はじめよう固体の科学

電池、磁石、半導体など固体にまつわる話をします

MENU

チタン酸ストロンチウム (SrTiO3): 酸化物における万能の天才

チタン酸ストロンチウム(Strontium titanate, \rm{SrTiO_3}

チタン酸ストロンチウム\rm{SrTiO_3})はペロブスカイト構造を有する酸化物材料です.非磁性、常誘電体、不導体、白色のセラミックであり、さほど特徴的な物質ではないように見えます.\rm{Sr}\rm{Ba}に置換した\rm{BaTiO_3}が巨大な誘電率を示し、誘電材料の代表選手として大活躍しているのと比べると、 \rm{SrTiO_3}は地味に思えます.

しかしながら、基礎科学分野で\rm{SrTiO_3}は豹変します.\rm{SrTiO_3}をほんの少しいじるだけで多種多様摩訶不思議の物性を示すようになり、NatureやScience といったトップ誌を彩ってきました.あらゆる分野を網羅して千差万別な性質が報告されており、私の知る限り、これほど多くの分野を賑わせる物質は他にありません.

誘電体からはじまり、超伝導体、熱電材料、触媒、イオン伝導体、半導体、発光材料分野で姿を見かけ、他の物質を形成するための基板としても抜群の有用性を誇ります.また、\rm{SrTiO_3}上に成長させた他の物質との相互作用により、界面もまた新たな物性の舞台となります.さらに、様々な革新的な測定の最初のターゲットとなることも多く、最新の測定手法の被験者としての顔も見せます.

今回は、一見の地味さからは想像もつかないほど盛りだくさんな \rm{SrTiO_3}の姿を見ていきます.

SrTiO3

チタン酸ストロンチウムの基礎物性

まずは、\rm{SrTiO_3}の基本的な性質から始めます.見た目は白色のセラミックスです.基本的には人工的に合成されますが、天然鉱物(タウソナイト)が1982年に発見されました.

\rm{SrTiO_3}の結晶構造はペロブスカイト構造に属し、常温では歪みのないきれいな立方晶系です.105 K以下の低温では正方晶へと構造が変化することが知られています.イオン結晶であり、電荷バランスは\rm{(Sr^{2+}) (Ti^{4+}) (O^{2-})_3}と表すことができます.\rm{Sr^{2+}}にも\rm{Ti^{4+}}にも価電子がないので、\rm{SrTiO_3}は非磁性です.

\rm{SrTiO_3}は、定義上は半導体に属しますが、バンドギャップが大きすぎて常温で電気は流れません(\rm{\gt 10^9 Ωcm}).バンドギャップは間接遷移のものと直接遷移のものがあり、前者は 3.25 eV、後者は 3.75 eV です.可視光を吸収しないので白色です.バンドギャップは\rm{BaTiO_3} (3.2 eV) と同程度です.価電子バンドは酸素\rm{2p}軌道、伝導バンドは\rm{Ti\text{ }3d}軌道から主に構成されています.

強誘電体の\rm{BaTiO_3}とは異なり、\rm{SrTiO_3}は常誘電体です.すなわち、電場をかけても電気は流れませんし、電場を取り去ると分極は消えてしまいます.誘電率はε_r = 300と、一般的な誘電体よりははるかに大きいですが、\rm{BaTiO_3}には及びません(ε_r = 1200).温度を下げるにしたがって誘電率は上昇しますが、最低温まで常誘電体のままです.

以上のように、基本的な物性に特筆するものは無いように思えます.しかしながら、ほんの少しの加工で\rm{SrTiO_3}はその姿を変えてしまいます.以下で見ていく内容には、とんでもない数の Nature 誌と Science 誌の報告を参考文献として含みます.[基礎物性]

誘電体としてのチタン酸ストロンチウム

常誘電体、強誘電体、圧電体、焦電体…:様々な誘電体とその特徴 - はじめよう固体の科学

\rm{SrTiO_3}は最低温まで常誘電体のままです.これは、兄弟分の\rm{BaTiO_3} が強誘電性を示すことを考えると、やや奇妙に思えます.両者にはどのような違いがあるのでしょうか.

