元素は実験室だけでなく、社会や産業の現場で日々使われています.本記事ではベリリウムの基礎的な性質から、製造・輸送、用途、そして市場の動向までを一望します.研究室時代に実際に元素を扱った際の感想つき.

原子番号4番、ベリリウム(Be、Beryllium)
ベリリウム(Be、原子番号4)は、軽金属に分類される非常に特殊な材料です.日常生活で見かける機会は少ないかもしれません.
軽いにもかかわらず剛性と弾性率が高く、熱伝導性にも優れるという無二の性質を持ちます.加えてX線や中性子に対する優れた透過性や低熱膨張といった特徴があるため、精密光学、鏡材、極低歪みが求められる慣性センサ、高周波デバイスの熱放散部材など、「軽さ+剛性+熱制御」が価値を生む分野で需要があります.
一方で、ベリリウムとその化合物は吸入や皮膚接触によって慢性的な健康被害(慢性ベリリウム病:CBD)を引き起こす可能性があります.この毒性のため、粉体・粉じん管理が必要な工程は厳格に管理されています.
世界市場は非常に小さいです.2024年の概況では、世界の鉱山生産は約360トン(Be換算)で、主要生産国は米国(約180t、約50%)・ブラジル(約80t)・中国(約77t)・モザンビーク(約24t)という状況です.生産規模が小さいため、社会情勢が即座に供給と価格に波及しやすいという市場的な脆弱性があります.
主な製法
ベリリウム資源は鉱石形態(代表的にベルトランダイトやベリル)として採掘されます.
採掘と前処理:鉱石を採取し、砕石・粉砕・濃縮(選鉱)によってベリリウム含有濃度を高めます.濃縮鉱を硫酸やアルカリなどで処理してリーチング(溶出)し、Be(OH)₂などの中間体を得ます.
還元・精錬・製形:得られた中間体を還元して金属ベリリウムを得るか、酸化物(BeO:ベリリア)として焼成、あるいは銅などと合金化してCu-Be合金を作るなど用途に応じて処理します.金属ベリリウムは鋳造・圧延・鍛造・機械加工などにより、薄箔、鏡材、部品形状へと仕上げ、BeOは焼結してセラミックス基板や部品に成形され、Cu-Be合金は圧延・引抜・熱処理によってスプリングや端子の形状に加工されます.
並行してスクラップ回収(工程内部スクラップや製品端材の回収・再精製)も進められます.回収比率は事業体によるものの、一定部分(概ね20%前後)が内部スクラップ回収で賄われているケースがあるようです.
輸送・貯蔵
ベリリウムには毒性(主に吸入による慢性ベリリウム病)があるため、粉体や粉じんが発生しない形での輸送・保管・加工が必要です.
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金属塊や塊材:固形であれば通常の金属同様に梱包・輸送が可能です.ただし切削・研磨工程では粉じんが発生するため、専用の封止・排気が必要です.
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粉末・微粒子:これらは有害粉じんとして分類されるため、UN番号に基づく梱包(密封容器、緩衝材、漏洩防止)と規制遵守が不可欠です.
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職場保管と環境管理:保管倉庫は粉じんの発生を抑える密閉設備、吸湿対策、専用換気などが必要です.
利用
ベリリウムの需要は「軽くて剛性が高く、熱をよく伝える」という性質に依拠しています.
米国ベースの売上構成によれば、産業機器や汎用部品向けの需要が約2割、航空宇宙・防衛が約2割弱、自動車電子が1割強、通信インフラや関連機器が約1割弱、消費電子やエネルギー分野がそれぞれ数パーセント、半導体向けは比較的小さく数パーセント程度といった配分になります.
航空宇宙・防衛・精密光学:この分野では「単位重量あたりの剛性」と「熱寸法の安定性」が極めて重要です.ベリリウムはアルミニウムより軽く、剛性が高いため、構造部材や鏡材に使うことで機器全体の軽量化と高精度化を同時に賄うことが可能です.これがロケット打上げコストや姿勢制御・光軸安定性に直結するため、費用対効果が見合う高付加価値用途でのみ採用されます.
電子・通信分野:BeOセラミックスやCu–Be合金が主要です.BeOは「電気絶縁性と高熱伝導」を両立する数少ない材料で、半導体パッケージや高出力RF部品の熱マネジメント基板として重用されます.一方、Cu–Be合金は高い機械的強度と弾性、および電気伝導性を兼ね備えるため、コネクタ端子やばね、リレー接点などの高信頼部材に多用され、自動車用電子機器や通信機器での採用が進んでいます.
放射線・X線機器:薄膜や窓材、非火花性工具や特殊合金部材といった用途です.X線透過性を必要とする計測機器では薄いベリリウム板が重宝され、産業用・医療用の検査装置での採用例があります.
ベリリウムは、その粉じん毒性により厳しい安全管理を必要とします.その結果、ベリリウムは「高付加価値・高技術要件」の領域でのみ使用され、一般用途には広がりにくいという構図が続いています.
関連企業
ベリリウムのサプライチェーンは「鉱山(資源)→濃縮・中間化学→精錬・製造→加工・最終部品」という流れで、小規模かつ高付加価値型という構造です.そのため、少数企業・少数拠点に供給が集中しています.
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Materion(米国):Spor Mountain を含む米国生産を背景に、鉱石の採掘から金属、BeO、Cu-Be母合金まで一貫して手掛ける代表的事業者
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Ulba Metallurgical Plant(カザフスタン):金属ベリリウムや母合金、酸化物を製造する拠点を有する東欧/中央アジアの主要プレイヤー
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中国の企業群:中国内でも鉱石採掘から精製までを担う事業者があり、世界供給における重要な一角を占める
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特殊合金メーカー(IBC Advanced Alloys 等):ベリリウムを含有する特殊鋳造材や加工製品を供給
日本は鉱山でベリリウムをほとんど産出していないため、原料を輸入し、国内で合金・部材・最終部品へ加工する形が一般的です.
たとえば日本ガイシ(NGK)はCu–Be合金の圧延・引抜・熱処理といった中間材生産や端材加工に長年の実績があります.第一金属や山本合金などの専業メーカーは、ばね材やコネクタ端子といった最終部品の加工技術や表面処理・熱処理技術で競争力を発揮しています.
固体科学的イメージ
正直マイナーな元素です.実際に扱ったことのある人も少ないのではないでしょうか.
ベリリウムを含んでいて特に有名な物質がKBe₂BO₃F₂(KBBF)です.深紫外域で位相整合が可能な実用的な二次非線形光学物質として知られています.無二の物質とは言えベリリウムの毒性は気になるので、ベリリウムを含まない代替材料の探索が進められています.
そのほか、エメラルドやアクアマリンなどの宝石類にも含まれています.
実際に扱ってみた感想
人体に有毒なので実験室で使用されることはほとんどありません.X線を透過する性能が高いので、XRDなどの装置で使用されていました.直接触らないように最大限の注意が必要です.
参考文献
Materion Is a Leading Supplier of Beryllium Products
テキストの一部にChat GPT-5を使用