
最も電気をよく流す物質とは
今日も、いたるところで電気が流れています.発電所で生まれた電気は、送電線を通って遠くまで運ばれ、変電所で電圧を調整されながら、配電線を通って家にたどり着きます.家の中でも、壁の中を通る電線、電源コード、照明器具家電など、さまざまな場所で電気が流れていますね.
電気が流れると、電線の電気抵抗によって熱が発生し、その分だけエネルギーが失われます.電線の電気抵抗が低いに越したことはないわけですね.
では、最も電気抵抗の低い(=最も電気を流す)物質は何でしょうか.
電気抵抗が完全にゼロになる物質として、超伝導体があります.電気抵抗がゼロなのでエネルギー消費もゼロです.しかし、超伝導状態を得るには、多くの場合、液体窒素温度以下の超低温が必要です.常温付近で超伝導を示すと報告された物質もありますが、非常に高い圧力を必要とするなど、一般的な電線や電子部品にそのまま使える状態ではありません.
では、常温常圧で最も電気を流す物質とはなんでしょうか.
今回は、常温常圧付近で使用できる物質の中で、電気伝導度の高い物質を見ていきます.
電気伝導度と電気抵抗率
物質の電気の流れやすさは、主に電気伝導度と電気抵抗率によって表されます.
電気伝導度をσ、電気抵抗率をρとすると、両者には次の関係があります.
電気伝導度が高いほど、電気抵抗率は低くなります.
電気伝導度の単位には S/m が使われます.Sはジーメンスを表します.一方、電気抵抗率には、Ωmが使われます.
ただし、材料の伝導度は、物質名だけで一つに決まるわけではありません.
純度、結晶粒の大きさ、加工ひずみ、温度などによって同じ物質でも電気伝導度は変化します.また、結晶構造に方向性がある物質では、電流を流す方向によって伝導度が大きく異なることもあります.
そのため,「最も電気を流す物質」を考えるときには、少なくとも以下の条件を考える必要があります.
- 常温か低温か
- 単結晶か多結晶か
- 特定の結晶方向か、平均的な値か
- 微小な試料か、実用的な長さを持つ線材か
本記事では、特に断らない限り、常温付近におけるバルク材料を中心に扱います.
銀と銅
常温で使用できる一般的なバルク材料の中で最も高い電気伝導度を示すのが、銀と銅です.
| 材料 | 電気伝導度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 銀 | 約63 MS/m | 一般的な金属の中で最も高い |
| 銅 | 約58~60 MS/m | 高伝導で加工しやすい |
| 金 | 約41 MS/m | 酸化や腐食に強い |
| アルミニウム | 約35 MS/m | 軽量で安価 |
銀は、一般的な金属元素の中で最も高い電気伝導度を持ちます.
銅の伝導度は銀よりわずかに低いものの、その差はさほどありません.銅は銀よりはるかに安価であり、加工しやすいため、実用上の高伝導材料としては銀よりも銅のほうが圧倒的に広く使われています.例えば、発電所で生まれた電気を運ぶ送電線、建物の中を通る電線、モーターや発電機の巻線、変圧器、電気自動車の配線やバスバー、電子回路の配線などに使われています.
一方、銀は高価ですが、表面の電気抵抗や接触抵抗が特に重要な用途では使われます.例えば、スイッチやリレーの接点、高周波部品の表面、導電性ペースト、太陽電池の電極などです.これらの用途では、導体全体を銀で作る必要はなく、薄いめっきや微粒子としてごく少量だけを使えます.
金も銀や銅より伝導度は低いものの、酸化しにくいという大きな利点があります.そのため、長期間にわたって安定した接触が必要な端子やコネクタでは金めっきが使われます.
銅や銀の伝導度をさらに高めるには
銅や銀はもともと電気をよく流す金属ですが、純度や加工状態によって電気伝導度は変わります.
