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研究室の選び方を本気で考える(6):研究室を訪問した際にチェックすべきこと

更新 2024-3-3

研究室への訪問

研究室への配属は人生でそこそこ大きなイベントです.研究に目覚めて博士課程に進む者、研究はやっぱり向いていないと悟って企業就職を目指す者、企業での研究職を目指す者など様々な人がいますが、配属した研究室による影響が皆無の人はいないでしょう.良くも悪くも、人生に大きな影響を与えます.

そんな研究室をどのようにして選ぶかも大きな問題です.前回までの記事では、主にネット上から研究室の情報を集める方法を紹介しました.しかし、ネット上にある情報には限界があります.最終的には、実際に研究室に赴いて情報を集めることも重要です.

研究室配属の時期には、研究室ごとに訪問日程が組まれることが多く、好きな研究室を訪問できます.そこで話を聞いて志望度を増したり減らしたりしながら最終的に志望する研究室を選びます.研究室見学の時間はせいぜい1時間なので、学生と歓談しているとあっという間に時間が過ぎます.それもまた一興ですが、せっかくの貴重な機会なので、そこでしか得られない情報を得ることも忘れてはいけません.

以下では、研究室見学に行った際にどのような点に注目すべきかを考えていきます.

人の様子

研究室見学に行った時、前編にわたって教員が対応することは稀で、多くは学生が訪問者の世話をします.研究室には博士課程(ドクター)、修士課程(マスター)、学部の学生(4回生)がいます.卒業間近のB4とM2とD3、就活中のM1はそれなりに忙しいケースが多く、必ずしも全ての学生の話を聞けるとは限りません.

研究内容についてより深く聞きたい場合は、ドクターの学生の話を聞くべきでしょう.年齢的に近い学部生(4回生)とつい話したくなりますが、彼らは研究室に配属してから日が浅く、研究内容や研究室生活について熟知しているとは言えません.しかし、研究室に染まりきっていないとも言えるので、最も自分に近い立場からの意見として参考になるでしょう.

ボスは研究室見学に乗り気か?

研究室への配属は、学生が学ぶための場を提供すると同時に、研究室側にとっても貴重な人員(労働力)を確保するためのイベントです.学費を払っている学生を労働力としてカウントすることには異論もあるでしょうが、実際問題として学生は労働力にならざるを得ません.世知辛い世の中なのです.

研究室側にとって優秀な学生を確保することは死活問題です.優秀な学生は研究成果でも就職先でも実績を残し、場合によっては博士課程まで進学してくれるかもしれません.そのため、研究室のボスも学生のリクルートに力を入れます.研究室見学会でプレゼンをしたり、個別に見学に来た学生に長々と話をしたりなど.ボスは忙しいので、研究室見学自体は学生が主体となって行われるケースがほとんどですが、要所要所でボスが話を聞かせてくれるはずです.

逆に研究室見学に全く顔を見せないボスはどうなのでしょう.要因の一つは、忙しすぎることです.年に数回の見学会のうち一回も顔を出せないほど仕事が立て込んでおり、学生に姿を見せることがありません.仕方がないとは言え、配属してもこまめな指導を受けることは期待できないかもしれません.他の理由は、配属学生に興味が無いことです.学生に期待をしておらず、来たものを拒まずとも熱心に受け入れもしないような場合です.きちんとした指導を受けられるのでしょうか.

学生はいるか?

研究室にちゃんと学生は来ているでしょうか.研究室HPのメンバー数に比べて著しく少ない数の学生しかいないなんてことはないでしょうか.もし少ない人しかいないのであれば、理由を聞いてみても良いでしょう.

少し離れた実験室で実験をしている場合、学会や共同研究先などに出張している場合、就活中の場合などのケースが考えられるでしょうが、これらが理由の場合は問題ありません.理由を濁された場合は、他の理由があるかもしれません.何らかの事情で研究室に来られなくなってしまった学生の多い研究室はそれなりに危険な香りが漂います.

