元素は実験室だけでなく、社会や産業の現場で日々使われています.本記事ではヘリウムの基礎的な性質から、製造・輸送、用途、そして市場の動向までを一望します.研究室時代に実際に元素を扱った際の感想つき.

原子番号2番、ヘリウム(He)
ヘリウムは常温で無色、無臭、無味、無毒な気体です.希ガスに属し、不燃性で化学的な反応性に乏しく安定という特徴があります.密度は空気の約1/7で、水素などの可燃性ガスに比べて安全に空に浮かばせることができるため、気球や飛行船のガスとしても知られます.
特筆すべきはその極低温特性で、液体ヘリウムは沸点が4.2 K(約−269℃)と全元素中で最も低く、さらに2.17 K以下では超流動状態となり、粘性ゼロで流動する不思議な性質を示します.このため、超伝導磁石の冷媒や極低温実験で主に使われます.
地球上ではヘリウムの濃度は空気中でわずか0.0005%程度と低く、空気分離で取り出すの経済的ではありません.主な供給源は、天然ガスやCO₂ガス田に含まれる高濃度ヘリウムを副産物として回収する方法です.ガスを低温分離して粗ヘリウム(50〜80%)を取り出し、その後精製して純度99.997%以上のグレードAヘリウムとし、必要に応じて液化します.
2024年の世界生産量は約1億8千万m³で、米国(約45%)、カタール(約36%)、ロシア(約9%)、アルジェリア(約6%)が主要な生産国です.米国ワイオミング州のLaBargeガス田やカタールのRas Laffan Heliumプラント群が世界供給の大きな割合を担います.
主な製法
商業的なヘリウムの多くは、天然ガス処理工程から回収されます.まず、原料となる天然ガスやCO₂ガス流を選定する必要がありますが、ヘリウム濃度が0.3%以上でないと経済的な回収は難しいとされています.高濃度の産地では7〜8%に達する例もあります.
原料ガスは低温分離によってメタンや炭化水素を凝縮・除去し、残ったガス中にヘリウムを濃縮します.その後、酸素、窒素、ネオンなどの不純物を取り除き、純度99.997%以上の「Grade-A」ヘリウムに精製します.さらに需要に応じて4.2 Kまで冷却し、液体ヘリウムとして供給されます.
液化には0.1〜0.15 kWh/Nm³程度のエネルギーが必要なので、LNGプラントに併設された設備での効率化が必要です.資源的に希少なため、使用済みヘリウムを回収・再液化するリサイクル技術の導入も進んでいます.
輸送・貯蔵
常温常圧で気体であるヘリウムは、そのままでは取り扱いが難しいため、輸送や貯蔵では工夫が必要です.
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高圧ガス:150〜200 barに圧縮し、鋼製ボンベやチューブトレーラーで輸送.半導体や研究用途の少量供給に適します.
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液体ヘリウム(LHe):4.2 Kで液化し、真空断熱構造のデュワー瓶(60〜500 L)や大型ISOコンテナ(約41,000 L)に充填.大型需要や長距離輸送に向きます.
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パイプライン輸送:米国には全長約684 kmの専用パイプラインがあり、ガス田・備蓄施設と複数の精製拠点を結んでいます.
極低温による凍傷や酸素欠乏症の危険があり、輸送容器は真空断熱構造、安全弁、国際規格(UN1963等)に準拠.
利用
ヘリウムは医療から産業、研究まで幅広い分野で利用されています.
最大の用途はMRI装置の超伝導磁石冷却で、従来は1台あたり1,000〜1,500 Lの液体ヘリウムを消費していました.しかしPhilips「BlueSeal」やSiemens「Free.Max」など、ほぼ補充不要のゼロボイルオフ型装置が普及し、消費量は減少傾向にあります.
半導体や光ファイバー製造分野でも重要です.プラズマプロセスや単結晶成長の雰囲気ガス、光ファイバー引き延ばし工程の冷却など、高純度・安定供給が求められる工程で欠かせません.また、ガスクロマトグラフのキャリアガス、極低温物理実験、粒子加速器や核融合実験装置の冷却など、分析・研究用途でも広く使われます.
さらに、リーク検査やロケットの燃料系統の加圧・パージ、アルミやチタン溶接の保護ガス、深海ダイビング用混合ガス、気球や飛行船の浮揚ガスなど、多彩な用途があります.
関連企業
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上流(ガス田・回収)
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QatarEnergy LNG(カタール):Ras Laffan Helium 1/2/3の運営で世界シェア約35%
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ExxonMobil(米国):LaBargeガス田から世界供給の約20%を担うと自社発表
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Gazprom(ロシア):アムールGPPで大規模ヘリウム生産(稼働は段階的)
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精製・液化・物流(国際)
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Linde、Air Products、Air Liquide:液化技術と国際輸送網を持つ産業ガス大手
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日本企業では、日本酸素HDが米国やカタールからの長期契約に基づく安定調達を行い、岩谷産業は国内最大級の供給シェアを持つと自称しています.エア・ウォーターは2023年に米国のAGPを買収し、北米での原料確保と供給網強化を進めています.
固体科学的イメージ
ヘリウムは非常に安定なため、化学反応に参加するイメージはありません.専ら、不活性雰囲気を作り出す用途か、極低温を作り出す冷媒としての用途が主です.
一方で全く反応しないというわけではなく数十万気圧レベルの超高圧条件ではヘリウムはがアルカリ金属などと反応して化合物を作り出す例もあるようです.
実際に元素を扱った際の感想
ヘリウムは当然ながら常温で無味無臭無色の気体です.とはいえ常温で扱うことはほとんどなく、MPMSなどの装置で低温実験を行うための冷媒として主に使用しました.使用したヘリウムは全て施設に回収されました.ご存じの通り高価なので、回収度が悪いと怒られます.
また、熱重量測定を外注した際にバックグラウンドの気体として使用されていました.この際のヘリウムは垂れ流しであり、死ぬ気でヘリウムを回収してたのは何だったのかと思いました.
参考文献
ヘリウムを知る | 日本ヘリウム株式会社 | エア・ウォーターグループ
Labarge: Helium explained | ExxonMobil
Helium Solutions | A Linde Company
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