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最密充填構造:最も単純な原子の敷き詰め方

更新 2024-2-23

最密充填構造(close packed structure)

原子は基本的にはボール状の形をしています.このボールをどのように並べれば、空間を埋め尽くすことができるでしょうか.

二次元と三次元の場合に分けて考え、実際には固体の中で原子はどのように並んでいるかを考えます.

二次元の最密充填

残念ながら球体では平面を完全に覆い尽くすことはできませんが、可能な限り密に敷き詰めるような並べ方はあります.最も単純な並べ方は、下図の左のように同じ位相で全ての球体を並べる方法です.この場合、全ての球体が他の4つの球体に接しています.上から見たときにどのくらいの面積を占めているか計算すると、

\dfrac{\pi}{4} \approx 0.785

それなりに詰まっていますがまだ隙間が目立ちますね.

一方、下図の右のように、全ての球体が他の6つの球体に接するように配置すれば占有率が上がります.

\dfrac{\pi}{2\sqrt{3}} \approx 0.907

球体を壊さない限り、これ以上占有率を上げる配置は存在しないため、後者の配置を最密充と呼びます.

物質中の原子は球対称であり、特に金属元素では周りの原子と等方的な相互作用が働く場合が多いため、特段の事情がなければ最密充填構造をとります.

三次元の最密充填

二次元平面では最密充填の配置は一通りだけですが、三次元ではどのようになるでしょうか.二次元の最密充填からスタートし、新しい球体を敷き詰めていきます.

一層目は二次元の場合と同じですが、二層目はどうしましょうか.敷き詰め方はいくつか考えられますが、最も効果的な方法は新しい球体を下の層の「凹み」に置いていく方法です.

一層目をA層とした時、二層目(B層)をA層の凹みにうまく配置すると上図のようになります.二層目の配置方法はB層とB'層の2パターンありますが、どちらでも球体の環境は変わりません.

さて、三層目の配置方法が問題です.置き方のパターンは2種類あり、置き方によって異なる構造が出来上がります.

一つ目に考えられる配置パターンは、A層の真上の位置に球体を配置することです.この配置方法を繰り返すことで、ABABAB…のパターンが出来上がります.このパターン六方最密充填(HCP)と呼ばれます.

二つ目に考えられる配置パターンは、A層ともB層とも異なる位置、すなわちB'層の直上(C層と呼びます)に球体を配置する方法です.この配置方法を繰り返して出来上がるABCABCABC…のパターンは、立方最密充填(CCP)と呼ばれます.

いずれの最密充填においても、各球体は12個の他の球体に接しています.
充填率は

\dfrac{\pi}{3\sqrt{2}} \approx 0.740

となり、二次元平面の最密充填よりは低い値となります.

A, B, Cの積層パターンを組み合わせれば、もっと長周期の最密充填構造を作り出すこともできます.例えば、ABACABAC…などがありますが、実際の物質ではほとんどが六方最密充填か立方最密充填のどちらかの最密充填構造をとります.

余談ですが、球体の最密充填は六方最密充填か立方最密充填、あるいはその組み合わせで表されることは自明のようにも見えます.しかし、数学的に証明するとなると非常に困難であることが知られています.この命題はケプラー予想と呼ばれ、なんと400年ものあいだ未解決の問題でした.最終的にケプラー予想が解決するのは21世紀に入ってのことです.

三次元以外の次元についても最密充填構造が定められてるようですが、流石にそこまではついていけません.

六方最密構造、面心立方構造と体心立方構造

六方最密充填立方最密充填は多くの点で共通しています.どちらも配位数が12であり、密度も同じです.

しかし、対称性の観点では違いがあり、その違いは単位胞を描くと明らかです.立方最密充填は立方晶の対称性を持ち、六方最密充填は六方晶の対称性を持ちます(名前通りです.)立方最密充填は単位胞に4つの原子を含み、六方最密充填は単位胞に2つの原子を含みます.立方最密充填は、面心立方格子(FCC)とも呼ばれます.

周期表のどの元素がどの結晶構造を取るか予想することは難しいですが、周期表を見ると縦の列の金属が同じ最密充填構造を取る場合が多いです.このことから、電子数と結晶構造に相関があることが伺えます.

最密充填ではないですが、有名な金属の結晶構造として体心立方構造(BCC)があります.単位胞に2つの原子を含み、各原子は8つの外の原子と接触しています.充填率は最密充填よりは下がり、

\dfrac{\sqrt{3}\pi}{8} \approx 0.680
となります.

まとめ

最密充填モデルは、単純な幾何学的考察から導かれるにも関わらず、驚くほど現実の物質と一致します.特に、等方的な金属結合のみからなる単体金属ではほとんどが最密充填構造か体心立方構造を示します.共有結合性の物質では結合に方向性があるので最密充填にはなりにくいですが、逆手に取れば結合の特徴を結晶構造から予測することが可能になります.

二元系、三元系と元素の種類が増えるごとに結晶構造も複雑になっていきますが、どのような結晶構造であっても最密充填から派生した構造であることが非常に多いです.最密充填からどのような結晶構造が導かれるかは、また個別の結晶構造の記事で触れようと思います.

参考文献

シュライバー・アトキンス無機化学 第4版

ウエスト無機化学

http://www.ntci.on.ca/chem/sch4u/crystalpacking.pdf

Close-packing of equal spheres - Wikipedia

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).