ボスと学生の雰囲気はどうか

研究室のボスが表と裏で全く雰囲気が異なるなんてことはよくあります.講義中や学会ではとても優しそうに見えたのに、研究室内では椅子を蹴飛ばしたり階段の踊り場まで響く声で怒鳴り散らしていたなんてエピソードも聞いたことがあります.表と裏で豹変する人もあれば、しない人もいます.

その辺りのことを研究室の学生が教えてくれればいいですが、既に研究室に染まりきっていて問題だと捉えていない場合や、あえて教えてくれない場合もあります*1.そんなときは、学生とボスの雰囲気に注目してください.学生だけの場にボスが入ってきた時、学生が急に黙り込んだりしてはいないですか?ボスが来た瞬間にいなくなる学生はいませんか?ボスに軽口を叩く学生はいますか?

研究室を離れる学生の話を聞く

研究室に配属する学生は、かなりの割合の人が1~3年で進学・就職によりいなくなります.すなわち、現時点で研究室にいる学生のうち、3分の1程度は来年度にいない人たちなのです.そのため、もしあなたがその研究室に配属することになってもその人達と研究室で会うことはありません.そのため、彼らも研究室見学会に乗り気ではないし、そもそも参加していないケースも多くあります.

そんな人達の話を聞いても意味がないと考える人もいるかもしれませんが、彼らのもたらす情報にこそ大きな価値があります.来年度も研究室に居残る人からすれば、研究室の悪い情報を伝えたいとは思いませんが、来年度いない人であれば忌憚のない意見を伝えることができます.

「拘束時間がきついか」「教員は厳しいか」などのダークな事柄について楽しく語ってくれるかもしれません.なお、卒業を控えたM2の学生はレアキャラなので、見学会に現れない可能性も高いことに気をつけましょう.

院試、就活、休暇について聞く

学部で研究室に配属されても、大学院でそのまま同じ研究室を継続できるとは限りません.大学院に入学(入院?)するためには試験をパスする必要があり、入試時の得点によって配属先が決まります.大学院に合格しなければならないのはもちろん、合格しても希望の研究室に配属できるとは限りません.他の研究室から来る人、別の研究科・大学から来る人が新たに志望するため、一般に学部での配属よりもシビアなものとなります.もちろん、自分が別の研究室を志望することもできます.

大学院でも希望の研究室に配属されるためにできることは、院試で高い得点を獲ることです.そのためには、効率的な院試勉強が欠かせません.充分な勉強時間を確保することが重要です.まともな研究室であれば、8月の院試本番に向けて四回生は6月、7月は院試休みとする場合がほとんどです.その間、四回生は院試の勉強に専念できます.しかし、院試休みの制度は研究室のさじ加減なので、充分な休みをもらえない場合もあります.そのような研究室からはほんのりとブラックの香りがするので、確認しておきましょう.

また、就活の際も充分な時間を確保できるかを確認します.オンライン面接が主流になっても、なんだかんだで平日の日中に時間をとられるのが就活です.人生がかかっており大変な手間なので、研究と両立ができる人はそう多くありません.「休み」とまではいかなくても、就活に研究室側が充分な理解を示してくれるかは重要な問題です.就活中も変わらず進捗を求めるところもあれば、就活終了までは進捗を免除するところもあります.

また、研究室に休暇はありますか.休暇なんて関係なく実験を行う人もいますが、普通の人にとって休暇はモチベーションになります.院試のあとにまとまった休暇をもらえるところもあれば、院試の翌日から実験を行うところもあります.就職先が決まった後に少しの休みが認められるところもあれば、直後に拘束されるところもあります.研究室と自分のペースが合わないと精神的に辛いこともあるので、気になる人は確認しておく必要があります.

その他、年間のおおまかなスケジュールについても確認しておくとよいでしょう.出張の多い研究室もあれば、ずっと一つの部屋で実験を行う研究室もあります.また、博士課程を目指している人には、日本学術振興会特別研究員(学振)をとっている学生の割合、日本学生支援機構奨学金の返還免除となった学生の割合なども重要な情報です.

