元素は実験室だけでなく、社会や産業の現場で日々使われています.本記事では水素の基礎的な性質から、製造・輸送、用途、そして市場の動向までを一望します.研究室時代に実際に元素を扱った際の感想つき.

原子番号1番、水素(H、Hydrogen)
水素は宇宙で最も軽い元素で、常温常圧では無色・無臭の気体です.CO₂を排出することなく多量のエネルギーを取り出せるので、次世代エネルギー源として非常に注目されています.
水素は質量あたりのエネルギー密度が非常に高く、低位発熱量(LHV)で約120 MJ/kgあります(参考:ガソリンは44.9 MJ/kg).一方で、体積あたりのエネルギー密度は低い(液体で約8 MJ/L、700 bar圧縮でもガソリンに比べ大幅に低い)ため、輸送や貯蔵には工夫が必要です.液体にすると密度約70.8 kg/m³(−253℃付近)になります.
世界需要のほとんどは石油精製や化学産業(アンモニアやメタノール製造)に集中しています.なお、そのうちCO₂をほぼ出さない低排出水素の割合は1%未満です.
主な製法
現在の製造方法の主流は、天然ガス (主成分はメタン) を高温の水蒸気と反応させて水素を生成する天然ガス改質(SMR)で、未対策では水素1 kgあたり10〜13 kgのCO₂を排出します.石炭ガス化は中国で広く行われていますが、排出量はさらに多く、22〜26 kgに達します.これらに二酸化炭素回収・貯留(CCS)を組み合わせたブルー水素では、条件次第で3 kg程度まで削減可能です.
また、再生可能エネルギーや原子力の電力で水を電気分解するグリーン水素もありますが、製造には50〜58 kWh/kg-H₂程度の電力が必要で、コストや稼働率が課題です.近年では、地下から直接産出する「天然水素(ホワイト水素)」の探査もマリ、米国、豪州などで始まっています.
専用製造の約2/3は天然ガス起源、約2割は石炭(大半が中国)起源、残りは副生水素です.中でも中国は世界最大の生産・消費国で、特に石炭由来比率が高いです.
輸送・貯蔵
水素は質量あたりのエネルギー密度こそ高いものの、体積あたりの密度が極めて低く、常温常圧では取り扱いに向きません.そのため、輸送や貯蔵では圧縮、冷却、化学的吸蔵などの方法を組み合わせて体積を減らす必要があります.方式は大きく分けて以下の通りです.
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圧縮ガス(CGH₂):水素を350 barや700 barといった高圧にしてボンベやタンクに充填します.燃料電池車などの燃料や小規模需要地向け配送に適します.圧縮に必要なエネルギーはおおよそ2〜4 kWh/kg-H₂です.
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液化水素(LH₂):水素の融点付近の−253℃(20 K)まで冷却して液化します.密度は約70.8 kg/m³となり、常温常圧の気体に比べて約800倍の体積削減が可能です.このため大量・長距離輸送に有効であり、宇宙ロケット燃料や国際海上輸送で利用されています.
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液体有機水素キャリア(LOHC):トルエンやメチルシクロヘキサンなどの有機化合物に化学的に吸蔵し、常温常圧の液体として輸送します.通常の石油タンク・タンカーで取り扱えるためインフラ流用が可能です.
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アンモニア(NH₃):水素と窒素から合成したアンモニアは液化温度が−33℃と扱いやすく、水素キャリアおよび燃料としても利用可能です.世界的に肥料輸送のインフラが整っており、既存タンカーを流用できます.
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パイプライン輸送:水素専用パイプラインは米国・欧州を中心に約5,000 km稼働しています.中距離(数百〜数千 km)・大量輸送では最も低コストな手段です.
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固体吸蔵材:金属水素化物や化学吸蔵材(例:MgH₂、NaAlH₄)に水素を取り込み、常温近くで高密度に貯蔵します.現状は重量・反応速度・コスト面で商業利用は限定的.
利用
水素の最大の用途は石油精製で、水素化脱硫(HDS)・水素化分解(HC)・改質ガソリンの処理等に不可欠です.
Haber-Bosch法(N₂+H₂→NH₃)によるアンモニア合成への需要も大きく、肥料原料としてだけでなく、今後は燃料・エネルギーキャリアとしての利用拡大が期待されています.
CO/CO₂+H₂より合成されるメタノールは化学品や樹脂原料、MTO(メタノールからオレフィン製造)に使われます.
比較的新しい用途としては、水素直接還元鉄(H₂-DRI)による製鉄や、ガスタービンやボイラーでの燃焼、合成燃料(e-fuels)の原料などがあります.燃料電池を利用するモビリティ分野(バス、トラック、乗用車、フォークリフト)や、高純度水素を用いる半導体製造、ガラス加工、食品加工、金属熱処理などの産業用途もあります.
可燃範囲が広く(空気中4〜75%)、着火エネルギーが極めて低いため、漏えい検知や換気、防爆設計が必須です.金属脆化、火炎の可視性の低さなど、水素特有の物性をも考慮して設計・運用する必要があります.
関連企業
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供給(ガス・設備・プロジェクト):Air Products、Air Liquide、Linde 等のグローバル産業ガス、各地域の石油・化学会社(Sinopec ほか)、電解装置メーカー(欧州勢・中国勢が拡大)等.
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需要(利用企業):石油メジャー/製油所(Sinopec、ExxonMobil、Shell 等)、肥料(Yara、CF、Nutrien 等)、メタノール(Methanex 等). いずれも水素を大量に用いる基礎化学・精製のプレイヤー.
日本政府は2030年までに年間300万トン、2050年までに2,000万トンの水素利用を目標に掲げ、輸入CIF価格は2030年に30円/Nm³、2050年に20円を目指しています.2024年の「水素社会推進法」で価格差補填や供給網整備が制度化されました.
主要企業としては、岩谷産業が液化水素供給と水素ステーション運営で国内最大手.川崎重工は液化水素輸送、千代田化工はLOHC輸送、JERAとIHIはアンモニア混焼を推進.東芝、パナソニック、トヨタは水電解や燃料電池技術を開発しています.
固体科学的イメージ
水素は全元素中でも珍しく、固体中で中性原子、陽イオン、陰イオンの3つの状態をとります.
分子の水素はもちろん中性ですが、金属中に中性の水素が取り込まれる場合があります.パラジウムは特に水の吸収量が多い金属元素です.鋼鉄に取り込まれた水素は水素脆化を引き起こす要因として嫌われます.
陽イオンになった状態は電子のない原子核(プロトン)です.非常に軽く、固体の内部を動き回ることができ、特にプロトンの伝導度が高い物質をプロトン伝導体と呼びます.反対に陰イオンの状態をとることもでき、ヒドリドと呼ばれます.強力な還元剤として馴染み深いほか、近年ではヒドリド伝導体の開発も盛んです.
実際に扱ってみた感想
当然ながら常温では気体です.無味無臭無色で、仮に漏れていても人力では気づきません.
反応中に水素気流を流して還元状態を作り出すために使用しました.水素中では酸素分圧が著しく下がるため、酸素分圧を制御した実験でも使用できます.また、アルカリ土類金属と直接反応させて金属水素化物を合成したりしました.
参考文献
Hydrogen Factsheet | Center for Sustainable Systems
Hydrogen Production and Uses - World Nuclear Association
Executive summary – Global Hydrogen Review 2024 – Analysis - IEA
テキストの一部にChat GPT-5を使用
[1] JOGMEC 用語解説