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Prof. R J Cavaの経歴を振り返る(2)

更新 2024-3-3

Prof. R J Cava

物性物理・物質科学・固体化学分野で知らない人はいない超大御所Robert Joseph Cava先生.現在はプリンストン大学の教授職を務めています.先生の受け持つクラスは非常にユーモアに富んでいると評判のようです.

超伝導とトポロジカル材料をはじめとした物性物理分野での活躍が目覚ましいCava先生ですが、元々はどのような研究を行っていたのでしょうか.大御所の源流を読み解くことで、新しい研究テーマのヒントを得ようというのが今回の企画です.

前回は、学生時代からベル研究所時代の前半を振り返りました.既に高引用数論文が多く見られ、現在でも知られる多くの新物質を生み出しています.しかし、まだ序の口です.

物性物理には転換点となる出来事がいくつかありました.Cava先生は新しい潮流に迅速に対応し、各局面ごとに素晴らしい研究を展開していきます.

運命の年、1986年

1986年といえばメキシコワールドカップでアルゼンチン代表が優勝した年ですが、物性物理ではまさに革命的な出来事が起こりました.銅酸化物高温超伝導体の発見です.

\rm{La-Ba-Cu-O}系の酸化物が転移温度30 Kの超伝導であるという報告があった後、日本の田中昭二氏らのグループは超伝導体の正体がペロブスカイト関連構造を持つ\rm{(La,Ba)_2CuO_4}であることを突き止めました.その後、転移温度の記録が急速に塗り替えられ、極低温でしか見られないはずの超伝導が100 Kを超える温度でも起こることが明らかになりました.

当時は世界的な超伝導ブームが起こり、理論家まで電気炉とるつぼを買って合成を行うという狂った状況だったようです.銅酸化物の発見の翌年の1987年に発見者二名にノーベル物理学賞が贈られたことからも、当時のスピード感が伺えます.

1986年に突如現れた超伝導体に全ての研究者が即座に対応したわけではないでしょう.しかし、1986年12月に超伝導体の結晶構造が明らかになり、世界的なブームは翌年の1987年から始まります.世界中の眠れる獅子がこぞって参戦しました.

この中に、当然ながらCava先生の姿もありました.まず、1987年1月(早すぎ!?)に\rm{Ba}\rm{Sr}に変えた\rm{(La,Sr)_2CuO_4}系で36 Kの超伝導を報告しました.さらに、結晶構造の温度変化も報告しています.

Bulk superconductivity at 36 K in La1.8Sr0.2CuO4
RJ Cava, RB Van Dover, B Batlogg, EA Rietman
Physical Review Letters, 1987, 58.4: 408.

Crystal structure of the high-temperature superconductor La1.85Sr0.15CuO4 above and below T c
Robert J Cava, A Santoro, DW Johnson Jr, WW Rhodes
Physical Review B, 1987, 35.13: 6716.

そして、\rm{Ba-Y-Cu-O}系の発見により、転移温度は液体窒素の沸点(77 K)を超える91 Kにまで達します.現在ではYBCOと呼ばれる物質ですが、同時期にM. K. Wu氏が同系の超伝導を一ヶ月早く報告しており、通常はそちらが発見者とされます.当時の競争の激しさを物語るエピソードです.

Bulk superconductivity at 91 K in single-phase oxygen-deficient perovskite Ba2YCu3O9−δ
RJ Cava, B Batlogg, RB Van Dover, DW Murphy, S Sunshine, T Siegrist, JP Remeika, EA Rietman, S Zahurak, GP Espinosa
Physical Review Letters, 1987, 58.16: 1676.

YBCO系については同年に合成法や酸素欠損と超伝導の相関についての研究も展開しています.ここまでたった1年(1987年)の出来事です.どんな実験量だったんだろう.

Single-phase 60-K bulk superconductor in annealed Ba2YCu3O7−δ(0.3<δ<0.4) with correlated oxygen vacancies in the Cu-O chains
RJ Cava, B Batlogg, Ch H Chen, EA Rietman, SM Zahurak, D Werder
Physical Review B, 1987, 36.10: 5719.

Oxygen stoichiometry, superconductivity and normal-state properties of YBa2Cu3O7–δ
RJ Cava, B Batlogg, CH Chen, EA Rietman, SM Zahurak, D Werder
Nature, 1987, 329.6138: 423-425.

翌年の1988年も銅酸化物の研究を発展させていきます.新しい銅酸化物超伝導体の発見のほか、YBCO系についても詳しい研究を継続しています.

Superconductivity near 70 K in a new family of layered copper oxides
RJ Cava, B Batlogg, JJ Krajewski et al.
Nature, 1988, 336.6196: 211-214.

しかし、ブームの流れに乗るだけではありません.このような状況の下で、恐ろしいことに銅酸化物以外の超伝導体の探索まで行っています.\rm{(Ba,K)BiO_3}というペロブスカイト酸化物が30 K級の転移温度を持つ超伝導体であることを発見しました.今日ではBKBOと呼ばれるこの物質は、現在でも有名な超伝導体です.