金属中の電子は、結晶中の不純物、格子欠陥、転位、結晶粒界、原子の熱振動などによって散乱されます.電子が散乱されると、電流が流れにくくなり、電気抵抗が増大します.
したがって、銅や銀の伝導度を高めるには、電子の散乱を減らすことが基本になります.
- 高純度化する
- 加工ひずみを減らす
- 結晶粒を大きくする
- 単結晶化する
- 特殊な組織やひずみを利用する
銅の伝導度を表す指標として、IACSという値がよく使われます.
IACSは、International Annealed Copper Standardの略で、標準焼鈍銅の伝導度を100%とした指標です.100% IACSは、およそ58 MS/mに相当します.
現在の高品質な銅では、100% IACSを超える値は珍しくありません.これは、基準が古い標準銅に基づいているためです.現代の精製技術によって作られた銅は、基準となった銅よりも高い伝導度を示すことがあります.
| 材料または状態 | 伝導度の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 標準焼鈍銅 | 100% IACS | IACSの基準 |
| 高導電銅 | 101~103% IACS程度 | 実用的な高純度銅 |
| 銀 | 約108% IACS | 一般的な金属では最高水準 |
| 銅単結晶や特殊加工銅 | 約110% IACS前後 | 条件によっては銀をわずかに上回る |
酸化物なのに銅並みに電気を流すPtCoO2
酸化物といえば、一般には絶縁体のイメージです.例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウムなどは、代表的な電気をほとんど流さない酸化物です.
しかし、酸化物の中にも、金属並みに電気を流すものがあります.その代表例が、デラフォサイト型酸化物であるPtCoO2です.

PtCoO2は、結晶の面内方向において非常に低い抵抗率を示します.室温での抵抗率は約1.8 μΩcm(56 MS/m)程度で、これは銅とほとんど同じ値です.酸化物でありながら、普通の金属と同じ水準で電気を流す非常に珍しい物質です.
PtCoO2は、Pt層とCoO2層が交互に積み重なった構造を持ちます.電気伝導を主に担うのはPt層です.Pt層では、電子が面内方向に動きやすいバンド構造を持っています.フェルミ準位を横切るバンドは比較的単純で、電子の速度も大きくなります.
つまりPtCoO2は、酸化物でありながら、電子が流れる層だけを見ると、非常にきれいな二次元金属のように振る舞います.同じ構造を持つPdCoO2も高い伝導度を示します.
酸化物以外の高伝導化合物
酸化物以外にも、金属的な伝導を示す化合物はあります.特に、遷移金属ホウ化物、窒化物、炭化物、ケイ化物などには、比較的高い伝導度を持つ材料が知られていますが、銅の数分の一から数十分の一程度の値にとどまります.
| 物質 | 代表例 | 伝導度目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ホウ化物 | ZrB2 | 約30 MS/m | 導電性セラミックスとして非常に高い |
| ホウ化物 | TiB2 | 約10~17 MS/m | 高硬度、高融点で、比較的よく流す |
| 窒化物 | TiN | 約3~7 MS/m | 硬質膜、電極、拡散防止層として重要 |
| 窒化物 | ZrN | 約3~10 MS/m | TiNと同様に金属的な窒化物 |
| 炭化物 | WC | 約3~7 MS/m | 硬く、導電性を持つ超硬材料 |
| 炭化物 | TiC | 約0.5~2 MS/m | 組成ずれや空孔の影響を受けやすい |
| ケイ化物 | CoSi2 | 約5~7 MS/m | シリコンとの低抵抗接触に使われる |
| ケイ化物 | NiSi | 約5~10 MS/m | 半導体デバイスの接触材料として重要 |
| 炭素材料 | 黒鉛、面内方向 | 約2~3 MS/m | 面内方向にはよく流すが、異方性が大きい |
| 炭素材料 | グラフェン、CNT | 形態依存 | 高移動度だが、バルク線材化では接触抵抗が問題 |
高伝導度に適した電子構造
では、電気をよく流す物質には、どのような電子構造が必要なのでしょうか.
