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NatureとNature Communicationsは別物である

NatureとNature Communications

Natureといえば、伝統、名声、IFいずれにおいてもあらゆる総合科学誌の中でも最上位の存在です.今日も研究者はNatureに論文が掲載されることを夢見て研究に励みます.

そんなNatureには数々の関連誌があります.一つは、Nature ChemistryやNature Materialsなどをはじめとした所謂Nature姉妹誌.総合誌であるNatureとは別の専門コミュニティに向けたハイインパクトな研究が掲載されています.

そしてNature Communications.この雑誌は何者なのでしょうか.

「Natureの速報版?」「縮小版?」「プレスリリースでよく見る」「そもそもCommunicationってなんだよ」

NatureとNature Communications(以下Nat. Commun.)は異なるジャーナルですが、その違いは驚くほど認知されていません.Nat. Commun.に載った論文を指してNatureと呼ぶ者あり、Nat. Commun.に掲載されてNatureに掲載されたと盛ってしまう者あり.

NatureとNature Communicationsは異なります.そのことをはっきりさせようと思うのが今回の趣旨です.

NatureとNature Communicationsの違い

私はNat. Commun.の共著になったことがあるのですが、何故かいつの間にか「Natureを書いたことがある」として紹介されたことがあります.実情を知る人からすれば恐ろしく恐ろしい話です.

両者は確かに似ています.出版社が同じ、どちらも総合学術誌、名前も似ている.

まず第一に言いたいことは、細かい違いを論いたいわけではないということです.「違いが全然細かくない」のです.

まず、そもそも両者は立ち位置からして異なります.

Natureは1869年に創刊された非常に歴史ある雑誌です.ニュース、解説、論評を含むメディアとしての役割もあり、最先端の最も価値ある研究を切り取る最高峰のジャーナルとしてブランドを確立しています.

一方、Nat. Commun.は2010年に創刊された比較的新しい雑誌です.分野横断の重要な進展を扱うオープンアクセス誌としての役割のほか、NatureやNature姉妹誌に採録できなかった研究論文の受け皿*1としての要素もあります.メディアというよりは大規模論文プラットフォームと言えます.

この違いは採択率と論文掲載数の違いを見ればもっとはっきりします.[1][2]

採択率
Nature:8%
Nature Communications:約16%(外部報道による)[3]

論文掲載数(2024年)

Nature: 1239(Articleに分類されているもののみ)

Nature Communications: 10215(同じくArticleのみ)

なんと掲載数に10倍近くの差があるんですね.こうなると自ずとジャーナルの立ち位置も変わってきます.

実際にこうした違いは、論文の引用数やその他の指標にも色濃く現れています.[1][2] まずは定番のImpact Factor(平均被引用数)*2を見ると、

Journal Impact Factor (JIF)

Nature: 48.5

Nature Communications: 15.7

3倍近い差がついています.これはNat. Commun.が低いという話ではなく、Natureが異常なんです.むしろ15.7というIFは学術誌全体で見ても上位に位置します.

ここがややこしいポイントかも知れません.Nat. Commun.も十分にレベルの高い雑誌です.しかしNatureは別格なんです.県大会優勝と世界大会優勝くらい違うんです.同じ上の方でも、立っている位置が明確に異なります.

他の指標でも比べてみましょう.

Article Influence Score(個々の論文の平均的な影響度を示す指標)

Nature: 23.370

Nature Communications: 5.611

SCImago Journal Rank(「どんな影響力のある雑誌から引用されたか」も考慮して、学術誌の影響力を評価する指標)

Nature: 18.288

Nature Communications: 4.761

Immediacy Index(出版された同じ年にどれだけ早く引用されるかを示す指標)

Nature: 11.8

Nature Communications: 3.5

もはやトリプルスコアすらも超えています.圧倒的です.しかし、繰り返しになりますがNat. Commun.の数値も低いわけではなく、むしろ十分に高い値なのです.比べる土俵が違うのです.比べたり同一視すること自体が間違いとでも言いましょうか.

なぜ混同されてしまうのか

ここまで見てきて、両者が別物であるということが分かったかと思います.ここまで差があるなら、本来は混同されようがないように見えるのですが、なぜ現実には混同が起きるのでしょう.Nature系ジャーナルに慣れ親しんだ人からするとピンとこないかもしれませんが、両者は本当に同じようなものだと思っている人が大多数です.

まず、名前が似すぎています.Communicationは分野によっては「短報」「速報」のニュアンスがあり、Nat. Commun.がNatureの速報版と思われてしまうのも無理からぬことです.名前の設計がそもそも「混同していいよ」と言っているように見えます.

次いで、Natureのブランドが強すぎる弊害もあります.Nature = 最強の雑誌というイメージで認知が完結してしまい、「Communications」は多くの人にとって情報量ゼロなので、脳内で省略されてしまうのでしょう.結果として、「つまりはNatureだな」という認識になります.

また、いくつかのプレスリリースにも罪があります.研究成果を宣伝したいがために、Natureではないのに「Natureとほぼほぼ同じレベルですよ」とアピールしているように見えるものもあります.これも勘違いを広めている要因でしょう.

そして最後に、ほとんどの人にとって違いはどうでもいいということです.名前が似ていて、同じ出版社から出ている雑誌を、非研究者が区別する意味などあるのでしょうか.両方ともレベルの高いジャーナルであるなら、別にいいじゃないかと.

まとめ

NatureとNature Communicationsは、見た目はとてもよく似ています.似すぎているといってもいいでしょう.世間が混同するのも無理はないことです.

しかし指標を比べると、はっきり言って全然違います.Natureは論文1本あたりの影響力が別格である一方、Nat. Commun.は大量の高品質論文を受け止めるメガジャーナルとして成立しています.どちらもすごいです.それは間違いないものの、すごさの種類が異なります.

もし両者が同じ価値なら、研究者が今も必死でNatureを狙い続ける理由が説明できません.NatureとNature Communicationsは、同じ系列に並んで見えても、別の競技をしている別のジャーナルなのです.

参考文献

[1] Editorial criteria and processes | Nature

[2] Journal Metrics | Nature Communications

[3] Nature journals set to offer all authors open access route in 2021 – for a price 

*1:といっても十分にハイレベルな研究が多数

*2:正確には、1論文あたり過去2年に何回引用されているかを示す指標