更新 2024-3-5
ランタノイドとアクチノイド(Lanthanoid and Actinoid)
「化学」の教科書には必ず周期表が載っています.周期表は、人間の見出したすべての元素を一定の法則に従って並べた表であり、元素の性質を理解する上で欠かすことのできないものです.
水素や鉄など、身近な元素は化学の授業で習います.アルカリ金属や遷移金属、ハロゲンなども知っているでしょう.しかし、一般的な化学の授業では全ての元素を扱うわけではありません.
聞いたことのない元素もあるけど、そのうち授業で習うんだろうなと思っていたら、一切触れられることなく終わって肩透かしを食らった人もいるでしょう.
その筆頭は、周期表の最下部に佇む謎の元素たちです.ランタノイドとアクチノイドと書かれてはいますが、それ以上の説明はなく、そのまま化学の授業は終わります.わざわざ教えるほどの価値もないから教えられない?
そんなはずはありません.
従来の化学教育では見過ごされがちですが、これらの元素には他の元素に負けないくらい有用で興味深い性質を示します.今回は、周期表の下にある謎の元素たち、ランタノイドとアクチノイドについて見ていきます.
- ランタノイドとアクチノイド(Lanthanoid and Actinoid)
- ランタノイドとアクチノイドと周期表
- ランタノイド(Lanthanoid)
- アクチノイド(Actinoid)
- まとめ
- 参考文献
ランタノイドとアクチノイドと周期表
ランタノイドとは、原子番号57~71番目の元素であり、ランタンからルテチウムまでの一連の元素に相当します.
一方、アクチノイドとは原子番号89のアクチニウムからローレンシウムまでの元素群を指します.
「ランタンのような元素」だからランタノイド、「アクチニウムのような元素」だからアクチノイドと呼ばれます.(この場合、ランタンおよびアクチニウムを仲間に含めない場合もあります)
定義はこれだけであり、その他の元素から変わったことはありません.ではなぜこれらの元素が他の元素から離れて配置されているのかといえば、「入り切らないから」です.
実際にランタノイドとアクチノイドを周期表に無理矢理ねじ込むと1,2属と13~18族元素が離れ離れになってしまいます.無駄に横に長くて見にくいだけなので、この周期表が使われることはないでしょう.
ランタノイドとアクチノイドを特徴づける性質は、いずれもf軌道の電子を持っていることです.
f軌道には14の電子が入ることができ、この数はランタノイドおよびアクチノイドの元素数に対応しています.f軌道は、他の軌道(s軌道やd軌道)とは大きく異なる特徴を持ちます.f軌道にある電子は、原子内の狭い範囲に閉じ込められており、他の原子に干渉ができません.これにより、他の軌道しか持たない元素とは著しく異なった磁気特性や発光特性を示します.
有名なランタノイド収縮もf軌道の特異性に由来する現象です.
f電子にいくら電子が入っても化学的性質への影響が少なく、結果としてランタノイド(アクチノイド)に含まれる元素はいずれも似通った性質を示します.このため、多くの種類のランタノイドが含まれる鉱石からそれぞれの元素を分離することは長らく困難でした.
同じようにf軌道と呼ばれていても、ランタノイドにおける4f軌道とアクチノイドにおける5f軌道は大きさが著しく異なり、それゆえ両者の性質もまた大きく異なります.例えば、ランタノイドの化合物は絶縁体のものがほとんどであることに対し、アクチノイドの化合物では金属的な伝導を示すものも多く見られます.
以下では、改めてランタノイドとアクチノイドがどのようなものであるかを見ていきます.
ランタノイド(Lanthanoid)
ランタノイドは18世紀後半にスカンジナビア半島で発見されました.鉱石からいくつも新しい種類の元素が得られたと主張されましたが、それらはまだ混合物の状態であったことが後に判明します.
最初にイットリアと呼ばれた新元素(仮)は、後にエルビア、テルビア、イットリアなどと呼ばれる元素に分けられました.この時期に約70の「新」元素が発見されたと主張されましたが、多くは誤りであり、後に原子番号とX線スペクトルを紐付けるモーズリーの法則によって本当の「新元素」が確定しました.
最終的に、ランタンからルテチウムまでの間に15種類の元素があるということが確定します.
これらの元素は化学的に非常に似通った性質を示し、いずれも3価の陽イオンとなります(ただし、2価や4価となる元素もあります).周期表では、ランタノイドはスカンジウム()およびイットリウム()の下に配置されます.
ランタノイドは、遷移金属など他の元素とは大きく異なる化学的性質を示します.
- 配位数の範囲が非常に広い(一般に6~12だが、2~4の場合もあり)
- 配位の形状が結晶場効果ではなく、配位子の立体的な要因で決定される
- の4f軌道は化学結合に直接関与しないため、分光的、磁気的特性への配位子の影響が小さい
- 結晶場分裂が小さく、dブロック金属と比較して非常にシャープな電子スペクトルを示す
- 電気陰性度の高いドナー原子(例:)を持つアニオン配位子を好む
- 水溶液中では+3の酸化状態であることが多い。
いずれも希少な元素ですが、周期表の後ろに位置するランタノイドでより顕著です.資源量が少ないだけでなく、化学的性質が似通っており分離・精製が困難であることも価格を押し上げる要因です.このため、ランタノイドはレアメタルの一員であり、スカンジウムとイットリウムも合わせて希土類(レアアース)と呼ばれます.
プロメチウムだけは別格で、安定同位体が存在しないため人為的な合成でのみ得られます.
アクチノイド(Actinoid)
アクチノイドのうち、ウラン()とトリウム()の最初の化合物は18世紀後半から19世紀前半に発見されましたが、これら以外のアクチノイドの大部分は20世紀以降に人工的に作られた元素です.
ただし、アクチニウム()やプロタクチニウム()、プルトニウム()は、ウランの核反応による生成物として天然に存在することが知られています.
ウラン以降の元素は、放射性元素が中性子を捕捉する一連のプロセスによって極めて微少量が得られます.ウランより重いネプツニウム以降の元素のことを超ウラン元素と呼び、天然にはほとんど存在しません.
アクチノイドはすべて放射性元素であり、時として強烈な放射線を発するため、取り扱いには特別な注意が必要です.この放射能は化学的な性質にも大きな影響を与えています.とはいえ、人工的に得られるアクチノイドは寿命が極めて短く、多くのアクチノイドの性質は十分には分かっていません.
3価がほとんどであったランタノイドとは異なり、アクチノイドは多彩な価数をとります.例えば、ウランは4価や6価の陽イオンの状態がよく見られます.しかし、アメリシウム以降の元素では3価をとる場合が多くなり、ランタノイドと同様の傾向を示します.
まとめ
ランタノイドとアクチノイドを高校化学の授業で扱うことはまずなく、身近でも触れることは少ない元素でしょう.しかし、ランタノイドやアクチノイドは産業上で非常に幅広く活用されています.蛍光体、レーザー、強力磁石、光磁気ディスク、排ガス浄化用触媒、磁性半導体などでその姿が見られ、特にネオジム磁石で知られるネオジムは有名なランタノイドです.アクチノイドについても、放射能を生かして原子力分野で利用されます.
周期表の最下部に追いやられながらも替えの効かない役割を持つという点で、縁の下の力持ちな元素と言えるでしょうか.
参考文献
Cotton, Simon. Lanthanide and actinide chemistry. John Wiley & Sons, 2013.