エネルギーの単位と変換
エネルギーを表す単位には様々なものがあります.もっともオーソドックスなのは(ジュール)ですが、利便性や歴史的な経緯から分野ごとに異なる単位が使用される場合があり、電力を表すや電子のエネルギーを表す、熱量を表すカロリーなどが有名です.
今回は、これら相互の関係を見ていきます.
ジュール ()
国際単位系(SI)におけるエネルギーの単位であり、全ての基本になります.
より、はの力で物体を動かすために必要なエネルギーです.そう言われてもピンときません.
のもの(バナナ1本かレモン1個)を持ち上げるために必要なエネルギーと言った方がイメージしやすいですが、大した仕事量ではなさそうです.
ジュールが全ての基準になるので、この程度の仕事量と比べてどの程度であるのか考える必要があります.
ワット時 ()
ワットは仕事率の単位であり、単位時間あたりに消費するエネルギー量を表します.それゆえ、ワットに時間をかけるとエネルギーの単位(ジュール)になります.
仕事率のみが分かっている場合、事業などで定常的に行うことであれば、1秒よりも長いスケールでのエネルギー消費量を見たいという場合がありえます.
そんな時に役立つのがワット時 ()です.1時間(3600秒)あたりに消費するエネルギー量を表します.
エルグ (erg)
かつて使用されていた単位系である CGS単位系におけるエネルギーの単位です.CGS単位系では長さに、質量にを用い、ジュールの時と同じようにエネルギーの単位を組み立てることでエルグが得られます.
すなわち、ジュールの定義におけるを、をに置き換えて、
となります.ジュールと比べるとかなり小さなエネルギーです.現在は使われていませんが、古い文献では見かけることがあります.
カロリー (cal)
日常生活でよく聞くカロリーですが、どのような意味があるのでしょう.
カロリーは、水の温度を上げるために必要な熱量をもとに定義されていました.すなわち、標準大気圧下での水の温度を上げるために必要なエネルギーがカロリーです.
ただし、水の比熱は温度によって異なるためどの温度の値を使うのかという問題があり、現在では
として定義されています.この値は水が17℃での値に近いです.
かつては様々な分野で見かけたカロリーですが、今日では栄養学の文脈ぐらいでしか見かける機会がありません.この場合、1000倍したとして用いられます.
電子ボルト ()
日常では見かける機会がほとんどないですが、固体化学・固体物理の世界ではエネルギーの単位として電子ボルト ()がよく使われます.これは電子が(の電位差を受けた時のエネルギー値で、非常に小さな値を持ちます.
一方、電子や素粒子が関わる分野において広く使用されることから、時にはよりもはるかに大きいエネルギースケールにわたって用いられることもあり、 その場合はやといった単位系が使用されます.兵庫県にあるSPring8 では電子を最大のエネルギーまで加速しています.
波数を用いて電磁波のエネルギーを表すことができます.
歴史的な経緯からの逆数 () が使用されます.
なお、のことをカイザーと呼ぶこともあるのですが、今となってはほとんど日本人しか使っていない呼び方のようです.
TNT
変わったところでは、爆発のエネルギーを表す尺度としてトリニトロトルエン(TNT)があります.TNTは非常に強い爆発性を示すことであまりにも有名ですが、爆発物のエネルギーの基準としても使用されます.
TNTはあたり約のエネルギーを放出するため、
となります.
まとめ
エネルギーの単位には本当に多くの種類があります.エネルギーを全てジュールで表すことにすれば話は楽なのですが、そうはいかないようです.分野によってはジュールではイメージができず、電子ボルトなどほかの単位に変換しないと会話が成立しないケースもあります.