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研究室の選び方を本気で考える(4):HPの学会発表や受賞のリストから分かること

更新 2024-3-3

論文発表以外の研究業績

研究者の使命は論文を書くことですが、それだけを行っているわけではありません.学会では、同業の研究者と交流して最新の研究内容を仕入れたり、共同研究の機会を作ったりすることができます.分野の発展のために、学会の運営委員や座長を務める必要もあります.後進の育成のため、学生に学会発表をさせて経験を積ませることも重要です.

学会での発表は、論文発表ほどではないにせよ大事な業績です.ベテランの研究者からすれば業績の足しになりませんが、研究歴の浅い学生にとって見れば業績を積み重ねる貴重な機会です.せっかく研究成果を出したのであれば、一度くらい学会発表をしてみたい気持ちもあるでしょう.分野によっては、論文発表よりも学会発表の業績が重視される場合もあるとのことです.

論文発表や学会発表の他にも、研究室の業績となる事項は様々あります.特許の取得、研究室構成員の受賞、プレスリリース、外部資金の獲得、報道、寄稿などが挙げられます.研究室HPを見れば、これらの業績の内容が書かれているケースが多く、後悔しない研究室選びをするためにも、これらのデータを吟味して配属先を決めたほうが良いでしょう.

以前の記事では、研究室HPの論文リストから読み取れる情報を記述しました.今回は、論文リスト以外の業績リストから読み取れる情報はないかを見ていきます.研究室配属先に迷っている人にとって何らかの参考になればと思います.

学会発表リスト

多くの研究室HPでは、学会名と学会発表の題目、発表者の名前が記載されています.論文とは異なり、基本的に発表者以外の人の業績にはなりません.名前が最初に書かれている人が発表者であるケースがほとんどで、実際に学会で登壇して発表を行った人です.

学会発表は、論文と比べるとそれほど内容に重きを置かれません.査読がないケースが多く、研究成果が十分でない学生であっても一応の進捗があれば学会発表は可能です.それゆえ、どの学生が学会発表をするかは完全にボスのさじ加減であり、在学中に十回単位で学会発表をする人もいれば、一度も学会発表をすることなく卒業する人もいます.

研究室HPの学会発表リストを見て最初にチェックするべきことは、どの程度の数の学生が学会発表をしているかです.成果の優れた特定の学生に発表が偏ることは避けられませんが、どの学生も在学中に一回以上(できれば一年に一回以上)の学会発表をしているのであれば、良い研究室と言えそうです.学生が登壇せず、スタッフがいつも発表している研究室は、成果を稼ぐのが難しいかもしれません.学会にほとんど参加していない研究室は、そもそも活動しているのでしょうか.

また、学会の規模にも注目です.大きな学会だけではなく小さな学会にも積極的に顔を出している研究室の方が業績を稼ぎやすいと言えます.小規模学会のほうが後述の受賞を狙いやすいので、そういった意味でもチャンスが増えます.逆に大きな国際学会にしか参加していないような研究室では、学会発表・受賞のハードルがいずれも高くなります.

研究室によっては、HPに学会発表リストを掲載していないケースもあります.これには理解できる点もあります.学会発表は、論文に比べて数が多い上に業績としてのウエイトが低いので、いちいち更新するのは手間がかかります.とはいえ、リスト公開している研究室のほうが広報に力を入れているなという印象は持ちます.

また、学生が学会発表を年に何回程度行っているかも確認しておきましょう.大きな学会は春と秋の年二回行われるケースが多く、大きな国際学会では数年に一度というケースもあります.一年に何十回も学会発表を行っている研究室は、出張ばかりしていて研究室に落ち着ける時間が確保できないかもしれません.オンライン発表が多くなったとはいえ、現地開催の学会は泊りがけの出張です.出張が多いことが嬉しいか悲しいかは人次第ですが、就活の時期と重なると厳しいものがあります.

受賞者リスト

様々な学会において、優れた発表者を表彰する制度があります.数十人に一人程度しか選ばれないので名誉なことであり、それゆえ研究室の宣伝にもなります.受賞者が出た場合は、研究室HPで掲載されるだけでなく、学科のHPでも言及される場合があります.

受賞するためのポイントは、優れた成果を分かりやすく説明し、質疑応答にも優れているということです.研究の内容がつまらなければ話し方がどんなにうまくても受賞は難しく、それゆえ本人の実力以外に研究テーマも重要となります.研究室の学生に受賞者が多いということは、それだけ研究室内での教育に力が入れられており、研究テーマも優れていると言えるでしょう.