BaTiO3

\rm{SrTiO_3} の誘電率は温度を下げるにしたがって上昇しますが、ある温度以下ではそれより上昇せずに一定の値に留まることが知られています.この誘電率の異常な振る舞いは、\rm{SrTiO_3} の強誘電状態への転移が、格子振動の量子力学的なゼロ点振動によって妨害されているためであると解釈されます.つまり. \rm{SrTiO_3} は強誘電体に非常に近い位置にあるにもかかわらず、それを妨げる効果が存在しているのです.このような物質を総称して量子常誘電体と呼びます.

このような効果によって\rm{SrTiO_3}\rm{BaTiO_3}とは異なり強誘電性を示さないわけですが、裏を返せばちょっとした効果によって強誘電体へと変身させること ができるのではないかと思うわけです.実際、様々な手法で \rm{SrTiO_3}の誘電的性質を制御できることが明らかになりました.

高温超伝導体の発見でおなじみのBednorz博士とMüller博士は、\rm{Sr}サイトに\rm{Ca}を置換することで強誘電性を実現しました.外部電界によって\rm{SrTiO_3}を圧電体へと転身させ、巨大な圧電応答を起こした報告もあります.また、\rm{SrTiO_3}の酸素を同位体置換 (\rm{^{16}O→^{18}O}) することでも強誘電性が実現してい ます.

こうした研究では強誘電を示すのは極低温に限られていましたが、その状況を覆したのが薄膜の合成による歪み(ストレイン)効果です.薄膜とは、ある基板材料の上に結晶を薄く成長させることで得られる材料です.この際、基板として何らかの結晶物質を用いるわけですから、成長させる物質と基板の大きさがかみ合っていないと、成長させた物質の格子に歪みが生じてしまいます.一方で、逆にわざと大きさの異なる基板を用いることで無理やり歪みのある物質を成長させ、物性に影響を与えることができます.

この基板によるストレインを\rm{SrTiO_3}に適用したところ、なんと常温での強誘電性が実現してしまいました.\rm{DyScO_3}のように大きな格子を持つ基板による「広げる」効果が \rm{SrTiO_3}の強誘電性発現に重要なようです.Natureでのこの報告の被引用数は2400超と、間違いなく誘電体の研究にとっても薄膜の研究にとっても金字塔です.

その後も、結晶シリコンの直上に強誘電\rm{SrTiO_3}を成長させた報告や、不均一な歪みやテラヘルツ波によって強誘電性を実現した報告が続きます.中には、 薄膜を十分薄くすることでストレイン無しでも室温での強誘電を実現させた報告までありました.\rm{SrTiO_3}の誘電性に関する興味はまだまだ尽きず、請電率を下げる「デッド層」 や負キャパシタンス、スピン電変換に関する研究などハイインパクトな報告が現代まで続いています.[誘電体]

超伝導体としてのチタン酸ストロンチウム

超伝導:電気抵抗がゼロな材料 - はじめよう固体の科学

\rm{SrTiO_3} は不導体ですが、適当な元素置換によって金属化、さらには超伝導体T_c=0.3\text{ }K)となります.

超伝導

\rm{SrTiO_3}における超伝導が報告されたのはBCS理論の提唱された7年後(1964年)のことであり、電子キャリア濃度が低いにも関わらず超伝導体になるのが不思議ということで実験的にも理論的にも大いに注目されました.超伝導メカニズムに関する合意が得られているかは定かではありませんが、前述の量子常誘電性との関連も示唆されているようです.

最初期の報告では \rm{SrTiO_3}の酸素を一部欠損させることで超伝導体とさせていましたが、その後、様々な手法で超伝導を発現させることができるようになりました.

