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ミラー指数とX線の回折

更新 2024-2-23

ミラー指数(Miller index)

ほとんどの固体物質は結晶であり、原子が規則正しく並んだ構造を持ちます.

結晶は最小単位となる単位胞が存在し、それが三次元空間に無限に並んだものと考えることができます.ゆえに単位胞を考えるだけで結晶に関する大多数の情報を引き出すことができます.

単位胞を考えれば良いだけとはいえ、含まれる情報は膨大です.原子がどこにどのように分布しているのか一言で表すのは難しいので、関連する語句を定義しておく必要があります.

ミラー指数は、単位胞の中における「方向」や「面」を記述する方法です.ミラー指数を定義しておくことにより、単位胞の「どこ」の話をしているかが一目で分かるようになります.

ミラー指数はX線回折測定でよく使用されるのでそちらが発端と思われがちですが、開発者であるWilliam Hallowes Millerは19世紀の人物であり、X線回折測定法が生まれるはるか昔に生まれています.今日、ミラー指数は材料科学者の共通語として扱われ、固体化学・固体物理・材料科学の初歩の初歩として習います.

しかし、3次元空間の話なのでなかなかイメージが難しいのも事実です.今回は、ミラー指数について成り立ちと定義、応用を見ていきます.

ミラー指数による面指数

繰り返しになりますが、結晶中では原子が規則正しく並んでいます.単位胞は a, b, cの3つのベクトルで表されます.立方晶や直方晶ではこれらは互いに垂直に交わっていますが、一般の場合では任意の角度で交わることが許容されます.

あなたが原子の大きさになって結晶中を旅すると、結晶中では原子によってたくさんの「壁」ができていることに気づきます.この「壁」は二次元平面を覆い尽くしており、結晶周期の繰り返しによって無限に一定間隔で並んでいます

原子の繰り返し構造と同様に、「壁」の繰り返し構造も結晶を記述する上で重要です.「壁」を「面」と言い換え、いろいろな種類の面がどのように記述されるか見ていきましょう.

最も簡単な例として、単純立方構造を考えます.面がどこにあるか見つけられますか?

例えば、結晶軸に垂直な面は格子定数に等しい間隔で並んでいます.結晶軸から45°ずれた面は格子定数の \frac{1}{\sqrt{2}}倍の間隔で並び、立方体の面の対角線を通って3つの頂点を結んだ面は格子定数の \frac{1}{\sqrt{3}}倍の間隔で並びます.

他にも結晶中で「面」は無数に考えることができます.これらの面を全て上記のように言葉で書き下すのは無理筋であり、共通のインデックスをつけて呼びたくなります.

ここでようやく面指数の概念に出会います.

面指数の記述

では、面をどのように記述しましょうか.

面を記述するために必要な情報の一つは「結晶軸からの傾き」です.単位胞の結晶軸3本をそれぞれ無限に伸ばすことを考えます.面が結晶軸に対して傾いていれば、無限に広がる面は結晶軸の延長線のどこかで交わります.それぞれの結晶軸と交わる点を面の「結晶軸からの傾き」の基準とします.

結晶面は hklという3つの数字を用いることで表されます.すなわち、結晶面がOを原点とする単位胞のa, b, c軸のそれぞれ \frac{a}{h}, \frac{b}{k}, \frac{c}{l}の位置で交わっているとき、各軸の長さを単位長さにとると、結晶面は h, k, lという1組の数字で表すことができます.

この3つの数字をミラー指数あるいは面指数と呼び、括弧を付けて (hkl)と言います.

交わる面が結晶軸の負の方向である場合は、 (\overline{1}02)のようにバーを付けて書きます.単に面指数と呼ぶ時は、互いに素な hklの組み合わせのみを考えます.

イメージが湧かないと思うので、例を見ていきましょう.

(111)面は、それぞれの結晶軸の長さと等しい点で交わります.(211)面はa軸のみ軸長の半分の点で交わります.(321)面は、軸長の3分の1、b軸長の2分の1の点で交わります.

面が特定の結晶軸と交わらないとき、無限遠(∞)で交わると考え、その指数はゼロであるとします.(110)面は、c軸と平行でa, b軸と交わるような面です.(100)はb軸およびc軸と平行、すなわちbc面に平行でa軸に垂直な面です.

また、結晶によっては異なる (hkl)で表される方向が互いに等価である場合があります.例えば、立方晶ではa方向、b方向、c方向が互いに等価であり、(100)(010)(001)は同じものを意味します.このとき、等価な面を総称して{100}と表します.

なお、結晶面の指数で定義されるのは単一の面ではなく、一定の間隔で並んだ平行な面の一群です. hklで表された面と、その面に平行で原点を通る面との間の間隔が面間隔です.

面間隔は hklの3つの数と格子定数を用いて表すことができ、立方晶の場合は特に簡単に表されます.

   d_{hkl} = \frac{a}{\sqrt{h^2+k^2+l^2}}

最も対称性の低い三斜晶系でも格子定数と面指数を用いて面間隔を表すことが可能ですが、表式が非常に複雑になります.

ミラー指数による方向指数

結晶内の任意の方向も、結晶面と同様に3つの整数を用いて表すことができます.

ある一つの格子点の座標を整数 (u,v,w)としたとき、原点からその点への方向を [uvw]と表します.値が負であるときは結晶面の時と同様にバーを付けます.また、等価な方向がある場合は 〈uvw〉のように表します.

例えば、a軸方向は[100]方向、原点から座標(1,2,3)に向かう方向は[123]、原点から座標(2,4,–4)に向かう方向は [12\overline{2}]方向です.

なお、公約数を持つような数字の組み合わせによる方向は、公約数で除した方向と等価です.すなわち、[222]方向と[111]方向は等価であり、互いに素な整数を用いて表します.

六方晶におけるミラー指数

以上の話は、結晶軸が互いに垂直であることを仮定していません.

単斜晶のように任意の角度を保つ場合でも全く同様に面指数と方向指数を定義することができます.六方晶系でも原則は同じですが、表記表に新しいルールが生まれます.

六方晶系はab軸が互いに等価で、c軸だけそれらに垂直な方向にとります.ab軸は互いに120°だけ傾いていますが、もう120°だけズレた位置にもう一つの軸を考えることができます.

この軸はやはりab軸それぞれから120°だけ傾いており、互いに等価です.この軸の指数に iを用いて、指数は (hkil)の4つの整数で表されます.この指数によって自由度が増えるわけではなく、便宜的なものです. h+k+i = 0の関係があるため、 hklの値があれば iの値は一意に定まります.

 iに関する約束が増えるだけで、面指数と方向指数に関する約束は上で示した一般的なものと変わりません.

まとめ

ミラー指数は基礎的な概念でありながら、それなりにややこしい点を含んでいます.現状では指数を用いて表すメリットは小さいように思えますが、逆格子の概念を用いた時に面指数は非常に便利な概念に様変わりします.結晶構造を考える上でミラー指数の概念からは逃げられないので、きちんと理解しておく必要があります.

参考文献

まてりあ 2000 年 39 巻 9 号 p. 741-744

表面技術 2001 年 52 巻 11 号 p. 738-739

日本結晶学会誌 2017 年 59 巻 4 号 p. 150-158

Miller index - Wikipedia