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研究室の選び方を本気で考える(2):研究室のHPから分かること

更新 2024-3-3

研究室のHPから研究室を選ぶ

学部で講義を受けている間は、誰もが同じように教育を受けられますが、研究室に配属すると一人ひとり全く異なる体験をすることになります.抜群の成果を残してエリート街道を突き進む者から、研究に馴染めず中退・登校拒否となる者まで明暗が分かれます.個人の能力・適性によるとされますが、配属する研究室や研究テーマによって決まる部分も残念ながらあります.別の研究室に入っていたら、あるいは別の研究テーマを与えられていたらどうなっていたのかなど考えても仕方ないですし、こればかりは運ゲーと言わざるを得ません.

しかし、運ゲーに見せかけて運の要素を最小限にすることが可能です.必要なものは情報です.漫然と研究室を選ぶのではなく、情報を集めることで理想の研究室生活を手にする可能性を高められます.まあ、何が理想かは人によって異なるわけですが、判断するための情報を増やすことは大切です.*1

興味は大事ですが、一つの研究室に決めきれない人が多いかと思います.興味はあっても、ブラック研究室は避けたいという人も多いでしょう.そんな時は、研究室に関する情報を仕入れて判断するしかありません.*2

簡単に利用できる情報源は、研究室のHPです.大抵の研究室は自身のHPを公開しています.いつでもアクセスできますし、ボスの好みのデザイン、アウトプットの量、その他にも様々な情報が分かります.

今回は、配属先の研究室を選ぶ際に、研究室のHPから読み取れる情報を整理していきます.研究室によってHPのデザインもレイアウトも色彩も何もかも違います.それでも、掲載されている内容はそこまで変わりません.必要な情報を選びぬき、後悔しない研究室選びをしましょう.

研究室のHPのデザイン

研究室のHPのデザインは、ボスの裁量によるものが大きいです.大学ごとにページだけが割り振られており、各々の研究室が好きなようにHPを作成します.外注であったとしてもボスがデザインに口を出さないことは稀なため、HPのデザイン=ボスのセンスに近いと言ってよいでしょう.

センスなんてどうでもいいと思うかもしれませんが、研究室内に入ってからの研究進捗報告や学会発表のスライドの指導の際には、ボスの趣味が多分に反映されます.研究の内容ならともかく、デザインセンスに突っ込まれるとやってられません.ボスのセンスが良いなら良いですが、泣く泣くボスの指定するダサいデザインに修正されるなんてこともあります.なので、あまりにもセンスが合わないと感じたHPは避けたほうが良いかもしれません.

2000年前半のようなシンプルなHPから、大企業のようにスマートなHPまで個性豊かです.流石に後者のようなHPを自力で作成できる研究者は稀なため、外注である場合がほとんどかと思われます.まともなところに制作を依頼すると100万円単位でお金がかかります.そのため、気合の入ったHPを作成しているところは、広報に力を入れているか、お金が余っているのだなという判断ができます.実際、気合の入ったHPの研究室は、予算的にも潤沢な場合が多い気がします.

研究室HPの個別のページ

研究室のHPに最低限あってほしい情報は「研究内容」「研究業績」「メンバー」「アクセス・連絡先」です.研究室によっては「アルバム」「装置」「リンク集」の紹介がある場合があります.各項目について見ていきましょう.

研究内容

その研究室が何をやっていて、どのような成果を出しているかが書かれています.単独の研究テーマのみで運営している研究室はほとんど無く、多くのテーマが箇条書きで書かれている場合が多いかと思います.研究内容に関しては完全に好みの問題なので、自分の興味の合う分野を選びましょう.学部なら1年、修士まで行くなら1+2年、その研究内容と向き合うわけなので、全く興味のない分野に進むのはおすすめできません

研究室の行っている研究の具体的な内容だけでなく、研究分野の背景も書かれていると丁寧です.ただし、研究内容の項目は学生やWeb担当の独断では変えられないため、10年以上前の研究内容が平気で書かれている場合があります.この場合、現在は行われていない研究内容が書かれていることになります.

そのため、次項の「研究業績」の内容と併せてチェックしたほうがベターです.