中でも興味深いのは、電界効果によって電子キャリアを注入し、電子密度をあげることで無理やり金属化、超伝導化をさせる手法です.この手法は汎用性が高く、\rm{SrTiO_3}以外にも種々の系で不導体を超伝導化させることに成功しています.その他、またしても薄膜由来のストレインをかけることで伝導転移温度が向上することが実証されています.[超伝導]

熱電材料としてのチタン酸ストロンチウム

熱電効果:排熱を電気エネルギーに変える - はじめよう固体の科学

余分な熱を有用な電気エネルギーに変換することのできる熱電材料は、次世代のクリーンエネルギーとして期待されています.熱電材料として有力なのは\rm{Bi}\rm{Te}など重元素を含んだものが主であり、酸化物はほとんど見かけません.

酸化物は無害で安定なことが特徴ですが、熱伝導率が大きいため熱電材料には適しません.例外的に高い熱電特性を示す酸化物としてコバルト酸化物がありますが、これは磁性に関わる特殊な効果に基づきます.\rm{SrTiO_3}は重元素を含まず、非磁性であるにも関わらず、なぜか熱電材料の世界に顔を見せます.

熱電効果

\rm{SrTiO_3}に元素置換を施し、酸化物としては優れた熱電性能を示すことが21世紀に入って報告されています.特に高温での特性が良く、熱電材料の性能を示す指標であるZT\rm{1000\text{ }K}で0.6に達します.これは酸化物としては最高級の数値です.

熱電特性を向上させるためには電気伝導度と熱起電力を上げ、熱伝導度を下げる必要があるのですが、\rm{SrTiO_3}の熱伝導度はさほど低くありません.高い電気伝導度と熱起電力によって優れた性能を実現させているようです. 酸素の一部を水素アニオン (ヒドリド)で置換することで熱伝導率を低減可能であるという報告もありました.

熱電効果と関連する現象として電気熱量効果があり、これは電場によって物質の吸熱・発熱を引き起こす効果です.薄膜のストレインを利用することで、\rm{SrTiO_3}の電気熱量効果を大幅に向上させることが可能なことが2024年に報告されました.[熱電材料]

イオン伝導体としてのチタン酸ストロンチウム

固体電解質(イオン伝導体):電子ではなくイオンが流れる材料 - はじめよう固体の科学

電子ではなくイオンがキャリアとして電気伝導を担うイオン伝導体は、電池や燃料電池、分離などで活用される材料です.\rm{SrTiO_3}はイオン伝導体としての側面も持っています.

イオン伝導体

例えば、\rm{LiTiO_3}との固溶体は高いリチウムイオン伝導度を示します.\rm{Ti}サイトを他の遷移金属で置換した材料は酸化物イオン伝導性と電子伝導性を両方示す混合伝導体として、燃料電池のアノード電極で用いられます.また、酸化物イオン伝導体として非常に有名な\rm{YSZ}\rm{SrTiO_3}の界面ではイオン伝導度が顕著に向上するという報告もありました.[イオン伝導体]

磁性材料としてのチタン酸ストロンチウム

強磁性、反強磁性、反磁性、常磁性…:磁性体とその特徴 - はじめよう固体の科学

\rm{(Sr^{2+}) (Ti^{4+}) (O^{2-})_3}の電荷バランスの通り、どのイオンも磁性は示さず、したがって\rm{SrTiO_3}は非磁性です.磁性材料としては使い物にならないと思いきや、電界効果によってキャリア濃度を制御することで強磁性を発現させることに成功しています.

また、2024年には、レーザーパルスを使って原子を回転させることで\rm{SrTiO_3}内に磁化を発生させたという報告がありました.これは、磁性体を物理的に回転させることで磁化が生じる効果(バーネット効果、あるいは逆アインシュタイン=ドハース効果)を原子レベルで実証したものです.[磁性体]

光触媒としてのチタン酸ストロンチウム

光触媒:太陽光を用いて化学反応を起こす夢のクリーン材料 - はじめよう固体の科学

太陽光は無尽蔵かつクリーンなエネルギー源ですが、人類はまだこの膨大なエネルギーを最大限に活用できているとは言えません.太陽光を用いて光合成のように化学反応を起こすことが可能な材料が光触媒であり、水を分解して水素を取り出す反応などに利用されています.\rm{SrTiO_3}はこうした化学反応の世界でも活躍しています.