Superconductivity near 30 K without copper: the Ba0.6K0.4BiO3 perovskite
RJ Cava, B Batlogg, JJ Krajewski, Re Farrow, LW Jr Rupp, AE White, K Short, WF Peck, T Kometani
Nature, 1988, 332.6167: 814-816.

1989年から1990年代に入っても勢いは全く衰えません.銅酸化物に関する研究の継続のほか、BKBOについても新たな展開を見せています.(この人どんだけNature書いてるの?)

Synthesis of bulk superconducting YBa2Cu4O8 at one atmosphere oxygen pressure
RJ Cava, JJ Krajewski, WF Peck, B Batlogg, LW Rupp, RM Fleming, ACWP James, P Marsh
Nature, 1989, 338.6213: 328-330.

Superconductivity at 60 K in La2-xSrxCaCu2O6: the simplest double-layer cuprate
RJ Cava, B Batlogg, RB Van Dover et al.
Nature, 1990, 345.6276: 602-604.

Superconductivity at 3.5 K in BaPb0.75Sb0.25O3: why is Tc so low?
RJ Cava, B Batlogg, GP Espinosa, AP Ramirez, JJ Krajewski, WF Peck, LW Rupp, AS Cooper
Nature, 1989, 339.6222: 291-293.

銅酸化物やBKBOの研究を続ける傍ら、90年代に入ると新しい物質群の研究が目立ちます.電子が物性に顔を出す強相関系物質が注目される中で、銅酸化物に似た別の強相関物質に目を向け始めたのではないでしょうか.

一見銅酸化物とは無関係に見える以下の論文でも、アブストラクトを読めば銅酸化物を意識したものであることが分かります.

Antiferromagnetism and metallic conductivity in Nb12O29
RJ Cava, B Batlogg, JJ Krajewski, P Gammel, HF Poulsen, WF Peck, LW Rupp
Nature, 1991, 350.6319: 598-600.

また、恐ろしいことに1992年時点で\rm{Ru}酸化物にも着目していました.\rm{Ru}酸化物と言えば、前野悦輝先生が\rm{Sr_2RuO_4}における超伝導を1994年に報告したことで有名ですが、\rm{Sr_2RuO_4}にはたどりついていなかったのでしょうか.[1]

Single-Crystal Epitaxial Thin Films of the Isotropic Metallic Oxides Sr1–xCaxRuO3 (0 ≤ × ≤ 1)
C-B Eom, RJ Cava, RM Fleming et al.
Science, 1992, 258.5089: 1766-1769.

銅酸化物を越えて

1994年には、\rm{LnNi_2B_2C}という新しい超伝導ファミリーを世界に報告します.\rm{Ni}からなる炭ホウ化物という珍しい物質で、一見では酸化物材料からどうして金属間化合物に研究対象が移ったのか疑問に思います.

高木英典先生の解説によれば、インドとフランスの共同グループが\rm{Y-Ni-B}系で正体不明の超伝導を観測し、その正体をベル研と東大のグループが突き止めたようです.[2]

\rm{Ni}\rm{Pd}や他の元素に置換した物質などに研究対象を拡大していきます.この頃は銅酸化物の研究はやや下火となり、数年は\rm{LnNi_2B_2C}の研究が目立ちます.

Superconductivity in the quaternary intermetallic compounds LnNi2B2C
RJ Cava, H Takagi, HW Zandbergen et al.
Nature, 1994, 367.6460: 252-253.

Superconductivity at 23 K in yttrium palladium boride carbide
RJ Cava, H Takagi, B Batlogg et al.
Nature, 1994, 367.6459: 146-148.

The crystal structure of superconducting LuNi2B2C and the related phase LuNiBC
T Siegrist, HW Zandbergen, RJ Cava, JJ Krajewski, WF Peck
Nature, 1994, 367.6460: 254-256.

Superconductivity in lanthanum nickel boro-nitride
RJ Cava, HW Zandbergen, B Batlogg, H Eisaki, H Takagi, JJ Krajewski, WF Peck, EM Gyorgy, S Uchida
Nature, 1994, 372.6503: 245-247.

その傍らで、新しい物質群にも手を出しています.この辺りは流石というか何というか.

Colossal magnetoresistance in Cr-based chalcogenide spinels
AP Ramirez, RJ Cava, J Krajewski
Nature, 1997, 386.6621: 156-159.

Improvement of the dielectric properties of Ta2O5 through substitution with Al2O3
RJ Cava, WF Peck Jr, JJ Krajewski, GL Roberts, BP Barber, HM O’Bryan, PL Gammel
Applied Physics Letters, 1997, 70.11: 1396-1398.

順番が前後しましたが、1996年にはプリンストン大学に移ります.ここまで圧倒的な成果を出し続けてきた以上、教授職となるのは当然のことでしょう.

既に普通の研究者の人生3周分くらいの成果がありますが、Cava先生の躍進はまだまだ続きます.

参考文献

本文中に記載

[1] Maeno, Y., et al. "Superconductivity in a layered perovskite without copper." Nature 372.6506 (1994): 532-534.

[2] 応用物理 1995 年 64 巻 4 号 p. 310-317

Robert Cava - Wikipedia

Professor Robert J. Cava | Cava Lab

R.J. Cava