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学会誌とは:最先端の科学の流れを知るために

更新 2024-2-23

学会誌とは

理工系の学科に進んだ皆さんは4年生になったタイミングでどこかの研究室に配属されるかと思います.その後、研究が進展してきたタイミングで「学会発表をしてみないか」と打診されるでしょう.

学会発表の準備は憂鬱ですが、訪れたことのない大学へ行って様々な研究者の発表を聞くことができる機会はそこそこ楽しいものです.会場と日程によっては旅行気分で観光もできます.

えっ、オンライン学会しか経験してないって?

学会発表に先立って学会に入会する必要があります.私が最初に所属した学会は「日本セラミックス協会」でした.学会への参加費は研究費から出ますが、入会費や年会費は出せないので、学生の自腹で支払われる研究室も多いことでしょう.1万円近く持ってかれるのは学生にはなかなかしんどいものです.

その年会費と引き換えに月に一回送られてくるのが学会誌です.最初の方はどんなものかと興味深げに読んでみるものの、そのうち読まなくなってしまいます(私だけ?).

どんな内容が書かれているかは学会によって様々ですが、学会に関連する出来事や会長の挨拶、研究や論文の紹介、コラムなど、一般商業誌と比べて遜色ない内容が書かれています.

現役の研究者が最先端の研究内容を日本語で解説している資料は貴重で、自分の研究にも役立ちますし、関連分野の勉強、業界の流行のキャッチにも便利です.その他、求人情報も載っていたりするので、特に博士学生は見逃せません.

とはいえ、毎月送られてきてかさばるのでしばらくしたら捨てられてしまうのも学会誌です.たいてい年末の大掃除の際にまとめて捨てられます.そのため、数年後に「あの時の記事が読みたい」となってもたどり着くすべなく絶望するのが常でした.

学会誌をオンラインで?

しかし、それももはや昔の話.現在では様々な学会誌がネット上にバックナンバーを無料で公開しています.さすがに最新のものは会員限定ですが、出版から半年〜1年程度経過したものであれば全て公開している学会も多いです.

学会に所属していなくても最新の科学にアクセスできるチャンス!

さすがに最先端の内容は難しいものが多いですが、単純に勉強になる記事も多いので学部生にもおすすめです.とはいえ、自分の所属している学会ならともかく、そもそも日本にどのような学会があるのか分からないので探せないという人も多いと思います.

そんな人はまず「学会名鑑」で日本の学会を探しましょう.

分野別に探すことも、団体の名称から探すこともできます.この記事を見に来た人は理工系の人が多いと思いますが、理工系の中にも1000以上の学会があります.まずは分野から自分の興味ある内容の学会を探してみてください.

さすがに100人規模の学会では学会誌を毎月発行していない場合もありますが、1000人規模の学会であれば発行されている可能性が高いです.

学会と学会誌のバックナンバー

以下では、固体の研究に取り組む人に向けて、私がたまに見ている学会誌を紹介します.なお、ここで紹介するのは、査読済みの研究内容が載る商業誌の方ではなく、日本語の解説記事が紙面の多くを占める学会誌の方です.

日本物理学会

日本の物理学徒で知らぬ者のいない物理の総本山.当然、純粋物理系で最も所属者数が多い学会です.物性物理から高エネルギー物理、素粒子物理まで基礎物理のすべてがここに.学会誌のバックナンバーは1年前のものから公開されています.

最新のトピック、論文の紹介のほか、書評やコラムも充実しています.

応用物理学会

物理学会よりは応用(工業)的な内容を扱う、物理学会に負けず劣らず大きな学会です.太陽電池、誘電体、熱電材料など材料を応用したデバイスの話がメインです.学会誌のバックナンバーは1年前のものから公開されています.

基礎講座など、研究内容以外の記事も充実.

日本磁気学会

磁石をはじめとした磁性物質に関する学会です.低温での基礎物性というよりは、永久磁石、メモリ材料、軟磁性体など応用を志向した材料に関する研究が多いです.学会誌のバックナンバーは残念ながら公開されていませんが、タイトルは閲覧できます.

最新のトピックを追いかけるには十分かも.

日本結晶学会

結晶構造に特化した学会です.回折実験に用いるX線・中性子線や結晶構造の解析法、結晶構造についての研究が中心です.結晶構造は物性とダイレクトに相関しているため、イオン伝導や熱膨張などの物性に関する研究もそこそこあります.なんと、学会誌のバックナンバーは最新号まで無料公開されています!

初学者に向けた連載講座も豊富なのでかなり勉強になります.

日本化学

日本の化学の総本山.当然化学界でナンバーワンの会員数です.有機化学、無機化学、生化学までなんでもござれ.固体化学はやや端に追いやられている気がしますが気にしない.学会誌は二種類あります.

「化学と工業」

化学会のメインの学会誌です.最新の研究成果などはこちらに載っています.学会の守備範囲が広いだけあって様々な内容の記事があります.バックナンバーは最新の3誌のみ期間限定で公開されています.

「化学と教育」

その名の通り、化学の教育に関する学会誌がこちらです.最新の研究の紹介というよりは、化学を若い層に教育していくための内容の記事が多いです.学生実験の題材や実験のコツ、高校生への化学の教え方など、他の学会誌ではあまり見られない内容があり、高校の教諭が執筆している記事も多いです.バックナンバーは1年前のものから公開されています.

日本セラミックス協会

セラミックス(酸化物)に関する学会です.セラミックスだけではなく、金属材料に関する発表もまあまあ見かけます.日本には固体化学専門の学会がないので、最も固体化学の学会の役割を担っているのがセラミックス協会だと思います.学会誌のバックナンバーの購読には会員登録が必要です.

とはいえ、たまにオープンアクセス記事もあるのでチェックしてみるのもいいと思います.

触媒学会

均一系から不均一系まで、触媒に関する全ての研究を対象とした学会です.学会誌のバックナンバーの購読には会員登録が必要です.

日本金属学会

鉄鋼や磁石などの材料から、機械特性や脆性などの物性、分析手法に至るまで金属に関する多くの研究があります.バックナンバーは1年前のものから公開されています.

粉体粉末冶金協会

粉末材料に関する研究を発表しています.粉体であればあとは自由なので、金属からセラミックスまで幅広い材料をカバーしています.粉体の製造法よりも材料特性に関する内容が多いかもしれません.バックナンバーはなんと二ヶ月前のものから無料公開されています.

まとめ

普段は意識していなくても、日本だけでもたくさんの学会が存在しています.研究室単位で所属している学会以外にはなかなか参加する機会がないですが、学会誌の内容だけでも読んでみれば新たな発見があるかもしれません.

個人的におすすめの学会誌は日本化学会の「化学と教育」です.

教育に関する学会誌だけあって、執筆者が初学者あるいは学生に向けて分かりやすい表現を使うよう努めている様子が伺えます.専門家が専門家に向けた文章は専門家が読んでも難しくてよく分からないことがしょっちゅうなので、平易に書かれている記事は貴重です.学習の出発点として最適な記事が多くあります.