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無料で読める学術誌:誰でも最先端の研究に触れられる!

更新 2024-2-24

やっぱり論文を無料で読みたい

大学や研究機関に所属していると大抵の論文は無料で読むことができます.そのため普段は意識することがないかもしれませんが、論文は出版社の著作物であり購読には本来お金がかかります

大学を卒業してから、いざ論文を読みたいとなったとき(そんな人がいるかはさておき)、改めて大学のありがたさが身にしみるケースもあるかもしれません.

では、なぜ大学で論文が無料で読めるのかといえば、大学が出版社にお金を支払っているからです.出版社によっては数億数十億のお金が動き、そしてそのような出版社が何社も存在します.

一体全部でいくらかかるんや…

 

実際、費用が払いきれない、あるいは「こんなに金払えるか!」とボイコットして一部のジャーナルの購読をやめてしまうところも多いです.というか全部のジャーナルを購読できるような予算のある機関などありません.

特にNature系ジャーナルは購読料が高額で、旧帝大であっても全てのNature系ジャーナルを閲覧できません.*1

 

このように、我々が論文を読める環境構築のためには多大なお金がかかっています.大学には所属する人の数が多いので購読料が高いのは致し方ないところもありますが、改めて考えると大変な話です.

とはいえ他人事ではなく、学費や税金からその費用は捻出されているので、所属している間はその恩恵を目一杯享受したいものです.

 

では、大学や研究機関に所属していない一般人が論文にアクセスするにはどうするでしょうか.

あまり多くの需要があるとは思えませんが、それでも一般企業の技術者や、フリーのサイエンスライターのような人であれば一次資料の論文を読む必要性に駆られることもあると思います.あるいは趣味で論文を読みたい方もいるかもしれません.Natureレベルであれば趣味で読んでいる人もいることでしょう.

こうした人達が論文を読みたいのであれば、基本的にはジャーナルの論文を一つ一つ個別に購入する必要があります.

その額、1記事につき5000円程度.流石に個人では厳しい…

そんな人達に朗報で、世の中にはオープンアクセス論文というものがあります.オープンアクセス論文はいつでも誰でも無料で読むことができます.

オープンアクセスジャーナル

オープンアクセス論文では「論文の著者」が掲載料を支払うことによって無料でのアクセスが認められます.論文に記事を提供してくれる著者からお金までもらえるんですね.

かくして出版社は、出版物の準備、出版物の品質管理(査読)、出版物印刷の費用まで全て研究者に無償で行ってもらえる環境を手に入れたわけです.

流石に研究者が不利すぎないか…と思ってしまうわけですが、当人たちにとってみれば「それだけの価値がある」みたいなので我々が気にしても仕方ありません.最新の研究成果を無料で閲覧できることを喜びましょう.

オープンアクセス専門の学術誌は増えてきたものの、その質は玉石混交の状況です.それでも、厳しい査読によって質の高い論文を維持しているジャーナルは存在します.

今回は、固体科学分野のうち、特に質の高いオープンアクセス論文誌を紹介します.

オープンアクセスジャーナルの一覧

(1)三大学術誌(CNS)のオープンアクセス誌

自然科学における三大学術誌はCNSと呼称され、それぞれ「Cell」「Nature」「Science」を指します.

いずれもトップジャーナルとして知られ、研究者であれば誰もが知る究極の存在です.若手研究者でCNSに論文を載せれば将来安泰、とまでは言いませんが少なくとも同僚から一目置かれるのは確かです.

このうちCellは医学・生化学の専門誌であり、固体との直接の関わりはありません.一方、NatureとScienceは総合科学雑誌なので自然科学の全分野が掲載され、その中にはもちろん固体分野の記事があります.

CNSに論文が掲載される名誉のために世界中から論文が投稿され、やがて全てを受け付けきれなくなった出版社は数々の専門誌(いわゆる姉妹誌)を創設しました.

続いて、CNSの内容を補完する完全オープンアクセス雑誌が創設されました.CNSは有料ですが、こうしたオープンアクセス誌は当然無料で利用できます.

Nature Communications

2010年に設立された、かのNatureグループのオープンアクセス誌です.「Nature Communicationsに論文出た!」と言ったら、分野に明るくない人にNatureに論文出したと勘違いされるのはもはや様式美.

両者は全く別の雑誌ですが、Nature CommunicationsもNatureには及ばずともかなり質の高いジャーナルです.大学のプレスリリースで見かけること多し.

掲載料は70〜80万円程度と馬鹿みたいに高額ですが、それだけの価値はあるんでしょうね.インパクトファクターも12〜15程度と高水準です.

Communications Chemistry
Communications Physics
Communications Materials

Nature Communicationsをさらに補完する目的で創設された専門誌です.他にも複数のCommunications系雑誌があり、いずれもオープンアクセス誌です.もはやNatureの名を冠さなくなりました.

上に挙げたジャーナルはそれぞれ、「化学」「物理」「材料」の研究内容を補完します.2018年頃から順次創設されました.

