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世界一簡単な空間群の読み方

結晶構造と空間群

結晶構造について見ていると、以下のような記号に出会います.

  • \mathrm{Pm\bar{3}m}
  • \mathrm{Fm\bar{3}m}
  • \mathrm{P6_3/mmc}
  • \mathrm{Pnma}
  • \mathrm{R3c}

これらは空間群と呼ばれる記号です.

これは結晶構造と密接に関係しており、結晶の中で原子がどのような対称性を保ちながら周期的に並んでいるかを表した分類です.単位格子の形だけでなく、回転、鏡映、反転、らせん、映進といった操作をしても同じ構造に見えるかどうかまで含めて、全部で230種類に整理されています.

ただ、記号だけ見てもよく意味が分からないですよね.

厳密に理解しようとすると、群論、対称操作、生成元、ワイコフ位置などの高度な概念が必要になります.しかし、空間群を完全に理解しなくても、ある程度のことは分かります

空間群の記号には、結晶構造の特徴が詰まっています.含まれるアルファベットや数字などを見るだけでも、次のような情報を読み取れます.

  • どのような格子を持つか
  • どの結晶系に属しそうか
  • 回転対称性や鏡映対称性があるか
  • 原子配列にらせん状の繰り返しがあるか
  • 反転対称性、極性、キラリティーを持つか

細かいことは飛ばし、具体的な結晶構造と対応させながら、空間群の記号から読み解けることを見ていきます.

1.空間群記号は位置ごとに意味がある

まず、次の空間群を見てみます.

\mathrm{P4/mmm}

この記号を見るだけでも、大まかには次のようなことが分かります.

  • Pなので単純格子
  • 4があるので、4回回転軸を持つ
  • 4回回転軸が主軸にあるので、正方晶系らしい
  • mが三つあるので、複数の鏡映面を持つ
  • 4/mがあるので、主軸に垂直な鏡映面を持つ
  • 全体として対称性の高い正方晶の空間群である

もちろん、これだけで原子の種類や細かな位置までは分かりません.しかし、空間群記号を見るだけでも、格子の種類、結晶系、回転対称性、鏡映対称性などをかなり絞り込めます.

空間群記号は、結晶構造そのものではなく、その構造が従う対称性のルールを短くまとめた記号です.

空間群には、それぞれ1から230までの番号が付いています.例えば、\mathrm{Pnma}は空間群番号62、\mathrm{Fm\bar{3}m}は空間群番号225です.

1-1.記号は位置ごとに役割がある

空間群記号は、数字やアルファベットを単に並べたものではありません.Hermann–Mauguin記号では、記号中の位置ごとに役割があります.

\mathrm{P4/mmm}は、次のように分けて考えると分かりやすくなります.

\mathrm{P}\ |\ \mathrm{4/m}\ |\ \mathrm{m}\ |\ \mathrm{m}
位置 名称 \mathrm{P4/mmm}での記号 表しているもの
先頭 格子記号 P 格子点の配置
第1位置 第1対称方向 4/m 正方晶の主軸であるc軸方向の対称性
第2位置 第2対称方向 m a軸・b軸方向に関係する対称性
第3位置 第3対称方向 m 底面内の対角方向に関係する対称性

ここで、4/mは一つのまとまりです.4c軸方向の4回回転軸を、スラッシュの後のmはその軸に垂直な鏡映面を表します.残りの二つのmは、それぞれ別の代表的な方向にある鏡映面です.

空間群記号は、「格子記号」と「第1・第2・第3対称方向の記号」に分けて読むと、構造が見えやすくなります.

ただし、第1・第2・第3対称方向が具体的にどの結晶軸や方向を指すかは、結晶系によって異なります.例えば、正方晶では第1対称方向が主軸であるc軸方向ですが、直方晶では三つの位置がabcの各方向に対応します.

例えば、

\mathrm{Pnma}

は、

\mathrm{P}\ |\ \mathrm{n}\ |\ \mathrm{m}\ |\ \mathrm{a}

と分けられます.先頭のPが格子記号で、その後のnmaが、直方晶系の第1・第2・第3対称方向に対応する対称要素です.

2.格子記号は格子の種類を表す

空間群の最初には、PIFCRなどの大文字があります.

