はじめよう固体の科学

電池、磁石、半導体など固体にまつわる話をします

MENU

宝石の結晶構造を見てみよう

宝石と結晶

鉱物の中で宝石として用いられるのは約130種類と言われており、中でもダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドなどが有名です.数千種の鉱物の中で宝石(Jewel、ジュエル)と呼ばれるためには、自然由来のもので、美しく、耐久性があり、かつ希少性があることが必要とされています.

その魅力の大きさから、宝石は人類史と常に共にありました.古代エジプトや古代ローマにおいても、宝石は富と権力の象徴として王侯貴族に愛され、ときには戦利品として扱われ、自分たちの力を示すために競い合いました.現代では、未だに高価であるとはいえ、庶民でも宝石を手にすることができます.

一般に特別なものとして扱われる宝石ですが、その正体は鉱物であり結晶です.結晶ということは結晶構造、すなわち特有の原子の配列を持っています.マクロな大きさの宝石は美しいですが、ミクロな大きさの結晶もなかなかきれいな構造をしています.

宝石がどんな原子の配列を持っているか想像したことはありますか?今回は、宝石がどんな結晶構造を持っているか見ていきます.

宝石と誕生石、その結晶構造

宝石にはそれぞれ意味があるとされており、1月から12月までの各月にちなんだ宝石を誕生石と呼びます.以下では、誕生石の月の順番に宝石とその結晶構造を見ていきましょう.

1月 ガーネット(Garnet, 柘榴石、ザクロ石)

Garnet

1月の誕生石はガーネットです.日本語では柘榴石としても知られています.ガーネットは中世英語で「暗い赤」を意味します.

ガーネットはケイ素を含むケイ酸として知られる鉱物です.一般式としてX_3Y_2\rm{(SiO_4)_3}の組成を持ち、Xには二価の\rm{Ca, Mg, Fe, Mn}など、Yには三価の\rm{Fe, Al, Cr}などが入ります.ガラス状の光沢があり、種類に応じて無色、黄、赤、緑などの色を持ちます.硬度の高さから、粉末状の研磨剤として使用されます.

ガーネットは対称性の高い立方晶ですが、単位胞に100以上の原子が入ったかなり複雑な結晶構造を持ちます.ガーネットの結晶構造をガーネット構造と呼び、同構造をもつ酸化物\rm{Y_3Al_5O_{12}}はYAGレーザー(ヤグレーザー)の原料として有名です.

2月 アメジスト(Amethyst, 紫水晶)

Amethyst

2月の誕生石はアメジストです.アメジストには「酔わない」という意味があり、持ち主が酔うことから守ってくれると考えられていました.アメジストとは紫水晶という呼び名でも知られています.その名の通り、紫色を示します.

アメジストは水晶の一種であり、不純物や微量元素の影響で紫色に着色したものです.水晶と同じ\rm{SiO_2}の組成を持ちます.装飾として用いられるほか、加熱すると黄色の宝石であるシトリンに変化します.

アメジストは、他の水晶と同じようにケイ素と酸素から構成され、\rm{Si}に4つの\rm{O}が配位した複雑なネットワークを持ちます.

3月 アクアマリン(Aquamarine, 藍玉)

Aquamarine

3月の誕生石はアクアマリンです.アクアマリンは緑柱石(ベリル、一般に緑色)と呼ばれる宝石のうち、青色を示すものとされます.アクアマリンはラテン語で「海水」を意味します.

ベリルはベリリウムを含む酸化物\rm{Be_3Al_2Si_6O_{18}}であり、その一種であるアクアマリンも同様の化学式を持ちます.アクアマリンの青色は、微量に含まれる\rm{Fe^{2+}}に起因します.

アクアマリン、もといベリルは六方晶系に属します.ゆえに鉱物としてのベリルも六角柱状です.\rm{Si}\rm{O}から構成される一次元鎖がc軸に沿って配列し、他のイオンがその間に位置します.鎖間には大きなスペースがあり、様々なイオン種を取り込むことが可能です.

4月 ダイヤモンド(Diamond, 金剛石)

Diamond

4月の誕生石はダイヤモンドです.宝石の代表格とも言える存在で、非常に高価です.古代ギリシア語で「打ち負かされないもの」を意味し、その名の通り鉱物の中でも最大のモース硬度を示します.

ダイヤモンドは炭素のみからなる単体で、同じく炭素からなる黒鉛とは異なり炭素同士の共有結合が三次元のネットワークを形成した構造を持ちます.ダイヤモンドの圧倒的な硬さは、この堅固な共有結合に由来します.

ダイヤモンドの結晶構造をダイヤモンド構造と呼びます.全ての炭素原子はそれぞれ4つの炭素原子に正四面体型に結合されています.ダイヤモンド構造の単位胞は立方晶系であり、8つの炭素原子が含まれます.

5月 エメラルド(Emerald, 翠玉)

Emerald

5月の誕生石はエメラルドです.アクアマリンと同様、緑柱石(ベリル)の一種であり、強い緑色を示します.「緑色の石」を意味する古代ギリシア語から派生してエメラルドの名前に至っています.