受賞は「学生が勝手にとるもの」というスタンスの研究室もあれば、「研究室総出でとりにいくもの」というスタンスの研究室もあります.審査員も人間であるので受賞にはコツがあるようで、長年運営されている研究室では、受賞のためのノウハウが蓄積されている場合があります.受賞は、就活や奨学金免除の際のアピールになるので、積極的に狙いに行くことが好ましいです.

受賞者がいるのに研究室HPに記載しないケースはほとんどありません.長らく受賞者のいない研究室には何らかの原因があるのでしょうか.ただし、受賞は学生数が多いほど可能性が高まるので、構成員の少ない研究室に多くの受賞者を求めるのは酷な場合もあります.

外部資金

タダで飯は食えませんし、研究もできません.営利活動ではないので、研究資金はどこかからもらってくる必要があります.多くは文科省の科研費ですが、他の機関や民間財団の予算もあります.予算は研究室によって天と地の開きがあり、数億円する装置を使い倒している研究室から、一度使ったキムワイプを使いまわしている研究室まであります.外部資金は研究者の死活問題であり、外部に評価される業績でもあります.

研究資金は、お金に関わる話であることから、研究室HPにあらわに書かれているケースは少ないです.しかし、ある程度までであれば調べる方法が存在します.詳しくは、「研究室選びを本気で考える(5)」にまとめています.

ボスの予算規模が分かれば、研究室の環境もなんとなく見当がつきます.予算が少ない場合、実験ができないばかりか、学会出張費まで自腹の場合があります(東京の学会に九州から自腹で参加していた学生を見たことがあります).ある程度の予算、研究室の規模にもよりますが数百万円の予算がないとお金の足りないケースが出てくるかもしれません.ただし、理論系などそもそもそこまでお金のかからない研究内容の場合はこの限りではありません.

逆に、極端に予算が多すぎる研究室も考えものです.大きな予算ほど大きな成果を求められ、それゆえ学生(とポスドク)も大きな成果を求められることになります.在学中に大きな成果を出せるかもしれませんが、常に大きなプレッシャーを受けながら自由に研究ができるかは疑問です.また、大きな予算を通せる先生は多忙であるため、まともにディスカッションの時間が取れなくなります.

学生の立場としては、ほどほどに裕福な研究室がベターかと思います.消耗品や学会費の心配をせず、そこそこ大型の装置を使用できる環境が良いです.ネットの情報からそこまで細かい情報を読み取るのは難しいですが...

プレスリリースと報道

プレスリリースとは、研究成果を大学を通じてメディアで報道してもらうために発表する資料です.どこの大学でも、最近の研究成果としてプレスリリースのリンクがあります.大学における注目の研究内容といった位置づけであり、盛んに宣伝されます.

例として、東京大学や京都大学のプレスリリースサイトを載せておきます.

Press releases | 東京大学

最新の研究成果を知る | 京都大学

研究内容をプレスリリースすることは原則としてどんな研究内容についてもできますが、あまりにしょぼい研究内容では誰も興味を持ちませんし、むしろ恥をかきます.渾身の出来の成果が論文に掲載された際にプレスリリースをすることが多く、プレスリリースの多い研究室は優れた成果が多いと思います.しかし、よく読むと大した内容ではないケースもあるので、内容はよく吟味する必要があります.プレスリリースをしない方針の研究室もあり、プレスリリースがないからと言ってダメな研究室であるわけではありません.

プレスリリースの本文からも研究室の方針が分かります.プレスリリースは記者が書いた雰囲気の文章ですが、実際は研究者自身が書いています.見出しの後、書き出しが「〇〇研究科の◇◇◇らは、△△△を発見しました」から始まるわけですが、学生が筆頭著者の論文で◇◇◇部分が学生の名前であれば学生の成果を尊重しているように見えますし、逆に◇◇◇部分がボスの名前であるなら、自己主張がやや強い人なのかもしれません.

プレスリリースがされると、記者から申し込みがあって、新聞やニュースサイトで報道されることになります.プレスリリースしたのにどこからも取材の申込みがないケースもあり、研究者が自ら報道各局に宣伝する場合もあります.そのような裏の事情はHPからは分かりませんが.

まとめ

前の記事の内容を再掲すると、学生のスタンスによって、注意すべきスタンスは異なります.将来、優れた研究者になりたい人は、多少忙しくても優れたアウトプットを出している研究室に行くべきですし、就活に精を出したい学生は暇な研究室の方が良いでしょう.

ただし、以下の項目に当てはまる研究室は、どの立場の学生にとってもあまり良い環境でないケースが多いと思われます.

避けたほうが良い研究室

・学会発表をしている学生の数が少ない
・学会発表の件数があまりにも少ない
・受賞者が一切いない
・外部予算が少ない、あるいは極端に多すぎる

続いて「研究室選びを本気で考える(5)」では、研究室の予算規模の調べ方とそこから読み取れる情報について紹介します.