リチウムイオン電池のリサイクル
リチウムイオン電池は、スマートフォン、ノートPC、電気自動車などさまざまな電子機器の中で使われています.現在でも既にあらゆるところで見かけるレベルですが、脱炭素化や電動化の流れの中で、その需要は今後さらに拡大していくとされています.
一方で、電池はいつか切れるもの.使用済み電池の増加に伴い、資源制約や廃棄物処理の問題も無視できなくなっています.リチウムイオン電池はリチウム、コバルト、ニッケルなどの有用金属を含むため、使用済み電池はゴミであると同時に貴重な資源の宝庫(都市鉱山)でもあります.そのため、リチウムイオン電池のリサイクルは、資源確保と環境負荷低減の両面から見て重要な課題です.
ただし、電池は構造が複雑で、発火性や化学的危険性もあるため、単純に再資源化できるわけではありません.前処理、金属回収、材料再生など、複数の工程と技術が必要になります.現在は主に乾式製錬や湿式製錬が中心ですが、それ以外にも直接リサイクル、生物冶金、電気冶金といった新しい手法が研究されています.
本記事では、5つの主要技術(直接リサイクル、熱冶金、水冶金、生物水冶金、および電気冶金)における最近の進展(2013–2022)を見ていきます.

直接リサイクル
使用済み電池の電極などを取り外して再活性化し、元の容量と性能を回復するプロセスを指します.経済的かつ環境的な利点から有望ですが、現状では前処理が煩雑であることなどから、実験室レベルでの運用にとどまっています.

直接リサイクルには、以下のようなプロセスが含まれます.
- 放電:使用済み電池に残った電力の除去
- 解体:セルを開いて電解質、電極、箔などに分離
- 再生:回収した電極を再生
直接リサイクル技術では、バッテリーの元の構造および化学組成を変えることなく再利用が可能です.
電池を長く使用すると、正極材料のからリチウムが抜け落ち、結晶構造にも変化が生じてきます(例:岩塩構造からスピネル構造).これを再生する手法として知られているのが、固相反応、水熱処理、共沈法、ゾルゲル法、炭素熱還元などです.いずれの場合でも、使用済み正極とリチウム(炭酸リチウム、金属リチウムなど)を混合して反応させることで、正極を活性化します.
リチウムイオン電池負極材料には主にグラファイトが使われています.グラファイトは優れた電気化学特性を示しますが、電池を何度も充放電すると、だんだんとダメージが蓄積していき、組織の破壊や剥離が起こります.グラファイトの再生には、化学的および熱処理をベースとした多くの方法が適用されていますが、正極の再生に関する研究に比べると、報告数が限られています.
乾式製錬
乾式製錬(pyrometallurgy)は、原料となる鉱物や混合物を熱処理することで構成する金属元素を取り出す冶金技術であり、使用済み電池から貴重な元素を取り出すために広く開発されてきました.伝統的な冶金プロセスを適用する場合、リチウムイオン電池の各構成要素は、1000 ℃を超える温度でコバルト合金やスラグ、ガスへと変換されます.
正極材料からコバルトを取り出す冶金プロセスとして、炭素熱還元法とテルミット反応が挙げられます.
炭素熱還元では、還元性の炭素(負極のグラファイトなど)や添加剤を用いることで正極材料を還元し、と金属コバルトを回収します.全体の反応式は以下のように簡潔ですが、その過程では多段階の複雑な反応が起こっています.
テルミット反応は、強烈な光と熱を発しながら急速に酸化還元反応が起こるプロセスです.正極材料とアルミニウムを反応させることで、リチウム酸化物とコバルト酸化物を生成します.
正極材料の冶金の過程で負極のグラファイトを還元剤として使用する例がありますが、負極材料自体の再生もまた重要な課題です.一つの手段は熱冶金であり、不活性雰囲気で焼成することでグラファイトを再生することができます.あるいは、グラファイトを電池材料として再利用するのではなく、別の機能材料(グラフェン、カーボンナノチューブなど)の前駆体として利用する動きもあります.
湿式製錬
湿式製錬は、様々な水溶液(例えば、酸)を用いて金属元素を抽出するプロセスです.湿式製錬は、乾式製錬よりもリサイクル技術として確立されており、高いリサイクル効率、高い選択性、低いエネルギー消費量、少ないガス排出量といった多くのメリットがあります.しかし、強酸を使用する点と液体廃棄物が大量に排出される点が問題であり、より持続可能な湿式プロセスの開発が急務です.
