太陽光のエネルギー
現在の地球があるのは太陽の賜物(たまもの)です.

地球上で生物が繁栄し、地球の表面温度が水が沸騰も凍結もしない絶妙なレベルに保たれているのは、太陽の放射エネルギーと太陽・地球間の距離の絶妙なバランスによるものです.太陽と地球の距離があと少しでも変わっていたら、地球も金星や火星と同じような不毛の惑星となっていたことでしょう.
太陽が地球にもたらす総エネルギー量は世界の消費エネルギーの約1万倍に及びます.植物が太陽光を利用してエネルギーの循環を行っている一方、人類はまだ膨大な太陽エネルギー量を十分に利用しきれている訳ではありません.
化石燃料からの脱却が必要とされる現代では、事実上無尽蔵の太陽光は非常に魅力的なエネルギー源であり、太陽光の数%のエネルギーでも有効に活用できれば、化石燃料の心配のいらない世界が実現するかもしれません.
我々の世界には太陽光発電をはじめとして光を活用するデバイスが多くあります.太陽光を最大限に活用するには、まず太陽光について知っておく必要があります.
光のエネルギー
光は質量や大きさを持ちませんが、波であると同時に粒子でもあります.光の粒子(光子)は波長()に応じたエネルギー(
)を持ち、以下の式で表されます.
なお、はプランク定数、
は光の速さです.すなわち、波長が長くなるとエネルギーは小さく、短くなるとエネルギーは大きくなります.
光の波長()はナノメートル(nm)単位で測り、可視光は 400-700 nm 程度の範囲に入ります.
波長が 700 nm よりも長くなると赤外線、400 nm よりも短くなると紫外線と呼ばれます.波長の短いし紫外光はエネルギーが高いため、人体に及ぼす影響も赤外線よりも大きくなります.
光子のエネルギー()は電子ボルト(eV)を単位として用います.電子ボルトとは、電子1個が電位差1 Vの電位差を通過する際に得るエネルギーに相当し、
の関係があります.このとき、可視光のエネルギーは
に対応します.
ナノメートルと電子ボルトの単位を用いることで、εとλの関係は以下のように簡単な式となります.
太陽光が地表に届くまで
太陽と地球の距離は季節によって異なりますが、平均すれば(1天文単位、1 AU)程度離れています.
太陽が放出するエネルギー量は年間を通じてほぼ一定であり、天文辞典によれば「大気圏外の地球軌道上で単位面積が受ける太陽放射エネルギー」を太陽定数と呼びます.太陽とエネルギーを受ける面に角度がついていると角度によってエネルギー量が変わってしまうので、垂直な面で受けるとします.
太陽定数は約です.この太陽エネルギーは、その約30%が地表面や雲による反射、大気中での散乱により宇宙空間に返っていきます.残りの約70%は地表、雲、大気などに吸収されることで地球に留まります.地球に吸収された太陽光は、地表を約15℃に保ちます.
様々な障害を乗り越えて地表に届く太陽光だけが利用可能なわけですが、一口に地表と言っても、太陽が大気圏をどの程度の長さを通過してきたかによってエネルギー分布は異なります.
例えば、赤道直下の場所は太陽光が地表に垂直に最短距離で到達するので、多くのエネルギーを保っています.一方、緯度が大きな国では太陽光が地表に対して斜めに入射し、大気圏を通過する距離が長くなるので、その分失われるエネルギー量も多くなります.
太陽光の入射角度を考慮した太陽光スペクトルをエアマス(AM)と呼び、AM1を太陽光が垂直入射した場合と定めます.日本のような緯度の高い場所ではもう少し大気中を通る距離が長く、AM1.5の値がよく使われます.これは、AM1よりも1.5倍長い距離だけ大気圏を進んだことを意味します.
太陽光のスペクトル
太陽光は単一の波長を持つスペクトルではなく、近赤外から紫外領域にかけて連続した波長分布を持ちます.特に可視光の波長域で最大値を取り、可視光は太陽エネルギー全体の多くの割合を占める事が分かります.これは偶然ではなく、可視光を有効に活用できる生物のみが生き残ったと考えるべきでしょう.
太陽を出発して大気圏内に入るまでは連続的なスペクトルですが、大気を通過するとエネルギーが大気中の成分に吸収されてより特徴的な分布となります.紫外光から可視光にかけては大気上層のオゾン()に、赤外光は大気中の二酸化炭素(
)や酸素(
)に吸収されます.
残された太陽光だけが、我々が利用可能なエネルギーです.
天気の悪い日や夜は当然太陽光が地上に届かないため、太陽光エネルギーは時間帯によって顕著に変化します.2021年の試算によれば、我々の消費するエネルギーを太陽光だけで賄うには45万平方kmの面積が必要とされ、これはスウェーデンの国土面積、ピンとこなければ日本と韓国の国土面積の和に相当します.
まとめ
太陽光のエネルギーは莫大であり、地球上の生き物は常にその恩恵を受けています.植物が利用するのはもちろんのこと、近年では可視光を利用した太陽電池や光触媒の利用も盛んです.
持続的な開発目標が叫ばれる現在、空から事実上無限に供給される太陽光エネルギーへの期待はますます高まっています.現状、太陽光発電の効率は火力発電や原子力発電の水準に及んでいませんが、ゆくゆくは太陽光発電に頼らざるを得ない状況が来るかもしれません.
太陽光は大気で吸収されて無駄になるなら宇宙で発電することが思い浮かびますが、実際に宇宙空間で集光して得られたエネルギーをマイクロ波に変換して地表に届けるプロジェクトが進められています.宇宙太陽光発電システム(SSPS)は1970年代から続いており、もし実現すれば半永久的なエネルギー源となりえます.
なんだかスターウォーズの世界のような途方も無い話ですが、実際に21世紀後半以後の実用化を目指してプロジェクトが進行しているようです.
参考文献
化学と教育 1993 年 41 巻 5 号 p. 317-321