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超伝導:電気抵抗がゼロな材料

更新 2024-2-23

超伝導(超電導、Superconductivity)

極低温では、ある種の金属の電気抵抗はゼロになります.今でも物性物理で最もホットなトピックであり、あらゆる現象の中でもトップクラスに劇的な現象である超伝導の歴史的経緯と性質、課題について見ていきます.

物質の電気抵抗

電気抵抗は、物質の中の電流の流れにくさを表す値です.絶縁体は電気抵抗率が大きく、金属は一般に小さい電気抵抗率を示します.

金属が電気をよく通すのは、自由に動き回ることのできる自由電子を持っているからです.自由とは言っても完全な自由ではなく、金属の陽イオンからなる格子の熱振動が電子の運動を妨げることで電気抵抗は有限の値を持ちます.反対に絶縁体は電子が自由に動き回ることができず、非常に大きな電気抵抗を示します.

電気抵抗を限りなく大きくすることは簡単です.紙やガラスは絶縁体ですが、これらをどこまでも直列につなげれば電気抵抗は無限に大きくなります.

反対に、電気抵抗はどこまで小さくできるでしょうか.金属の中でも銀や銅は低い電気抵抗を示しますが、それでもまだテスターで測定できる程度には電気抵抗があります.

電気抵抗を下げるための手段の一つは温度を下げることです.低温では熱振動による自由電子の散乱が抑えられるため、一般に金属は温度が低くなるほど電気抵抗が下がります

極低温での電気抵抗

では、絶対零度近くまで温度を下げると何が起こるでしょうか.大きく二つの予想がたてられます(下図左).

一つ目の予想は、上述の理屈に従って電気抵抗がゼロになるというものです.絶対零度付近では格子の熱振動がゼロに近い値になると期待されるので、格子からの散乱が無くなり、電気抵抗もゼロになるのではないかと予想できます.

いや、どうでしょうか.

全てのものがほぼ停止してしまう絶対零度付近では、電子の運動そのものも止まってしまうのではないでしょうか.こうなると、電気抵抗率は温度の低下とともに無限大に発散します.

こうした予想は20世紀以前からあったものの、当時は金属を絶対零度付近まで冷却する手段がなかったので実証ができませんでした.

20世紀初頭、オランダのライデン大学のHeike Kamerlingh Onnesは極低温環境を可能にする手法を確立し、1K以下の温度を実現しました.ついに人類が絶対零度に近い世界に足を踏み入れたのです(本当に足を入れてはいけません).

Onnesは水銀の電気抵抗を極低温まで測定していました.なぜ水銀かというと、水銀は当時でも比較的容易に精製ができたからです.極低温で金属の電気抵抗はゼロに近づく、あるいは無限大に発散すると思われたのですが、そのどちらでもない現象が起きました.

ある温度で、突然電気抵抗が「ゼロ」になったのです(上図右).

「超伝導」の発見です.

その後、超伝導は水銀に限らず様々な金属が示す普遍的な現象であることが明らかになりました.

超伝導体の性質

超伝導体の主な性質は以下の2つです.

(1)電気抵抗がゼロ

(2)磁場を全て跳ね返す(完全反磁性)

(1)電気抵抗がゼロ

電気抵抗がゼロであれば、全くエネルギー消費なしに電流を流すことができます.現在の送電線では無視できない量のエネルギーが、電気抵抗で発生するジュール熱として失われています.送電線を超伝導体で置き換えることができればエネルギー損失は無視できます.

もう一つの応用としては、大電流を流すことができるため、強力な電磁石を作る事ができることです.実際に電磁石への応用は進んでおり、リニアモーターカーや医療器具のMRIで実際に使用されています.

このように、電気抵抗がゼロであることによるメリットは多岐に及びます.しかし、「ゼロ」であることを示すのは容易なことではありません.どうやって電気抵抗がゼロであると確かめたのでしょうか.

普通に金属の電気抵抗を測定する感覚で端子を付けて抵抗を測定すると、導線の抵抗の成分が加わってうまく測定できません.そこで、超伝導体でできたリングを使用します.リングに一旦電流が流れると、電気抵抗がなければ永遠に電流が減衰せずに流れ続けるはずです.

実際の実験では、電流が減衰するのに宇宙の年齢以上の時間がかかることが分かり、少なくとも人類の感覚では電気抵抗はゼロと言っても良いことが示されました.

