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発光ダイオード(LED):人類の到達した第四の光源

更新 2024-3-3

発光ダイオード(Light Emitting Diode, LED)

地球に明かりをもたらすものは長らく太陽しかありませんでした.ゆえに、太陽が地球の反対側に行ってしまっている間は暗闇が支配します.宇宙の彼方の星たちは光を放ちますが、光量が十分ではありません.月は夜空の中で最も明るい天体ですが、元を辿れば月の明かりは太陽の光が反射したものです.

その後、人類は恐らく偶然によって(あるいはプロメテウスによって)新しい光源を手にしました.は長い間、人類が有効活用できる唯一の光源であり、夜間に利用できる唯一の照明でした.その後、第二の光源である白熱電球と第三の光源の蛍光灯が発明され、いずれもこの百年の人類の工業・生活を支えてきました.

第四の明かりである「発光ダイオード(LED)」が普及したのは最近になってからのような印象ですが、その歴史は意外に古く、20世紀前半にはLEDの元型が発明されています.最初期のLEDは赤外光や赤色を発するものであり、ある程度の有用性はありましたが、明かりとしての利用はできませんでした.

光源を明かりとして利用するためには、光に色がついていてはいけません.すなわち、白色光である必要があります.白色光というのは一つの波長を持つ光ではありません.光の三原色が適切な比で混ざることによって白色光となるので、単一の波長を持つLEDでは白色光を得ることができませんでした.

赤色のLEDは早々と実用化されましたが、三原色の一つである青色のLEDの開発がなかなか進まず、白色光の実現にはとても時間がかかりました.この困難が乗り越えられ、発明者が2014年のノーベル物理学賞を受賞するとともに、クリスマスのイルミネーションが一層鮮やかなものになったことは周知のとおりです.

電光掲示板や家庭用の照明など、LEDが白熱電球や蛍光灯から置き換わった分野は数多いです.LEDは寿命が長く、低消費電力で、耐衝撃性に優れ、大量生産に適しているという多彩なメリットがあります.一方、比較的高価で大型化が難しいという点もあり、未だに蛍光灯が優位な分野も多くあります.

では、LEDはどのような原理で動くのでしょうか.どのような経緯で発見されたのでしょうか.今回は、第四の明かりであるLEDについて見ていきます.

発光ダイオードの発見と原理

LEDの発明者が誰であるかを名指しすることは難しいようです.古くは20世紀はじめに固体に電流を流した際に発光する現象「エレクトロルミネッセンス」が発見されていました.その後、半導体産業の勃発とともに半導体デバイスの開発が加速しました.一般的には、赤色LEDを人工的に開発したNick HolonyakにLED発明の栄誉が帰せられます.

LEDがどのようなものであるかを紐解くには、英名を見れば早いです.Light emitting diode の名のとおり、光(Light)を発する(Emitting)ダイオード(Diode)です.ダイオードとは何であったかといえば、電流を一方向にしか流さないような性質を持つ半導体デバイスのことでした.

一見、光とは何の関係もなさそうなデバイスですが、どうして発光が起こるのでしょうか.半導体デバイスの特性を考えるには、そのバンド構造を考える必要があります.

半導体ダイオードは、電子が過剰なn型半導体と正孔(ホール)が豊富なp型半導体を接合させてできるpn接合を利用しています.pn接合に関しては、以下の記事を参照してもらうとして、ここでは概要のみを述べます.

下図は、pn接合後の様子です.接合部は電子とホールの再結合の影響によりキャリアの少ない欠乏層となり、p型半導体は負に、n型半導体は正に帯電します.帯電により、p型半導体の電位が下がるとともにn型半導体の電位が上がります.

ここでn型に負、p型に正の電圧をかけると、接合部のエネルギー障壁が小さくなり、キャリアが容易に拡散できるようになります.接合部にはそれぞれの半導体からホールと電子が供給され、次々と対消滅を起こします.