光触媒

光触媒効果によって水を水素と酸素に分解するには、バンド構造が水分解に適したものでなければなりません.すなわち、光を当てて電子が価電子バンドか伝導バンドに遷移した後、電子は水素イオンを還元して水素分子にできるようなエネルギー、電子バンドに残された電子の空孔(ホール) は水を酸化して酸素分子を生成できるようなエネルギーを持つ必要があります.

文章で書くとややこしいですが、要は価電子バンドと伝導バンドが水の酸化還元ポテンシャル位置をまたぐように存在していれば水は分解できます.\rm{SrTiO_3}はこの条件を満たしているので光触媒効果によって水分解が可能です.

しかしながら、\rm{SrTiO_3}のバンドギャップは大きく、紫外光しか吸収できず、太陽光の大部分を占める可視光を利用することができません.このため、水分解反応の効率は低いです.そこで\rm{Ti}サイトに\rm{Al}など金属元素を一部置換するとバンド構造が変化し、光の吸収効率および反応効率が向上します.さらに合成方法を改善して結晶性の良い微粒子を作成し、適当な表面修飾を重ねることで、効率はさらに跳ね上がりました.

光触媒の反応効率の評価に用いられる指標として見かけの量子効率があり、これは反応系に注入した光子一つあたり分解した水分子の量を表します.この量子効率は、\rm{SrTiO_3}をそのままに近い状態で使うと0.1%程度ですが、合成プロセスや粒子の表面修飾を最適化するとなんと100%近くにまで達します.こ の報告は光触媒業界全体にとって劇的なブレークスルーであり、発表から3年ほどで被引用数は1000を超えました.

それとは別に、光触媒を太陽電池と同じような規模で利用するために、大規模な光触媒パネルの作成が進められています.2016年に受光面積\rm{100\text{ }m^2}の大規模な太陽光による水素製造システムが発表され、商業スケールでの光触媒による水分解が可能なことが実証されました.このパネルにももちろん \rm{SrTiO_3} が使用されています.[光触媒]

光学材料としてのチタン酸ストロンチウム

宝石用語にファイアというものがあります.これはキラキラと虹色に輝くことを意味しており、光の屈折率と分散度が大きい宝石、特にダイヤモンドで顕著に見られます.

\rm{SrTiO_3}の屈折率はダイヤモンドと同程度ですが、分散度が4倍もあるため、格別に大きなファイアを示します.\rm{SrTiO_3}の宝石があればさぞ 美しかったことでしょうが、残念ながら自然界では非常に稀かつ微小な結晶しか得られません.ダイヤモンドの模造品として合成されることもありましたが、 ジルコニアなどによって取って代わられました.

\rm{SrTiO_3}にバンドギャップ程度のエネルギーを持つ光を当てると電気伝導度が向上し、しかもこの効果は光を取り去ってからも数日間持続します.\rm{SrTiO_3}\rm{Ar^+}ビームを当てると、青色の発光を示します.また、最近の研究では、光電効果によって発生する二次光電子が、他の系では見られない特徴的なスペクトルを示すことが報告されました.[光学材料]

電子材料としてのチタン酸ストロンチウム

半導体とドーピング:電気を自由自在に制御できる材料 - はじめよう固体の科学

\rm{SrTiO_3}はそのままでは電気を流しませんが、種々の元素によって電子伝導を示すようになります.半導体材料として用いるには、電子の動きやすさを 示す移動度が十分に高い必要があります.薄膜材料として用いた場合、パルスレーザー堆積など従来法で合成した\rm{SrTiO_3}は、単結晶状態よりもはるかに低い移動度しか示しませんでした.