この文字は、結晶を周期的に繰り返す格子点が、単位格子のどこにあるかを表しています.体心格子とか面心格子とか聞いたことありますよね.

記号 格子の種類 雑な理解
P 単純格子 基本となる格子点は頂点だけ
I 体心格子 頂点に加えて中央にも格子点がある
F 面心格子 頂点に加えて全ての面の中心にも格子点がある
ABC 底心格子 特定の一組の面の中心にも格子点がある
R 菱面体格子 三方晶系で使われる格子

格子点とは、そこを基準に結晶全体を平行移動したとき、元素の種類も含めて元の構造と完全に一致する位置です.ここで重要なのは、原子が中央や面の中心に存在するかどうかと、格子点がそこにあるかどうかは別問題だということです.

2-1.Pの具体例:CsCl型構造

CsCl型構造の空間群は、

\mathrm{Pm\bar{3}m}

です.

単位格子の頂点にCs、中央にClを置いた構造とみなせます.立方体の中央に原子があるため、見た目だけでは体心格子のように見えますが、頂点から中央へ結晶全体を平行移動すると、CsとClが入れ替わってしまいます.

2-2.Iの具体例:体心立方鉄

常温付近のα鉄は体心立方構造を持ち、空間群は、

\mathrm{Im\bar{3}m}

です.

単位格子の頂点と中央には、どちらにもFe原子があります.頂点から中央へ結晶全体を平行移動しても、Fe原子の配列は元の構造と重なります.

3.第1対称方向の位置には何が入るか

第1対称方向の位置には、その結晶系を特徴づける最も重要な対称軸が書かれます.特に、正方晶、三方晶、六方晶では、この位置の数字を見ることで結晶系をかなり絞り込めます.

3-1.主軸の数字から結晶系を大まかに見る

雑に見るなら、第1対称方向に現れる数字を確認すれば結晶系が分かります.

  • 4または\bar{4}があれば、正方晶系らしい
  • 6または\bar{6}があれば、六方晶系らしい
  • 3または\bar{3}があれば、三方晶系らしい

例えば、

  • \mathrm{P4mm}:第1対称方向が4なので正方晶系
  • \mathrm{P6_3/mmc}:第1対称方向が6_3なので六方晶系
  • \mathrm{R\bar{3}c}:第1対称方向が\bar{3}なので三方晶系

一方、第1対称方向に346のような高次の回転軸がなく、三つの方向に2m、映進面などが並んでいる場合は、直方晶系である可能性が高くなります.

例えば、

\mathrm{Pnma}

には346のような主軸がなく、nmaが三方向に並んでいるため、直方晶系です.

さらに対称性が低く、代表的な方向の一つに2mだけが現れる場合は単斜晶系、特別な回転軸や鏡映面がほとんどなければ三斜晶系の可能性があります.

第1対称方向に4があれば正方晶、6があれば六方晶、3があれば三方晶をまず疑います.それらがなく、三方向に2回軸や面対称が並ぶなら直方晶です.

3-2.数字の意味は回転軸

記号 回転角度 意味
1 360度 特別な回転対称性がない
2 180度 半回転で一致
3 120度 3分の1回転で一致
4 90度 4分の1回転で一致
6 60度 6分の1回転で一致

例えば、

\mathrm{P4mm}

4は、第1対称方向に4回回転軸があることを表します.ゆえに正方晶系です.

正方晶BaTiO₃では、

a=b\neq c

であり、c軸の周りに90度回転すると構造が一致します.

3-3.右下に数字が付くとらせん軸

2_13_13_24_16_3などは、らせん軸です.

らせん軸では、軸の周りに回転した後、軸方向に平行移動します.

記号 回転 並進
2_1 180度 周期の\frac{1}{2}
3_1 120度 周期の\frac{1}{3}
6_3 60度 周期の\frac{3}{6}=\frac{1}{2}

六方最密充填Mgの空間群、

\mathrm{P6_3/mmc}

では、主軸の位置に6_3があります.これは60度回転した後に、c軸方向へ半周期進む操作です.

α-石英の、

\mathrm{P3_121}

と、

\mathrm{P3_221}

では、主軸の位置に3_1または3_2があり、互いに反対向きのらせんに対応します.

3-4.上にバーが付くと回映軸

\bar{1}\bar{3}\bar{4}\bar{6}などは回映軸です.