Scientific Reports

とんでもない採録数を誇る世界最大級のメガジャーナルです.「論文の重要性やインパクトではなく、科学的正当性のみを評価すること」を信条にしており、科学的に妥当な論理構成であれば問題なくアクセプトされるみたいです.

Natureの名を冠さないもののNature系列ではあるので、プレスリリースでよく見かける印象です.Natureの名前を勝手につけてNature Scientific Reportsと称してリリースされることもしばしば.

掲載数が多い上にジャンルは膨大、玉石混交で、目当ての論文を見つけるには骨が折れます.掲載料は20〜30万円程度とまだ良心的(?).

Science Advances

Natureグループに遅れること数年、2015年に設立されたScience系のオープンアクセス誌です.基本的に役割はNature Communicationsと同じです.

インパクトファクターもNature Communicationsとほとんど変わりません.掲載料は50〜60万円程度と少しだけ安いです.

Chem
Joule

Cell系ジャーナルは基本的に医学・生命科学が中心で、材料系のジャーナルはほとんどありません.そんな中で、Chemは化学に関する、Jouleはエネルギー材料に関する数少ないジャーナルです.

基本的にこれらはオープンアクセス誌ではありませんが、Cell Pressでは発行から12ヶ月たった論文を無料で読むことができます.ありがたい限りですね.

インパクトファクターは、Chemが20オーバー、Jouleが40を超える化け物ジャーナルです.

(2)アメリカ化学会(ACS)のオープンアクセス誌

Homepage - ACS Open Science

世界各国に化学の学会は数多ありますが、その中でも最も権威のあると言われているのがアメリカ化学会です.

アメリカ化学会の化学専門誌 Journal of the American Chemical Society (JACS)は化学者の実力のバロメータと言ってもいいほどの知名度と権威を誇ります.

そんなアメリカ化学会のオープンアクセス誌として有力なのは、以下の3つです.

ACS Central Science

アメリカ化学会の最初のオープンアクセス誌で、2015年に創設されました.「科学的品質、独創性、重要性、そして世界の化学界にとって関心の幅が非常に広いと判断される記事」が重視され、並外れたクオリティと独創性ある研究のみが掲載される非常にハイレベルな雑誌です.

アメリカ化学会の力の入れようは相当で、なんと投稿料も掲載料も購読料も無料というサービスっぷりです.集金を見込むのではなく、歴史的な成果を逃さないための雑誌として位置づけているようです.

インパクトファクター(IF)は13〜15程度と高水準(2022年).

JACS Au

2020年に創設されたオープンアクセス誌です.同学会の看板雑誌JACSを補完する役割、すなわちJACSに落とされたけども十分なクオリティのある論文を逃さないために設置されたと思われます.

JACSと同じく、化学に関するすべての分野の論文が収録されます.また、同時期に、同じくAuを冠するオープンアクセス誌が複数創設されています.

ACS Omega

ACSの全ての雑誌を補完する役割で設置されたと思われるオープンアクセス誌です.Omegaの名の通り掲載論文数は膨大で、掲載ジャンルは化学の全分野に及びます.ACSの論文のどこかにリジェクトされると、ACS Omegaへの投稿が勧められます.

その質はまさに玉石混交で、読者の鑑識眼が試されることになります.インパクトファクター(IF)は3〜4程度(2022年).

(3)アメリカ物理会(APS)のオープンアクセス誌

Homepage - ACS Open Science

化学界と同様に、物理界でもアメリカの物理学会が頂点に君臨しています.アメリカ物理学会の代名詞であるPhysical Reviewは数々の歴史的な論文を世に出した格調高い雑誌です.

特に、速報誌Physical Review Lettersは同学会の看板ジャーナルで、「重力波の発見」をはじめとしたノーベル賞受賞論文が数多く掲載されています.

アメリカ物理学会のオープンアクセス誌として有力なのは、以下の2つです.

Physical Review X

物理学に関する全ての論文の中でも、「革新性、品質、長期的なインパクトを重視した」オープンアクセス誌です.

ACSにおけるACS Central Scienceのような立ち位置ではないかと思われます(ただし、Physical Review Xは掲載料が50〜60万円ほどかかる).

ACS Central Science同様、掲載される論文の数は少なく、厳しく審査された論文のみが掲載されます.速報誌Physical Review Lettersを補完する役割もあるのか、10ページ以上の長めの論文をよく見るような気がします.また、PRXを関した姉妹誌も登場しています.

Physical Review Research

物理学に関する全てのジャンルを受け入れるオープンアクセス誌で、2021年に創設されたばかりです.基本的にACSにおけるACS Omegaのような役割を担うのではないかと思われます.すなわち、他のPhysical Review系の物理学全分野を補完するような役割です.

掲載料は30〜40万円程度で、ほどほどといったところ.

(4)英国化学会(RCS)のオープンアクセス誌

Open access research

RSCは英国における由緒正しき化学会です.1841年に設立された「化学会」を筆頭に4つの英国の学会が、1980年に統合されて設立されました.少しアメリカ化学会の後塵を拝している感は否めないものの影響力は未だに健在で、有力な学術誌が数多くあります.

英国化学会で有名なオープンアクセス誌は以下のようなものが挙げられます.