電気伝導度は、単純には次の式で表されます.
ここで、nはキャリア密度、eは電荷、τは電子が散乱されるまでの時間、m*は有効質量です.
この式から分かるように、高い伝導度には、キャリアが多いこと、電子が軽いこと、そして電子が散乱されにくいことが必要です.
バンドの傾きが大きい
固体中の電子の速度は、バンド構造の傾きによって決まります.
フェルミ準位を横切るバンドの傾きが大きいほど、電子の速度は大きくなります.つまり、高伝導度には、フェルミ準位付近に急勾配のバンドがあることが有利です.
逆に、平坦なバンドでは電子の速度が小さくなります.状態密度は大きくなりますが、電流を運ぶ能力は必ずしも高くありません.
キャリア密度が高い
電気を運ぶ電子や正孔の数が多いことも重要です.
銅や銀のような金属では、原子1個あたりおよそ1個程度の伝導電子があり、キャリア密度が非常に高くなります.
一方、グラフェンや半金属では、電子の移動度が非常に高くても、キャリア密度が銅ほど大きくない場合があります.そのため、高移動度であることだけでは、銅より高い伝導度にはなりません.
フェルミ面が単純で散乱されにくい
フェルミ面の形も重要です.
高伝導度には、フェルミ面上で電子速度が大きく、重い電子ポケットや複雑なバンド交差が少ないことが有利です.また、複数のバンドがフェルミ準位を横切ると、バンド間散乱が増える場合があります.
そのため、理想的には、十分なキャリア数を持ちながら、フェルミ面が比較的単純で、電子が運動量を失いにくいことが望まれます.
電子と格子振動の相互作用が弱い
室温の純金属では、抵抗の主な原因は電子と格子振動の相互作用です.
原子は室温で常に振動しており、その振動が電子の進行を乱します.この散乱が少ないほど、電子は長い距離を進むことができ、伝導度は高くなります.
したがって、室温で銅や銀を超えるような導体を探すには、単に電子が速く動けるバンドを持つだけでは不十分です.電子が格子振動によって散乱されにくいことも必要です.
まとめ
常温で使用できる一般的なバルク材料の中では、銀が最も高い電気伝導度を持ちます.しかし、銀は高価であるため、実用上は銅が最も重要な高伝導材料として使われています.
銅の伝導度は、高純度化、焼鈍、結晶粒の粗大化、単結晶化、特殊な組織制御などによって高めることができます.条件によっては、銅が通常の銀に近い、あるいはわずかに上回る伝導度を示すこともあります.
金属以外にも高い伝導度を持つ物質は存在します.特にPtCoO2は、酸化物でありながら、結晶の面内方向では銅に近い伝導度を示します.
ただし、これらの高伝導化合物は、異方性、脆さ、価格、加工性、量産性などの問題を持ちます.そのため、伝導度だけを見れば優れた材料であっても、銅の代替になるとは限りません.
現時点では、伝導度、価格、加工性を総合的に見ると、銅を完全に置き換える材料はほとんどありません.それでも、酸化物やホウ化物のような意外な物質が金属並みに電気を流すことは、材料科学として非常に面白いですね.
参考文献
Copper Development Association, “Introduction to Copper: Fact Sheets.”
NDE-Ed.org, “Electrical Conductivity and Resistivity.”
Deutsches Kupferinstitut, “Low-Alloyed Copper Alloys.”
X. Zhang et al., “Enhancing electrical conductivity by defects in metals,” Nature Communications, 2026.
P. Kushwaha et al., “Crystal growth, resistivity and Hall effect of the delafossite metal PtCoO2,” 2014.
P. Kushwaha et al., “Nearly free electrons in a 5d delafossite oxide metal,” Science Advances, 2015.
NIST, “Survey of Electrical Resistivity Measurements on 16 Pure Metals in the Temperature Range 0 to 273 K,” NBS Technical Note 365.