元素は実験室だけでなく、社会や産業の現場で日々使われています.本記事ではリチウムの基礎的な性質から、製造・輸送、用途、そして市場の動向までを一望します.研究室時代に実際に元素を扱った際の感想つき.

原子番号3番、リチウム(Li、Lithium)
リチウムは最も軽い金属元素の一つで、電気化学的なエネルギーが大きいため電池材料としての利用が主です.リチウムイオン電池の電極材料として使われ、電気自動車(EV)や蓄電システム、携帯デバイスを支える戦略資源と位置付けられます.
2020年代半ば以降、EV普及とエネルギー貯蔵需要の拡大で需要が急増し、リチウム原料(炭酸リチウムや水酸化リチウム)と電池材料の需給が市場価格に敏感に反映される状況が続いています.非電池用途(ガラス・セラミックス、潤滑グリース、工業用途、医療用途など)も一定量存在しますが、割合は小さく、全体需要は電池用途が圧倒的です.
2024年の生産量に基づくシェアはオーストラリアが36.7%で首位、チリ(20%)、中国(17%)、ジンバブエ(9%)、アルゼンチン(7.5%)と続きます.
主な製法
リチウムの商業生産は大きく「ハードロック(鉱石)ルート」と「かん水(brine)ルート」に分かれます.
1. ハードロックルート
ハードロック鉱床からスポジュメン(LiAlSi2O6)などの鉱石を回収し、破砕・粉砕・浮遊選鉱などでリチウム濃度を高めた濃縮鉱を作ります.濃縮品は港へ輸送し化学品精製プラントへ送られます.
濃縮鉱は熱処理、酸・アルカリ処理を経て炭酸リチウム(Li₂CO₃)や水酸化リチウムLiOH)へと変換されます.
ハードロックルートでは、採掘→濃縮→化学変換と段階がはっきりしているため、鉱山側と化学精製側で事業を分けているケースが多いようです.鉱石の供給が比較的安定的な点が利点である一方、高温処理が必要なためエネルギー消費とCO₂排出が大きい点が欠点です.
2. かん水ルート
かん水(鹹水)とは、塩化ナトリウムなどの塩分を多量に含んだ水のことです.かん水ルートでは、塩湖や地下帯水層に溜まったリチウム含有溶液を原料とします.
まずかん水を汲み上げて深い蒸発池に送り、太陽と風を利用して段階的に水分を蒸発させ、リチウム濃度を高めます.次いで、不純物(Mg²⁺やCa²⁺)の処理し、Na₂CO₃を加えることで、Li₂CO₃を沈殿させて回収します.
かん水法の強みは、大規模かつ比較的低コストでの連続生産が可能な点です.逆に弱点は、蒸発池の広大な土地需要と長期の生産立ち上げ時間、また現地の水資源・環境問題(生態系・農業用水への影響)など社会的インパクトが大きい点です。
3. その他のルート
近年、DLE(Direct Lithium Extraction)と呼ばれる直接抽出技術が注目されています.DLEはイオン交換、溶媒抽出、吸着剤、膜プロセス、電気化学的分離など複数技術を指す総称で、蒸発池に依存しない短期間でのリチウム回収を可能にします.
その他、使用済み電池のリサイクルによる二次供給も期待されています.
輸送・貯蔵
リチウム製品は形態(鉱石・濃縮品・化学品・金属・電池)で取り扱いが異なります.
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鉱石・濃縮品:車、鉄道で港へ.海上ではバラ積みや専用コンテナで輸送
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固体化学品:炭酸リチウムは粉末で、湿気を避けて保管.水酸化リチウムは吸湿性のため湿度の管理が重要.金属リチウムは反応性が高いため防湿・不活性ガス封入環境で保管・輸送
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リチウムイオン電池(完成品):熱暴走時の発火・再燃リスクと有害ガス放出があるため、輸送前の検査・梱包検証が重要
利用
リチウムの利用は圧倒的に電池用途が中心です.
現在、世界のリチウム需要の大半(およそ8〜9割)はリチウムイオン電池の原材料に消えています.EVだけでなく、定置型蓄電、電動工具、家電、ポータブル電子機器まで幅広い製品群に及びます.
一方で、非電池用途も無視できない水準です.ガラス・セラミックス分野ではリチウム化合物が熱膨張係数の制御やガラスの機械的特性を改善するために使用され、キッチン用品や光学ガラスなどに使われます.潤滑グリースに配合することで高温下での安定性を向上させる用途、工業プロセスにおけるフラックスや添加剤、さらには一部の医療用途など、ニッチながらも付加価値のある用途が続きます.これらの用途はリチウム需要全体の比率としては小さいものの、景気変動で電池需要が減速した場合に需要の下支えになる役割を果たします。
ナトリウムイオン電池など新しい電池の普及は、リチウム需要を押し下げる可能性がありますが、現状ではリチウムに取って代わるにはまだ技術とコストのハードルがあります.
関連企業
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上流(鉱山・かん水):Albemarle(豪州・米国・南米で鉱山・かん水権益を持ち、化学品能力の拡張も実施)、SQM(チリの大型かん水事業者)、Allkem / Arcadium(アルゼンチンのOlaroz等を含むかん水資産を運営)など
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中流(精製・化学品):大手化学・資源企業(精製能力を持つ)、中国系化学メーカー(Li₂CO₃ / LiOH の精製能力で大きなシェア)
- 下流(正極材・セルメーカー・自動車):正極材メーカー(BASF、Umicoreなど)、セルメーカー(CATL、LG Energy Solution、Panasonic、Samsung SDI、SK On など)、自動車メーカーなど
日本企業では、アルゼンチンOlaroz等のプロジェクトに参画する豊田通商、北米に電池工場を拡大しているPanasonic Energy、正極材や素材事業、リサイクルへの投資を進める住友金属鉱山などのほか、商社や素材メーカーが上流資産や精製投資に関与しています.
固体科学的イメージ
なんといっても最強の電池であるリチウムイオン電池の主役です.電極・電解質材料いずれの開発でもリチウムが絡んできます.
電解質として使われるリチウム伝導体の進展は著しく、伝導度は毎年のように向上しています(全固体電池として用いるならこれほど高い伝導度は過剰という声もあり).正極材料は黎明期のコバルト酸リチウムとその類縁体のほか、スピネル酸化物やオリビン酸などが主要な材料です.
何の物質であってもリチウムが含まれていればとりあえず電気化学特性が測定されている印象です.
実際に扱ってみた感想
電池の研究はしていなかったのであまり使用する機会はありませんでしたが、インターカレーション反応を行う際に使用したことがあります.未反応のリチウムを処理する際にアルコールに鎮めるとぶくぶくと泡をたてていました.窒素と反応するので窒素雰囲気では保存できず、Ar雰囲気に保管していました.
参考文献
Market review – Global Critical Minerals Outlook 2024 – Analysis - IEA
Lithium Hydroxide vs lithium carbonate for a batter-powered future?
What's the difference between lithium hydroxide and lithium carbonate?
テキストの一部にChat GPT-5を使用