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超硬材料:「硬い」ために必要なことは

超硬材料(Superhard material)

爪で木に傷をつけることはできますが、小石を削ることはできません.一方、頑丈そうな小石でルビーやダイヤモンドなどの宝石を削ろうとしても、逆に小石のほうが削り取られます.

このような違いは物質の「硬さ」を反映しており、相手を削ることのできる(自分は削られず変形しにくい)物質が硬いとされます.

世界で最も硬いとされる物質は皆さんの身近にあるダイヤモンドです(えっ、身近にない?).地球奥底の高温高圧環境で得られるダイヤモンドですが、近年は人工的に合成する手段も発達しています.宝石としての天然ダイヤモンドの魅力はそのままに、人工ダイヤモンドは切削工具や強度材料として大いに活用されています.

圧倒的なシェアを誇るダイヤモンドであっても問題点は存在します.鉄との反応性が高く、鋼鉄の加工などには使用できないこと、高温環境では硬さが劣化すること、絶縁体のため伝導性の求められる用途では使用できないことなどが挙げられます.

ダイヤモンドがあれば全て事足りるのではなく、ダイヤモンドと相補的に利用できる新しい選択肢が必要とされています.ゆえに、ダイヤモンドと同等あるいはダイヤモンドを超える硬さを持つ材料の開発が盛んです.

今回は、硬さの基本からはじめ、ダイヤモンドに迫る硬さを持つ先端材料を紹介します.

Superhard material

硬さとは

硬い」ことは、それ自体に大きな意味を持ちます.例えば、人工的に数千万気圧級の圧力を実現しようとしたら、その環境に耐えられる硬さの材料が必要です.また、硬い材料も加工しなければならないので、より硬い材料の選択肢が増えれば増えるほどメリットとなります.

「硬い」物質を思い浮かべることは簡単ですが、物質ごとに硬さを比較するにはどうすればよいでしょうか.「硬さ」とは導電率のようにガッチリとした定義のあるものではなく、いくつかの測定法が提案されています.

引っかき硬さ(モース硬度)

歴史ある伝統的な硬さの試験法です.2種類の材料を用意し、一方の材料Aでもう一方の材料Bを引っかきます.材料Bに傷が付けば、材料Aのほうが硬いと定義されます.これにより、材料ごとに硬さの序列をつけることができます.

全ての材料を総当りで比べることはできませんから、いくつか基準となる材料が用意されています.滑石(タルク)の硬度を1、ダイヤモンドの硬度を10とすると、ほとんどの材料はその間に位置します.

整数値の硬度には基準となる物質が決められており、多くは鉱物です.例えば、硬度3は方解石、硬度7は石英、硬度9はコランダム(ルビー、サファイア)と決まっています.こうすることで、あらゆる物質のおおよその硬度を定義できます.ナトリウムの硬度は0.5、金の硬度は2.5-3、鋼鉄の硬度は4-4.5、超硬合金は9-9.5程度とされます.

モース硬度は物質ごとの序列をつけることはできますが、絶対の値は得られません.また、硬度を決めるためにいちいち何種類もの試験片で測定をしなければならないので、やや不便です.意義は失っていないものの、実用的には後述の測定法がよく使用されます.

押し込み硬さ(ビッカース硬さ、ビリネル硬さなど)

押し込み硬さ

硬さを「物質の変形のしにくさ」と考える場合、硬い物質に力を加えても凹まないはずです.逆に、柔らかい物質に力を加えると大きく凹みます.この性質を活かし、物質に一定の荷重をかけた時の凹み量を物質の硬さと相関させて考えることができます.

物質の変形具合は荷重を受ける面積(例えば、尖った針で押されるのか大きな面で押されるのか)によって異なるため、測定方法によって荷重を与えるものの形を変えます.なお、ここでの変形は塑性変形を見ているので、荷重を取り除いた後も凹みが残ります.

ビッカース硬度ではピラミッド型の圧子、ブリネル硬さでは球状の圧子を用いて荷重をかけます.押し当てて凹んだ跡の面積の大小で硬さを決定します.柔らかい材料では凹みが大きくなり、硬い材料では凹みが小さくなるため、面積が小さい材料ほど硬いと言えます.

中でもビッカース硬さが実用的によく使われ、上記の式から硬さを定義することができます.ビッカース硬さを表す記号を硬さ記号(HV)と呼び、その後ろに荷重を\rm{kgf}で表示します.例えば、荷重\rm{1 \text{ }kgf}で測定したHVが\rm{100}であった場合、\rm{100\text{ }HV1}と表記することになります.

