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学振特別研究員DCの給料はこの35年でどう変わったか

日本学術振興会(JSPS)特別研究員-DC

日本学術振興会特別研究員 DC(学振DC)は、日本国内の博士後期課程に在学中の優秀な若手研究者に対し、研究に専念できる環境を整えることを目的とした支援制度です.

例えば、DC1では採用年の4月から最長3年間、月額20万円の研究奨励金*1の他に年間150万円以内の研究費が支給されます.経済的に苦しいことの多い博士課程学生にとって、非常にありがたい支援制度であることは間違いありません.その分、申請者の2割程度しか採択されないなど審査も厳しく、若手研究者の登竜門として広く知られます.

ありがたい支援制度ではあるものの、世間で賃上げの機運が高まっていたり、物価高が深刻な中で、月額20万円では心もとないこともまた事実.では、この月額20万円という額は妥当なのでしょうか.

世界的にインフレ(日本は長らくデフレ)が進行する中で、支給額がどのように移り変わってきたのかを見ていきます.

学振DCの支給額の移り変わり

支給額の推移について、公式サイトには掲載されていません.人づてに聞くしかないかと思いましたが、以下のような興味深いツイートを見つけました.今回はこれを信じて進めていきます.*2

結論、変わっていません.なるほど、グラフにするとこのようになります.解散!!

物価高にも賃上げの波にも負けず、一定の支給額を守り続けてくれたわけです.しかし、これだけでは味気ないので、もう少し細かく見ていきましょう.

物価の推移に合わせた支給額の調整

元のツイートでも指摘されているとおり、周りの物価や給与は大きく変わっているのに、学振の支給額は変わっていません.これは妥当なのでしょうか.

一般的には、実質賃金の算出に用いられるように、消費者物価指数(CPI)を用いて議論するのが良さそうです.

CPIとは、一般家庭で消費目的で購入する商品やサービスの価格を、ある時点を基準として指数化したものであり、物価の移り変わりを指数で表現したものです.CPIが大きくなるほど物価が上昇しており、小さくなるほど物価が下降していることを示します.

CPIは、政府統計の総合窓口から持ってきました.一般的な表し方とは違うかもしれませんが、1991年を1としてCPIを出力したのが下図です.

なるほど、この35年ほどで物価指数は1.2倍程度まで上昇しているようです.この物価指数をもとに、学振DC支給額の実質的な値を求めてみます.

ご覧のとおり、支給額の実質値は下降の一途であり、2024年では実質17万円ほどまで減少しています.額面で見るとそれほど大きな減少には見えないかもしれませんが、年額で240万円だったのが204万円、3年間で720万円だったのが610万円と、トータルで100万円以上なくなっています.この差は大きい.

あるいは、当初20万円だったものがCPIに沿って順調に上がっていったとしたら今の支給額はいくらになっていたのでしょうか.

現在の支給額は23.57万円が妥当なようです.年額にすれば283万円、3年間で849万円となります.やはりトータルで100万円くらいの差が開きます.

我々が失った100万円は一体どこへ行ったのでしょうか.

民間の賃金の推移との比較

とはいえ、CPIに沿った支給額の増加が一般的な話とは限りません.日本の他の職業の賃金も増えていないのかを見比べる必要があります.全体の賃金が上がっていないのであれば、学振の支給額が増えていないのも至極当然な話ではあります.

第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移

というわけで、内閣府のページから拝借した一人当たり名目賃金・実質賃金の推移です.名目賃金で見ると、1991年からほとんど動いていないのが分かります.これでは、学振の支給額だけを引き上げるというのもちょっと難しいかもしれません.

とはいえ、昨今(上図に反映されていない2021年以降)は大企業も中心に賃上げも順調ですので、その機運が学振の待遇にまで進出するのではないでしょうか.一方で、直近では名目賃金は上がってきているのですが、それ以上に物価上昇の波が進んでいて実質賃金は追随できていない状況です.

その状況で名目の支給額も上がっていない学振はいったい....うごごご!!

まとめ

学振DCの支給額はこの35年間で変化していません.本来はインフレ率に合わせて支給率も変わっていくのが基本だと思うのですが、そもそも日本の実質賃金が上がっていないので学振の増額も棚上げにされてきたようです.

直近は物価高が深刻ですが、このまま支給額が変わらなかったら...

参考文献

第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移 - 内閣府

*1:給料とは呼ばないらしい

*2:ChatGPTに聞いても支給額の変動はないとのことだったので信用して話を進めていきます.JSPSの過去の資料全てに目を通したわけではありません.