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パイライト構造とマーカサイト構造:アニオンの”二量体”を持つ結晶構造

パイライト構造(Pyrite structure)とマーカサイト構造(マルカサイト構造、Marcasite structure)

パイライトマーカサイトは、いずれも鉄の硫化物( \rm{FeS_2})からなる鉱物です.パイライトは黄鉄鉱、マーカサイトは白鉄鉱とも呼ばれます.組成は同じながら、結晶構造が異なるために両者は区別され、パイライトは高温で生成されるのに対し、マーカサイトは低温で生成されます.

転じて、パイライトおよびマーカサイトと同じ結晶構造をそれぞれパイライト構造、マーカサイト構造と呼びます.いずれも AX_2の組成で表され、多くの物質が属することが知られています.結晶構造の中ではマイナーな方ですが、工業的に重要な材料も含まれています.

パイライト構造とマーカサイト構造は互いに非常によく似ており、同じような特徴を持っています.以下では、それぞれの構造について詳しく見ていきます.

パイライト構造( \rm{FeS_2}

パイライト構造の単位胞には \rm{Fe}が4つ、 \rm{S}が8つ含まれます. \rm{Fe}は6つの \rm{S}に八面体型に配位されている一方、 \rm{S}は3つの \rm{Fe}と1つの \rm{S}によって四面体型に配位されています.単純立方構造で、空間群は Pa\overline{3}です.

パイライト構造を、2種類の方法で結晶構造を記述していきます.

最密充填を基準とする方法

パイライト構造では、 \rm{Fe}は立方最密充填構造(面心立方構造)をとっています.この八面体間隙に、 \rm{S}原子ではなく \rm{S_2}からなるダイマー(二量体)を配置することでパイライト構造となります.

ダイマーには原子と異なり「向き」の概念がありますが、各ダイマーは単位胞(立方体)の対角線方向を向き、隣り合うダイマーが異なる方向を向くように配置します.結果として、 \rm{Fe} \rm{S}に八面体配位された構造となります.ダイマーの影響により結晶の対称性は低下し、面心立方構造ではなく単純立方構造となります.

多面体を基準にする方法

パイライト構造において、 \rm{Fe}は6つの \rm{S}に八面体型に配位されています.これらの八面体が別の八面体の頂点、および \rm{S_2}ダイマーの片方を共有することによって結晶構造が成立します.

なかなかイメージしにくいですが、すべての八面体が辺共有した結晶構造である \rm{NaCl}型構造の \rm{Cl}がすべて \rm{S_2}ダイマーに変わった構造といえば、イメージの助けになるでしょうか.

マーカサイト構造( \rm{FeS_2}

マーカサイト構造の単位胞には \rm{Fe}が2つ、 \rm{S}が4つ含まれています.パイライト構造と同様、 \rm{Fe}は6つの \rm{S}に八面体型に配位されています.単純直方構造で、空間群は Pnnmです.

同様に、2種類の方法で結晶構造を記述していきます.

基本構造を基準とする方法

マーカサイト構造ではパイライト構造とは異なり、 \rm{Fe}は体心立方構造をとっています. \rm{Fe}は体心立方構造の間隙に、パイライト構造と同様に \rm{S_2}ダイマーを配置することでマーカサイト構造となります.

マーカサイト構造では、各 \rm{S_2}ダイマーの向きは単位胞の面の対角線方向を向くように配置します.パイライト構造と同様、隣り合う \rm{S_2}ダイマーは異なる方向を向くようにします.ダイマーの影響で立方晶の対称性は失われ、単純直方構造となります.

多面体を基準にする方法

マーカサイト構造において、 \rm{Fe}は6つの \rm{S}に八面体型に配位されています.パイライト構造と同様、これらの八面体が別の八面体の頂点と \rm{S_2}ダイマーの片方を共有していますが、マーカサイト構造では辺共有の八面体も含まれます.

パイライト構造およびマーカサイト構造を持つ物質

パイライト構造とマーカサイト構造は一見複雑ですが、各原子は1種類のサイトのみにあるため、比較的単純な原子配置となっています.各構造はお互いによく似ており組成も同じであるため、 \rm{FeS_2}のように両方の結晶構造をとることのできる組成もあります.