研究業績

研究者にとって最も重要な使命は(質の高い)論文を書くことです.研究業績には、論文発表、学会発表、書籍、特許、寄稿などが含まれますが、基礎研究の研究室であれば論文発表の項目をチェックすることが望ましいです.アウトプットの状況によって、研究室の研究の進捗状況が分かります.研究業績の更新はそこそこ面倒な作業なので、外部サイト(Google Scholar、ORCIDなど)で管理されている場合もあります.

研究業績の項目がない(外部サイトにもリンクがない)、項目があるが半年以上更新されていない研究室は論外です.アウトプットする内容がないか、研究・広報に力を入れていないということになるので、どのみち学生にとってはろくなものではありません.

研究室の論文リストにおいて、著者の内訳、ジャーナルの種類、出版数を見るだけでも様々なことが分かります.詳しくは長くなるので、「研究室の選び方を本気で考える(3)」で紹介します.

メンバー

研究室構成員の紹介ページですが、研究室によって個性が見られます.メンバーそれぞれの紹介ページがあるケース、集合写真だけ載せてあるケース、スタッフのほか各学年に何人の学生がいるかのみを記載しているケースなど.何人の構成員がいるかさえ分からない状況で配属するのは望ましくない(人手が足りない場合あり)ので、HPで分からなければ直接研究室に出向くしかありません.

ボスである教授または准教授に続いて、助教やポスドク、学生、秘書、技術職員等の名前があることが一般的です.スタッフが学生よりも多い研究室もあれば、学生の他の人員が准教授一人なんて研究室もあります.

教員について

学生の数、スタッフの数、その他構成員の数によって様々なことが分かります.研究室において自動的に配属される人間は、正規のスタッフ(教授、准教授、講師、助教、助手)と学生だけで、その他の構成員は外部予算で雇われているケースがほとんどです.それゆえ、構成員の多い研究室ほどお金持ちと言えるでしょう.特定・特任・特別などが枕詞にあるスタッフ(特任助教、特定准教授など)は、外部予算で雇われた有期雇用の教員です.多くは数年の任期で、任期が切れれば別機関に転出します.*3

有期雇用のスタッフが居るかは重要なポイントです.また、秘書や技術職員のメンバーが居るかも注目してください.大学の予算で雇われている場合もありますが、多くの場合は研究室の予算で雇用されています.人を雇うには非常にお金がかかります.それほど高給取りではないケースのほうが多いですが、それでも雇う側からすれば年間500~1000万円クラスの予算が必要なわけで、予算の不足している研究室では非常に大きな出費です.ゆえに、これらの人員が多くいる研究室は予算が豊富にある研究室です.

また、秘書や技術の人がいるかで学生(やスタッフ)の負担が大きく変わります.大学研究室には非常に多くの事務作業が必要とされますが、秘書がいない場合はスタッフが別の業務と並行して行うしかありません.場合によっては学生にも手伝いを要求されるかもしれません.スタッフが教授(准教授)一人だけの研究室は、事務的な負担が恐ろしいことになっていると想像します.

学生について

学生のうち、自動的に配属されるのは学部4年の学生のみです.修士・博士の学生は院試の際に(成績に応じて)希望の研究室を自由に選ぶことができます.それゆえ、学部生の数に比して院生数が少ない研究室は、院試の際に学生が流出しているか学部で就職する人が多いと理解できます.

昨今、博士後期課程に進学する学生はそれなりの覚悟が必要なので、博士課程の学生が多い研究室は優れた研究室と言えます.ただし、博士の学生が多いことはその研究室がブラックであることを否定しているわけではありません.特に、修士学生の死屍累々の上に成果を上げている研究室は、外部的には優れた業績を挙げているので、外部から学生が集まりやすいです.注目すべきは、内部(学部生から配属された人)から博士に行く人が多いかどうかで、この数が少ないと、内部から進学したがらない理由があるのだろうなと察します.

学生数は多ければ多いほど良いわけでありませんが、少ないと学生一人あたりの負担が増える場合があります.例えば、会議室の予約などの雑用は学生がやるケースが多いので、分担できるだけの人数がいたほうが負担が減ります.

