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逆ペロブスカイト(アンチペロブスカイト):カチオンとアニオンが入れ替わったペロブスカイト

逆ペロブスカイト型(Antiperovskite)

光があれば影があります.実像があれば鏡像があります.物質があれば反物質があります.ペロブスカイトがあるのであれば、同様に逆ペロブスカイトも存在するわけです.

ペロブスカイトとは1839年に発見された鉱物 \rm{CaTiO_3}であり、同様に ABX_3の構造を持つ物質をペロブスカイトと総称します. A,Bには金属元素、 Xには酸素やフッ素などのアニオン種が入ります.

固体化学で最も有名な結晶構造の一つであり、「機能の宝庫」とも謳われる多種多様複雑怪奇な性質を示す物質が数多く知られています.酸化物において特に有力な物質が多く、磁性体、超伝導体、イオン伝導体、触媒材料に電極材料に至るまで枚挙に暇がありません.

では、逆ペロブスカイトは何が逆なのかという話に移ります.

上記のように、 ABX_3の組成で A, Bがカチオン、 Xがアニオンを担当するのがペロブスカイトなわけですが、逆ペロブスカイトではその役割が入れ替わります.すなわち、 \rm{Na_3OCl}のように、 Xにカチオン種、 A, Bにアニオン種が入ります.

元素の役割が変わるだけで、結晶構造は何も変わっていない点に注意が必要です.そのため、結晶構造を記述する方法も元のペロブスカイトと変わりません.

ペロブスカイトが多様な機能を示すことから予想できるように、逆ペロブスカイトも負けず劣らず様々な機能を示します.これは、ひとえにペロブスカイト型構造が持つ組成・構造の自由度に起因します.

ただし、複数のアニオン種が共存する物質が多く、それゆえ不安定で合成が難しい物質が多いです.実際、逆ペロブスカイトの融点はペロブスカイト酸化物に比べると一般的に低くなります.また、知られている物質数も少なく、膨大な研究量のある正ペロブスカイトに比べると開拓の余地を残した物質群であると言えます.

今回は、逆ペロブスカイトについて、ペロブスカイトとの相違や結晶構造、物性・機能について見ていきます.

逆ペロブスカイトの結晶構造

逆ペロブスカイトは X_3ABの組成を持ち、 Xはカチオン、 A Bは主として大きさの異なるアニオンです. A Bには、金属元素が入ることや、複数の元素からなるポリアニオンが入ることもあります.

 Bは6つの Xに八面体配位され、 Aは12の Xに配位されています. BX_6八面体はそれぞれ頂点を共有し、三次元的なネットワークを形成します.立方晶系、単純立方格子構造で、空間群は Pm\overline{3}mです.

カチオンとアニオンが入れ替わったほかは、ペロブスカイト構造と変わりません.膨大な量の研究があるペロブスカイトと比べると、そもそも構造の知名度が高くなく、逆ペロブスカイトという名称が使用されていない文献も見られます.

ペロブスカイトと同様、逆ペロブスカイトにも許容因子 tを定義することが可能です.

   t = \dfrac{r_A+r_X}{\sqrt{2}(r_B+r_X)}

ここで、 A, B, Xのイオン半径を r_A, r_B, r_Cとしました.

許容因子について詳しくはペロブスカイトの項目を参照してもらうとして、 tの値は結晶構造に大きな影響を与えます. tが1に近ければ理想的な立方晶構造となり、 tが低いほど正方晶や斜方晶などの対称性が低い構造を与えます.

ただし、正ペロブスカイトはイオン性が高いので tを容易に定義できますが、逆ペロブスカイトでは共有結合性や金属結合性を好む元素が存在するケースが多く、 tから結晶構造を予測することができるとは限りません.

逆ペロブスカイト構造を持つ物質

逆ペロブスカイトは、ペロブスカイトと同様の構造的特徴を持っています.すなわち、最密充填を基調とした構造であるため密度が高く、三次元的な結晶構造から等方的な物性が期待できます.

空気中で焼けばほとんどの物質が得られるペロブスカイト酸化物とは異なり、逆ペロブスカイトの合成には工夫が要ります.とはいえ、大部分は真空中で原材料を加熱することで合成することができます.

アルカリ金属が含まれる逆ペロブスカイトは、一般に空気や水分で分解します.複数のアニオン種を含む逆ペロブスカイトでは加熱によって成分が揮発してしまう場合があるため、構成元素が含まれるガス中での熱処理や高圧合成法が使用されます.

以下では、代表的な逆ペロブスカイト型物質の一例を述べます.

 \rm{Ni_3MgC}:逆ペロブスカイト初の超伝導体

 \rm{Ni_3MgC} \rm{MgCNi_3})は2001年に発見された超伝導体で、8 Kの転移温度を持ちます.銅酸化物高温超伝導体はペロブスカイト関連構造を持つため、金属間化合物とペロブスカイトをつなぐ超伝導体ということで注目されました.単体では強磁性を示すNiが多く含まれる組成であるため、磁気相互作用が超伝導に重要であると考えられています.[1]

 \rm{Li_3OCl}:全固体電池に向けたイオン伝導体

全固体電池の完成に向けて、(液体ではなく)固体にも関わらず高いイオン伝導度を示す材料の開発が進められています. \rm{Li_3OCl} \rm{Li_3OBr}をはじめとした逆ペロブスカイトは注目の \rm{Li}イオン伝導体で、室温でも高いイオン伝導度を示します.