生活の様子(1):居室の様子

講義ごとに部屋が変わって移動していた学部生時代からはうってかわり、研究室に配属すれば一日の大半を研究室で過ごすことになります.もちろん講義を受けることはありますが、拠点として長時間過ごすのは研究室になります.

実験、計算、食事、雑談などの時間を過ごす空間のことを軽視していいはずがありません.特に、自分のデスクのある居室の快適さは重要な要素となります.学生から話を聞くのはもちろんのこと、以下の点にも注意して見学しましょう.

教員と同部屋か

まず、居室が教員と一緒かどうかを見ます.指導教員がどんなに心優しい人であろうと、同じ部屋であるとあまり精神的にリラックスできません.対面あるいは隣同士であると最悪です.向こうも気を使いますし(使わない人もいます)、互いにとって不幸でしょう.

まあ、教授や准教授は学生とは別部屋である場合が多いようにも思いますが、助教やポスドクにまで個別の部屋をあてがう研究室は少数でしょう.助教やポスドクも学生の実質的な指導を担当することが多くあります.教授と比べれば年齢が近いぶん融通がきく場合もありますが、関係性は人によります.指導教員とうまくいく人もいれば、うまくいかない場合もあります.コミュ力の問題では片付けられないケースもあります.

席の配置

また、学生の席はどのように配置されているのでしょうか.学年別に固まっている場合、全くランダムに配置されている場合などあります.特定の席が決まっておらず研究室に来た学生が各々好きな席に座る(いわゆるフリーアドレス)場合もあります.学生数が多い場合は、居室が複数の部屋に分かれている場合もあります.どのパターンが良いかは完全に好みの問題ですが、気になる人は確認しておきましょう.

椅子の快適さもそれなりに問題です.研究室ではデスクワークが増えます.普通のビジネスチェアーなら合格、背もたれのない椅子なら逃げ出しましょう(そんなところは無いと思いますが).

パソコンの配布の有無

続いて、学生の使用しているパソコンは誰が買ったものかを確認しましょう.学部生時代でもレポートでパソコンを使用したと思いますが、研究室に配属してからは使用頻度が桁違いに上がります.データの整理・解析、発表資料の作成など、あらゆるイベントでパソコンが必要になります.

研究室によっては、研究に使用するパソコンが配布される場合があります.比較的予算に余裕のある研究室や解析に高スペックのPCを使用する必要のある研究室が該当します.経済的に余裕のない事が多い大学院生にとっては、パソコンが配布されることは非常に助けになることでしょう.一方で、配布されるのはデスクトップであって、自宅での作業用のノートパソコンは別途購入が必要なパターンもあります.全くノートパソコンを購入する必要のない研究室は少数派であるかと思います.*2

その他の設備の様子

その他、生活に便利そうなアイテムが置いてあるかをチェックします.冷蔵庫や電子レンジなどです.ないとQOLが爆下がりします.

また、寝ることのできる場所があるかも重要です.実験系であれば、例えブラック研究室でなかったとしても、学会や卒論発表の直前や長時間かかる実験を行う際に泊まり込みで作業をする必要に迫られる場合があります.そうした時、仮眠を取らなくてはならないかもしれません.椅子を並べてその上で寝るしかないか、ソファの上で寝ることができるかは睡眠の質に関わる大問題です.研究室によってはこたつや布団がある場合もあります.*3*4

生活の様子(2):実験室の様子

実験系の研究室であれば、居室とは別に実験室があります.見たことのない様々な実験器具が多く並んでいることでしょう.理論系であれば、高価なパソコンが多く並べられている部屋があることでしょう.系外の大型実験施設を主に利用する関係で、研究室内には装置が一切ない研究室もあります.

実験室の設備

実験室の設備が豪華な研究室ほど、予算が豊富にある研究室であると言え、その分多くの種類の実験が経験できます.とはいえ、実験室の設備を見て、豪華なのか低水準なのかを判断することは容易ではありません.*5小さくても驚くほど高価な装置もあれば、巨大なのに意外と安い装置もあります.