一方、学生が多いことは研究室にとってはメリットですが、学生側からするとデメリットにもなりえます.あまりに学生が多いと教員の指導が行き届かず、指導教員無しで研究を行っているような状況になりえます.*4*5

OB、OG

過去のメンバーが専用のページに載っている場合があります.特に情報として有用なものはないですが、もし在籍期間が短いメンバーが多いなら注意が必要かもしれません.また、研究室によってはOB/OGのページがない場合もあります.だからどうということもありませんが、なんとなくドライな感じがするのは私だけですか?

アクセス・連絡先

学生が研究室を見学するにも、企業が共同研究を打診するにも、営業がセールスをかけるにも連絡先の記載は必須です.メールアドレス・電話番号の双方が書かれているのがベストですが、意外とどちらかしか書かれていない研究室もあります.場合によってはどちらも書かれていない場合もあります.過去にしつこい営業にあったのかもしれません.

アクセス先も普通は書かれています.アポ無しで出向くのは流石に失礼なので、必ずメールで連絡を入れてからにしましょう.修士・博士後期課程が増えて困る研究室はいないので、研究室に興味ある・見学に行きたい旨の連絡は(普通は)歓迎されます.

アルバム

研究室ではずっと実験室にこもって実験をしているわけではなく、親睦を深めるためのイベントが定期的にあるのが普通です.歓迎会、球技大会、研究室旅行、追いコンなど項目は研究室によってそれぞれですが、行事の写真はアルバムのページで共有されます.これにより、イベントの頻度や内容がわかるため、例えば研究室旅行には行きたくないみたいな場合は事前に有無を知ることができます.

また、イベントの記念写真にいる人数と研究室メンバーページの人数を比較することで、どの程度の割合の人がイベントに参加しているか分かります.教授やスタッフが球技大会や研究室旅行に参加する人なのかどうかなど.なお、教員や就活中のM2は非常に忙しいので、イベントの参加人数が研究室の人員数と一致することは滅多にありません.

装置

研究室にある装置が写真つきで掲載されているケースが多いです.装置のグレードによって研究室の予算の規模が分かります.専門外の装置の値段なんて通常は分かりませんが、質の悪い装置を大量に買う人はまずいないので、装置が多ければその分予算のある研究室であると言ってよいでしょう.例外はありますが、大きな装置ほど基本的に高価です.

用途の似た装置が複数あるケースがありますが、これは装置の待ち時間を解消するため、あるいは、素人には分からない微妙な差を使い分ける意図があるかもしれません.いずれにせよ、予算に余裕がある研究室なのでしょう.ただし、研究室によっては教員同士の対立によって装置の貸し借りが行えず、教員ごとに同じような装置を持っているというケースもありました.その辺りの事情は、実際に研究室に訪問してみれば雰囲気でわかると思います.

なお、内部に装置を揃えず、共同利用や外部施設実験をメリットにしている研究室、研究の特性上予算があまり必要ないケース(理論系など)もあるので、装置が少ないからと言って研究が充実していないとは限りません.

その他

他にも、研究室によって多種多様な項目があります.ブログがあるような研究室もあります.個性の光る部分であり、ボスとセンスが合うかどうかを判断する材料となります.ただし、以上に挙げた項目が書かれていれば、研究室のHPとしては問題ないと思うので、他の項目はあってもなくても良いです.

HPの更新頻度

HPの更新は研究者の業績には関係ないので、更新は全くの任意です.しかし、ネット上での情報収集がデファクトになった現在では、HPが非常に重要な情報源であることは研究者側も理解しています.更新は面倒な作業ですが、優秀な学生やポスドクを集めることを思えば、決して無駄な投資ではありません.毎日更新しているところは殆どありませんが、メンバーが増減した時、研究室内のイベントがあった時、新しい論文が出版されたときなどに更新がされます.

逆に、更新が殆どされない研究室では何が起こっているのでしょうか.HP上での広報に価値を見出していないのか、忙しすぎて更新する暇もないのでしょうか.いずれのケースでも、学生にとってはあまり良いことではありません.少なくとも、新年度にも更新がされていないような研究室は避けたほうが無難です.

