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電池:化学エネルギーから電気エネルギーへの変換

更新 2024-2-23

電池(Battery)

電池は世界を変えました.

スマートフォンをはじめ、携帯性のある電子機器には全て電池が使用されています.
電池がなければ、電子機器の使用には給電場所が必須となり、現代社会の利便性が大きく損なわれていたことでしょう.家でスマートフォンに音楽をダウンロードしても、ケーブルのつながる範囲にしか持ち運べないのでは味気ないですよね.

電池とは「化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置」を意味します.電気を化学エネルギーとして貯蔵できる点が画期的であり、携帯性・安全性・保存性に優れます.

電池がここまで進歩するまでの道のりは決して平坦ではなく、先人たちの多大な努力の成果によりスマホの中にあるリチウムイオン電池として結実しました.

なお、リチウムイオン電池は決して電池の終着駅ではなく、さらなる出力を示す電池の開発を目指して今もなお電池の研究が世界中で行われています.

電池の歴史

19世紀後半、Alessandro Voltaによって発明された電池(ボルタ電池)が最初の電池と呼ばれるべきものです.銅と亜鉛、塩水から構成されるこの電池は0.76 Vの起電力を示し、電気分解によるアルカリ金属やアルカリ土類金属の発見に貢献しました.しかし、保存性・携帯性に問題があり、日常生活への応用はされませんでした.

20世紀に開発されたダニエル電池ルクランシェ電池はボルタ電池の問題点を部分的に解消することに成功し、現代の乾電池の原型が完成しました.現在、最も長持ちする乾電池はマンガン電池から構成されています.

以上に挙げた電池は一次電池と呼ばれ、基本的に使い捨てで再利用できません.
使い捨ての電池は、電池の交換・処理に手間がかかるため経済的ではありません.
使い捨てでなく、充電可能な電池(二次電池)の開発も昔から行われています.

最初の二次電池は、現在でも車のバッテリーに使われる鉛蓄電池です.その後、ニッケル・カドミウム電池(ニッカド電池)により充電できる電池「充電池」が一気に普及しました.ニッカド電池は革命的でしたが、容量の少なさやカドミウムの毒性に懸念があり、より長寿命のニッケル水素電池に置き換わりました.

電池の歴史が大きく動いたのは、何と言ってもリチウムイオン電池の発明でしょう.
吉野彰氏を含む3人が2014年にノーベル化学賞を受賞したことでもお馴染みです.
John B. Goodenoughによる酸化物正極材料の開発、Michael S. Whittinghamによるインターカレーション反応を活用した負極材料の開発、吉野氏による炭素系負極材料の開発が結実して誕生したリチウムイオン電池は、瞬く間に世界中に広がりました.

当初は安全性や寿命に関する懸念もありましたが、改良の進んだリチウムイオン電池はスマホから自動車、家庭の電気エネルギー貯蔵まで用途が広がり、現代文明に欠かせない存在となっています.

現代では、より高出力のリチウム空気電池、電解質を固体にして安全性を高めた全固体電池の開発が盛んに行われています.リチウムイオン電池で起こる化学反応についてはまだ十分に理解されていない点も多く、将来の容量・出力向上に向けて反応メカニズム解明のための分析が続けられています.

一方で、リチウムイオン電池に欠かせないリチウム金属は希少な元素であり、リチウムを含まない電池材料の開発も進んでいます.有力なのは、地球に豊富なナトリウムやカリウム、マグネシウムなどの金属を用いた電池です.リチウムイオンとはイオンの大きさに差があるため、リチウムイオン電池で可能であった手法がそのまま適用できないケースが多く、より一層の研究が必要とされています.

電池の仕組み

電池は、「化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置」です.電気は発電しても散逸してしまうので持ち運びには向きませんが、化学エネルギーとして蓄えることによって携帯性を確保している点が特徴的です.

電池を作成するために最低限必要なものは、2本の電極イオンの流れる物質(電解質)外部回路(電線など)です.2本の電極のうち、一方の電極で反応が起こることで電子が生まれ、その電子が外部回路を通じてもう一方の電極に流れることで電流が発生します.

電子の流れを作り出すには、「電子がやって来るスタート地点」と「電子が辿り着くゴール地点」が必要です.2本の電極は、このスタート地点とゴール地点に対応します.

