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チタン酸カルシウム(CaTiO3):元祖ペロブスカイト、だけどちょっと不遇な物質

チタン酸カルシウム (CaTiO3)

19世紀にロシアのウラル山脈で発見された鉱物は、ロシアの鉱物学者 Lev Perovskiの名前からペロブスカイトと呼ばれるようになり、今日ではその結晶構造を指してペロブスカイト構造と呼びます.鉱物ペロブスカイトは\rm{Ca}\rm{Ti}を含む酸化物です.すなわち、最初に報告されたペロブスカイトがチタン酸カルシウム(\rm{CaTiO_3})です.

ペロブスカイト構造といえば様々な組成を持つ化合物が属し、機能の宝庫と呼ばれるほど多様な物性、例えば超伝導、強誘電性、巨大磁気抵抗、触媒作用、イオン伝導を示すことで有名です.であるならば、元祖ペロブスカイトである\rm{CaTiO_3}も負けないほど多彩な物性の宝庫になっているはず!

しかしながら、現在のところ、\rm{CaTiO_3}に関する研究がそれほど盛り上がっているようには見えません.同じくチタン系ペロブスカイトである\rm{BaTiO_3}誘電体界限の王者として盛んに利用されており、\rm{SrTiO_3}万能材料として驚くほど多くの領域で重宝されていることと比べると、\rm{CaTiO_3}はいささか地味と言わざるを得ません.論文で見かける機会はむしろ多いのですが、\rm{BaTiO_3}\rm{SrTiO_3}との固溶体やバーターとしての役割が主です(失礼).

とはいえ、兄弟分の\rm{BaTiO_3}\rm{SrTiO_3}が異常すぎるだけで、\rm{CaTiO_3}にも興味深い特性はいくつもあります.今回は、\rm{CaTiO_3}の結晶構造と物性を眺め、どういった研究がされているのかを見ていきます.

CaTiO3

チタン酸カルシウムの結晶構造

元祖ペロブスカイトである\rm{CaTiO_3}ですが、その結晶構造は理想的な立方晶ペロブスカイト構造ではありません.

何を言っているのだという感じですが、構造をよく見ると、理想的な立方晶のペロブスカイト構造と比べて八面体が回転しており、直方晶となっています.このような構造のゆがみ(ティルト)はAサイトの陽イオンが小さいときに起こりやすく、より大きなAサイトカチオンを持つ\rm{SrTiO_3}ではきれいな立方晶となっています.

温度を上げると\rm{CaTiO_3}は構造相転移を何度か重ね、1400℃ほどでようやく立方晶となります.この間で起こる構造相転移は、幾度となく議論が繰り返されてきた複雑なものです.

室温では直方晶(空間群:Pbnm)、最高温では立方晶(空間群:Pm\overline{3}m)というところまでは確定しているのですが、その間が間題です.中間相として別の直方晶(空間群:Cmcm)や正方晶(空間群:P4/mbm、またはI4/mcm)、あるいはその複数を含むとか含まないなどの議論がありましたが、最終的に正方晶(I4/mcm)のみを含むということで落ち着いたようです.[構造相転移]

反対に\rm{CaTiO_3}室温から冷やしていっても結晶構造は変わりません.60 GPaという超高圧をかけても結晶構造は変わらないようです.

このように\rm{CaTiO_3}の結晶構造が様々に変化する様子も面白いですが、\rm{CaTiO_3}の粒子が作るナノ構造でも興味深いことが起こります.2008年に水熱合成法で得られたと報告された\rm{CaTiO_3}は、見た目は立方体ですが、中身は空っぽの中空構造をしていました.

このような中空構造の粒子自体が珍しいですが、\rm{CaTiO_3}のような三元物質で起こるのはさらに稀です.ゼオライトなどで見られる結晶成長(reversed crystal growth)でこの現象を説明できるようです.[ナノ構造]

チタン酸カルシウムの機能

英語版Wikipediaでは

"Calcium titanate has relatively little value except as one of the ores of titanium, together with several others."

「チタン酸カルシウムは、他のいくつかの鉱石とともに、チタンの鉱石の1つであることを除けば、比較的価値が低い。」

と散々な言われようですが、さすがにそこまでではないと思います.これまでに見つかっている機能を紹介します.

まずは基礎物性をおさらいします.イオン結晶で\rm{(Ca^{2+})(Ti^{4+})(O^{2-})_3}と価数を表すことができ、白色で非磁性のセラミックです.不導体で、バンドギャップは3.5 eVと、\rm{SrTiO_3}(3.2 eV)よりもやや大きいです.比誘電率は180程度と、\rm{SrTiO_3}(300)には及ばないものの、かなり大きな値です.

