更新 2024-2-23
論文を無料で読もう
学術論文は基本的に出版社の商品であり、読むためにはお金がかかります.
大学や研究機関に所属していると、個人は基本的に無料で論文にアクセスできます.このため普段は意識しにくいですが、大学や研究機関が出版者にお金を支払うことで個人が無料で論文を読めるわけです.
それも端金ではなく、何億もの大金が大学から出版社に支払われています.
財源として学費や税金が充てられていることを考えれば、決して他人事ではない事が分かるでしょう.
実際に財源が確保できずに出版社との契約を打ち切る大学も出てきています.
2019年には、かの名高いカルフォルニア大学が、購読料値上げへの対抗措置として大手論文出版社エルゼビアの購読を打ち切りました(2021年に再契約したようです)[a]
その他、複数の科学者が出版社への「知識の代償」運動を繰り広げたり、なかなか一筋縄ではいかない状況です.[b]
もちろん出版社側にも利益を出す必要性があるため無条件の悪と決めつけることはできません.誰かがどこかでお金を払わなくてはなりません.
とはいえ、出版社の利益率が不当に高すぎるという話もあり、無償で論文投稿・査読・編集をしている研究者が搾取される側である状況は変わりません.
話が逸れましたが、このような水面下の話は一個人にはあまり関係がなく、論文を読むためにはどうすればよいかという話です.
大学や研究機関が購読している学術誌であれば負担なく読めますが、購読していない学術誌は読めません.また、企業勤めやフリーの人など、勤務先が購読契約をしていない場合もあるでしょう.
学術論文など専門家しか興味ないと思うかもしれませんが、例えば医療や環境のニュースがあったときに一次ソースである学術論文をチェックしてみたい人もいることでしょう.
そうした一個人であっても論文にアクセスすることは可能です.しかし、一括契約を行っていないため、個別の論文ごとにお金を払う必要があります.
例えば、1記事の48時間のアクセス権が5000円です.誰が払うんや.
値段を10分の1にしたところで売上が10倍になるような商品ではないことは分かりますが、せめて500円くらいにしてくれないと個人には厳しいものがあります.
では、どうするか
では、個人では論文を読むのは難しいのかと言えばそんなことはありません.
近年では、急速にオープンアクセス化の波が押し寄せており、「知識を無料に」のスローガンの元、無料で読める論文が増加しています.
オープンアクセス専門の学術誌もあり、そうした雑誌の論文は全て無料で読むことができます.
その他にも、「合法的に」無料で論文にアクセスできる手段が増えてきており、最新の知識への壁はだいぶ取り払われつつあります.もちろん全ての論文を無料でという段階には程遠いですが、オープンアクセスの土壌が整いつつあることは消費者にとっては朗報でしょう.
もちろん誰かがお金を支払うことでシステムが成り立っているわけですが、消費者はそのようなことを気にする必要がありません.
以下では、インターネット上で「合法的に」「無料で」学術論文を読むことができる方法を紹介します.
(1)オープンアクセス学術誌の論文を読む
オープンアクセス専門の学術誌は全て無料で閲覧することができます.
オープンアクセス誌はいわゆるハゲタカジャーナルの存在など何かと槍玉に挙げられやすく、たしかに酷い質のジャーナルが存在するのも確かです.しかし、大手の出版社ではオープンアクセスかつハイクオリティなジャーナルの創設が進んでいます.
オープンアクセス誌の一覧は別の記事にまとめますが、特に質の高い、代表的なオープンアクセス誌として以下のものが挙げられます.
・Nature Communications
・Science Advances
・Cell Reports
・ACS Central Science
・JACS Au
・Physical Review X
・Chemical Science
・Advanced Science
(2)オープンアクセスとなっている論文を読む
基本的にオープンアクセス誌以外の学術誌は、購読にお金がかかります.しかし、場合によっては著者が論文をオープンアクセスにすることが可能なオプションがあります.
著者がオプションを選択すれば、誰でも無料で読めるようになります.そのため、ある学術誌の中でも無料で読める論文もあれば、購入が必要な論文もあることになります.
論文がオープンアクセスになっているかどうかは、論文のアクセスページを見れば書かれています.
(3)著者や機関が無料で公開している論文を読む
学術誌によっては、論文の出版から一定の期間経過後に、利用規約の範囲内で著者が論文を個人のウェブページや大学のデータベースに公開することを許可しているものがあります.また、論文の公開から一定の期間後に、学術誌のページで論文が無料で公開される場合もあります.
Cellで有名なCell Pressの論文は、発行から12ヶ月経過後に自動で無料公開されます.
また、著者に一定数の無料アクセスを許可しているケースもあります.この場合、著者と個人的に連絡を取り、著者からの返事がくれば、論文pdfを送ってもらえるかもしれません.
あまり多くの論文をお願いするのは考えものですが.著者にメールを直接送る、著者のTwitterを探す、ResearchGateでお願いするなどの選択肢があり、どれもハードルが高いですがうまくいけば気に入ってもらえるかも.
まとめ
以上のように、最近では学術機関に所属していなくても最新の学術論文を読むことが可能になりました.流石に全ての論文を読むことはできませんが、最新の論文であれば体感で4分の1程度は無料で読むオプションが利用可能な印象です.
しかし、オープンアクセス専門誌を探すのならともかく、他の手段でどの論文が無料か探し当てるのは骨の折れる作業です.
著者と個人的に連絡を取り、著者からの返事を期待するか、学術データベースから離れ、個人のウェブページで公開されている論文をウェブで検索するか、はたまた大学のデータベースにアクセスする必要があります.多くの論文を必要とする場合、この方法はかなり効率が悪いです.
次の記事では、具体的に無料の論文をどのように探すかを解説します.
参考文献
[a] カリフォルニア大学、エルゼビア社との転換契約を発表|学術情報流通|国立情報学研究所 オープンサイエンス基盤研究センター