Chemical Science

2010年にイギリス発の総合化学雑誌として登場しました.当初は有料でしたが、2015年からオープンアクセス誌となりました.ACSのJACSやWileyのAngewandte Chemieと同様に、化学の中心トピックを網羅したハイレベルなジャーナルとなっています.

インパクトファクター(IF)は9〜10程度(2022年)に上がり続けており、JACSやAngewandte Chemieに迫る勢いです.

RSC Advances

2011年に創設されたオープンアクセス誌です.化学に関する全てのジャンルの論文が掲載されます.基本的に、ACSにおけるACS Omegaと同じ役割を担います.やはり質は玉石混交で価値を見極める力が必要になります.インパクトファクター(IF)は3〜4程度(2022年)と、こちらもACS Omegaと同じ程度.

(5)Wiley-VCHのオープンアクセス誌

Browse Open Access Journals | Wiley

Wiley-VCHはJohn Wiley & Sons, Inc.傘下の出版社で、ドイツ化学会を前身とします.同社の由緒正しい化学雑誌Angewandte Chemieは世界的に有名で、ACSのJACSと並び称されます.

また、Angewandte Chemieの補完として創設されたAdvanced Materialsは材料系雑誌の最高峰であり、インパクトファクターは30を超えます.

Wileyの学術誌は数多くありますが、その中でも有力なオープンアクセス誌は以下の通り.

Advanced Science

Advanced Materialsの姉妹誌は数多くありますが、その中で完全オープンアクセス誌として2014年に創設されたジャーナルです.材料系を中心に、化学、物理、生命科学分野の論文まで掲載されています.

インパクトファクターが15を超える(2022年)ハイレベルなジャーナルです.

Small Science

Smallはナノ材料など「小さなスケール」の科学に注力した有力誌ですが、Small ScienceはSmallを補完する役割で設立されたオープンアクセス誌です.2021年に創設されたばかりです.

Smallに匹敵するハイクオリティな論文が掲載されるものと予想されます.

(6)IOP Publishingのオープンアクセス誌

1873年に創立されたイギリスの物理学会(The Institute of Physics)を中心とした出版社です.こちらもアメリカ物理学会に牙城を崩されつつあるとはいえ、まだまだ影響力は健在です.オープンアクセス誌は以下の通りです.

Publishing Support- View, Contact or Submit an article to one of our journals

(7)AIP Publishingのオープンアクセス誌

AIP(アメリカ物理学協会)を中心とする出版社です.応用物理を志向するジャーナルが多い印象です.応用物理の速報誌Applied Physics Lettersが有名です.オープンアクセス誌は以下の通りです.

Open Access - AIP Publishing LLC

(8)PROS ONE系列のオープンアクセス誌

PROS ONEはオープンアクセス専門の総合科学誌です.2006年に刊行された、オープンアクセス誌の先駆けと言える存在です.科学的に問題のない内容であれば当該分野でのインパクトがなくても掲載されるとされ、年間数万の学術論文が掲載されるメガジャーナルです.

PLOS ONE

(9)MDPI系列のオープンアクセス誌

MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)は、オープンアクセス専門の学術誌です.あらゆる専門分野に関するオープンアクセス誌が公開されています.一方、質の悪い論文も掲載するハゲタカジャーナルとの噂もあり、評判は必ずしもよくありません.

MDPI - Publisher of Open Access Journals

(10)プレプリントサーバー

こちらは正式なジャーナルではありません.通常、論文が世に出るためには、査読・校閲・編集など手間の掛かる工程を経るので時間がかかります.

プレプリントサーバーは、査読を受けることなしに論文をアップロードできるサイトです.査読がないため信頼性は担保されていませんが、素早く簡単に論文を人の目に触れさせることができるので、特に競争が激しい分野では人気が高いです.

先にプレプリントで公開して、反響をもとに原稿を修正してから一般誌に投稿するケースもあります.物理・数学・情報分野では当たり前のようにプレプリントサーバーが使われてきましたが、近年では生物学や化学の分野でも利用が広まっています.

arXiv
ChemRxiv

前者は物理・数学分野、後者は化学分野のプレプリントサーバーです.誰でも査読無しで投稿できるので、当然ながら魚目混珠で分野も入り混じったなんでもありの状況です.質の高い論文はありますが、正しく内容評価するには熟練の経験が必要です.

まとめ

以上のように、化学系・物理系・材料系でもオープンアクセス誌は数多くあり、ハイクオリティな研究内容を自宅から無料で読むことができます.便利な時代になったものです.

老舗の論文誌でも有料のオプションで自分の論文をオープンアクセスにすることが可能であり、そういった論文も多く見かけるようになってきました.特に気合の入った論文はオープンアクセスにすることが多く、Nature系では100万円超の掲載料を支払ってでもオープンアクセスにしている論文があります.

オープンアクセス化の時代の流れは止まらないと思うので、この先もオープンアクセス誌は増えていくことでしょう.自宅から一般人が最新の研究を入手できる時代がもう来ています.

*1:私の所属していた旧帝大でもNature Energyなど新しめのNature姉妹誌を読むことができませんでした