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研究室の選び方を本気で考える(5):研究室の予算から分かること

更新 2024-3-3

研究室の予算

研究はタダではできません.何らかの成果を得るためには、同等の対価を必要とします.といっても商品を売って稼げるわけではないので、お金を投資してくれるありがたい後援団体が必要になります.

最も代表的な予算は文科省の科研費であり、数年分のまとまった予算が手に入ります.毎年夏頃に研究者が申請書地獄を繰り広げ、春に採択結果が発表されて阿鼻叫喚となります.科研費に不採択だとお情けも一切もらえないので、研究室の死活問題です.科研費だけを当てにしていてはあまりに不安定なので、大抵の研究室は他の機関からの予算も仕入れています.

・科研費
・JSTや国の機関からの予算
・民間の団体の助成金
・企業からの共同研究費

研究室の予算状況は、研究室生活のQOLを決めます.試薬も満足に変えず、キムワイプを使いまわし、学会に自腹で参加する研究室に配属されたくないでしょう.成果は伸びず、貯金も減り、やる気も恐らく減退します.しかし、予算が多すぎる研究室も考えものであり、成果を要求されて徹夜で実験続きということにもなりかねません.何事もほどほどのバランスが一番でしょうか.

さて、では配属先の研究室の予算規模をどうやって調べればよいでしょうか.お金の収支を詳らかにしている研究室は少ないですが、ネット上で手がかりを得ることはできます.少なくとも、貧乏研究室か金持ち研究室であるかの判断はできるようになります.

以下では、ネット上の情報から、研究室の予算規模を明らかにする方法を記述していきます.研究室配属の前に、一度くらいはチェックしておいたほうが良いかもしれません.*1

科研費・外部研究費のデータベース

科研費や省庁からの予算の財源は税金であり、それゆえ予算の執行状況を誰もが確認することができます.すなわち、各研究者が持っている予算のリストと報告書は誰でも閲覧できるようにデータベースが整備されています.具体的には、KAKENと日本の研究.comが研究費についての情報を網羅するデータベースです.

検索 | 日本の研究.com

KAKEN — 研究課題をさがす

どちらも使用方法は非常に簡単で、目的の研究者の名前を検索窓に打ち込めば予算の名称と詳細が表示されます.

KAKENは、文部科学省および日本学術振興会から交付される予算のみが出力されます.いわゆる「科研費」がこの類です.予算の名称と金額、研究実施機関のほか、研究の概要や研究成果、報告書も閲覧することができます.

日本の研究.comは国の公式のデータベースではありませんが、KAKENと同様に研究者の予算を出力することができます.KAKENとは異なり、経産省やJSTなどの予算の方法も閲覧することができます.それぞれのサイトで研究者の名前を打ち込むよりも、Googleで「(研究者名) 科研費」で検索したほうが早く情報にたどり着けるかもしれません.

研究費の種目

科研費の種目は日本学術振興会のHPから確認できます.特別推進研究や基盤Sは最難関の科研費で、これらの予算を獲得できる研究者はほとんどいません.一般的には基盤Aを獲得している研究者は業界の第一人者と言えます.一方、JSTの予算からはERATOやCRESTといった大型予算がありますが、これも獲得できるのは一握りです.さきがけや創発研究は若手向けですが予算規模が大きく、これらを獲得している研究者は未来を担うエリート層です.なお、高額の予算を獲得していなくても、予算を切らすことなくコンスタントに獲得できていれば充分に優秀な研究者です.

いずれのデータベースにおいても、民間財団の助成金の交付状況を確認することはできません.民間財団の助成金は、各団体の公式HPから閲覧できる場合が多いですが、民間の財団の数は非常に多く、全てを確認することは困難です.とはいえ、民間財団の助成金は科研費よりも少額であるケースが多く、予算の大勢には影響がないかもしれません.

一方、企業と研究室の共同研究に基づく予算はどこにも公開されていません.企業との共同研究は数百万円から数億円規模に及ぶ場合もあり、科研費を長年交付されていない研究室であっても、内部的には予算が潤沢にある場合もあります.こちらは確定的な情報が得られないので、次に示す情報から間接的に判断するしかありません.

研究室HPによる予算規模の把握

研究室に予算があるかは、研究室のHPからも間接的に判断が可能です.確定的ではありませんが、以下で例を見ていきましょう.

HPのデザイン

研究室のHPは研究室の個性の出るところです.90年代のような古臭いHPもあれば、最先端の動的なHPもあります.情報科の先生でもなければ、最先端のおしゃれなデザインのHPを自ら作成できる研究者は、多くありませんし、非常に忙しい中わざわざ作成する時間もありません.

そんなわけで、おしゃれなデザインのHPは外注によるものである場合が多いと思われます.相場は分かりませんが、1サイトに100万円以上かかるケースもあるようです.予算に余裕のない研究室ではこれだけの額をHPに捻出することが難しいので、HPのおしゃれ度合いと予算規模に相関はないということはなさそうです.

なお、HPのデザインにこだわる人ばかりではないので、HPが古臭いからと言って予算が少ないということにはなりません.

