更新 2024-3-1
ルチル構造(Rutile structure)
ルチルとは二酸化チタン()からなる酸化物鉱物の一種です.ルチルの結晶構造をルチル構造と呼び、の組成を持つ二元系物質でよく見られます.ルチルの名はラテン語のrutilus(赤)に由来し、赤色の標本が多く見られたことから名付けられました.
ルチル構造の単位胞には2つのと4つのが含まれています.は6つのに八面体型に配位され、は3つのに三角形状に配位されています.
にはルチルの他にも2種類の結晶構造(アナターゼとブルッカイト)を取ることが知られていますが、いずれにおいても配位構造は同じです.
以下では、3種類の方法からルチル構造を記述していきます.
体心立方構造を基準とする方法
ルチル構造において、は体心正方構造をとっています.このの体心にうまくを八面体配位させることによってルチル構造となります.具体的には、八面体の2つの辺を単位胞の上下の面に接触させ、対角線方向を向かせます.
あるいは同じことですが、の体心正方構造の底面の対角線方向を向くように2つのを配置し、体心のある層ではを別の対角線方向から挟み込むように配置することによってもルチル構造が得られます.
多面体を基準にする方法
ルチル構造において、はに八面体配位されています.この八面体を隣り合う2つの八面体と互いに辺共有させ、一次元のネットワークを作ります.この一次元ネットワーク同士を、各八面体が頂点を共有するようにつなげることによってルチル構造となります.
NiAs型構造から派生する方法
型構造とルチル構造は互いによく似ています.型構造でははに八面体配位され、この八面体が面共有した一次元ネットワークが互いに辺を共有することで構造が形成されます.
一方、ルチル構造では八面体は辺共有のみで面共有はありません.型構造から面共有の八面体が無くなるようにを半分取り除くことにより、ルチル構造となります.
ルチル構造を持つ物質
ルチル構造では各八面体は頂点共有および辺共有により連結しています.このためカチオンの間の距離が大きくなるためイオン結合に有利であり、一般にルチル構造をとる物質はイオン結合性です.
ルチル構造の代表例であるは絶縁体ですが、遷移金属を有する他のルチル構造物質では金属的な伝導を示すものも多くあります.
以下では、ルチル構造をとる代表的な物質を紹介します.
TiO2
二酸化チタン()は無毒かつ安価な材料であり、塗料、コーティング、プラスチック、紙、インク、食品、サプリメント、医薬品等に白色顔料として使用されています.光触媒材料としても有名であり、紫外光を吸収することで生じる強い酸化性により有機物や水を分解可能です.また、光照射下で超親水性を示し、ガラスや便器に塗布するコーティング剤として使用されます.
RuO2, IrO2
水の電気分解によって水素を発生させる水素発生反応は次世代のエネルギー源として期待されていますが、同時に起こる緩慢な酸素発生反応の進行速度を早めるための触媒材料が必要とされています.とは現在、酸素発生反応のベンチマークとなっている優れた触媒材料です.
ルチル構造の関連構造
ルチル構造では金属サイトは完全に一つの金属に占有されています.この金属サイトを2種類の金属で占有させたり別の構造ユニットで置き換える、あるいは八面体のネットワークを回転させることにより新しい結晶構造が現れます.
Tiサイトの半数を別の金属に置き換える
金属サイトに同数の2種類の金属を秩序化させることにより新しい結晶構造となります.型、型、型、型などの構造が挙げられます.
Tiサイトの3分の1を別の金属に置き換える
金属サイトに2種類の金属を1:2の割合で秩序化させることによって新しい結晶構造が得られます.トリルチル型、型、型などの構造となります.
Oサイトの半分を別の原子に置き換える
金属サイトと同様に陰イオンサイトも2種類の元素で分けることにより、型、型、型の構造となります.
八面体のネットワークを回転させる
ネットワークを形成している八面体を回転させて対称性を変えることにより、型、型、型などの結晶構造が現れます.
まとめ
ルチル構造は天然鉱物のルチルに由来する構造であり、の代表的な結晶構造です.は顔料のほか、光触媒材料として非常に有名です.その他にも、触媒材料として優れた性能を示す材料が多く知られており、重要な結晶構造であることは疑いありません.とはいえ、少々構造が複雑であることから構造の詳細を覚えていない人も多いのではないでしょうか.
参考文献
Zeitschrift für Kristallographie-Crystalline Materials, 1994, 209.2: 143-150.
Crystallography Reviews, 2007, 13.1: 65-113.
結晶構造の描画にはVESTAを使用.K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data," J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).