電子はアノード(または負極)からカソード(または正極)に向かって移動します.
ボルタ電池の場合、アノードの亜鉛からカソードの銅に向かって電子が流れます.

では、アノードは電子をどこから持ってくるのでしょうか.また、どうして持ってきた電子をカソードに送ってしまうのでしょうか.

アノードでは、電極材料が酸化されることで金属が陽イオンと電子に分離します.ここで生成した電子が外部回路を伝ってカソードに流れ、還元反応によって電子を消費します.このように、アノードでは酸化反応カソードでは還元反応が起こります.

(電池の反応)A → A^+ + e^- (アノード)

B^+ + e^- → B (カソード)

そのため、アノードには酸化されやすい材料カソードには還元されやすい材料を用意する必要があります.

酸化されやすいということは電子を失いたいということを意味し、還元されやすいということは電子と結びつきたいということを意味します.例えば、アルカリ金属は酸化されやすく、金などの貴金属は非常に酸化されにくい(還元されやすい)です.

このような「酸化(還元)されやすさ」を定量的に表した値が標準電極電位です.標準電極電位が負に大きいほど酸化されやすく、正に大きいほど還元されやすいと言えます.標準電極電位は、中学・高校で学習したイオン化傾向を一般的な形で定量化した値です.

ダニエル電池の場合

例としてダニエル電池に習って亜鉛と銅の電極を考えましょう.

亜鉛の標準電極電位は0.7 V、銅の標準電極電位は0.3 Vです.この電極電位の差の絶対値を電位差と呼び、この値が大きいほど出力の大きい電池になります.ダニエル電池の起電力はおよそ1 Vになります.電子が亜鉛から銅に移動したがるエネルギーを外部回路で取り出すことで、電池が作動します.

しかし、それだけではありません.電池にはイオンの流れる物質(電解質)が必要です.外部回路を通した電子の移動だけでは、アノードに正電荷が、カソードに負電荷が溜まってしまい、すぐに反応が止まってしまいます.

反応を続けるためには、アノードに溜まった正電荷をカソードに、カソードに溜まった負電荷をアノードに運んでくれるような物質が必要です.電子を流す物質を使うと、回路が短絡(ショート)してしまうため、「電荷を流すが電子は流さない」物質を使う必要があります.そこで、イオンだけが流れる物質として電解質を用います.

このように外部回路の電線は電子の流れの経路になり、電解質は電子の流れと釣り合うようにイオンの通り道になります.電荷のバランスをとることで回路をつなげ、連続的に反応が起こるようになります.とはいえ電池反応は永遠ではなく、電極材料が反応で消費されていき、いつかは出力がなくなります.

一次電池の反応はこれでおしまいです.使い終わった電池は捨てるかリサイクルするしかありません.

充電可能な二次電池ではこれで終わりではなく、反応を逆方向に進ませることで電池を元の状態に戻すことができます.二次電池の登場によって、電池を何度も使い回すことが可能になりました.

しかし、この逆反応は完璧ではなく、充放電を繰り返すと電池は確実に劣化していきます.繰り返しの反応によって電極の結晶構造や電極と電解液の界面に欠陥が生まれることで電池は劣化し、容量が低下します.

まとめ

電池は複数の材料を組み合わせることで初めて機能するので、電極と電解質の組成だけでなく、電池をどのように構成するかも重要です.

曰く、最強の電極と電解質を見つけて組み合わせただけではただのゴミです(意訳)

“Given the best anode, cathode, separator and electrolyte, one could produce the worst battery by simply putting them together”

極めて多くのパラメータがあり、また安定性や出力の検証にも時間がかかるため、電池の開発は非常に手間がかかります.

全固体電池や電気自動車、テスラモーターズなどニュースを彩ることの多い電池業界.
数多くの企業・研究室が電池の開発に参入する中、次世代の電池材料を完成させて天下を取るのは誰になるのでしょうか.

個別の電池について解説するには誌面が足りないので、別ページで紹介します

参考文献

電池の歴史 - Panasonic 日本

The history and development of batteries

Chem. Rev. 2021, 121, 1623−1669

Chem. Rev. 2018, 118, 11433−11456

How a battery works - Curious