脱アカデミアをしようと思ったら
博士の学位を取得し、念願のアカデミアの職に就いて充実した日々を送っているあなた.
しかし、いつまでもアカデミアで研究生活を送るとは限りません.研究のモチベーションが落ちた、将来のビジョンが浮かばない、アカハラを受けた、家庭の事情などなど、いつかは何らかの理由でアカデミアを辞する時が来るかもしれません.
私もかつて大学を退職し、脱アカデミアを決めた人間です.辞めるには人それぞれの理由があるでしょうが、いざアカデミを辞めることを決めたのであれば、即座に行動に移しましょう.民間に転職、独立して起業、家業を継ぐなどの選択肢はありますが、最も現実的なのは民間企業への転職でしょうか.
しかし、民間への転職ってどうやればいいの?
そもそもアカデミアにいる人間の数が少ないこともあって、脱アカデミアに関してネット上で見つかる情報はごく僅かです.また、専門分野もそれぞれ異なることもあって一般化できる要素も限定的です.一方で、個人の体験談が参考になることはありますし、私もネット上の転職体験談には大いに助けられました.
いつかそうした体験談から一般化した情報をまとめてくれる人が出ることを祈りながら、ここでは私個人の体験から得た脱アカデミアの方法を全4回にわたって記述していきます.
1.アカデミア就職と民間就職の違い編(今ココ)
2.転職エージェントを活用しよう編
3.どのように転職活動を行うか編
4.実際の面接でどのようなことを聞かれるのか編
アカデミアの就活と民間の就活の違い
アカデミアにいる人間は、大概の場合、大学院で博士の学位を得てそのままアカデミアの職に就きます.
アカデミアの就活は、一般に想像されているいわゆる新卒の「就活」とは異なる部分が多いでしょう.新卒一括採用もインターンもありませんし、助教やポスドクの1~2人程度の枠に応募して採用されます.面接内容も研究成果が重視され、志望動機やガクチカが問われる一般の就活とはやや毛色が異なります.
とはいえ、転職市場では、民間企業とアカデミアで職探しの流れはあまり変わりません.
まず、企業や転職エージェントのHPから自分に適した求人を探します.履歴書と職務経歴書を準備し、直接あるいはエージェント経由で応募します.数日から一週間程度で合格あるいは不合格の結果が届き、合格の求人は面接に進みます.求人によって異なりますが、1~3回程度の面接があり、晴れて採用(不採用)となります.
民間では求人自体の数が桁違い、面接が複数回、面接でパワポは使わないなどアカデミアとの差異はありますが、おおむね流れとしては似たようなものです.一方で、準備する資料や面接のポイントはアカデミアとは大きく異なる点が多いです.
アカデミア出身の自分に需要はあるか
アカデミアを辞める理由は、必ずしもポジティブなものではないと思います.「俺は同年代と比べても頭一つ抜けてるし、教授になるなんて余裕だぜ!」という状態の人が「いや、俺は企業でどうしても働きたいんだあ!!」というマインドで脱アカデミアを行うことはほとんどないでしょう.
自身の出世の見通しや職場環境、研究成果などに何らかのネガティブな感情を持っている人が多いのではないかと想像します.そうした状況で転職をポジティブに捉えられる人の方が稀で、「ワタシを雇ってくれるところなんてあるのかな」と思う気持ちもあるでしょう.しかし、そうしたネガティブな感情は捨てましょう.
まず、アカデミアの研究者は需要があるという意識を持ちます.博士持ちというだけで世の中的には貴重で希少な存在です.企業の研究・技術職は修士卒が多く、出世のためには博士が必要になってくるという場合もあります.博士の学位を持ち、研究職で実績を残し、教育でも実績があるという経歴は民間の転職市場においても価値あるものです.
「博士課程に行くと就職が厳しくなる」というのは巷ではよく言われることです.確かに、博士は年齢的に高い割にサラリーマンを経験していないので、やや扱いづらく思われることはあります.この意識自体が間違っているとは思いませんが、ややイメージ先行で語られているような気はします.
アカデミアにいると忘れがちですが、博士というのは日本では人口の1%もいない希少な存在です.ほとんどの人は博士のことなんて知りませんし、博士の知り合いなんていないのです.
専門に特化しており、需要のない環境ではとことん需要がなく、需要のある環境ではとことん需要のある存在が博士です.
民間就職では、研究職以外にも幅広い選択肢があります.研究職にこだわる必要は必ずしもないと思いますが、自身の強みを多分に活かせる場所に行くべきだと思います.良くも悪くもピーキーな存在である博士は、ある場所では需要が薄くむしろ煙たがられる存在になり得ますが、価値を分かってもらえる領域ではむしろ喉から手が出るほど需要のある存在にもなり得ます.
どのようなキャリアを描くかは人それぞれですが、自分の価値を存分に発揮できる環境のほうがモチベーションの面でも有利なのではないでしょうか.
民間就職でアピールするべきこと
アカデミアでの転職は「実績で殴る」手法が有効です.高IF誌に論文を出していたり、論文が非常に多く引用されていたり、著名な学会で受賞していたり、などとにかく業績を積み重ねることが就職への近道です.(もちろんそれだけではありませんが)
一方、民間での転職活動では実績だけで即採用に至ることはありえません.評価の対象にはなりますがアカデミアほどの圧倒的な威力はないと思っていいでしょう.あなたがどれだけ優れた成果を挙げていても会社の中で同じように優れた実績を挙げれなければ意味がないですし、すぐに辞めてもらっても困ります.
企業の採用側が見ているのは「再現性」と「定着性」とされています.あなたが入社した後、優れた成果を確実に出してもらい、その上で長く務めてもらえなければ困るのです.
アカデミアの就活の感覚で民間の転職市場に乗り込むと、まず失敗します.例えば、自分の研究成果がいかにすごいかを力説しても、興味を持たれることはないでしょう.過去の実績は大事ですが、アピールするポイントを間違えたら討死します.
「私の研究成果はものすごく高尚なんだ!」なんて感覚は捨て、民間の感覚に合わせる意志を持って転職に臨みましょう.企業にとって肝心なことは「求職者の研究内容の素晴らしさ」ではなく「いかに求職者が定着して長きに渡って活躍してくれるか」です.
さあ、転職活動を始めよう
民間就職への心構えができたところで、早速転職活動を始めましょう.でも、どうやって?手段はいくつかありますが、おすすめは転職エージェントを利用することです.私は過去2回の民間への転職活動でいずれも転職エージェントを利用しました.
完全に無料で利用できる以上、使わない手はないんじゃないかと思います.
次回は、民間への転職でエージェントを利用するメリットとデメリットを見ていきます.