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イルメナイト:コランダムとペロブスカイトをつなぐもの

更新 2024-3-5

イルメナイト(Ilmenite)

イルメナイトとはチタンと鉄を含む鉱物の一種であり、\rm{FeTiO_3}の組成を持ちます.

特に、チタンを含む点が重要であり、金属チタン(\rm{Ti})や二酸化チタン(\rm{TiO_2})の主要な原料として幅広く活用されています.チタンは軽くて丈夫な金属材料としての特性を持ち、\rm{TiO_2}は顔料や光触媒として重要な役割を担います.

イルメナイト構造(Ilmenite structure)

イルメナイトの結晶構造はイルメナイト構造と呼ばれ、種々の三元系酸化物で見られます.イルメナイト構造は特にコランダム構造と関係性が深く、コランダム(\rm{Al_2O_3})にある\rm{Al}サイトを二種類の金属(\rm{Fe}\rm{Ti})で置き換え、規則化させることでイルメナイト構造となります.

\rm{Fe}および\rm{Ti}はいずれも\rm{O}に八面体配位されています.\rm{FeO_6}八面体と\rm{TiO_6}八面体は常に隣り合って面共有しした二量体を形成し、その二量体同士が特定の規則に従って頂点共有することでイルメナイト構造となります.

以下では、コランダム構造から始めてイルメナイト構造がどのように形成されるかを見ていきます.

コランダム構造からイルメナイト構造へ

コランダム構造において、\rm{O}は六方最密構造をとります.コランダム構造では、この最密構造の八面体間隙のうち3分の2が\rm{Al}によって占められています.この際、c軸方向から見た\rm{Al}はハニカム(蜂の巣)格子を組んでおり、それぞれのハニカム層が3回周期で位置をずらして積み重ねられています.

この構造を多面体を基準として見ると、 \rm{Al}はいずれも \rm{O}に八面体配位されています.2つの八面体が面共有して形成した\rm{Al_2O_9}二量体が全てc軸方向に向いており、各ダイマー同士は3つの辺と3つの頂点がそれぞれ別の二量体によって共有されています.

イルメナイト構造では、二量体の中にある金属がそれぞれ異なる金属(\rm{Ti}\rm{Fe})となっています.この際、\rm{Ti}\rm{Fe}はab面内方向から見たときに層状に並ぶように配置します.c軸方向から見ると、\rm{Fe}\rm{Ti}はそれぞれ蜂の巣(ハニカム)状の格子を組むように並んでいます.

イルメナイト構造を持つ物質

イルメナイト構造は、硬く緻密な結晶構造であるコランダム構造を基調としていることから予想できるように、堅牢な構造を持ちます.多くの鉄酸化物は強磁性を示すこととは対照的に、イルメナイト自体は常磁性を示します.

FeTiO3

イルメナイトは、\rm{Ti}を豊富に含むことから\rm{Ti}の主要な原料として知られます.

イルメナイト構造の関連構造

コランダム構造

イルメナイト構造において二種類の金属が占有しているサイトを一種類の金属のみで占めることによってコランダム構造が得られます.

ペロブスカイト構造

金属が酸素に八面体状に配位されているという点で、イルメナイト構造はペロブスカイト構造と関連性を持ちます.ペロブスカイトでは二種類の金属のイオン半径の差によって結晶構造が歪むことが知られ、その歪みの度合は許容因子(Tolerance factor)によって規定されます.この許容因子が0.8以下になるとイルメナイト構造がより安定になるとされています.

許容因子について詳しくはペロブスカイト構造の記事を参照のこと.

まとめ

イルメナイト構造は、有名なペロブスカイト構造やコランダム構造と深い関係性がありますが、有名な物質が少なくどちらかといえばマイナーな結晶構造です.しかし、\rm{Ti}の原料としてなど、産業上は重要な物質が存在しています.\rm{MgSiO_3}\rm{CdSnO_3}など学術的に興味が持たれている物質もあります.

参考文献

物性研究・電子版 Vol. 6, No. 1, 061206

Inorganic structural chemistry. John Wiley & Sons, 2007.

結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).