そんな中、分子線エピタキシーを用いた合成手法により単結晶を超える\rm{30000\text{ }cm^2 V^{-1} s^{-1}} という高い移動度を実現しました.また、半導体材料として最重要な\rm{Si}上に直接\rm{SrTiO_3}を形成可能というのも重要なブレークスルーです.[電子材料]

薄膜基板としてのチタン酸ストロンチウム

高品質な薄膜が作成可能な\rm{SrTiO_3}は、他の酸化物を成長させる基板としても盛んに利用されています.古くは酸化物高温超伝導体の基板として活躍しました.成長させた物質はバルクの物質とほぼ同じ物性を示す場合もあれば、基板の間の相互作用あるいはストレインによって未知の現象を起こす こともあります.

\rm{SrTiO_3}上に積層した\rm{TbMnO_3}は、粒子の境界 (ドメイン) における二次元強磁性相が現れました.\rm{LaMnO_3}は通常は反強磁性体ですが、\rm{SrTiO_3}上に積層すると強磁性へと姿を変えました.同じく積層させたグラフェンではヘリカル量子ホール相という未知の相、\rm{PbTiO_3}を成長させた系では常温でのスキルミオンが実現しました.\rm{SrTiO_3}上の\rm{BaTiO_3}の強誘電特性を紫外ラマン法で調べ、強誘電転移温度が層の厚みによって大きく変わることが明らかにされました.\rm{FeSe}は鉄系超伝導体として知られていますが、\rm{SrTiO_3}上では転移温度が跳ね上がり、数十Kの水準に達するとの報告もなされています.

以上の例だけでも驚異的ですが、最も有名なのは\rm{LaAlO_3}を用いた系です.知っての通り、\rm{SrTiO_3}はそのままでは不導体で、\rm{LaAlO_3}もまた不導体です.しかし、どういうわけか \rm{SrTiO_3}上に\rm{LaAlO_3}を積層させるとその界面で金属伝導が生じることが分かりました.

この発見は大きなインパクトを生み、原著論文は5000以上も引用されています.また、伝導性だけでなく超伝導、磁性、ラシュバ効果、強磁性と超伝導の共存など、想像もつかない様々な物性が見出されました.近年では、\rm{LaAlO_3}\rm{SrTiO_3}ではなく\rm{KTaO_3}上に成長させた薄膜でも超伝導が発見されています.[薄膜基板]

新奇な測定・合成手法の被験者としてのチタン酸ストロンチウム

XRD, XAS, XPS…:X線を利用した実験手法の一覧 - はじめよう固体の科学

きれいな単結晶や薄膜が合成でき、代表的な酸化物である\rm{SrTiO_3}は、新しい実験手法が開発された際の最初の被験者になりがちです.この場合、\rm{SrTiO_3}自体に魅力的な物性があるというわけではないかもしれませんが、ここまでに挙げたような新しい現象への期待から \rm{SrTiO_3}を選ぶのかもしれません.

1994年、高分解能Z・コントラストイメージングと電子エネルギー損失分光法 (EELS) を用いて、\rm{SrTiO_3}の結晶粒界の原子構造を可視化する手法が報告されました.1996年にはX線ホログラフィを用いた原子構造の可視化がなされました.2003年には、改良した透過電子顕微鏡(TEM)による酸素原子の直接観察の報告が2報、別々のグループから報告されました.

最近では、走査透過型電子顕微鏡(STEM) と角度分解ピクセル化高速電子検出器を用いた原子レベル分解能での電荷密度のマッピング、\rm{Ti-OH}基のピコ秒単位の光学スペクトルの観察、高強度の中赤外光パルスを用いた光誘起相転移のダイナミクスの観察などが\rm{SrTiO_3}について行われてきました.さらに、酸化物犠牲層を用いた\rm{SrTiO_3}単層膜の剥離なども可能となっています.

このように何度も最先場の測定・合成手法の舞台となっているのも\rm{SrTiO_3}の特徴です.[測定・合成手法]

まとめ

様々な分野で見かける材料はよくあります.しかし、それは汎用性の高い一つの物性が色々な分野で使われている場合が多いです.しかし、\rm{SrTiO_3} の場合 は、全く異なる物性が見つかり、それぞれの分野でハイインパクトな報告がなされています.基礎物性は地味なだけに、どうしてこれほど多くの特性を示すのかは気になるところです.そもそも機能の宝庫であるペロブスカイト構造であることは関係していると思いますが、それだけではないでしょう.

