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アモルファス(非晶質)と結晶:無秩序な秩序が生み出す可能性

アモルファス物質(非晶質、Amorphous material)

高温では気体や液体のように自在に形を変えていた物質も、十分に冷やせば固まります.この固体の状態では、原子はどのように並んでいるでしょうか.鉄や食塩といった代表的な固体物質では、物質内で原子が非常に規則正しく並んでいます.この状態を結晶と呼びます.

物質内において、原子は静電力や量子力学的な相互作用によって互いに付かず離れずの最適な距離を取ろうとします.このバランスを上手く整合させた結果として、原子は規則正しい結晶構造を形成します.塩化ナトリウム型構造ペロブスカイト構造などは固体化学を代表する結晶構造です.

しかし、物質によっては結晶構造を形成せずに、原子がバラバラに固まり、規則的なパターンを一切示さないことがあります.液体のように原子の位置が揺らいでいるのではなく、固まって動かないにも関わらず、その位置のパターンに規則性が無いのです.このような物質をアモルファス物質やアモルファス固体と呼びます.

アモルファス物質は、原子配列の違いに基づき、結晶材料とは多くの点で異なった物質特性を示します.シリカガラスはもちろんのこと、アモルファス半導体、磁気記録材料、軟磁性材料などで利用が盛んです.

今回は、アモルファス材料と結晶材料との違い、そして応用材料としてのアモルファス材料の活躍の様子を見ていきます.

アモルファスの意味と特徴

アモルファス(Amorphous)はギリシャ語の a (無いこと)と morphé (形、形状)に由来し、「形がないこと」を意味します.その名の通り、明確な原子の繰り返しパターン(結晶構造)を持ちません.非晶質とも同じ意味です.

なお、アモルファスと呼ぶときには、本当に形のない気体や液体の状態ではなく固体の状態を暗黙のうちに意味しています.また、アモルファスは形容詞であるため、物質自体を指してアモルファスと呼ぶのは誤りで、「アモルファス状態」や「アモルファス物質」のように呼ぶのが正しいです.

結晶とアモルファス物質

結晶では、規則正しく並んだ原子によって電磁波(主にX線)が回折します.そのため、X線回折測定を行ったときに明瞭なピークが観測されます.しかし、原子の規則性のないアモルファス材料では明瞭なピークが見られません.このため、回折パターンの有無をもって結晶物質とアモルファス物質を区別することができます.

一方、矛盾するようですが、アモルファス材料であっても構造の規則性を持つ場合があります.シリカ(\rm{SiO_2})を例に取ると、アモルファスシリカでは\rm{Si}\rm{O}が全てランダムに分布しているわけではなく、\rm{Si}は常に\rm{O}に囲まれており\rm{O}同士が直接結合することはないなどのルールが課せられています.

このため全体で見ればランダムであっても原子レベルで局所的に見れば何らかの規則性が存在しています.

ガラスとアモルファス物質

ガラスはアモルファス材料の一種です.高温で液体となった物質を徐々に冷やしたとき、過冷却現象によって、成分が固体結晶となるべき温度に達しても液体状態を保持することがあります.さらに冷やすと、ある温度点(ガラス転移温度)を境に、液体全体としての粘性が高くなりすぎて原子が移動できない固体状態となります.このように過冷却状態が、ある転移温度を境にして見かけ上固体となる転移をガラス転移と呼び、明瞭にガラス転移を示す物質をガラスと呼びます.

このように熱力学的な背景を持った用語がガラスであるため、物質の見た目だけでそれがガラスであるかを判断することはできませんが、大抵の場合では些細な問題かと思います.

アモルファス物質の例

ほとんどの純物質は結晶構造を形成し、アモルファス状態にはなりません.一方で、アモルファス状態となる物質もよく知られており、石英ガラスは代表的なアモルファス材料です.石英では、\rm{Si-O-Si}結合が網目状に不規則に連結しており、全体として明確な構造パターンを持ちません.窓や食器、光ファイバーなど身の回りにあふれている万能材料です.

鉄は磁性材料としても構造材料としても一流であり、元素の添加(合金化)によってさらに様々な特性を向上させたり加えることができます.鉄にどのような元素を加えてもほとんどは結晶のままですが、構成元素数を増やし\rm{B}\rm{P}などのpブロック元素を加えるとアモルファスとなる場合があります.これらは保磁力が低く軟磁性材料として利用されます.また、強靭性や耐食性によって構造材料としても優れます.

通常はダイヤモンド構造を有するシリコンも、水素を添加することでアモルファス状態を安定化できます.アモルファスシリコンは結晶シリコンよりもバンドギャップが大きく、吸収係数が大きいなどの特徴により、半導体素子としての利用が盛んです.

多くの材料においてアモルファス状態は不安定な状態であり、元素の添加によって不規則構造を安定化する工夫がされています.