それぞれの構造をイオン結晶とみなして価数を割り振ると、 \rm{S}アニオンは通常2価となるため、 \rm{(Fe^{4+})(S^{2-})_2}と考えられます.しかし、 \rm{Fe^{4+}}は強い酸化条件でしか存在せず、電気陰性度のそれほど大きくない \rm{S}との化合物でこれほどの高価数となることは不自然です.

そこで、 \rm{S} \rm{S_2}ダイマーを生成していることに着目します.Zintl-Klemm則の考え方によれば、ダイマーを組む原子は17族原子(ハロゲン)と同じ電子配置となっているはずであり、それゆえ16族元素である \rm{S}には電子が一つだけ受け渡されていると考えます.結果として、価数バランスは \rm{(Fe^{2+})(S^-)_2}と表すのがもっともらしいとされています.

以下では、パイライト構造およびマーカサイト構造を持つ中で代表的と見られる物質を紹介します.

 \rm{FeS_2}(パイライト構造)

パイライト(黄鉄鉱)は地球に豊富に存在する鉱物で、金色の光沢を示す(にも関わらず金を含まない)ため、「愚か者の黄金(fool's gold)」と呼ばれることもあります.かつては硫酸の原料として使用されていましたが、現在では半導体やリチウムイオン電池の正極、太陽電池の材料として活用されています.

 \rm{PtBi_2}(パイライト構造)[1]

非自明な電子構造を持つトポロジカル材料が注目を集めています.パイライト型 \rm{PtBi_2}はトポロジカル半金属と呼ばれる物質群に属し、非常に大きな磁気抵抗効果を示すことが知られています.また、超高圧下において超伝導を示すという報告がありました.

 \rm{CoS_2}(パイライト構造)[2]

水素社会と言われてから何年か経ちますが、水素を効率よく生成する反応は未だ発展中の段階です.そうした中で、水の電気分解による水素生成はクリーンな水素生成手段として注目されています. \rm{CoS_2}をはじめとしたパイライト型硫化物は、水分解反応における水素発生反応に高活性な触媒材料として知られます.

パイライト構造およびマーカサイト構造の関連構造

パイライト構造およびマーカサイト構造は、基本構造から派生してできた結晶構造です.また、サイトをさらに分割したり、別の元素を導入することで新しい結晶構造が得られます.

塩化ナトリウム( \rm{NaCl})型構造および \rm{CaC_2}型構造

パイライト構造における \rm{S_2}ダイマーを一種類の原子に置き換えると \rm{NaCl}型構造となります.また、パイライト構造では互いに異なる向きに向いていたダイマーの向きを一方向に揃えることで、 \rm{CaC_2}構造が生成します.

ルチル構造

マーカサイト構造はルチル構造と非常によく似ています.ルチル構造をとる \rm{TiO_2}では \rm{Ti} \rm{O}に八面体配位され、各八面体がc軸方向に辺を、ab面内に頂点を共有しています.

ルチル構造において、ab面内の \rm{O}原子がダイマーを組むように近づけることでマーカサイト構造となります.また、マーカサイトから対称性を変えない範囲で八面体を回転させると \rm{CaCl_2}型構造が生成します.

スクッテルダイト

金属が八面体配位され、アニオンのダイマーが含まれるという点で、スクッテルダイト \rm{CoSb_3}と構造上の共通点があります.

その他

なお、パイライト構造と名前の似ているカルコパイライト構造はパイライト構造とあまり似ていません.むしろ、閃亜鉛鉱型構造と相関が深いです.

パイライト構造およびマーカサイト構造のまとめ

パイライト構造およびマーカサイト構造はいずれも \rm{FeS_2}の多形であり、 \rm{S_2}ダイマーが構造中に含まれるという共通点があります.

ダイマーが存在するのはやや奇妙かもしれませんが、過酸化物などでも見られる普遍的な現象です.ダイマーに電荷が蓄えられることが電池材料などにおいて重要な役割を果たすこともあります.

参考文献

物性研究・電子版 Vol. 6, No. 1, 061206

Inorganic structural chemistry. John Wiley & Sons, 2007.

[1a] Physical review letters, 2017, 118.25: 256601.

[1b] Physical Review Materials, 2018, 2.5: 054203.

[2a] The Journal of Physical Chemistry C, 2014, 118.37: 21347-21356.

[2c] Advanced Materials, 2017, 29.47: 1704681.

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).