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青色発光ダイオード:青色を発することの意義とは

更新 2024-3-3

青色発光ダイオード(Blue light-emitting diode)

2014年のノーベル物理学賞の時のことを記憶している人も多いかと思います.

"for the invention of efficient blue light-emitting diodes which has enabled bright and energy-saving white light sources"

すなわち、「明るく省エネルギーな白色光源を実現した高効率青色発光ダイオードの発明」が受賞理由となり、日本出身の3名に対して賞が贈られました.

一般的な照明には白色光源が求められます.光は波長によって色が決まり、青色や赤色が特定の波長を持つことに対し、白色光は決まった波長を持ちません.人間の目に見える可視光のうち三原色と呼ばれる赤と緑と青の光を足し合わせることで白色光となります.

太陽の光を思い出せば分かるように、白色光のもとでしか生物は快適に過ごすことができません.青色や赤色の照明のもとで生活することは不可能ではないですが、長時間に渡って気分良く過ごすことは難しいです.これは、太陽の下で生まれた我々生物にとっての宿命かもしれません.

太陽光白熱電球蛍光灯を人類は光源として活用してきましたが、ここに発光ダイオード(LED)が新しい光源として加わりました.発光ダイオード自体は20世紀前半に発明されたものですが、当時のLEDは赤色や黄色の光しか発する事ができません.白色光を得るために必要な青色のLEDが実現するには長い時間が必要でした.

青色LEDの大きなメリットは、可視光の中で最も大きなエネルギーを持つことです.青色の光は、青色よりエネルギーの小さい赤色、黄色、緑色の光を発する蛍光体を発光させる事が可能です.赤色と緑色の中間である黄色の光と青色の光が合わさると白色光に見えるため、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせることで白色光を実現できます.もちろん、赤色、緑色、青色のLEDを同時に使用しても白色光となりますが、その場合は電流の微妙な調整が必要となります.

LEDは寿命が長く、低消費電力で、耐衝撃性に優れ、大量生産に適しているという多彩なメリットがあります.青色LEDは世界から熱望されていましたが、製造の困難さから研究の撤退が相次ぎました.LEDには適切な半導体材料が必要なのですが、青色発光に適していて結晶成長に都合の良い材料がなかなか無かったのです.

この困難を克服し、青色LEDひいては白色LEDを実現したことが世界的な実用化とノーベル賞受賞に繋がりました.

では、どのようにして青色LEDが実現したのか、そもそもなぜ青色LEDの作成が困難だったのか.今回は、青色のLEDとその実現について見ていきます.

LEDの仕組み

LEDには半導体材料が使用されます.半導体とは、電気の通りやすさを制御可能な材料です.物質中で電子は特定のエネルギー値のみをとるという特徴がありますが、半導体には電子の占めることのできないエネルギー領域(バンドギャップ)が存在します.このバンドギャップがLEDの発光特性を左右します.

半導体には、電子が過剰なn型半導体と正孔(ホール)が豊富なp型半導体があります.この両者を接合させるとpn接合となり、電流を一方向にしか流さない整流作用を示します.

下図は、pn接合後の様子です.接合部は電子とホールの再結合の影響によりキャリアの少ない欠乏層となり、p型半導体は負に、n型半導体は正に帯電します.帯電により、p型半導体の電位が下がるとともにn型半導体の電位が上がります.

ここでp→nの方向に電圧をかけると、接合部は各半導体からホールと電子が供給され、次々と対消滅を起こします.この際、半導体のバンドギャップに相当するエネルギーの電子を光として放出することで発光が起こります.

さて、LEDから放出される光のエネルギーは半導体のバンドギャップの大きさに対応するため、当然ながら単一に近いエネルギー(波長)を持ちます.これは赤色や緑色といった色付きの光を取り出すには便利ですが、白色光を得るには様々な波長の可視光を混ぜ合わせる必要があります.白色光を得ることでようやく照明として利用できるようになります.

白色光を作り出すためには、青色のLEDがどうしても必要だったのです.

青色LEDへの歩み

青色LEDに必要な材料

バンドギャップは物質に固有の値なので、多少の小細工ではバンドギャップを変化させることはできません.青色の発光に適した物質を見つけてこなくてはなりません.

目的の波長の光を放出可能なバンドギャップを持ち、発光効率が良く、常温常圧で安定であり、量産して採算が取れる程度に安価な材料が必要とされます.また、半導体デバイスでは物質を原子レベルで精密に接合させるため、きれいな結晶が得られる物質である必要もあります.

これほどの制約を満たす材料となると選択肢はそれほど多くなく、候補となる材料も自ずと絞られます.幸いにして、赤色や黄色のLEDは早期に開発されましたが、青色は最後の難関として立ち塞がりました.

1980年代、青色LEDの候補となる材料は3種類ありました.炭化ケイ素( \rm{SiC}セレン化亜鉛( \rm{ZnSe}窒化ガリウム( \rm{GaN}がその候補でしたが、それぞれ難点を抱えていました. \rm{SiC}は発光特性が低く、 \rm{ZnSe}は結晶が崩れやすいために寿命が短く、 \rm{GaN}はそもそも結晶成長が困難でした.

最終的には、 \rm{GaN}を用いることで青色LEDが実現されましたが、その達成は非常に困難なものでした.そもそも結晶成長がうまくいっていないため、なんとかしてきれいな結晶を作製する必要がありました.