アモルファス物質の物性

アモルファス状態の特徴は、「近くで見ると大きな構造の乱れを持つけれども遠くから見ると均質」であることです.

まず近くで見てみましょう.原子が規則的に並んでいないので、当然原子はバラバラに並び、私の部屋のようにごちゃごちゃしています.このような足の踏み場もない状態では当然、動き回ることは難しいでしょう.実際、アモルファス材料は電気伝導度や熱伝導度が結晶性物質と比べて低い値を示します.

一方で、遠くからみればアモルファス材料は均質です.原子が規則正しく並んでいる結晶の方が均質なように見えますが、結晶には成長しやすい面や割れやすい面、電子が伝導しやすい方向などがあるため、方向ごとに物性に差が出てきてしまいます.一方、どこをみても「平等にバラバラ」なアモルファス状態ではどの面にも方向にも区別がありません.

この影響により、アモルファス材料は割れやすい方向が無く、全体として優れた強度や靭性を示します.成長しやすい面が無く「尖った」方向がないため平坦であり、原子を積層させるためのフラットな土台としても活躍します.粒界(結晶と結晶の切れ目)がないため、均質な状態の材料を大型化可能というメリットもあります.

このような特徴を生かして産業で活躍するアモルファス材料を紹介します.

アモルファス半導体

半導体とは流れる電気の量をコントロールできる物質であり、オンオフスイッチからCPUまで現代機器には欠かせません.一般にCPUに用いられる半導体としてはシリコンが有名ですが、これはダイヤモンド構造と呼ばれる結晶構造を持っています.

アモルファス材料の結晶材料に対する優位性は、低温で大面積の薄膜を容易に作成できる点です.シリコンに水素を吹き込んで得られる水素化シリコンは1950年代に研究が活発化したアモルファス半導体の先駆けであり、現在も太陽電池などの半導体素子で使用されています.

東京工業大学のグループが見出したアモルファス酸化物材料(In-Ga-Zn-O, IGZO)は、アモルファスシリコンよりも電子の移動度が一桁大きく、オフ電流が極めて小さく、透明で光を通します.この特性を活かし、スマホやタブレットなどのディスプレイで使用されるとともに、アモルファス酸化物自体が学会の一大トピックに上り詰めました.

アモルファス磁性体

磁性材料は、磁化を保持する能力(保磁力)の大きさによって硬磁性体と軟磁性体に大別されます.保磁力の極端に小さい軟磁性材料はスイッチングデバイスとしてモーターやパワー半導体分野で活用されます.軟磁性材料に求められるスペックには色々ありますが、特に重要なのは保磁力が小さいことと電気抵抗が大きいことです.

原子配列が本質的にランダムなアモルファス材料では、原子内の磁界が向きやすい方向が存在しないため簡単に方向を反転でき、それゆえ非常に小さな保磁力を示します.また、原子配列の乱れによって電子の伝導が妨げられ、大きな電気抵抗率も示します.以上の点より、アモルファス材料は優れた軟磁性体として知られています.

一方、アモルファス状態の安定化には鉄だけでなく複数種類の元素を混ぜ合わせて合金化する必要があるため、結晶性磁性体よりは磁力の大きさで劣る場合が多いです.アモルファス磁性体の合成には急冷などのテクニックが必要なため大量生産がやや不得手です.

また、磁性体自体ではありませんが、HDDなどの薄膜状の磁気材料を作成する際には、フラットな原子表面を提供できるアモルファス材料が基板として使用されます.

まとめ

机の上にモノをキレイに並べるのは手間がかかりますが、原子を集めると勝手にきれいなパターンを持った結晶として整列します.逆に散らかすのは大変で、アモルファス状態を維持するには何らかの工夫が必要になります.

このように苦労して得られるアモルファス材料は、結晶物質とは一味異なった性質を示し、それを活かして結晶物質だけでは得られない様々なデバイスに応用されています.近年では、結晶物質とアモルファス物質の間の子と言える準結晶(アモルファス寄り)やハイエントロピー合金(結晶寄り)も見出されており、数千年前から続く合金業界にも新しい風が吹き荒れています.

参考文献

Stachurski, Zbigniew H. "On structure and properties of amorphous materials." Materials 4.9 (2011): 1564-1598.

Berthier, Ludovic, and Giulio Biroli. "Theoretical perspective on the glass transition and amorphous materials." Reviews of modern physics 83.2 (2011): 587.

Hosono, Hideo. "How we made the IGZO transistor." Nature Electronics 1.7 (2018): 428-428.

Amorphous solid | Properties, Structure & Examples | Britannica

化学と教育 1995 年 43 巻 6 号 p. 378-379

計測と制御 1985 年 24 巻 6 号 p. 503-507,520

Oyo Buturi 2005 Volume 74 Issue 7 Pages 910-916