バンドギャップ(Band gap, Bandgap, Energy gар)
バンドギャップは、物質の特性を決める極めて重要なパラメータです.
ハンドギャップが大きすぎると、電子は移動することができず、電気抵抗の極めて大きい絶縁体となります.バンドギャップが存在しない場合、電子は自由に動き回ることができ、導体(金属)となります.
絶縁体と導電体の中間的な存在である半導体においては、バンドギャップの値は特に大きな意味を持ちます.
バンドとバンドギャップ
階段がなくエレベーターしかないアパートを想像してみてください.あなたは1階や2階で降りることはできますが、その中間に留まることはできません.2階までの部屋が埋まってしまったら、エレベーターを使って3階まで上がる必要があります.
物質の中で、電子はこのような建物に住んでいます.物質中の電子は、量子力学的な制約によって、ある決まった値のエネルギーしかとることができません.これをエネルギー準位と呼びます.
物質中では、電子はバンドと呼ばれるエネルギー準位の束を形成しています.電子は低いエネルギーを持つ準位から順番に詰まっていき、原子の持つ電子の数だけ準位が埋まると、それ以上のエネルギーを持つ準位は空っぽのまま残されます.
電子が2階のフロアを全部埋めてしまった状態であるとき、2階から3階までの高さを表すのがバンドギャップ(エネルギーギャップ)です.すなわち、2階から3階に上がるためにはバンドギャップに相当するエネルギーを与えなければなりません.
2階と3階の間にエレベーターは止まらないため、その間の準位は存在しませんし、対応するエネルギーを持つ電子は存在しません.
バンドギャップと物性
バンドギャップの意味を、ブリタニカ国際大百科事典では以下のように定義しています.
「固体物理学において、ある結晶内の電子が持つことが不可能なエネルギーレベルの範囲」
定義上は、既に埋まっているバンド同士や全く埋まっていないバンド同士の間にあるギャップもバンドギャップに含みますが、実用上は全て埋まったバンドと全く埋まったバンドの間のバンドギャップのみに焦点が当てられます.これはフェルミ準位(絶対零度で埋まっている準位のうち最も大きなエネルギーを持つ準位)を含むバンドギャップです.
このバンドギャップの直下にあるバンドを価電子バンド、直上にあるバンドを伝導バンドと呼びます.すなわち、バンドギャップの大きさは、価電子バンドの上端と伝導バンドの下端の間のエネルギー差に相当します.このバンドギャップは絶縁体や半導体に存在しますが、金属には存在しません(値がゼロ).通常は電子ボルト(eV)の単位で大きさを表します.
金属と半導体と絶縁体は、バンドギャップの大きさによって区別されます.バンドギャップの存在しない金属は、電気がよく流れる導電体です.バンドギャップが大きければ大きいほど電子は流れにくく、絶縁体となります.この違いにより、金属と絶縁体には1032倍におよぶ非常に大きな伝導度の差が生じます.
半導体とバンドギャップ
一方、半導体はバンドギャップこそあるものの、その値が小さいため、電気が比較的流れやすいとされます.バンドギャップに相当する熱・光エネルギーによって価電子バンドから伝導バンドに電子が一部移動し、それに伴って伝導性を示します.伝導度としては金属と絶緑体の中間に位置します.
(なお、最近ではワイドギャップ半導体と呼ばれる、その名の通りバンドギャップの大きな材料も開発されているため、バンドギャップの大きさのみで絶縁体と半導体を区別するのは難しくなっています.半導体の定義については過去の記事を参照のこと).
バンドギャップの大きさは物質の組成や結晶構造によって決まり、自由に制御することは困難です.一般的には、組成の制御や外部圧力によってバンドギャップの値を変化させます.量子ドット材料では、粒子のサイズを変化させることでバンドギャップを変えることが可能です.
半導体材料の性質は、バンドギャップの大きさによって決まると言っても過言ではありません.発光ダイオードでは、望みの色(エネルギー)の発光が起こるように適切なバンドギャップを持つ材料を選定する必要があります.太陽電池では、太陽光を効率的に吸収できるような半導体材料が必要です.水分解用の光触媒では、水分解が可能なエネルギー差を持つ材料を使用します.
参考文献
Band gap | Definition, Types & Applications | Britannica
化学と教育 2008 年 56 巻 12 号 p. 610-611