型構造(-type structure)
多くの物質は単純な組成比をとる結晶構造を持ちます.
三元系で物質が形成されるとき、最もよく見られるのは1:1:1の物質かと思いますが、1:2:2の物質も非常に多く見られます.組成比が1:2:2に決まったとしても結晶構造には多くのバリエーションがあり、元素ごとの性質や合成条件に応じて種々の結晶構造をとります.
組成比が1:2:2の結晶構造で最も有名なのは、型構造であるように思います.19世紀後半頃から既に重い電子系超伝導体のや複雑な磁気秩序を示す系の属する結晶構造として有名でしたが.2008年の鉄系超伝導体の発見以降はさらにメジャーなものとなります.
と並んで最も広く研究されているを代表に、型構造を持つ物質は化学的にも物性物理的にも魅力的な物質が多く見られます.一方で、組成比が1:2:2の結晶構造は型構造だけに限りません.
負けず有名であるのが型構造です.
型構造を持つ物質は伝統的に熱電材料として高い性能を示す物質が多く知られてきました.近年では、トポロジカル電子物性の舞台としても注目の結晶構造です.
今回は、型構造について見ていきます.
結晶構造
型構造を持つ物質はいずれもの組成を持ちます.
には主にアルカリ金属が充てられます.には金属元素が入りますが、どんな金属でも入るわけではなく、d電子が0,5,10のケースが多いです.すなわち、が、、、である場合が多く見られます.には共有結合性の大きいアニオンであるやなどが占めます.
全体として価数バランスが整うように、かのように各イオンが配置します.
は二次元的な層がによって分断された結晶構造を持ちます.層内においては、はに四面体状に配位されており、各四面体の4つの辺のうち3つを他の四面体と共有しています.一方、層間において、は6つのおよび6つのによって配位されています.
別の見方をすると、型構造においては六方最密充填構造をとり、その半数の四面体間隙をが、半数の八面体間隙をが占めた構造であるとみなすこともできます.
型構造を持つ物質
型構造は金属間化合物における代表的な結晶構造の一つであり、非常に多くの組成があります.型構造には及ばないものの、バラエティ豊かな物質たちを見ていきましょう.
型材料を熱電変換材料として利用し、高い性能を実証した最初期の報告がG. J. Snyderらによりなされました.これを受け、型材料の研究が爆発的に広まりました.をやに置換した材料なども熱電材料として有望であることが見出されています.
型構造と類似した結晶構造を持ち、AサイトとBサイトともにMgが位置しています.の組成を最適化した材料は、特に常温から中低温付近において非常に優れた熱電変換特性を示します.熱電材料としては、安価で軽いを多く使用できることが魅力です.
この温度領域での熱電材料は長年にわたって系材料の独壇場でしたが、を用いた熱電材料はより安価に同等の性能を示す熱電変換デバイスを実現しています.
トポロジカル電子系材料は近年の物性物理を象徴する研究領域であり、爆発的に研究が進行しています.トポロジカル材料のうち一つとして知られるワイル半金属は非常に珍しく、それまで知られていたワイル半金属は非磁性の物質においてのみ見られました.は、磁性体のワイル半金属の候補材料とされています.
まとめ
金属間化合物において、型構造と並んで有名な結晶構造が型構造です.物性の多様性に優れる型構造と比べると一芸特化型で、多くの物質は熱電材料として有望とされています.これは、サイトに入りうる遷移金属の種類に制限があり、が含まれる物質を除くと型物質のほとんどはd電子を持たないことが要因かもしれません.
参考文献
Inorganic Chemistry Frontiers 5.8 (2018): 1744-1759.
Advanced Functional Materials (2005), 15.11: 1860-1864.
Science 365.6452 (2019): 495-498.
Science advances 5.7 (2019): eaaw4718.
Advanced Materials (2020) 32.14: 1907565.
結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).