更新 2024-3-5
酸化チタン(TiO2)の結晶構造
酸化チタンは、かつては白色顔料として使用されていましたが、「光触媒」作用が発見され、その存在が広く知られるようになりました.
「光触媒」とは、光を用いて化学反応を促進する作用のことで、太陽エネルギーを産業に有効活用できるクリーンエネルギー材料として期待されています.
安価で安定、毒性がなく、工業的に利用しやすい酸化チタンは、現在でも光触媒の代表格です.その他にも、酸化チタンは塗料、インク、食品添加物、化粧品、医薬品などとして利用され、私たちの生活に欠かせないものとなっています.
そんな酸化チタンには、いくつかの種類(多形)が知られています.結晶構造の違いに応じて、三種類の呼び名があり、それぞれアナターゼ、ブルッカイト、ルチルと呼ばれます.いずれも似たような結晶構造を持ちますが、機能には大きな違いが生じます.*1
今回は、酸化チタンの3種類の多形の違いについて見ていきます.
3種類の多形の違い
アナターゼ、ブルッカイト、ルチルの結晶構造は互いによく似ており、全ての結晶構造においてイオンは6つの酸素イオンに八面体型に配位されています.一方、それぞれの酸素イオンは3つのイオンと結合しています.
アナターゼ(Anatase)
アナターゼは、準安定な形態の一つであり、正方晶の対称性を持ちます.純粋なアナターゼは無色または白色ですが、天然に産出するアナターゼは不純物が含まれており、青色や黄色に着色しています.アナターゼは比較的低温で形成されます.
結晶構造は以下の通りです.
ブルッカイト(Brookite)
ブルッカイトは斜方晶の対称性を持ち、アナターゼやルチルに比べるとややマイナーです.ブルッカイトは通常褐色で、時には黄褐色や赤褐色、黒色であることもあります.
結晶構造は以下の通りです.
ルチル(Rutile)
ルチルは二酸化チタンの多形の中で最も安定であり、正方晶の対称性を持ちます.ルチルは、可視波長で特に大きい屈折率を持ち、大きな複屈折と高い分散性を示します.純粋なルチルは透明または白色ですが、天然のルチルは鉄などの不純物によって呈色しています.
結晶構造は以下の通りです.
参考文献
結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).
Žerjav, Gregor, et al. "Brookite vs. rutile vs. anatase: Whats behind their various photocatalytic activities?." Journal of Environmental Chemical Engineering 10.3 (2022): 107722.
*1:高圧下など特殊な環境ではその他の結晶構造も存在しますが今回は割愛します