しかし、大きな装置は概ね相応に高価である場合が多いように思います.また、装置が旧式であったり古びている場合があります.全ての装置には耐用年数や導入日が記載されており、例えば数十年前の装置を未だに使用しているかは知ることができます.(研究室見学で耐用年数を調べて周っていたらドン引きされそうですが)

実験室の環境

実験環境の快適さも重要なポイントです.研究内容によっては、温度や湿度を一定に保つ必要があります.場合によっては、人間には辛い環境である場合もあります.また、人体に有毒な物質を多く使う研究ではないでしょうか.服装はどうでしょう.クリーンルームでの実験、白衣を着た実験、あるいは私服で問題ない実験もあります.危険な作業を多く行う作業場ではないですか.炎や強電、刃物、毒物を多く扱う研究もあります.

作業内容よりは研究内容を重視すべきですが、どうしても受け入れられない作業がないかは事前に確認しておきたいところです.

実験室との距離

地味に重要なのが実験室と居室の距離です.居室のすぐ隣に実験室があり、そこで全ての実験を行う研究室は多いですが、それが全てではありません.装置を多く保有する研究室では他にも実験室を持って装置を置いている場合もあります.場合によっては、実験室が居室から遥か離れた場所にあるなんてことも少なくありません.

どうでもいいように見えますが、実験室が離れているとそれなりに面倒です.たまに行う作業だけならいざしらず、毎日行うような作業を行いに毎日わざわざ離れた実験室まで行くのはかなりの手間です.往復が必要ならさらに手間が増えます.研究室配属を躊躇するようなデメリットではないとはいえ、実際に研究生活をどのように行うか具体的に想像してみることが大切です.

周りの様子

研究室は様々なキャンパスに位置しています.京都大学を例に取れば、人の往来が多く栄えている吉田キャンパス、駅から近いがひっそりと要塞のように佇む宇治キャンパス、俗世から離れ山の上に隔離された桂キャンパスがあります.当然、どのキャンパスを選ぶかによって生活が大きく左右されます.

例えば、研究室の人が普段昼食をどこでとっているかを確認しておきましょう.飲食店が多くて日替わりで決めている場合もあれば、実質的に学食しか選択肢がない場合もあります.学食の閉まっている休日に研究室に来ると、食事をとる場所が一切ないかもしれません.こればかりは研究室単位というよりは、どこのキャンパスを選ぶかで決まってきます.

家から近い研究室が最も楽ですが、近すぎると研究(ワーク)と日常(ライフ)のバランスが崩れ、心が蝕まれる場合があります.かといって遠いところでは毎日の通学が億劫になります.ほどほどの距離感がちょうどいいのでしょうか.この辺りは職場と自宅の関係と同じかと思います.

最低でも一年、長ければ6年通うような場所です.どのように生活を行うかのイメージは欠かせません.

まとめ

六回に渡り、研究室配属に関わる情報を書いてきました.「結局どうしたらいいんだ」と思った人もいるかと思います.全てがベストな研究室はないので、究極的には直感で選んでしまっても構いません.ただし、「これだけは譲れない」という条件だけは確保してください.

多少研究内容がつまらなくても、大抵のことは慣れればなんとかなります.実際にやってみたら楽しくなったという経験は誰にでもあります.いくら楽しそうな研究内容でも、何も考えずに明らかな地雷研究室に飛び込むことだけはやめましょう.充分な情報収集と状況判断を行うことで、自分の進路と希望に沿った研究室を選んでください.

*1:(研究室見学の場で自分の指導教員をあからさまに悪く言える人はなかなかいないでしょう)

*2:余談ですが、自腹であっても可能な限り性能の良いノートパソコンを購入しましょう.研究室によっては膨大な容量のデータをフルパワーで解析することになるので、マシンパワーが足りないと作業効率が非常に悪くなります.推奨のスペックを先輩や教員に確認しておくことが望ましいです.

*3:なお、衛生状態は保証できません.

*4:なお、睡眠できる環境が整いすぎているのも考えものです.

*5:大抵の研究者は、隣の研究室がどのような設備をどのように利用して実験をしているのか知りません.