HVの定義からHVの単位は圧力と同じため、\rm{GPa}を用いて表記する場合もあります.この場合、\rm{1 \text{ }HV = 0.0098 \text{ }GPa (1 \text{ }GPa = 102 \text{ }HV)}の関係から算出可能です.

例えば、金は0.2 GPa、鉄は1 GPa、石英は10 GPa、サファイアは20 GPa、ダイヤモンドは60~120 GPa前後のビッカース硬さを持ちます.特に40 GPa以上の硬さを持つ材料は超硬材料(Superhard material)と呼ばれます.

超硬材料への道

あらゆる天然物の中で最高の硬さを示す材料がダイヤモンドです.では、どうしてダイヤモンドはこんなにも硬いのでしょうか.その秘密は結晶構造にあります.

ダイヤモンドの構成元素は炭素であり、組成だけ見ると黒鉛(グラファイト)と同じです.しかし、結晶構造の違いによって性質が大きく異なるのです.

炭素は4つの価電子を持ち、それゆえ4つの原子と電子を共有して化学結合(共有結合)を形成します.ダイヤモンドでは、この原子1つあたり4つの共有結合が隣接する炭素原子との間に形成されており、非常に堅牢な三次元ネットワークを築きます.

一方、黒鉛では原子1つあたり3つの共有結合しかなく、もう一つの電子は多くの原子にゆるく束縛されています.このために黒鉛は層状の構造を持ち、層ごとにバラバラに剥がれやすくなるために、ダイヤモンドに比べると圧倒的に柔らかい材料となっています.

共有結合の重要性

すなわち、強い硬さを示すためには共有結合によるガッチリとしたネットワークが重要になってきます.共有結合を持つ物質は、他の化学結合であるイオン結合や金属結合を主に持つ物質よりも硬いとされていますが、他の化学結合と比べてみれば共有結合の頑丈さが分かります.

Covalent bond

まず、イオン結合は陽イオンと陰イオンが静電力によって結びついた結合であり、一見では強い結合力を持っています.しかし、外力によってイオンの位置が少しずれた時、それまで異符号のイオン同士が結合していた状態から、同符号のイオンの距離が近づいた状態になります.こうなると、構造が一気に不安定となり、強度を保つことができなくなるのです.

金属結合は、物質全体にゆるく束縛された自由電子による等方的な結合です.等方的な結合というのがポイントで、各原子からすると結合先の原子がどこにいても問題ないわけです.そうすると、外力をかけて原子の位置がずれても次々と別の原子と結合を形作ることができ、変形が容易に起こります.このため、通常の金属は延性が高く、硬さという観点ではあまり高い値を示しません.

一方で、共有結合はどうでしょうか.ダイヤモンドの場合では、炭素1つあたり4つの共有結合が四面体の頂点方向に形成されています.この結合は強い方向性を持っており、外力による変形に強く抵抗しようとします.これにより、共有結合は他の結合様式よりも強い硬さを示す傾向にあるのです.中でも、強く短い結合を形成しやすい炭素やホウ素を多く含む物質が顕著な硬度を示します、

共有結合性の物質の中でも硬さに違いがあります.意外なことに、物質の電子構造も硬さに関係があります.共有結合性の物質の場合、物質が変形するにはどこかの共有結合を切断しなければなりません.すると、共有されていた電子がフリーな状態になります.この電子はどこに行くのでしょう.

固体中では電子は価電子バンドを占め、伝導バンドは空の状態です.結合が切断されて余った電子の居場所は価電子バンドにはないため、伝導バンドを占めるしかありません.そうなるためには、価電子バンドから伝導バンドに電子が遷移するだけのエネルギーが必要になります.

そのため、硬さと物質のバンドギャップには正の相関があることが推定されますし、実際にそのような関係が見出されています.反対に、バンドギャップのない金属材料では硬さが弱くなります.

以上より、硬い材料を作るためには、(1)イオン結合性や金属結合性が小さく、共有結合性が大きいこと、(2)共有結合性の物質の中でもバンドギャップが大きいことが必要と考えられます.実際には、材料の粒径や充填率、結晶性などのパラメータも硬さに大きく影響します.

超硬材料の例

以下では、超硬材料として知られる材料について見ていきます.