論文・学会発表リスト

研究にはお金がかかります.装置を買うのも高いし、外注するのでもそれなりにお金はかかります.最近ではオープンアクセスのジャーナルも増え、論文を掲載するにもお金がかかるようになってきました.そのため、発表リストだけでもお金がある研究室かどうかを判断できる材料となります.

まず、論文数は予算の額と正の相関があるように思います.論文数の増加が予算の増加によるものでなかったとしても、研究成果が充実すると予算に通りやすくなることから、両者は相乗関係にあります.ただし、予算をいっぱいもらっているにも関わらずアウトプットが少ない研究室は存在します.よって、論文数が少ないから予算が少ないという図式は必ずしも成り立ちません.

また、どこのジャーナルに論文を出版しているかも見ておくべきです.昨今流行りのオープンアクセス論文は論文を掲載するために掲載料を払わなくてはなりません.安いジャーナルでは数万円程度ですが、高いジャーナルでは数十万円のコストがかかります.

特に、Nature CommunicationsとScience Advancesがリストにないかを確認してください.この2つのジャーナルは知名度が高く、数多くのデータを要求され、掲載料も圧倒的(70万円以上)であることから、掲載が可能なのは予算に余裕がある研究室に限られます.通常の研究室は、装置や人員の確保が優先であり、掲載料にまでコストをかけることのできる研究室は、お金が豊富にあることが伺えます.

また、学会発表のリストからも予算の多寡が伺えます.出張はそれなりにお金がかかり、数日の泊りがけなら国内でも参加費・交通費・宿泊費含めて一人当たり5万円程度はかかります.国際学会であれば、一人当たり数10万円かかることもあります.学生が多く国際学会に参加している研究室であれば、予算に余裕があると思われます.(えっ、学生を自腹で出張に行かせる研究室…?)

メンバーリスト

研究室において自動的に配属される人員は、正規のスタッフ(教授、准教授、講師、助教、助手)と学生だけです.その他の構成員は、外部予算で雇っているケースがほとんどです.秘書・事務補佐員のほか、博士研究員、研究員、特別研究員などはいずれも研究室に雇われている人たちです.また、一見教員名に見えても、「特別」「特任」「特定」などが頭につく教員もまた、外部予算ありきの身分です.

人を雇うのはお金がかかります.装置なら一つ確保すれば十数年は稼働しますが、人員は一年で数百万円かかる上に、すぐ辞められるリスクもあります.宝くじのような一時的な予算で人を雇うのは難しく、ある程度継続的な予算である必要があります.小金が入った場合は、まず装置の確保に回ることが多いので、人件費に回す余裕が多い研究室は予算が豊富にある研究室です.

装置リスト

研究室によっては、HPに装置のリストが掲載されている場合があります.実験装置は小さなものであっても非常に高価であり、数十万円を下ることはありません.分光装置やグローブボックスで数百万円、X線装置や電子顕微鏡で数千万円、精密測定装置では数億円の規模に及びます.当然、何台も実験装置を保有している研究室は予算が豊かであることの証左です.

研究者が国家プロジェクトやERATO、特別推進研究、CRESTなどの予算を持っていれば、大型の装置を購入する余裕も出てきます.しかし、基盤Aや基盤Bのレベルであっても、なかなか大きな装置は買えません.

もし、日本の研究.comなどで見える予算が少ないにも関わらず大型の装置を複数保有しているのであれば、何らかの特殊な事情がありそうです.一つは、引退する大御所先生から装置を譲ってもらったケースです.この場合、大型装置と言えども旧式のものである場合が多いのではないでしょうか.

もう一つは、企業と共同研究を行っているケースです.予算規模は企業によってまちまちですが、企業の研究員が研究室に常駐して研究を行う場合などは、大規模な予算を投資していても不思議ではありません.その場合は、HPのメンバー欄に不自然な「研究員」が記載されているかもしれません.

なお、企業は営利目的で研究を行うので、それなりに実用化が見えている研究でないと大規模な予算を投じません.産業に根ざした研究テーマの研究室であれば企業との共同研究の可能性が高そうですが、基礎に寄った研究室ではその可能性は低いかと思います.

まとめ

自分のしたい研究をしている研究室に配属されるのが理想ですが、お金がなければ思ったような研究ができません.高価な装置を使えなくとも、試薬や消耗品の発注や出張費で苦労をしないような環境のほうがベターでしょう.

もちろん、実際に研究室に出向いて実験環境を確かめるべきですが、装置の質や構成員の内訳などは実際に研究室を見てもよくわからないものです.見た目は貧乏だけど実は金持ちの研究室はあっても、その逆のように見せかけるのはなかなか難しいものです.研究のテーマと生活のQOL、どちらの優先度が上かを考えてから配属に臨みましょう.

次回、「研究室選びを本気で考える(6)」では、研究室を実際に訪問した際に注意すべき事柄について紹介します.

*1:予算の規模は研究内容によってまちまちで、多くの予算を必要とする研究もあればほとんど予算のいらない研究もあります.それでも、人件費や出張費はどこの研究室でも必要となるため、可能な限り予算は必要とします.