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pn接合:電子を使いこなす第一歩

更新 2024-3-2

pn接合(pn junction)

半導体は現代文明を支える基盤材料の一つです.半導体不足が起こった瞬間に様々な流通が滞ったのを見て、半導体の使用されている分野の広大さに驚いた人もいるのではないでしょうか.半導体はコンピュータに関わるすべての分野のほか、太陽電池やLEDなどでも使用されています.

では半導体とは何を指しているのかといえば、「電気の流れ易さを制御することが可能な材料」でした.半導体はそのままでは電気伝導度が低いですが、ドーピングと呼ばれる操作を行うことにより電気伝導度を大幅に向上させることができます.

ドーピングには2種類あり、一方は、電気伝導度のキャリアを担う粒子が負の電荷を持つ電子であるn型ドーピングです.もう一方は、電子の抜け殻である正孔(ホール)が伝導を担うp型ドーピングです.それぞれの半導体をn型半導体およびp型半導体と呼びます.

さて、キャリアの符号が2種類あることで何が変わるのでしょうか.キャリアの動きにくさに違いはあるかもしれませんが、どちらの材料も電気伝導性に問題はなく、あえて使い分ける意味は何でしょうか.

しかし、n型とp型の2種類を組み合わせることで全く新しい機能性が生まれます.pn接合はそんな機能の源泉であり、pn接合によってコンピュータが動作すると言っても過言ではありません.

今回は、半導体産業を支える基盤であるpn接合について見ていきます.

p型半導体とn型半導体を組み合わせると

半導体のバンド構造について復習します.

電子は、とびとびの値のエネルギー(エネルギー準位)しか占めることができません.固体中では、ある程度の幅を持った準位の集まり(バンド)を構成し、バンドとバンドの間には電子が入ることのできない禁制帯(バンドギャップ)があります.

バンドギャップを境にして直下にあるバンドを価電子バンド、直上にあるバンドを伝導バンドと呼びます.

半導体は絶縁体の一種であり、バンドギャップを持つとともに常温での電気伝導度はそれほど高くありません.半導体は、不純物の添加(ドーピング)によって電気特性を激変させることが可能であり、電子がキャリアであるn型半導体と正孔がキャリアであるp型半導体が知られています.

すなわち、半導体では、ドーピングにより電気伝導度を飛躍的に向上させることが可能であるとともに、電荷の担い手(キャリア)の符号を切り替え、キャリア濃度を自在に制御することができます.

pn接合の形成

pn接合は、n型半導体とp型半導体が原子レベルで接触しているデバイスです.pn接合により、キャリアを一方向にのみ流す整流が可能となります.ダイオードやトランジスタの基盤原理であることに加え、LEDや太陽電池になくてはならないものです.

まずは、n型半導体とp型半導体を接触させたときに何が起こるかを考えます.それぞれの半導体は異符号のキャリアを持つため、接触界面付近のキャリアは静電力によって引かれて拡散します.

正孔とはそもそも「電子の穴」であるので、電子と出会うと電子が埋まって互いに消滅します(対消滅).拡散の初期は対消滅を繰り返しますが、時間が経つと対消滅が落ち着きます.

何が起こったのでしょう.

n型半導体では、対消滅を繰り返した分、界面近傍の電子が失われます(空乏層の形成).負の電荷を持つ電子がなくなるので、付近は相対的に正に帯電することを意味します.p型半導体でも同様です.界面付近では正孔が失われ、相対的に負に帯電します.

ここで注意しなくてはならないのは、もともとのn型半導体とp型半導体自体はもともと帯電してはいないということです.n型半導体で電子の数が多い分は原子核が多いことで補っており、n型半導体自体は中性です.

しかし、p型半導体側に電子が脱出して電子数が不足することでn型半導体が正に帯電することになります.p型についても同様です.

接合の影響

ともかく、この帯電の影響により、電子は負の電荷を乗り越えてp型半導体に向かうことができず、反対に正孔は正電荷を乗り越えてn型半導体に向かうことができなくなります.すなわち、キャリアの動きがない平衡状態に至ります.

この状態を、バンド構造を使って表してみましょう.p型半導体は価電子バンドの少し上に、n型半導体は伝導バンドの少し下に不純物準位を形成するのでした.接合し、平衡状態に至ったあと、バンドは以下のように動きます.

バンド図は電子にとってのエネルギー位置なので、負に帯電した準位はエネルギー的に高くなります.逆に、正に帯電した準位はエネルギーが下がります.平衡状態ではp型とn型のフェルミ準位が一致し、接合部のエネルギー準位がつながります.この結果、接合部では電位障壁が形成され、キャリアの流れが消失します.

pn接合と整流性

以上のように、pn接合によって接合部に電位障壁が形成されました.要は、キャリアが流れないわけで、これが何の役に立つのかわかりません.続いて、接合の両端に電場をかけた場合を考えます.

逆方向バイアス

まず、p型側に負の電圧、n型側に正の電圧をかけます.正孔は負の電荷に引かれ、電子は正の電荷に引かれます.結果として、キャリアは接合部から離れていき、電流が流れません.この状況を逆方向バイアスと呼びます.

バンド図で考えると、n型にある電子は正の電場により安定化し、エネルギー位置が下がります.一方、p型では負の電荷によって安定化し、エネルギー位置が上がります(正孔にとってのエネルギーなので、電子とは逆に準位が動く).ゆえに、接合部の電位障壁が大きくなり、電流がほとんど流れません.

順方向バイアス

一方、p型側に正の電圧、n型側に負の電圧をかけた場合はどうでしょう.n型の電子は負の電荷に押されて空乏層に向かい、p型の正孔も同様です.結局、空乏層では電子と成功が次々と出会い、対消滅します.全体としては電場とともにキャリアが次々と流れ、電流が流れている状況と考えられます.

バンド図で考えると、逆方向バイアスとは反対に、n型の電子の準位が上がりp型の準位が下がります.ゆえに電位障壁が小さくなる方向に動き、電流が流れるようになります.この状況を順方向バイアスと呼びます.

整流作用

結果として、逆方向バイアスでは電流を流さず、順方向バイアスでは電流を流すことになります.すなわち、電流を一方向にしか流さないデバイスができました.このような作用は整流作用と呼ばれます.半導体では電子の流れを自在に制御しますが、pn接合によって電気の一方通行が可能になるわけです.

pn接合を活用することでダイオード・トランジスタの作製、電流の交流・直流の変換や、太陽電池やLEDの作成が行えるようになります.半導体の柱の機能の一つであり、絶縁体や金属とは異なる半導体を特徴づける性質です.

まとめ

半導体は電気を制御できると言われますが、その機能の一つがpn接合による整流作用です.電流が行きは進めても戻れなくなるため、交流・直流の変換も可能です.

なお、逆方向バイアスによる電流のブロックは万能ではなく、電場を大きくしすぎるとpn接合が降伏(破壊)を起こし、電流が堰を切ったように流れ出します.この特性を逆手に取って定電圧源に使用する場合もあります.

参考文献

化学教育 1985 年 33 巻 6 号 p. 463-466

白木靖寛(2015)シリコン半導体 内田老鶴圃