\rm{SrTiO_3} は理想的な立方晶ペロブスカイト構造を持っていますが、それは強誘電体相へと転移する不安定性を隠した姿です.思うに、このような不安定性を持って別の相へ進化する可能性を持つこと、そして様々な元素置換や合成法が可能でそうした相へのアクセス方法が豊富にあることによって、このような多彩な性質を示すのではないでしょうか.

また今年も来年もその先も、材料科学分野を彩ってくれるはずです.

参考文献

基礎物性

"Optical Properties and Band Structure of \rm{SrTiO_3} and \rm{BaTiO_3}." Physical Review 140.2A (1965): A651.

"Soft phonon modes and the 110 K phase transition in \rm{SrTiO_3}." Physical Review Letters 21.1 (1968): 16.

"Bulk electronic structure of \rm{SrTiO_3}: Experiment and theory." Journal of applied physics 90.12 (2001): 6156-6164.

"Bulk properties and electronic structure of \rm{SrTiO_3}, \rm{BaTiO_3}, PbTiO3 perovskites: an ab initio HF/DFT study." Computational Materials Science 29.2 (2004): 165-178.

誘電体

"\rm{SrTiO_3}: An intrinsic quantum paraelectric below 4 K." Physical Review B 19.7 (1979): 3593.

"Sr1−xCaxTiO3: an XY quantum ferroelectric with transition to randomness." Physical Review Letters 52.25 (1984): 2289.

"Giant piezoelectric effect in strontium titanate at cryogenic temperatures." Science 276.5311 (1997): 392-394.

"Ferroelectricity induced by oxygen isotope exchange in strontium titanate perovskite." Physical Review Letters 82.17 (1999): 3540.

"Soft-mode hardening in \rm{SrTiO_3} thin films." Nature 404.6776 (2000): 373-376.

"Room-temperature ferroelectricity in strained \rm{SrTiO_3}." Nature 430.7001 (2004): 758-761.

"Origin of the dielectric dead layer in nanoscale capacitors." Nature 443.7112 (2006): 679-682.

"Strain-gradient-induced polarization in \rm{SrTiO_3} single crystals." Physical Review Letters 99.16 (2007): 167601.

"A ferroelectric oxide made directly on silicon." Science 324.5925 (2009): 367-370.

"Emergence of room-temperature ferroelectricity at reduced dimensions." Science 349.6254 (2015): 1314-1317.

"Ultrahigh–energy density lead-free dielectric films via polymorphic nanodomain design." Science 365.6453 (2019): 578-582.

"Terahertz field–induced ferroelectricity in quantum paraelectric \rm{SrTiO_3}." Science 364.6445 (2019): 1079-1082.

"Spatially resolved steady-state negative capacitance." Nature 565.7740 (2019): 468-471.

"Non-volatile electric control of spin–charge conversion in a \rm{SrTiO_3} Rashba system." Nature 580.7804 (2020): 483-486.

"Strain tuning of ferroelectric thin films." Annu. Rev. Mater. Res. 37 (2007): 589-626.

超伝導

"Superconductivity in Semiconducting \rm{SrTiO_3}." Physical Review Letters 12.17 (1964): 474.

"Electric-field-induced superconductivity in an insulator." Nature materials 7.11 (2008): 855-858.

"Enhancing superconductivity in \rm{SrTiO_3} films with strain." Science advances 5.4 (2019): eaaw0120.

"Enhanced superconductivity and ferroelectric quantum criticality in plastically deformed strontium titanate." Nature materials 21.1 (2022): 54-61.

"Superconductivity in dilute \rm{SrTiO_3}: A review." Annals of Physics 417 (2020): 168107.

熱電材料

"Large thermoelectric response of metallic perovskites: Sr1− xLaxTiO3 (0< x< 0.1)." Physical Review B 63.11 (2001): 113104.