回映操作では、軸の周りに回転した後、ある点を中心に反転します.

  • \bar{1}:反転
  • \bar{3}:120度回転と反転
  • \bar{4}:90度回転と反転

NaCl型構造の、

\mathrm{Fm\bar{3}m}

には\bar{3}があり、閃亜鉛鉱型ZnSの、

\mathrm{F\bar{4}3m}

には\bar{4}があります.

4.第2・第3対称方向の位置には何が入るか

第2・第3対称方向の位置には、第1対称方向とは異なる代表的な方向の対称要素が書かれます.

ここには、鏡映面、映進面、回転軸、らせん軸などが入ります.

4-1.mは鏡映面

mはmirror、つまり鏡映面を表します.

ある面を鏡として原子配置を反転させたとき、反対側の原子配置と一致すれば、その面は鏡映面です.

例えば、

\mathrm{P4/mmm}

では、後半の三つのmが、主軸に垂直な方向や、主軸を含む複数の方向の鏡映面を表します.

同じmでも、どの位置にあるかによって、表す方向が違います.

4-2.abcndは映進面

これらは、鏡映した後に少し平行移動すると元の構造と一致する映進面です.

  • a:鏡映後にa軸方向へ移動
  • b:鏡映後にb軸方向へ移動
  • c:鏡映後にc軸方向へ移動
  • n:複数の軸方向を組み合わせて移動
  • d:4分の1周期を含む特殊な移動

mは普通の鏡、abcndは、鏡に映した後で少しずらす鏡です.

例えば、

\mathrm{Pnma}

では、三つの後半位置にnmaが並び、直方晶系の三つの代表的な方向に対応しています.

ダイヤモンドの、

\mathrm{Fd\bar{3}m}

に含まれるdは、ダイヤモンド映進面です.

4-3.後半に数字が入る場合もある

後半には、鏡映面や映進面だけでなく、別方向の回転軸やらせん軸が入ることもあります.

例えば、

\mathrm{P2_12_12_1}

では、三つの位置に2_1が並んでいます.これは、互いに異なる三方向に2_1らせん軸があることを表します.

4-4.スラッシュは何を区切っているか

\mathrm{P4/mmm}\mathrm{P2_1/c}のように、記号中にスラッシュが入る場合があります.

スラッシュは、主軸方向の対称性と、それに垂直な面や別方向の対称性を区切っています.

例えば、

\mathrm{P2_1/c}

では、2_1が主軸方向のらせん軸、cが主軸に垂直な映進面を表します.

5.反転対称性は空間群記号から判定できる

反転対称性とは、ある点を中心として、

(x,y,z)\rightarrow(-x,-y,-z)

と原子を移したときに、元の結晶構造と一致する対称性です.

空間群が分かっていれば、反転対称性があるかどうかも決まります.ただし、記号中にバーがあるかどうかだけでは判定できません.

5-1.\bar{1}があれば反転中心がある

例えば、

\mathrm{P\bar{1}}

\bar{1}は、反転操作そのものを表します.

5-2.\bar{1}がなくても反転中心を持つ場合がある

次のような頻出空間群にも反転中心があります.

  • \mathrm{P2_1/c}
  • \mathrm{Pnma}
  • \mathrm{R\bar{3}c}
  • \mathrm{P6_3/mmc}
  • \mathrm{Fm\bar{3}m}

これらでは、複数の対称操作を組み合わせると反転操作が生じます.

5-3.バー付き数字があっても反転中心がない場合がある

\mathrm{F\bar{4}3m}には\bar{4}がありますが、反転中心はありません.

\bar{4}は回転と反転を組み合わせた操作であり、反転だけを行っても構造が一致するという意味ではありません.

6.極性は、空間群から点群を取り出すと分かる

極性を持つ空間群では、結晶中に「こちら向き」と「反対向き」を区別できる方向があります.

極性の有無を判定するには、空間群から並進に関係する部分を取り除き、対応する点群を見ます.

  • 最初の格子記号は無視する
  • 2_12として読む
  • 3_13_23として読む
  • 6_36として読む
  • abcndmとして読む

極性を持つ点群は、次の10種類です.

1,\ 2,\ m,\ mm2,\ 3,\ 3m,\ 4,\ 4mm,\ 6,\ 6mm

6-1.具体例:\mathrm{P4mm}

\mathrm{P4mm}から格子記号Pを除くと、点群は4mmです.これは極性点群です.