浸出(リーチング)は、物質に水溶液を接触させて所望の金属を抽出する手法です.無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸)を用いると、水素イオンによって正極材料からリチウムを抽出できるため、広く使用されてきました.特に、塩酸中では塩化物イオンの存在によって表面層を不安定化させることで、正極の溶解を促進します.
溶出した正極の成分は、水酸化ナトリウムを使用して金属水酸化物として選択的に沈殿させることで回収することができます.
無機酸ではなく、有機酸(クエン酸、アスパラギン酸、リンゴ酸、シュウ酸、アスコルビン酸、グリシン)を浸出剤として用いることもあります.
また、ディープユーテクティック溶媒(DES)が、環境に優しい新しい溶媒として注目されています.従来のイオン液体と比較して、DESは合成が簡単で、高い熱安定性があり、粘度が低く、金属溶解度が高く、生分解性であるという特徴を持っています.
生物冶金(バイオリーチング)
近年、環境に優しい金属回収技術として注目されているのが、微生物を利用したバイオリーチングプロセスです.このプロセスでは、特に使用済みリチウムイオン電池(LIBs)から貴重な金属を回収するために、鉄酸化微生物(IOB)および硫黄酸化微生物(SOB)が広く利用されています.
IOB媒介バイオリーチングプロセスでは、鉄酸化微生物が重要な役割を果たします.具体的には、これらの微生物は鉄イオン()を三価の鉄イオン(
)に酸化する生物酸化剤として機能します.この酸化反応により、鉄イオンの形態が変わり、金属の回収効率が向上します.一方、SOB媒介プロセスでは、硫黄酸化微生物が硫黄を硫酸イオンに酸化します.この過程で生成される硫酸は、バクテリアによる浸出システムで生成される主要な生物酸であり、金属の溶解を促進します.
バイオリーチング技術は、金属の溶解速度が遅いため、まだ実験室規模の研究に限られています.また、バイオリーチング研究に利用できる微生物分離株(IOB、SOB、および真菌分離株)もまた、限られたものしかありません.微生物と材料の相互作用、および金属溶解のバイオリーチング動力学に対する影響をよりよく理解するために、メカニズムの詳細に迫った研究が必要です.
電気冶金
電池の原点に戻り、電気化学的な手法でリチウムイオン電池のリサイクルを進める方法が注目を集めています.電気冶金は、電解や電気アーク炉などの手法を利用した冶金技術であり、電解採取、電解精錬、電気めっき、電気成形の4種類のプロセスを含みます.電気化学プロセスでは、他のリサイクルプロセスのように外部の化学物質を用いるのではなく、電極から直接供給される電子を酸化剤または還元剤として使用します.
電気化学的手法によるリーチングは、大量の反応剤、高濃度の酸、高温を必要とする従来の水溶液リーチング方法よりも、環境に優しく効率的だと考えられています.一方で、エネルギー消費が大きい点が悩みどころです.
電気化学プロセスでは、アノードで酸化反応が、カソードで還元反応が起こります.例えば、0.15 Mのを電解液として用いた系では、以下のような式で反応が起こりました.
電気冶金は有望なリサイクル手法ですが、研究例は限られており、まだ実験室規模でしか研究が行われていないことから、ゆくゆくは大規模な用途に向けた開発が必要となります.
まとめ
様々なリサイクル手法があるものの、現在のところ、乾式製錬と湿式製錬に依存しており、生物冶金と電気冶金、直接リサイクルの産業利用はまだ十分に確立されていません.また、これら新興技術に対する環境的・経済的な分析が不足しており、実用化にはまだ時間がかかると思われます.
リチウムイオン電池のリサイクルには、技術的な面だけでなく、廃棄電池の回収といった物流の面、環境や安全性の面、コスト面など複合的な課題が積み重なっており、一朝一夕に解決するのは難しいでしょう.国や世界を巻き込んだ構造的な整備が必要になります.そもそもリチウムイオン電池のリサイクルに使われているリチウムやコバルトが希少金属である点が問題なのであるから、代替材料の開発が進めば、電池の回収にそれほど気をやむ必要はないのかもしれません.
参考文献
[1] "Recycling of spent lithium-ion batteries for a sustainable future: recent advancements." Chemical Society Reviews 53.11 (2024): 5552-5592.