"Large thermoelectric performance of heavily Nb-doped \rm{SrTiO_3} epitaxial film at high temperature." Applied physics letters 87.9 (2005).

"Record high thermoelectric performance in bulk \rm{SrTiO_3} via nano-scale modulation doping." Nano Energy 35 (2017): 387-395.

"Giant thermoelectric Seebeck coefficient of a two-dimensional electron gas in \rm{SrTiO_3}." Nature materials 6.2 (2007): 129-134.

"Hydride Anion Substitution Boosts Thermoelectric Performance of Polycrystalline \rm{SrTiO_3} via Simultaneous Realization of Reduced Thermal Conductivity and High Electronic Conductivity." Advanced Functional Materials 33.28 (2023): 2213144.

"\rm{SrTiO_3}-based thermoelectrics: Progress and challenges." Nano Energy 78 (2020): 105195.

"Oxide thermoelectric materials: a nanostructuring approach." Annual review of materials research 40 (2010): 363-394.

"Highly reversible extrinsic electrocaloric effects over a wide temperature range in epitaxially strained SrTiO3 films." Nature Materials (2024): 1-9.

イオン伝導体

"Lithium ion conductivity in the perovskite-type LiTaO3-\rm{SrTiO_3} solid solution." Solid State Ionics 79 (1995): 91-97.

"Thermal, electrical, and electrocatalytical properties of lanthanum-doped strontium titanate." Solid State Ionics 149.1-2 (2002): 21-28.

"Colossal ionic conductivity at interfaces of epitaxial ZrO2: Y2O3/\rm{SrTiO_3} heterostructures." Science 321.5889 (2008): 676-680.

"Impedance study of SrTi1−xFexO3−δ (x= 0.05 to 0.80) mixed ionic-electronic conducting model cathode." Solid State Ionics 180.11-13 (2009): 843-847.

"Ni-substituted Sr (Ti, Fe) O3 SOFC anodes: achieving high performance via metal alloy nanoparticle exsolution." Joule 2.3 (2018): 478-496.

磁性体

"Carrier-controlled ferromagnetism in \rm{SrTiO_3}." Physical Review X 2.2 (2012): 021014.

"Terahertz electric-field-driven dynamical multiferroicity in SrTiO3" Nature (2024)

光触媒

"Strontium titanate photoelectrodes. Efficient photoassisted electrolysis of water at zero applied potential." Journal of the American Chemical Society 98.10 (1976): 2774-2779.

"Photocatalytic decomposition of water vapour on an NiO–\rm{SrTiO_3} catalyst." Chemical Communications 12 (1980): 543-544.

"Visible-light-response and photocatalytic activities of TiO2 and \rm{SrTiO_3} photocatalysts codoped with antimony and chromium." The Journal of Physical Chemistry B 106.19 (2002): 5029-5034.

"Photocatalytic activities of noble metal ion doped \rm{SrTiO_3} under visible light irradiation." The Journal of Physical Chemistry B 108.26 (2004): 8992-8995.

"Oxygen vacancy enhanced photocatalytic activity of pervoskite \rm{SrTiO_3}." ACS applied materials & interfaces 6.21 (2014): 19184-19190.

"Scalable water splitting on particulate photocatalyst sheets with a solar-to-hydrogen energy conversion efficiency exceeding 1%." Nature materials 15.6 (2016): 611-615.

"Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity." Nature 581.7809 (2020): 411-414.

Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry 2023 Volume 81 Pages 66-73

光学材料

"Blue-light emission at room temperature from Ar+-irradiated \rm{SrTiO_3}." Nature materials 4.11 (2005): 816-819.

"Persistent photoconductivity in strontium titanate." Physical Review Letters 111.18 (2013): 187403.

"Anomalous intense coherent secondary photoemission from a perovskite oxide." Nature 617.7961 (2023): 493-498.

電子材料

"Epitaxial \rm{SrTiO_3} films with electron mobilities exceeding 30,000 cm2 V−1 s−1." Nature materials 9.6 (2010): 482-484.