この際、高いエネルギーにある電子が低いエネルギーの穴(ホール)に落ちていくわけですから、その差に相当するエネルギーを光として放出します.このように、ダイオードに対して適切な向きに電圧をかけることで発光が起こります.

LEDと光の色

LEDが発する光のエネルギーは、半導体のバンドギャップによって決まります.

光のエネルギーを、赤色や緑色、青い色のような可視光に調整することによりLEDが出来上がります.しかし、波長分布が狭いため、このままでは白色光にはなりません.可視光を混ぜ合わせることにより白色光となり、明かりとして利用できるようになります.

では、世のダイオードはどれも光を放っているということになるのでしょうか.答えはイエスですが、電子部品として使用される多くのダイオードはバンドギャップが小さく、発生する光は赤外光以下のエネルギーであるため目に見えません.また、光ではなく熱としてエネルギーを放出する場合もあります.

LEDでは、可視光を発生できるようなバンドギャップの半導体を用いるとともに、光の放出を効率化するための工夫がいくつもされています.

LEDと材料

半導体産業が花盛りの昨今、最も使用されている半導体はシリコン( \rm{Si}です.シリコンは資源的に豊富で、p型・n型ドーピングの手段が確立されているため、あらゆる半導体分野で使用されます.それでは、LEDもシリコンからできているのかと言えばそういうわけではありません.

シリコンのバンドギャップは約 \rm{1.12\text{ }eV}であり、波長は約 \rm{1100 \text{ }nm}の近赤外線のエネルギーに相当します.これでは可視光が必要なLEDには使用できません.また、シリコンは間接遷移の半導体であり、発光の効率も非常に悪いです.同じく14族のゲルマニウム( \rm{Ge})も同様です.

LEDに使用できるような半導体の必要条件は大きく2つあります.

1つは、バンドギャップが目的の色の光のエネルギーに対応する値であること、もう1つは間接遷移型ではなく直接遷移型の半導体であることです.直接遷移とは、バンド間の遷移がバンド図の同じ波数で行われることです.

また、当然ながら常温常圧空気中の条件で安定であることや工業的に量産が採算が取れる程度に安価であることも求められます.

一見して非常に厳しい条件であることが分かります.バンドギャップの値も遷移の形式も自由に制御できるパラメータではなく、その上で比較的安価・安定な物質など、少々の奇跡がなければ見つかりそうにありません.

ところが、なぜかそのような物質は奇跡的に見つかっています.しかも、簡単な二元系の物質で.

化合物半導体

半導体の代表であるシリコンは14族元素であり、4つの価電子によって4つの共有結合を形成しています.周期表で13族と15族からなる化合物も、原子あたりの価電子数は変わらないので同様のネットワークを形成します.

GaAsをはじめとしたこれらの半導体をⅢ-Ⅴ半導体と呼びます.同様に、12族と16族からなるⅡ-Ⅵ半導体、異なる14族同士からなるⅣ-Ⅳ半導体もあります.これらの二元系以上の半導体は総称して化合物半導体と呼ばれます.

Ⅲ-Ⅴ半導体は、LEDに求められる特性を満たしており、実際にLEDの材料として使用されます. \rm{GaAs}のバンドギャップは室温で \rm{1.42\text{ }eV}であり、波長に直すと \rm{873\text{ }nm}の赤外光に相当します. \rm{GaAs}は直接遷移型の半導体であり、LEDになる資格がありますがこのままでは赤外光しか発することができません.

ところが、 \rm{Ga}の一部に \rm{Al}を置換することでバンドギャップが連続的に大きくなり、赤色の光を発するLEDとして使用できます.なお、 \rm{Al}を入れすぎると間接遷移になってしまい、発光効率がガクッと下がります.

このように \rm{GaAs} \rm{AlAs}を混ぜ合わせた半導体は、 \rm{AlGaAs}と一般的に書かれます.これだと組成比が \rm{Al:Ga:As = 1:1:1}のように見えて好ましくなく、 \rm{(Al,Ga)As}のように書くべきであるように思いますが、前者の記法が一般的に使われます.