GaN結晶成長への道

半導体デバイスは、基板となる結晶に原子を積層させて目的の半導体を生成します.半導体は基板の形に沿って成長していくため、半導体と基板の結晶構造や特性がなるべく近いことが求められます.基板と目的の半導体が同一の物質であれば最も好ましいですが、 \rm{GaN}の基板作製はできませんでした.なんとかして、 \rm{GaN}以外の基板を使って \rm{GaN}を積層させる必要があります.

 \rm{GaN}と同種の結晶構造を持ち、合成に必要な雰囲気で安定な基板材料となるとこれまた候補が絞られます.主にサファイア( \rm{Al_2O_3})基板が用いられましたが、サファイアと \rm{GaN}には格子の大きさに十数%もの大きな違いがあります.これほど大きさの異なる基板上にきれいな結晶を成長させるのは、岩場に家を建てるようなもので、非常に困難な課題でした.

実際、サファイア基板に \rm{GaN}を成長させようとすると、方位も大きさも不揃いのバラバラな結晶ができてしまいます.これを克服するには、サファイアと \rm{GaN}を接ぎ木するための何らかの緩衝層が必要と考えられました. \rm{GaN} \rm{Al_2O_3}の組成の間をとった \rm{AlN}は第一の候補でしたが、 \rm{AlN}を使用してもなおザラザラした不均一な結晶しか得られませんでした.

名古屋大学の赤崎勇研究室に所属していた天野浩氏は、サファイア基板上に \rm{AlN}を成長させていました.ある実験の際、装置の不調により温度が上がらなかったのですが、その上に高温で \rm{GaN}の成長を続けると、鏡のように美しい半導体表面が得られたと報告しています.世界初となる単結晶 \rm{GaN}の実現です.偶然ではありますが、1000回以上の失敗が続いた上での大発見であったと述べられています.

低温で生成する非晶質の \rm{AlN}を経由したことが、きれいな \rm{GaN}薄膜を作成する秘訣であったといいます.

p型GaNへの道

通常の \rm{GaN}結晶はn型の半導体です.これは本質的に \rm{N}が欠損していることによると言われています.LEDの発光はpn接合で起こるので、 \rm{GaN}のLEDを作製するには当然ながらp型の \rm{GaN}も必要になります.しかし、p型の \rm{GaN}の作製もまた前人未到の領域でした.

p型半導体を作るには、価電子の少ない元素を少量添加することが第一の手段です.例えば、シリコンではホウ素( \rm{B})を添加してp型にします. \rm{GaN}でp型の添加元素として第一の候補は、 \rm{Ga}サイトに \rm{Zn}を導入することでしたが、p型材料は得られませんでした.

最終的に、 \rm{Zn}ではなく \rm{Mg}を使用することでp型の \rm{GaN}半導体が実現しました.半導体の成長に加えて、電子線の照射や窒素中での熱処理を挟むことによって、伝導性に優れたp型の材料が得られます.

n型とp型が揃えば、あとは両者を接合することでpn接合ができ、LEDとなります. \rm{GaN}のままでは紫外光の発光が強いので少量の \rm{In}を加えることで、青色のLEDが実現しました.そして、既存の赤色や緑色のLEDと組み合わせることで白色LED、すなわち人類の新しい光源がもたらされたのです. \rm{GaN}は非常に長い寿命を持ち、数万時間に渡って使用し続けることができます.

もちろん、これで終わりではなく、発光効率や寿命をさらに向上させるための努力が続けられています.

まとめ

人類の利用する光源はいくつかありますが、それぞれデメリットを抱えてきました.太陽は最も信頼の置ける光源ですが、当然ながら日中しか利用できず光量の調整もできません.炎は持ち運びのできる光源として重宝されましたが、事故や火災の危険があります.白熱電球は、安く安全に使用できる光源でしたが、エネルギー効率が悪く寿命が短いです.蛍光灯は現在でも使用される便利な光源ですが、使用される水銀に環境への懸念があるのと小型化が難しいという問題があります.

新たに加わった光源であるLEDは、消費電力が少なく、長寿命、かつ小型化が可能という長所を併せ持ちます.あとは高価なことだけが難点でしたが、近年では価格も下がってきており、家の照明をはじめとした様々な分野で既存の光源からの置き換えが進んでいます.

もちろん、白色光だけでなく、赤色や青色の単色光のみを取り出すことが出来る点もメリットです.これにより、イルミネーションや電光掲示板が一昔前よりも非常にカラフルになりました.青色の実現によって三原色がすべて揃ったために、あらゆる色を出すことができるようになったのです.

まさに「New light to illuminate the world」をもたらしました.

The 2014 Nobel Prize in Physics - Press release - NobelPrize.org

参考文献

発光ダイオード

3分でわかる技術の超キホン 「LEDと電子回路」の基礎知識 | アイアール技術者教育研究所 | 製造業エンジニア・研究開発者のための研修/教育ソリューション

LEDが光る仕組み(1): 光と色と

化学と教育 2011 年 59 巻 9 号 p. 472-473

化学と教育 2019 年 67 巻 8 号 p. 362-367

学術の動向 2015 年 20 巻 2 号 p. 2_20-2_24

応用物理 2007 年 76 巻 8 号 p. 892-898

日本物理学会誌 2015 年 70 巻 11 号 p. 851-854