Meevasana, Worawat, et al. "Creation and control of a two-dimensional electron liquid at the bare \rm{SrTiO_3} surface." Nature materials 10.2 (2011): 114-118.

"Atomic control of the \rm{SrTiO_3} crystal surface." Science 266.5190 (1994): 1540-1542.

"Crystalline oxides on silicon: the first five monolayers." Physical Review Letters 81.14 (1998): 3014.

薄膜基板

"Preparation of Y‐Ba‐Cu oxide superconductor thin films using pulsed laser evaporation from high Tc bulk material." Applied Physics Letters 51.8 (1987): 619-621.

"Probing nanoscale ferroelectricity by ultraviolet Raman spectroscopy." Science 313.5793 (2006): 1614-1616.

"Improper ferroelectricity in perovskite oxide artificial superlattices." Nature 452.7188 (2008): 732-736.

"Artificial chemical and magnetic structure at the domain walls of an epitaxial oxide." Nature 515.7527 (2014): 379-383.

"Imaging and control of ferromagnetism in LaMnO3/\rm{SrTiO_3} heterostructures." Science 349.6249 (2015): 716-719.

"Helical quantum Hall phase in graphene on \rm{SrTiO_3}." Science 367.6479 (2020): 781-786.

"Observation of room-temperature polar skyrmions." Nature 568.7752 (2019): 368-372.

"Interface-induced high-temperature superconductivity in single unit-cell FeSe films on \rm{SrTiO_3}." Chinese Physics Letters 29.3 (2012): 037402.

"Superconductivity above 100 K in single-layer FeSe films on doped \rm{SrTiO_3}." Nature materials 14.3 (2015): 285-289.

"Interfacial mode coupling as the origin of the enhancement of T c in FeSe films on \rm{SrTiO_3}." Nature 515.7526 (2014): 245-248.

LaAlO3/\rm{SrTiO_3}

"A high-mobility electron gas at the LaAlO3/\rm{SrTiO_3} heterointerface." Nature 427.6973 (2004): 423-426.

"Superconducting interfaces between insulating oxides." Science 317.5842 (2007): 1196-1199.

"Magnetic effects at the interface between non-magnetic oxides." Nature materials 6.7 (2007): 493-496.

"Electric field control of the LaAlO3/\rm{SrTiO_3} interface ground state." Nature 456.7222 (2008): 624-627.

"Tunable Rashba spin-orbit interaction at oxide interfaces." Physical review letters 104.12 (2010): 126803.

"Direct imaging of the coexistence of ferromagnetism and superconductivity at the LaAlO3/\rm{SrTiO_3} interface." Nature physics 7.10 (2011): 767-771.

Li, Lu, et al. "Coexistence of magnetic order and two-dimensional superconductivity at LaAlO3/\rm{SrTiO_3} interfaces." Nature physics 7.10 (2011): 762-766.

"Two-dimensional superconductivity and anisotropic transport at KTaO3 (111) interfaces." Science 371.6530 (2021): 716-721.

測定・合成手法

"Direct determination of grain boundary atomic structure in \rm{SrTiO_3}." Science 266.5182 (1994): 102-104.

"X-ray holography with atomic resolution." Nature 380.6569 (1996): 49-51.

"Observation of antiferromagnetic domains in epitaxial thin films." Science 287.5455 (2000): 1014-1016.

"Atomic-resolution imaging of oxygen in perovskite ceramics." Science 299.5608 (2003): 870-873.

"Direct atom-resolved imaging of oxides and their grain boundaries." Science 302.5646 (2003): 846-849.

"A homologous series of structures on the surface of \rm{SrTiO_3} (110)." Nature materials 9.3 (2010): 245-248.

"Real-space charge-density imaging with sub-ångström resolution by four-dimensional electron microscopy." Nature 575.7783 (2019): 480-484.

"Free energy difference to create the M-OH* intermediate of the oxygen evolution reaction by time-resolved optical spectroscopy." Nature materials 21.1 (2022): 88-94.

"Quenched lattice fluctuations in optically driven \rm{SrTiO_3}." Nature Materials (2024): 1-6.

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).