更新 2024-3-3
ダイオード(diode)
エレクトロニクスでは、電子を自由自在に操ることを目指しています.電子というと掴み所がないイメージですが、必要なところに必要な分の電子を移動させることを考えれば、やっていることは水やガスの運搬と変わりありません.
電子はマイナスの電荷を持ち、電位のマイナス側からプラス側へ流れます.また、ガスや流体と同じように濃度の高いところから低いところへ流れます.あとは、電子が居心地の良いところへ移動できるように回路を組み立てるだけです.*1
エレクトロニクスでは様々な機能のある微小なパーツを組み合わせて回路を構成します.ダイオードは代表的な電子素子であり整流作用(電流を一方向にしか流さない性質)を示します.ガスラインや水道で例えれば、逆流防止弁に相当します.それらとの違いは、無理やり逆流させる方法にも使い道がある点です.
ダイオードは、交流を直流に変換するコンバータ、電流の逆流防止、過電圧からの回路の保護などに利用されます.発光ダイオードにも名がつくとおり、電流を流すと光を発するダイオードもあります.
具体的な応用先は電子工学の理論を参照してもらうとして、ここではなぜ電子を一方向のみに通すことができるのか、ダイオードの原理について見ていきます.
ダイオードの原理
電子が一方向にだけ流す仕組みがあればダイオードとなりうるので、考えうる仕組みは一つだけではありません.歴史的に、熱電子を用いるダイオード(真空管)と半導体を用いるダイオードが開発されています.
真空管を用いる方法
電子にかぎらずあらゆるものは熱すると運動エネルギーが大きくなります.固体を熱することで物質内の電子の運動エネルギーが増し、電子が物質内から外部へ飛び出しやすい状態となります(熱電子放出、エジソン効果).
真空管では熱電子放出を利用し、整流作用を起こします.
真空管は、ガラス管の中にあるフィラメントと板状の電極から構成されます.フィラメントは電気抵抗の比較的大きい電線で、電流を流すことで非常に熱くなります.電極はフィラメントと向き合う位置に配置されます.
フィラメントに電流を流すと、温度が上昇して物質内の電子のエネルギーが高まり、電子が物質外部へ出て行きやすい条件が整います.このとき、フィラメント側の電位を負(陰極)、電極の電位を正(陽極)として電圧をかけると、フィラメント表面の電子は電極の正電荷に引かれて飛び出し、フィラメントから電極への電子の流れが生じます.
一方、フィラメント側の電位を正(陽極)、電極の電位を負(陰極)として電圧をかけると、フィラメント表面の熱電子はフィラメント自体の正電荷に引かれるため、電極側に電子が飛び出さず、電流は流れません.
このように、電流が一方向にしか流れない整流作用が実現します.熱電子が飛び出しやすいようにガラス管内は真空に保たれており、それゆえこのデバイスは真空管と呼ばれます.
現在では、真空管は後述の半導体ダイオードにほぼ完全に置き換わっていますが、楽器など一部の分野では真空管が未だ使用されます.なんでも、真空管を用いたほうがギターの音が良くなることがあるとか(本当か?).
半導体ダイオード
半導体の整流作用は、pn接合によって実現します.pn接合とは、p型半導体とn型半導体を原子レベルで接合したデバイスであり、キャリアを一方向にのみ流す整流性が可能となります.詳しくは、pn接合の記事を参考にしてください.
n型半導体とp型半導体を接触させたとき、各半導体の接合部では電子とホールが対消滅を起こし、n型半導体正に帯電し、p型半導体は負に帯電します.この帯電の影響により、電子は負の電荷を乗り越えてp型半導体に向かうことができず、逆に正孔は正電荷を乗り越えてn型半導体に向かうことができなくなります.この結果、接合部では電位障壁が形成され、キャリアの流れが消失します.
ここで、p型側に負の電圧、n型側に正の電圧をかけると、正孔は負の電荷に引かれ、電子は正の電化に引かれます.結果として、キャリアは接合部から離れていき、電流が流れません(逆方向バイアス).
一方、p型側に正の電圧、n型側に負の電圧をかけると、n型の電子は負の電荷に押されて空乏層に向かい、p型の正孔も空乏層に向かいます.その結果、空乏層では電子と成功が次々と出会って対消滅するため、全体としては電場とともにキャリアが次々と流れている状況となります(順方向バイアス).
このように、逆方向バイアスでは電流を流さず、順方向バイアスでのみ電流を流します.すなわち、電流を一方向にしか流さない整流作用が実現します.現在回路で用いられているダイオードは、大部分が半導体のpn接合を用いたものです.
まとめ
電子の流れを制御するには、様々な機能を持った微小なデバイスを組み合わせる必要があります.ダイオードは代表的な電子素子であり、電子の一方通行を実現します.わかり易い例では、交流回路にダイオードを作用させることで直流回路に変換することが可能です.その他の用途はわかりにくいですが、複数のダイオードを組み合わせることでさらに複雑な電子の制御が可能になります.
参考文献
真空管の動作原理 | 札幌の中古オーディオ専門店 ジャストフレンズ
化学教育 1985 年 33 巻 6 号 p. 463-466
白木靖寛(2015)シリコン半導体 内田老鶴圃
*1:それが難しいんですが…