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硫黄の同素体:硫黄8つで作る分子が主役

硫黄(Sulfur)

硫黄\rm{S})は周期表で16番目の元素で、周期表で酸素の下に位置します.地球上では主に硫化物や硫酸塩として存在する典型元素です.

硫黄」と聞くと、火山の匂いや温泉の硫化水素、あるいは黄色い粉末のイメージを思い浮かべる方が多いでしょうか.硫黄は多様な結合様式を取り得る元素で、同じ「硫黄」であっても原子の配列や結合の仕方が大きく異なる複数の同素体(allotrope)を持ちます.

同素体に応じて色・物理的状態・反応性が変わり、工業的利用や安全上の取り扱いも異なります.以下では、硫黄原子の主要な同素体を順に見ていきます.

硫黄原子の特徴

硫黄は外殻に6個の価電子を持ち、多彩な酸化数(−2、+4、+6 など)をとります.原子半径が比較的大きいため、\rm{S–S}結合で鎖状あるいは環状の高分子的構造(カテネーション)を作りやすく多様な同素体を持ちます.特に環状の\rm{S_8}8員環は固体硫黄で最も一般的なユニットです.

炭素や窒素と比べると共有結合の方向性は弱いものの、\rm{S–S}単結合は比較的安定であり、加熱や急冷といった物理的処理で容易に構造転移が起きます.この可塑性・可逆性が硫黄同素体の多様性の起源です.

硫黄の同素体

硫黄は固体・液体・気相で様々な同素体を示しますが、固体で代表的なのは結晶性の「斜方硫黄(α-硫黄)」「単斜硫黄(β-硫黄)」と、非晶質〜鎖状の「ゴム状硫黄(塑性硫黄)」です.

高温では\rm{S_2}\rm{S_3}といった分子種が気相中に現れます.また、環状の \rm{S_n}(n = 6, 7, 8, 9, …)や開鎖のポリマー状硫黄も形成され得ますが、固体で最も安定かつ豊富なのは \rm{S_8} を基本とする形態です.

斜方硫黄(α-硫黄, Rhombic sulfur)

斜方硫黄は淡黄色〜黄の光沢を持つ結晶性固体で、室温で熱力学的に安定な形態です.基本単位は八員環の分子 \rm{S_8} で、これらが分子晶体として配列しています.結晶は通常、斜方晶系に分類されます.

\rm{S_8}は分子性結晶であり、個々の\rm{S_8}分子間の相互作用はファンデルワールス力が主です.したがって固体全体としては比較的脆く、低温では安定ですが加熱すると別の相へと変態します.化学的には比較的安定で、水に溶けにくく、強酸化剤の存在下で酸化されて二酸化硫黄や三酸化硫黄を生じます.

結晶状の硫黄は工業原料(硫酸製造の原料、硫化物精製の中間体)、農薬(硫黄粉)、ゴムの加硫剤、火薬の原料などに用いられてきました.現在は特に硫酸(世界で最も重要な無機化学品の一つ)生産への原料としての価値が大きいです.

単斜硫黄(β-硫黄, Monoclinic sulfur)

β-硫黄も \rm{S_8} 分子を基本単位としますが、結晶構造は単斜晶系(高温側の安定相)で、斜方硫黄とは配列が異なります.

加熱により α-硫黄は約95.5°Cで β相に転移し、さらに温度を上げると融解します(約115°C).冷却条件によっては β相から直接 α相へ戻ることもあります.

可塑硫黄(塑性硫黄、ゴム状硫黄)

斜方硫黄を溶融して急冷すると、黒褐色で伸びるゴム状の非晶質硫黄(通称:塑性硫黄、またはゴム状硫黄)が得られます.これは長鎖のポリ硫黄(開鎖の\rm{S-S}鎖)を多く含むため弾性を示しますが、時間が経つにつれ徐々に安定な\rm{S_8}環へ再配列していき、元の黄色い結晶に戻ります.

塑性硫黄は一時的にポリマー状の硫黄鎖を含むため粘性・弾性を示します.こうした一時的ポリマー化は硫黄の溶融時に起きる開環重合(熱的に生成したラジカルが鎖を伸ばす)に由来します.

気相・高温での分子種と液体硫黄

高温で硫黄を気化させると、単純な\rm{S_8}分子だけではなく、二量体\rm{S_2}(ジスルフィド様の二原子分子)や\rm{S_3}\rm{S_4}といった小さな分子種が支配的になります.これらは色や吸収スペクトルの変化をもたらし、火炎や高温蒸気の化学反応性を左右します.

さらに、液体硫黄は温度によって著しく粘度が変化することで知られます.融解直後は低粘度ですが、一定温度域で粘度が急上昇し、その後さらに加熱すると再び粘度が下がるという複雑な振る舞いを示します.これは開環ラジカルによる鎖状ポリマーの形成と分解が温度に応答して進むためです.

その他の同素体・分子種

固体中や溶液・気相では \rm{S_n}(n が 6〜20 の範囲)の環状分子や鎖状種が観測されています.例えば \rm{S_6}(6員環)や \rm{S_7} といった環も存在し得ますが、常温の固体として最も目にするのはやはり \rm{S_8} 系です.

まとめ

硫黄は環状分子 \rm{S_8} に基づく結晶性形態から、加熱・急冷で得られるポリマー状の塑性硫黄、さらに高温気相に現れる小分子種まで、多彩な同素体を示す元素です.そのカテネーション(S–S 結合による鎖形成)能力が物性や反応性の幅を生み、工業利用から環境問題まで様々な要所で顔を出します.

参考文献

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).