸送、用途、そして市場の動向までを一望します.研究室時代に実際に元素を扱った際の感想つき.

原子番号8番、酸素(O、Oxygen)

酸素(O、原子番号8)は地球上で最も豊富に存在する元素の一つです.常温常圧では二原子分子(O₂)の形をとる気体で、空気中の約21%を占めます.化学的には非常に反応性が高く、多くの元素と酸化物を作るため、「燃焼」「腐食」「酸化還元反応」の主要因となります.生命活動(呼吸)から製鉄・化学工業、医療用途まで裾野が広く、産業用ガス市場では窒素と並ぶ基幹ガスの一つとなっています.

2025年の世界の酸素需要・供給量(工業用+医療用の総量ベース)は約8,793万トンと推定されています.用途内訳の直近データでは、2024年時点で工業用途が約65%を占めます.

酸素はなぜ「反応的」なのか?酸素分子(O₂)は基底状態で二重結合に類する配列を取り、分子軌道的には準粒子であるため常温でも比較的容易に電子を受け取り(酸化剤として働き)ます.単原子酸素やオゾン(O₃)はさらに高い酸化力を示します.酸素は標準電極電位や電子親和力が高く、しかも空気中の存在量が多いことから、酸化反応が起こりやすく、材料や装置を扱う際には「酸素の排除」が重要です.

主な製法

酸素の工業的製造はすべて空気分離(Air Separation)が柱です.主な方式は次の通りです.

低温分離(ASU:Air Separation Unit):空気を圧縮→前処理→深冷凝縮→精留によって酸素(LOX: liquid oxygen)、窒素、アルゴンを分離します.高純度(99%台後半〜99.999%)の酸素や大量の液体酸素の製造が可能で、製鉄所や大規模化学プラントへパイプライン/タンク配送する中心方式です.

PSA(Pressure Swing Adsorption:変圧吸着)/膜分離:小規模〜中規模の現地発生装置で、工場や医療機関向けにコンパクトに酸素を供給する方式.電力や運用条件次第でコスト・立地優位があります.ASUに比べて純度や大容量供給には制限がありますが、オンサイトでの自給が可能です.

輸送・貯蔵

酸素は用途に応じて高圧気体(シリンダー/バンドル)、液体酸素、あるいはオンサイト生成で供給されます.

液体酸素は−183℃前後(液体酸素の沸点)で貯蔵・輸送され、断熱真空タンクローリーや貯槽、デュワー瓶が使われます.大量需要(製鉄、化学)ではASUで生産した液体酸素をパイプラインまたはタンク輸送で供給するのが効率的です.

利用

酸素の用途は産業横断的で、代表的用途は以下の通りです.

製鉄(高炉・転炉/基本酸素法/酸素吹き):高炉還元や転炉(BOS: Basic Oxygen Steelmaking)で酸素は溶鋼の脱炭・熱供給を効率化し、鋼生産の心臓部にあります.大型コンバータでは大量の酸素が必要で、酸素消費は工程により大きく異なりますが、酸素の消費は鉄鋼業での主要需要の一つです.

化学工業・石油化学:酸化反応(酸化物・酸化生成物の合成)、プロセス加熱、蒸気生成促進、プロセスの酸化雰囲気などで用いられます.特にエチレン酸化や各種酸化触媒プロセスでは高純度酸素が品質と収率に影響します.

医療・ヘルスケア:酸素療法、救急医療、集中治療室(ICU)、在宅酸素療法でのボンベ・液体酸素供給が不可欠.パンデミック時には医療用酸素の需給が問題化した事例があります.

溶接・切断(オキシフューエル):溶断・溶接のアシストガスとして酸素は燃焼を促進し、切断速度・品質を向上させます.

水処理・浄化:酸化による有害物質分解、曝気による溶存酸素供給などで使われます.

環境・エネルギー分野:ガス化プラント(酸素吹きガス化)、CCUS(酸素を使った燃焼・ガス化プロセス)などで酸素需要の新たな用途が拡大しています.

関連企業

酸素のサプライチェーンは、基本的に「空気分離装置(ASU)」を所有・運用する産業ガス会社が中心を担っています.ASUで製造された酸素は、液体酸素や高圧ガスの形でパイプライン、タンクローリー、ボンベなどを通じて各需要家へ供給されます.これに加えて、近年では医療機関や工場、養殖施設などで利用されるオンサイト型の酸素発生装置(PSA/VPSAや膜式ユニット)も重要な供給手段となっています.

世界的には、Linde、Air Liquide、Air Products、Messerの4社が「四大産業ガスメーカー」として知られています.これらの企業は、巨大なASUの設計・建設から操業、製鉄所や化学プラント向けのパイプライン供給、液体酸素の広域配送、さらには半導体・医療用の高純度ガス供給までを一貫して手がけています.各社は世界各地で数百基規模のASUを自社運転しており、酸素はもちろん窒素やアルゴンの同時生産を通じて、産業インフラの根幹を支えています.

日本国内では、日本酸素ホールディングスが最大手として、半導体・電子産業や製鉄業向けにオンサイト型ASUやパイプライン供給網を展開しています.同社はまた、在宅医療用の酸素供給機器や医療ガス分野でも高いシェアを持ちます.エア・ウォーターは地域分散型のASUネットワークと液体酸素の物流網を組み合わせ、食品・医療・環境分野を含む幅広い領域で総合供給体制を築いています.岩谷産業は、低温機器や真空断熱タンク、ローリー車などの冷却物流技術に強みを持ち、酸素を含む極低温ガスの安全かつ効率的な輸送を実現しています.

固体科学的イメージ

何と言っても酸化物の構成元素.空気中で焼くだけで勝手に出来上がります.中には、酸化物なのに空気中で分解する変わり種も.

ペロブスカイト酸化物、スピネル酸化物、アルミナ、マグネタイトなど言わずもがな固体科学の中心で産業でもキープレーヤー.亜酸化物や超酸化物なども知られています.

実際に扱ってみた感想

身の回りにたくさんある酸素.窒素と違って反応性に富むので,非酸化物を合成する際には、真空封入をするか不活性ガスを流すなどで酸素の影響を取り除くことが重要です.一方で酸化物を合成する際には便利で、物質によっては空気中で焼成するだけで目的物ができます.しかし、水蒸気濃度は天気次第なので、季節によって合成できたりできなかったりする物質が現れて再現実験に手間取ることも.

参考文献

Oxygen - Industrial gases market outlook

テキストの一部にChat GPT-5を使用