関連物質として、他のアルカリ金属を用いた \rm{Na_3OCl} \rm{Na_3OBr}、酸素の代わりにカルコゲン元素を用いた \rm{Li_3FSe} \rm{Na_3HSe}などが知られています.[2]

 \rm{Mn_3GaN}:温めると縮む負の熱膨張物質

物質は温度を上げると膨張します.しかし、中には温度を上げると縮む物質が存在し、負の熱膨張物質と呼ばれます.負の熱膨張の起源には様々なものがありますが、 \rm{Mn_3GaN}は、低温で起こる特殊な磁気構造が負の熱膨張の起源とされており、大きな負の熱膨張を示します.組成の制御による最適化で、熱膨張係数は \rm{-30\text{ } ppmK^{-1}}にまで達します.[3]

よく似た組成の \rm{Mn_3GaC}は、磁場をかけると電気抵抗が急激に変化する巨大磁気抵抗(GMR)効果を示します.

 \rm{Sr_3SnO} :トポロジカルな超伝導体?

 \rm{Sr_3SnO}から \rm{Sr}を少し欠損させた物質は、超伝導を示す最初の逆ペロブスカイト酸化物です.欠損のない \rm{Sr_3SnO}はトポロジカルに非自明なバンド構造を有しており、ディラック半金属やトポロジカル超伝導体の候補としても知られます.同様に \rm{Ca_3PbO} \rm{Sr_3PbO}などの関連物質もトポロジカル材料のほか、熱電材料として注目されています.[4]

 \rm{Sr_3(SiO_4)O}

 \rm{Sr_3(SiO_4)O}などの、ポリアニオンを含む逆ペロブスカイトは、新しい種類の発光材料として注目を浴びています.化学的安定性と制御可能な発光特性を併せ持ち、 \rm{Eu^{2+}}をドーピングすることで黄色の発光を示します. 白色発光ダイオード用に使用される市販の黄色蛍光体 \rm{YAG:Ce^{3+}}と比較すると、逆ペロブスカイト型のホストは、演色性が低い、色温度が高いといった既製品の欠点をある程度克服可能と目されます.[5]

 \rm{Cu_3PdN, Ni_3FeN}

水素は近年、新しいクリーンエネルギー材料として注目されており、水の電気分解による水素合成の確立が急がれます.そのため、反応効率が高く耐久性のある触媒材料が重要な課題となっています.逆ペロブスカイト \rm{Cu_3PdN}のナノ結晶は、市販の \rm{Pd}と比較して高い活性と安定性を示すことが報告されています.また、 \rm{Ni_3FeN}は、酸素還元反応と酸素発生反応の両方において非常に優れた非貴金属系電極触媒です.[6]

逆ペロブスカイト構造の関連構造

ペロブスカイト同様、逆ペロブスカイトにも豊富な構造バリエーションがあります.

例えば、ペロブスカイト酸化物の酸素サイトが欠損することと同様に、逆ペロブスカイトの Xサイトも欠損した物質が多く得られます.例として、 \rm{Hg_3Se_2Cl_2} \rm{Co_3Sn_2S_2} \rm{Fe_2SeO}などの物質が知られています.

また、ペロブスカイト酸化物が塩化ナトリウム構造とのハイブリッドによって、 \rm{Sr_2RuO_4} \rm{Sr_3Ru_2O_7}などのRuddlesden−Popper (RP)型層状ペロブスカイト型構造を示すことと同様、逆ペロブスカイトでも \rm{Na_4OI_2} \rm{Li_7O_2Br_3}などの層状逆ペロブスカイト構造を形成します.

まとめ

逆ペロブスカイトは、カチオンとアニオンの立場が逆なことを除き、通常のペロブスカイトと構造上の違いはありません.ペロブスカイトと同様、逆ペロブスカイトも多種多様な元素の組み合わせが可能であり、元素選択に応じた様々な機能を示します.

逆ペロブスカイトに関する研究はペロブスカイトと比べると多くはないものの、ペロブスカイトの長い歴史から得られた物質設計技術を応用できることから物質選択・修飾の選択肢が豊富で、それゆえ物質開拓の余地が豊富に残されていると考えられます.

参考文献

Chemical Reviews, 2022, 122.3: 3763-3819.

Zeitschrift für Kristallographie-Crystalline Materials, 2008, 223.1-2: 109-113.

Advanced Materials, 2020, 32.7: 1905007.

[1] Nature, 2001, 411.6833: 54-56.

[2] Journal of the American Chemical Society, 2012, 134.36: 15042-15047. / Nature communications, 2021, 12.1: 1-10.

[3] Applied Physics Letters, 2005, 87.26: 261902. / Physical Review B, 2000, 63.2: 024426.

[4] Nature communications, 2016, 7.1: 1-6.

[5] Applied Physics Letters, 2006, 88.4: 043511.

[6] Chemistry of Materials, 2014, 26.21: 6226-6232. / Advanced Energy Materials, 2016, 6.10: 1502585.

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).