ダイヤモンド

ご存知、最強かつ代表的な超硬材料です.全ての超硬材料の研究はダイヤモンドを目標としてされています.散々既出なのと、以前に記事も書いたので、そちらを参考にしてください.

立方晶窒化ボロン(c-BN)

ダイヤモンドに次いで硬いとされている材料です.\rm{B}\rm{N}は周期表で\rm{C}の両隣に位置し、それゆえ\rm{BN}の平均の電子数は\rm{C}と同じになります.\rm{c-BN}はダイヤモンドと同じ結晶構造を持ち、ダイヤモンドと同じ理由で強い硬さを示します.

しかし、\rm{B}\rm{N}の電気陰性度が異なることから結合性にイオン性が生じ、それゆえ硬さはダイヤモンドには及びません.ダイヤモンドの使用できない鉄鋼の加工などに用いられます.

ダイヤモンドも\rm{BN}も既に超硬材料ですが、粒子のナノ構造を制御することにより、さらに強い硬度を得られることが報告されています.これにより、双方いずれの硬さも元の2倍近い値が実現しました.

炭素系材料とホウ素系材料

有機物質の多様性を見れば明らかなように、\rm{C}はあらゆる元素の中で最も柔軟な結合を形成可能で、かつ\rm{C-C}結合は最も強い化学結合と考えられています.ダイヤモンド以外の超硬材料を求めて、盛んに物質探索が行われています.

グラファイトやフラーレンは物質内に強固な\rm{C-C}結合を持ちますが、引っ張ると層や分子に分離してしまいます.引っ張ってダメなら押してみると、圧縮成形されて非常に硬度の高い材料となります.例えば、グラファイトを圧縮して形成した材料は、ダイヤモンドに匹敵する硬度を示します.フラーレンやカーボンナノチューブについても同様に圧縮によって高硬度材料となります.

ホウ素は炭素に匹敵するほど強い共有結合を持ちます.ホウ素には多くの同素体がありますが、\rm{γ-B_{28}}はホウ素同素体の中で最も大きなHVの値(50-58GPa)を示します.

遷移金属炭化物と遷移金属ホウ化物

炭素やホウ素からなる共有結合化合物も魅力的ですが、遷移金属と軽元素からなる化合物も高硬度材料として知られています.遷移金属は高い電子密度により弾性変形に強く、軽元素は短くて強い共有結合を形成することで原子の滑りを防ぐことができると期待されました.

実際、\rm{ReB_2}\rm{FeB_4}\rm{WB_4}などの材料は優れた硬度を示します.遷移金属のd電子が、軽元素のsや電子p電子と結合することで、s-p結合よりも高い方向性と大きな軌道強度を持つことによるとされています.一方で、金属結合性が強まることで硬度にはマイナスの影響も出てきます.実際、これらの硬度は40GPaには達しておらず、超硬材料と呼ぶことはできません.

なお、硬さの象徴として有名な超硬合金は\rm{WC}とバインダーのコバルトから生産されますが、硬さは20 GPa程度であり、超硬材料の水準ではありません.*1

まとめ

硬い材料は工具や強度材料として常に必要とされるものです.高硬度の代名詞として定着したダイヤモンドは既に幅広い分野で使用されていますが、欠点もあり、置き換えるまでは行かなくとも代替可能な材料が必要とされています.

近年、計算理論の発展により、新しい超硬材料の設計が大きく進展しています.理論的に予測された物質は実際に合成され、高硬度を示すことが確かめられました.ダイヤモンドは最も硬い物質として知られていましたが、ナノ構造化により硬さを2倍にすることが可能となっています.

とはいえ、硬さはシンプルな概念ながら定式化の難しい物理量でもあり、超硬特性を示すメカニズムが明らかになっているとは言い難い状況です.新しい超硬材料を生み出すための土壌は揃っていますが、果たしてダイヤモンド(古代ギリシア語で「打ち負かされないもの」を意味する)を打ち負かす材料は現れるのでしょうか.

参考文献

硬さ測定の主な種類・原理のまとめ [HB/HV/HR/HS] | アイアール技術者教育研究所 | 製造業エンジニア・研究開発者のための研修/教育ソリューション

Annu. Rev. Mater. Res, 2016, 46.1: 383-406.

Science China Materials, 2015, 58.2: 132-142.

Journal of Applied Physics, 2019, 126.23: 230401.

*1:超硬って名前についてるのにねって思いがちですが、英語ではCemented Carbideなので超硬って言葉がついていません!