ベリルはベリリウムを含む酸化物\rm{Be_3Al_2Si_6O_{18}}であり、その一種であるエメラルドもまた、アクアマリンと同じ化学式を持ちます.エメラルドの緑色は、微量に含まれるクロムやバナジウムに由来します.モース硬度は高いですが、内部に傷が多く、衝撃に極端に弱いことが知られています.

アクアマリンと同様、エメラルドもケイ酸の一次元鎖からなり、六方晶系に属します.

6月 パール(Pearl, 真珠)

6月の誕生石はパールです.日本人には真珠の呼び名のほうが馴染み深いでしょう.鉱石から採掘される他の宝石とは異なり、真珠は貝から採取される生体鉱物(バイオミネラル)です.英語のパールは、もとはラテン語の「脚」に由来し、足の形をした二枚貝にちなんでいます.

真珠は貝の外套膜の成分によって形成されるため、貝殻と同じ組成を持ちます.大部分の成分は炭酸カルシウムです.

7月 ルビー(Ruby, 紅玉)

Ruby

7月の誕生石はルビーです.赤色に輝く宝石で、ルビーの名もラテン語で「赤」を意味する語に由来します.

ルビーはコランダム(鋼玉)の一種であり、\rm{Al_2O_3}の組成を持ちます.純粋な\rm{Al_2O_3}は無色透明ですが、ルビーでは不純物として含まれる\rm{Cr}の影響により濃い赤色を示します.

コランダム構造は三方晶系に属します.\rm{Al}は6つの\rm{O}に八面体型に配位されており、それぞれが辺を共有しています.\rm{O}だけを見ると六方最密充填であり、その八面体間隙の3分の2を\rm{Al}が占有しています.

8月 ペリドット(Peridot, カンラン石)

Peridot

8月の誕生石はペリドットです.ペリドットはカンラン石の一種であり、カンラン石の中で宝石として扱われるものがペリドットと呼ばれます.ペリドットの名前の由来ははっきりしていません.

ペリドット(カンラン石)はケイ酸塩の一種です.\rm{(Mg,Fe)_2SiO_4}の化学式を持ち、直方晶系に属します.\rm{O}が六方最密構造をとり、八面体間隙の半分を\rm{Mg}または\rm{Fe}、四面体間隙の8分の1を\rm{Si}が占有しています.

9月 サファイア(Sapphire, 蒼玉)

Sapphire

9月の誕生石はサファイアです.コランダムのうち、赤色のルビーを除いたものをサファイアと呼びます.それゆえ、一般的には青色のイメージのあるサファイアですが、黄色や緑色のサファイアも存在します.サファイアの名はラピスラズリを意味するラテン語に由来します.(ラピスラズリやないか)

ルビーと同じく、サファイアもコランダムの一種であり、\rm{Al_2O_3}の組成を持ちます.一般にイメージする青色のサファイアは、微量に含まれる\rm{Ti}\rm{Fe}の影響によって着色しています.

ルビーとサファイアの違いは微量成分の差によるものであるので、両者は同じ結晶構造を持ちます.

10月 オパール(Opal, 蛋白石)

10月の誕生石はオパールです.白色の宝石で、ガラスのような光沢を示します.オパールという名前は、「宝石」を意味するサンスクリット語に由来すると言われています.

オパールは\rm{SiO_2 nH_2O}の組成を持つケイ素酸化物です.非晶質であり、したがって明確な結晶構造を持ちません.

11月 トパーズ(Topaz, 黄玉)

Topaz

11月の誕生石はトパーズです.無色または黄色の宝石であり、微量元素の違いによって様々な色を示します.トパーズという名は古フランス語、ギリシャ語、ラテン語から由来し他言葉のようですが、語源は不明なようです.

トパーズは\rm{Si}\rm{Al}を含む酸化物であり、一般に\rm{Al_2SiO_4(F,OH)_2}の化学式を持ちます.直方晶系であり、\rm{SiO_4}四面体のほか、辺を共有してジグザグに配列した\rm{AlO_6}八面体を結晶構造中に持ちます.

12月 ターコイズ(Turquoise, トルコ石)

Turquois

12月の誕生石はターコイズです.青色から緑色の色を持つ不透明な鉱物です.ターコイズの名は、和名を見れば明瞭なように「トルコの石」を意味するフランス語に由来します.

ターコイズはリン酸塩に属しており、組成はやや複雑で\rm{CuAl_6(PO_4)_4(OH)_8\text{ }4H_2O}と表されます.結晶構造もまた複雑で、\rm{CuO_6}八面体、\rm{AlO_6}八面体、\rm{PO_4}四面体が絡んだ三次元ネットワークを有しています.

まとめ

目で見て美しい宝石も、原子レベルで見ればまた別の美しさがあります.ほとんどの宝石は結晶であり、ある決まった原子の配列が現れます.この原子の配列の違いによって、宝石の形や硬さ、屈折率などに大きく影響します.宝石によっては唯一無二の物理的特性を示し、産業的に広く利用されているものも存在します.硬さを活かしたダイヤモンドカッター、ルビーレーザーなどは有名です.

マクロで見て楽しくて、ミクロで見ても楽しい、宝石はとってもお得だな(?)

参考文献

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).