6-2.具体例:\mathrm{P6_3mc}

6_36cmとして読むと、対応する点群は6mmです.したがって、\mathrm{P6_3mc}は極性空間群です.

6-3.極性を持たない例:\mathrm{F\bar{4}3m}

格子記号Fを除いた点群は\bar{4}3mです.これは極性点群ではありません.

7.鏡映、反転、回映がなければキラル構造の可能性あり

空間群記号からは、その空間群がキラルな結晶構造を許すかどうかも読み取れます.

空間群記号に次の対称要素が含まれている場合、その空間群はキラル構造ではありません.

  • 鏡映面m
  • 映進面abcnd
  • 反転\bar{1}
  • 回映軸\bar{3}\bar{4}\bar{6}など

反対に、通常の回転軸、らせん軸、並進だけで構成されている空間群は、キラル構造をである可能性があります.

7-1.具体例:\mathrm{P2_12_12_1}

\mathrm{P2_12_12_1}には、Pと三方向の2_1らせん軸しかありません.鏡映、映進、反転、回映は含まれていません.

7-2.具体例:\mathrm{P3_121}\mathrm{P3_221}

これらは互いに鏡像関係にあり、3_13_2のらせんの向きが異なります.

7-3.キラルではない例:\mathrm{P6_3mc}

\mathrm{P6_3mc}にはらせん軸がありますが、mcも含まれています.そのため、キラル構造を許す空間群ではありません.

8.空間群から分かることと、分からないこと

このように空間群の記号を見るだけでも様々なことが分かります.しかし、結晶構造のすべてが分かるわけではありません.

空間群から分かることには、次のようなものがあります.

  • 結晶系
  • 回転軸、らせん軸、回映軸
  • 鏡映面、映進面
  • 反転中心の有無
  • 極性やキラリティーが可能か

一方、空間群だけでは、元素の種類、配位数、原子間距離、格子定数の具体的な値、原子の変位量、磁気構造までは分かりません.

9.よく見る空間群と結晶構造

空間群 番号 代表的な構造 世界一雑な読み方
\mathrm{P1} 1 低対称な分子結晶など 特別な対称性がほぼない
\mathrm{P\bar{1}} 2 低対称な無機・分子結晶 低対称だが反転中心はある
\mathrm{P2_1/c} 14 多くの分子結晶 単斜晶で、らせん軸と映進面を持つ
\mathrm{Pnma} 62 歪んだペロブスカイト 直方晶で、映進面と鏡映面を持つ
\mathrm{P4mm} 99 正方晶BaTiO₃ 正方晶で極性を持つ
\mathrm{R\bar{3}c} 167 コランダム型Al₂O₃ 菱面体格子で反転中心を持つ
\mathrm{R3c} 161 LiNbO₃型構造 菱面体格子で極性を持つ
\mathrm{P6_3/mmc} 194 六方最密充填Mg 六方晶で高対称、反転中心あり
\mathrm{P6_3mc} 186 ウルツ鉱型ZnO 六方晶で極性を持つ
\mathrm{P3_121}\mathrm{P3_221} 152、154 α-石英 左右のらせん構造を持つ
\mathrm{Pm\bar{3}m} 221 CsCl型、立方晶ペロブスカイト 単純格子の高対称立方晶
\mathrm{Im\bar{3}m} 229 体心立方鉄 体心立方格子
\mathrm{Fm\bar{3}m} 225 Cu、NaCl型、蛍石型 面心格子の高対称立方晶
\mathrm{Fd\bar{3}m} 227 ダイヤモンド、スピネル 面心格子に特殊な映進を含む
\mathrm{F\bar{4}3m} 216 閃亜鉛鉱型ZnS 面心型で反転中心がない

10.まとめ

空間群記号を見るときは、

\mathrm{P4/mmm}

のような記号を、

  • P:格子
  • 4:主軸方向の対称性
  • /mmm:ほかの代表的な方向の対称性

に分けて考えることが重要です.

そのうえで、普通の数字、右下付き数字、バー付き数字、鏡映面、映進面の意味を順番に見れば、空間群記号からかなり多くのことを読み取れます.

より詳しく知りたい人は、教科書やInternational Tableを参照してください.

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).