(2)磁場を全て跳ね返す(完全反磁性)

世の中に磁性体は数多ありますが、その中に反磁性体というものがあります.反磁性体に磁場を印加すると電子の運動によって、印加された磁場を打ち消そうとする働きがあります.

そのため、反磁性体は磁場に反発し、反磁性体の磁化率は負の値となります.一般の反磁性体の磁化は弱く、外部磁場と比べるとごく小さな量しか打ち消せません.

ところが超伝導体では、外部磁場を全て打ち消すことができます.これが完全反磁性です.このため超伝導体は、転移温度以下で磁化率が大きく負の値になります.この現象を発見したWalther Meissnerの名に因んでマイスナー効果と呼ばれます.

マイスナー効果を利用した磁気浮上の実験は見た目にインパクトがあるので、科学館や研究室での展示用実験としてよく行われます.

超伝導体内部には磁場が一切入らないので、磁場の影響を除きたい時にも有用です.有名なアハラノフ=ボーム効果の実験は、超伝導体によって磁場を完全に排除することによって可能になりました.

超伝導体の課題

夢の材料であるかのような超伝導体ですが問題もあります.

(1)低温でしか起こらない

(2)強い磁場をかけると壊れる

(1)低温でしか起こらない

超伝導はある転移温度(Tc)以下の温度領域でのみ起こります

最初に発見された超伝導体である水銀の転移温度は4.2 Kでした.その後、様々な単体金属や合金でも超伝導体が相次いで発見されましたが、長らく最高の転移温度は20 K程度でした.このような極低温で使用するには高価な液体ヘリウムを使わなければならず、安価な液体窒素温度で超伝導を示す物質が望まれていました.

風向きが変わったのは、1986年の高温超伝導体の発見です.銅の酸化物から構成された新しい超伝導体は、液体窒素の沸点(77 K)を超える転移温度が見つかったことから研究が加速し、世界的な大フィーバーを巻き起こしました.

その研究熱の高まり方は、翌年の1987年に発見者がノーベル物理学賞を受賞したことからも伺えます.当時は、理論家まで実験室と原料を買って合成を行ったことが語り草になっています.

その後も、超伝導体発見のブレークスルーは十数年おきに起こり、転移温度が40 Kの\rm{MgB_2}や50 K以上の転移温度を持つ鉄系超伝導体の発見は業界を仰天させました.

そして、最近ではなんと歴史的悲願であった常温超伝導体が達成されています.2018年以降、水素を大量に含んだ化合物が高い転移温度を持つことが相次いで発見され、ついに転移温度は常温を超えました*1

常温といっても、地球の中心圧力に近い超高圧(数百GPa)をかけることが必要です.日常生活ではまず不可能な条件が必要とはいえ、この世に常温超伝導体が存在しうることが示されたことの意義は大きく、今後の研究によっては常圧でも常温超伝導が実現することが起こりえます.

(2)強い磁場をかけると壊れる

超伝導体は外部磁場を寄せ付けない完全反磁性を示すことは上に述べたとおりです.しかし、どんな磁場にでも耐えられるわけではなく、限界値が存在します.この最大磁場を臨界磁場(Hc)と呼びます.

超伝導体を電磁石に用いてあまりに強い電流を流すと、自身の電流によって生じる磁場によって超伝導状態が壊れてしまいます.様々な金属の臨界磁場が調べられましたが、その値はどれも0.1 T以下の値でした*2

超伝導材料を実用化するには転移温度を高くするだけではなく、臨界磁場を上げることも同じくらい重要です.超伝導体は、磁場による超伝導状態の壊れ方が物質によって異なり、第一種超伝導体と第二種超伝導体に区分されます.

まとめ

超伝導は非自明かつ劇的な現象であり、現在もなお物性物理学の研究の中心です.これまでに超伝導の分野で5回もノーベル物理学賞が授賞されていることからもその影響力が伺えます.

超伝導が発現するメカニズムは長らく謎でしたが、1957年にJohn Bardeen、 Leon N. Cooper、 Robert Schriefferの三者によっていわゆるBCS理論が提唱され、メカニズムが明らかになりました.しかし、高温超伝導対をはじめBCS理論が直接適用できない物質もその後多く発見され、今なお統合的な理論の構築が進められています.

参考文献

超伝導ハンドブック 福山 秀敏・秋光 純(編)

化学と教育 2009 年 57 巻 5 号 p. 222-225

*1:この研究結果には疑義もあります

*2:参考:ネオジム磁石の磁場は0.5 T程度