\rm{CaTiO_3}\rm{SrTiO_3}と同じように最低温まで構造相転移を示しません.これは強誘電相への転移が量子力学的な揺らぎによって妨げられているためであると解釈されており、量子常誘電体と呼ばれます.\rm{SrTiO_3}もまた量子常誘電体です.\rm{SrTiO_3}と同様、少しの刺激で強誘電相への転移が見えてもよいと思いますし、実際に強誘電性が実現しています.しかし\rm{SrTiO_3}と比べるとあまり被引用数が伸びていないのはなぜなのでしょうか.[誘電物性]

マイクロ波帯で使用される誘電体には、誘電率が大きく、誘電損失が小さく、共振周波数周辺の温度係数が小さいことが求められます.\rm{MgTiO_3}はもともと優れた性能を持つ誘電体とされていましたが、共振周波数の温度依存性がやや大きいという問題がありました.\rm{MgTiO_3}\rm{CaTiO_3}を少量添加した材料では温度係数が改善されるため、誘電体フィルタとして使用されました.[マイクロ波]

\rm{SrTiO_3}と同様、\rm{CaTiO_3}は光触媒として広く研究されています.\rm{CaTiO_3}のバンドギャップは\rm{SrTiO_3}のものよりも大きいため、太陽光の吸収効率はやや低いですが、無害で安定、合成が容易で低コストであり、光触媒材料として優れた性能を示します.基本的には\rm{SrTiO_3}と同様に合成プロセスの最適化や適切な表面修飾によって光触媒特性を向上させています.問題は\rm{SrTiO_3}と比べてどうなのかというところだと思いますが、総説ではそこには触れてくれませんでした.[光触媒]

その他、\rm{CaTiO_3}を蛍光体やイオン伝導体として利用した研究例があります.[その他]

まとめ

以上、\rm{CaTiO_3}も決してつまらない物質ではありません.元祖ペロブスカイトの名に恥じないように精一杯頑張っていると言えるでしょう.しかし、どうしても\rm{BaTiO_3}\rm{SrTiO_3}と比べると見劣りします.検索キーワードを「\rm{CaTiO_3}」にしたときに見つかる文献に含まれるNatureとScienceの数は非常に少なく、\rm{SrTiO_3}ではNature姉妹誌合わせて100報超であるのと比べるとやや寂しいように思ってしまいます.

どうにも、はじめに\rm{SrTiO_3}に関する報告があり、次いで\rm{CaTiO_3}に関する報告が続くような傾向があるように見えます.先行研究が豊富にあり歪みのない立方晶である\rm{SrTiO_3}の方が実験の検討が容易に行えるというのがその理由でしょうか.そして、肝心の性能でも\rm{SrTiO_3}の方が上回っているケースの方が多く見つかりました.

\rm{CaTiO_3}ならではの特徴は、その豊かな結晶構造の種類です.昇温に従って次々と結晶構造が変わりますが、これは最初から最後まで立方晶の\rm{SrTiO_3}ではまねができません.この特徴を生かせば、あるいは.

参考文献

構造相転移

"Structure and properties of CaTiO3." Acta Crystallographica 10.3 (1957): 219-226.

"Electron difference density and structural parameters in CaTiO3." Acta Crystallographica Section B: Structural Science 48.5 (1992): 644-649.

"High-temperature structural phase transitions in perovskite." Journal of Physics: Condensed Matter 8.43 (1996): 8267.

"Phase transitions in perovskite at elevated temperatures-a powder neutron diffraction study." Journal of Physics: Condensed Matter 11.6 (1999): 1479.

"Space group and crystal structure of the perovskite CaTiO3 from 296 to 1720 K." Journal of Solid State Chemistry 178.9 (2005): 2867-2872.

"High-pressure investigation of CaTiO 3 up to 60 GPa using X-ray diffraction and Raman spectroscopy." Physical Review B 82.13 (2010): 134101.

ナノ構造

"Perovskite hollow cubes: morphological control, three-dimensional twinning and intensely enhanced photoluminescence." Journal of materials chemistry 18.30 (2008): 3543-3546.

"Formation mechanism of CaTiO3 hollow crystals with different microstructures." Journal of the American chemical society 132.40 (2010): 14279-14287.

誘電物性

"Perovskite CaTiO3 as an incipient ferroelectric." Solid state communications 110.11 (1999): 611-614.

"Strain-induced ferroelectricity in orthorhombic CaTiO3 from first principles." Physical Review B 79.22 (2009): 220101.

"Observation of ferroelectricity induced by defect dipoles in the strain-free epitaxial CaTiO3 thin film." Current applied physics 14.5 (2014): 757-760.

"Impact of symmetry on the ferroelectric properties of CaTiO3 thin films." Applied Physics Letters 106.16 (2015).

"Large tetragonality and room temperature ferroelectricity in compressively strained CaTiO3 thin films." APL Materials 7.5 (2019).

マイクロ波

"Improved high Q value of MgTiO3-CaTiO3 microwave dielectric ceramics at low sintering temperature." Materials Research Bulletin 36.15 (2001): 2741-2750.

"Raman spectroscopy of B-site order–disorder in CaTiO3-based microwave ceramics." Journal of the European Ceramic Society 23.14 (2003): 2653-2659.

光触媒

"A review on CaTiO3 photocatalyst: Activity enhancement methods and photocatalytic applications." Powder Technology 388 (2021): 274-304.

その他

"Atomistic study of a CaTiO3‐based mixed conductor: defects, nanoscale clusters, and oxide‐ion migration." Advanced Functional Materials 17.6 (2007): 905-912.

"Electro-mechano-optical conversions in Pr3+-doped BaTiO 3-CaTiO3 ceramics." Advanced Materials 17.10 (2005): 1254-1258.

"Enhancement of photoluminescence and color purity of CaTiO3: Eu phosphor by Li doping." Journal of the American Ceramic Society 95.4 (2012): 1360-1366.

"Defect correlated fluorescent quenching and electron phonon coupling in the spectral transition of Eu3+ in CaTiO3 for red emission in display application." Journal of Applied Physics 115.19 (2014).

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).