更新 2024-3-5
コランダム構造(Corundum structure)
コランダムとは酸化アルミニウム(アルミナ)の結晶であり、の組成を持ちます.コランダムと言われて聞き慣れないと思っても、ルビーやサファイアは知っているはずです.いずれも宝石として有名であり、コランダムの一種です.
純粋なコランダムは無色透明ですが、わずかに混入した不純物の影響で着色する場合があります.クロム()が混入した場合は赤く輝くルビーとなります.一方、赤以外に着色したコランダムをサファイアと呼び、青色のサファイアは不純物のチタン()に由来します.
コランダムの結晶構造はコランダム構造と呼ばれ、種々の酸化物で見られます.コランダム構造は菱面体晶の対称性を持ち、単位胞には12個のと18個のが含まれます.
は6つのに八面体状に配位され、面を共有した2つの八面体ユニットが、それぞれ頂点および辺を共有した特有の三次元ネットワークを形成しています.
以下では、2種類の方法からコランダム構造を見ていきます.
六方最密構造を基準とする方法
コランダム構造において、は六方最密構造をとっています.この最密構造の八面体間隙にうまくを配置させていき、コランダム構造を目指します.
六方最密構造の八面体間隙の全てに原子を詰め込むと、型構造が得られます.コランダム構造を得るには、八面体間隙の3分の2だけにを入れるようにします.
この際、c軸方向から見たがハニカム(蜂の巣)格子を組むように配置させるのがポイントです.ハニカム層を3回周期で位置をずらして積み重ねることで、コランダム構造が得られます.
多面体を基準にする方法
コランダム構造において、はに八面体配位されています.まず、2つの八面体を面共有させ、ダイマーを作ります.このダイマーは全てc軸方向に向け、各ダイマーの3つの辺と3つの頂点をそれぞれ共有させることでコランダム構造となります.
コランダム構造を持つ物質
コランダム構造は非常に硬く緻密であり、コランダムはダイヤモンドに次ぐ硬さと密度の大きさを持ちます.コランダムは通常無色透明ですが、微量の不純物元素の影響によって着色した結晶がよく見られます.赤、青、淡、ピンク、緑、紫、黄などのコランダムが知られ、ルビーやサファイアは宝石として取引されます.
以下では、コランダム構造をとる代表的な物質を紹介します.
酸化アルミニウム(Al2O3)
酸化アルミニウムは、あらゆる分野で必須の酸化物です.まず、アルミニウムの原料となる鉱物であることから換えが効きません.高強度かつ高融点の物質であり、研磨剤や耐火物、構造材料として利用されます.また、ルビーやサファイアは宝石としての需要のほか、ルビーレーザーや薄膜基板としての用途もあります.
酸化鉄(Fe2O3)
ヘマタイトの名で知られる鉄酸化物であり、赤色の顔料(弁柄)として有名です.あるいは単に「赤さび」としても知られます.磁気記録の磁性媒体や研磨剤としても広く利用されています.
酸化クロム(Cr2O3)
クロミアと呼ばれ、顔料として広く利用されている緑色の酸化物です.安定性が良く、塗料、インク、ガラスなどで使用されています.また、融点の高さから構造材料としても利用されます.
酸化バナジウム(V2O3)
金属絶縁体転移と磁気相転移を併せ持ち、複雑な磁気・電気特性を示すことで知られる酸化物です.常温では金属ですが、低温で絶縁体となり、その際に結晶構造が単斜晶系へと変化します.
コランダム構造の関連構造
コランダム構造では金属サイトは完全に一種類の金属()によって占有されています.この金属サイトに2種類の金属を占有させるか別の構造ユニットで置き換えることで新しい結晶構造が現れます.
Alサイトの半数を別の金属に置き換える
金属サイトに同数の2種類の金属を秩序化させることにより新しい結晶構造となります.サイトを同数の異なる2種類の金属原子で置換し規則化することでイルメナイト構造や型構造が得られます.
金属サイトを欠損させる
コランダム構造で見られるハニカム層のうち、1種類の層を取り除くことで型構造となります.
まとめ
コランダム構造は、ルビーやサファイアの持つ結晶構造として非常に有名です.やや複雑な構造ですがが、六方最密構造から順を追って考えれば理解しやすいです.アルミナをはじめとして産業上で注目される酸化物が多くあることから、知らぬうちにお世話になっていることの多い結晶構造と言えるでしょう.
参考文献
物性研究・電子版 Vol. 6, No. 1, 061206
Inorganic structural chemistry. John Wiley & Sons, 2007.
Corundum – Virtual Museum of Molecules and Minerals
結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).