また、 \rm{In} \rm{P}などの元素も加えて多様な組成の半導体が作成されており、 \rm{AlInGaP}または \rm{(Al,In,Ga)P}は組成の調整により橙色や黄色を示します.その他、緑色LEDとして \rm{ZnSe}などが使用されます.

青色の完成は遅れましたが、 \rm{GaN}を使用することによって実現しました.青色LEDの発見はⅠつの大きな物語なので、別の記事で紹介します.

LEDの製法

LEDの作成には適切なバンドギャップの材料さえあれば良く、 \rm{AlInGaP}のように組成を緻密に振る必要はないように思えます.ところが、多くの組成を作成することはバンド構造以外にも意味があります.その意義は、格子の大きさを変化させることです.LEDの製法を見れば、そのメリットが分かります.

以下に、代表的なLEDの構成を示します.pn接合が必要なので、当然ながらp型とn型の半導体を用意して接合する必要があります.原子レベルでの接合をするために、原子層を一層ずつ積層させていきます.電気を流すための電極も必要になります.

これだけで済めば良かったのですが、何もないところに半導体を積層させることはできません.適切な基板材料があることではじめて精密に半導体を積層させることが可能となります.半導体は、基板の結晶の形に沿って成長していきます.

そのため、基板と目的の半導体の結晶構造は可能な限り近い必要があり、さもなければキレイな結晶が作成できません.基板との格子の整合性を合わせるために、半導体の組成を連続的に変化させて格子の大きさを制御することに意義が生まれます.

格子整合の問題は、青色LEDの作成の際の最大の問題点でした.世界中の研究グループが \rm{GaN}を用いた青色LEDの研究から撤退する中、低温バッファー層の形成などのブレークスルーを通じて青色LEDが開発されました.青色LEDを、既存のLEDと光を混ぜ合わせることにより白色光が実現しました.第四の明かりの完成です.この功績により、青色LEDの開発者がノーベル物理学賞を受賞したのは周知のとおりです.

実際のLEDでは、電力効率・発光効率を向上させるために多くの努力がされてきました.電極が発光を遮らないように小さくするか透明な電極を使う、あるいは鏡や屈折率の異なる材料を使うなどの方法により発光効率を高める工夫がされています.

まとめ

夜になれば寝るしかなかった古代とは異なり、現代人は夜でもバリバリ活動をしています.人によっては、昼よりも夜のほうが光を浴びているようなケースもあります.光は寝るとき以外の全ての状況で必要なものであり、光源の性能が高まることは生活の質にも直結します.

LEDは消費電力が少なく、長寿命、かつ小型化が可能であるため、既存の光源を数多く置き換えています.自宅の照明がLEDである人も多いことでしょう.数種類のLEDの組み合わせによってあらゆる色が表現可能であるため、用途は照明だけにとどまらず、大型ディスプレイや電光掲示板、イルミネーション、ライトアップ、信号機にも使用されています.価格が高いことだけが難点でしたが、昨今では低価格化が進んでおり、寿命が長いことを考えれば電球よりも総合的には安上がりな場合もあります.

性能の向上・低価格化が進み、LEDのデメリットはおおむね払拭されたように思います.今後、LEDを置き換えるような「第五の光源」は現れるのでしょうか.LEDに勝るとなると、給電すること無く発光するようなデバイスしか思いつきませんが、そのようなデバイスは存在しうるのか果たして.

参考文献

発光ダイオード

3分でわかる技術の超キホン 「LEDと電子回路」の基礎知識 | アイアール技術者教育研究所 | 製造業エンジニア・研究開発者のための研修/教育ソリューション

LEDが光る仕組み(1): 光と色と

Light-emitting diode - Wikipedia

応用物理 1999 年 68 巻 2 号 p. 133-138