その他の広報

研究室によってはFacebookやTwitter、Instagramなど外部SNSサイトのアカウントを持っている場合があります.年配の先生の研究室だと少ないですが、SNSアカウントが無いからと言って特に問題な訳でははありません.しかし、研究室の中についての貴重な情報源なので、可能な限りチェックしておきたいところです.

学生やWeb担当が持ち回りで更新している場合が多いと思われますが、ボスが単独で運営している場合もあります.余計なことは呟かず更新情報のみをツイートする場合もあれば、Twitter芸人をして炎上している場合もあります.

ボスが実名でTwitterをやっていることもありますが、これは完全に好みの問題です.

ボスの人となりが分かることはメリットです.研究室訪問に出向かなくても向き不向きが分かるでしょう.個人的な印象ですが、SNSでアクティブに活動している人は、研究のアウトプットもそれなりに多くあるように思います(実名でSNSをしているのですから、それなりに成果がないと普通は職務のことをアピールしにくい).一方、アカデミア界隈や大学、学生の愚痴を頻繁にツイートしている人の研究室に配属したいかと言うと...

なお、自分の個人アカウントで研究室のアカウントをフォローすることは全くおすすめできません.プライベートのアカウントがバレることによるデメリットがメリットを上回ることはないです.

まとめ

研究室のHPを見るだけでも、様々なことが分かります.博士に行かず修士で企業に就職する人にとっても、20代の数年を後悔なく過ごすことは非常に重要です.抜群の成果を上げる場合も、失意のまま研究室を去るケースもあり得るので、研究室は慎重に選びましょう.実際に見学するのが一番ですが、ネットに転がっている情報も判断材料になりえます.

研究室のHPは研究室の個性が反映される部分で、ボスとセンスが合うかを判断する材料になります.HPが好みでないからと言って研究内容に関わる問題はないですが、ボスとの人間的な相性は非常に重要です.研究能力がいくら抜群でも、ボスと合わないと辛い研究室生活を送る場合もありえるので、研究内容以外の部分でも研究室の判断材料を増やすことは悪いことではありません.

研究室選びを本気で考える(3)」では、研究室の論文リストから仕入れるべき情報を紹介します.

*1:「自分のやりたい研究を行っている研究室に行け」なんて声も聞こえてきそうです.確かにその通りです.しかし、自分で研究したこともないのに、電池の研究室か、触媒の研究室か、合成の研究室か、界面の研究室か選べと言われても...どんな研究を実際やっているかも分からないのに...もちろん、興味の全くわかない研究室は最初に候補から外しましょう.

*2:一番は研究室に出向くか、所属していた先輩の話を聞くことです.体験談に勝る情報はありません.研究室は閉鎖された空間なので、外から見えるアウトプットだけで判断するのは危険です.なお、研究室のスタッフは研究室の良い点しか語らないので、鵜呑みにしてはいけません.しかし、全ての研究室にアクセスして話を聞くのが困難な場合があります.また、体験談からは見えない情報だって世の中にはあります.

*3:なお、特別教授、卓越教授、特命教授などは別格で、多くは顕著な業績のあった教授が定年を迎える際に職名を改めて再雇用したケースです.また、名誉教授は職名ではなく称号です.

*4:博士課程への進学を考えている場合、博士課程はただでさえブルーな気分になることが多いので、優秀な同期が多いと自分と比較して少し落ち込んでしまうかもしれません.切磋琢磨して頑張れる環境が理想ではありますが...一方で、大所帯の研究室では未発表のデータが蓄積されているケースが多く、場合によっては自分がその内容で論文を書かせて貰える場合があります(研究倫理的にどうなのかは不明).

*5:大学や研究室によっては、個人情報保護の観点からスタッフ以外の具体的なメンバーの情報を載せていないケースもあります.そのため、メンバーの情報が不足しているからといって悪い研究室というわけではありません.その辺りの制限は学科単位では同じであるはずなので、同じ学科にある他の研究室のページと比較してみれば、情報を制限しているのが研究室単位であるか学科単位であるかが分かります.学生の個別連絡先(大学のメールアドレス)まで書かれている場合もありますが、教員を飛ばして学生に連絡をとるケースはあるんですかね...