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格子定数:結晶構造を知る第一歩

結晶構造と格子定数(Lattice constant, lattice parameter)

食塩(塩化ナトリウム)をはじめとした身の回りの多くの無機物質は結晶です.すなわち、原子の特定の配列が3次元空間で規則正しく整列した構造を持ち、例えば塩化ナトリウムでは、\rm{Na}\rm{Cl}が互いに隣り合うように1:1の比で整列しています.

塩化ナトリウム型構造の他にも、結晶構造には非常に多くの種類が知られています.無数に存在する結晶構造をどのように区別すればよいでしょうか.

着目するのは、原子配列の繰り返しの基本となる最小の単位ユニットです.このユニットは単位格子あるいは単位胞と呼ばれ、平行六面体の形になるように規定されています.単位格子は、原子の配列パターンに応じて単純格子・体心格子・面心格子・底心格子の4種類に分類されます.

結晶構造の基本形は結晶系と呼ばれ、結晶の繰り返し構造の形によって分類されます.繰り返し構造は平行六面体の形をしているので、辺の長さ(軸長)や面の間の角度(軸角)によって呼び名が変わり、立方晶系・正方晶系・直方晶系・単斜晶系・三斜晶系・六方晶系・三方晶系の7種類が知られています.

結晶系に単位格子を加味して結晶構造を規定したのがブラべー格子であり、全ての結晶構造の基本となります.ここで結晶構造を規定するために用いた、繰り返し構造の軸長と軸角をまとめて格子定数を呼びます.

このように、格子定数は結晶構造を知る上で非常に重要なパラメータです.

格子定数の定義

結晶の繰り返し構造は平行六面体です.平行六面体の形を知るためには、全部で6つのパラメータが必要です.すなわち、辺に対応する長さを3種類と、各面(あるいは辺)の間の角度を3種類指定すれば平行六面体の形を規定できます.

軸長をそれぞれabcと表します.abの間の間の角度をγbcの間の角度をαcaの間の角度をβと表します.

これら全てのパラメータをまとめて格子定数と呼び、結晶系は、格子定数の値に設けられる制限によって決まります.

結晶系 格子定数
三斜晶系 Triclinic

a ≠ b ≠ c

α ≠ β ≠ γ ≠ 90°

単斜晶系 Monoclinic

a ≠ b ≠ c

α = γ = 90° ≠ β

直方晶系 Orthorhombic

a ≠ b ≠ c

α = β = γ = 90°

正方晶系 Tetragonal

a = b ≠ c

α = β = γ = 90°

三方晶系

Trigonal

 

Rhombohedral

 

a = b ≠ c

α = β = 90°, γ = 120°

a = b = c

α = β = γ < 120° ≠ 90°

六方晶系 Hexagonal

a = b ≠ c

α = β = 90°, γ = 120°

立方晶系 Cubic

a = b = c

α = β = γ = 90°

  • 三斜晶系では、軸長にも軸角にも何の制限もありません.
  • 単斜晶系は、軸角のうち2つは直角(90°)となります.これにより、1本の2回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持つという単斜晶系の対称性の条件に整合します.
  • 直方晶系では、3つの軸角がすべて90°です.これにより、3本の2回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持つという単斜晶系の対称性の条件に整合します.
  • 正方晶系では、3つの軸角がすべて90°であるという条件に加えて、2つの軸長が等しくなります.これにより、1本の4回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持つという直方晶系の対称性の条件を満たします.
  • 三方晶系は、1本の3回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持ちますが、それに整合するためにいくつかの条件をつけます(詳しくは表を参照).
  • 六方晶系は、2つの軸長が等しいという条件とともに、2つの軸角が90°でもう一つが120°となります.これにより、1本の6回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持つという六方晶系の対称性の条件を満たします.
  • 立方晶系では、3つの軸長が全て等しく、軸角は全て直角です.すなわち、立方体です.これにより、4本の3回回転軸あるいはそれに相当する対称性を持つという六方晶系の対称性の条件を満たします.

格子定数の値は結晶構造によって様々ですが、代表的な結晶構造では3-10\text{ }Å程度です.(1 Å = 10^{-10} \text{ }\rm{m}).この値は1\text{ }Å程度の波長を持つX線に近く、それゆえX線回折測定(XRD)によって格子定数や結晶構造に関する情報を得ることができます.

格子定数は物質特有の値ですが、測定する環境によってわずかに変化します.例えば、高温では熱膨張によって軸長が大きくなります.

格子定数が大きな(小さな)物質を作成するためには、化学的な性質が近くより大きな(小さな)元素を置換し、固溶体を形成させます.例えば、ペロブスカイト\rm{SrTiO_3}では\rm{Sr}\rm{Ba}で一部置換することで軸長が大きくなります.

また、固溶体を広い組成範囲で形成したり、薄膜で物質を堆積させる場合には、格子定数の近い母物質を選定することが肝要です.

まとめ

現在では様々な結晶構造が知られており、それぞれに特有の名前がつけられ、ペロブスカイト構造や蛍石型構造のように有名なものもあります.物質の性質は構成原子と結晶構造によってほとんど決まるため、物質の結晶構造を調べ、物性と結晶構造がどのように結びついているかを調べることが重要です.そして、結晶構造を知る上で有力なパラメータが格子定数です.

参考文献