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太陽電池:太陽による発電の仕組みと歩み

更新 2024-2-24

太陽電池(Solar cell、Photovoltaic cell)

太陽は、人類が半永久的に利用可能なエネルギー源です.絶え間なく降り注ぐエネルギーの 0.1% でも有効に利用できれば現代文明全てを賄えるとされ、太陽エネルギーは再生可能エネルギー源として非常に魅力的です.

現代文明で、最も太陽エネルギーを生かした装置といえば太陽電池です.

太陽光を直接電気エネルギーに変換可能な太陽電池は、普段の生活でもすっかりおなじみになりました.一軒家の屋根の上にソーラーパネルを見かけますし、電卓や時計にも太陽電池が使われています.有害な排出物なしに、置いておくだけで発電が可能な太陽電池は持続可能なエネルギー供給源としての注目がますます高まっています.

太陽電池は、「電池」と名前に付いていますが電気を貯める機能はなく、むしろ太陽エネルギーを電気エネルギーに変える「発電機」の役割をしています.英名も「solar battery」ではなく「solar cell」です.また、「太陽」電池という名前ですが、別に太陽がなくても発電は可能です.太陽電池搭載の時計や電卓は屋内でも動きますよね?太陽光を効率的に吸収できるよう設計されていますが、太陽光の大部分は可視光なので可視光を発する電灯やLEDでも発電は可能です.

太陽電池の材料としてはシリコンが有名ですが、近年では新型の太陽電池が次々と開発されています.今回は太陽電池について、その発展と仕組みを見ていきます.

太陽電池への歩み

太陽光は昼と夜を分かつものとして常に人類と共にありましたが、人類が初めて太陽光を能動的に使用したのはいつのことでしょうか.

太陽エネルギーの最初の利用は、集光して火を起こすことだったと考えられます.

古代では、宗教的な儀式に用いる松明に火を灯したり、太陽光を取り入れて部屋を暖かくするために太陽光線が用いられました.ローマ軍侵攻の際に、シラクサのアルキメデスが敵の木造船に光を集めて火を放った逸話は有名です.

一方、人類が太陽光を電気エネルギーとして活用するようになるのは大きく時代を下った後となります.

戦前の太陽電池

1839年、フランスの物理学者A. E. Becquerelは、電解液(塩化銀の溶液)中で白金電極に光を照射すると電流が発生することを発見しました.これ以降、光により起電力が発生する現象はベクレル効果と呼ばれるようになります.*1

その後、光の入射により電気伝導が変化する「光導電性」が1873年にSmithによって発見されました.

続いて1873年、AdamsとDayによってセレンと金属の点接触面における光起電力効果が報告されました.

1883年には、Frittによって面接触型の光起電力セルが開発されました.このセルはセレンに薄い金の膜を接合したもので、現在の太陽電池の元型となったものです.

当時はまだ太陽電池という呼ばれ方はしていませんでしたが、以下では太陽電池の呼び名で統一します.

太陽電池の発明

第二次世界大戦後、太陽電池開発の中心はアメリカのベル研究所でした.現在主流のシリコン太陽電池の発見に至るまでに、いくつかのブレークスルーがありました.

例えば、pn接合によるトランジスタの発明高純度シリコンやゲルマニウムの合成法の確立、ガスを用いた半導体へのドープ手法の開発などが挙げられます.

高性能のシリコンpn接合素子が開発されたことで、シリコン太陽電池の発見は必然的なものになりました.

1953年、ベル研究所のPearsonがシリコンpn接合素子に光を照射したところ、強い起電力が発生することを見出しました.このシリコンセルは従来のセレン型太陽電池の5倍もの起電力を示します.

Chapinはさらに改良を重ね、6%の変換効率を達成しました.

Pearson、Chapin、そして気相法によるドープ手法を開発したFullerの三人は共同で太陽電池を記者発表しました.この際、「Solar battery」という名前で発表したので、日本語訳は「太陽電池」となりました.英語圏ではその後「よく考えたらバッテリーじゃないよね」となって、「Solar cell」と呼ばれるようになりましたが、日本語ではそのままです.

(ところで、太陽電池の発明ってノーベル賞級だと思うんですが、受賞候補にはなっていなかったんですかね.今となっては、みな亡くなってしまいましたが…)

その後、現代に至るまで太陽電池の性能は改善され続け、変換効率は30%程度にまで向上しています.また、単結晶シリコンだけでなく、多結晶やアモルファスのシリコンを用いたセルも開発されました.

色素増感太陽電池有機薄膜太陽電池ペロブスカイト太陽電池など、新型の太陽電池も次々と開発されています.また、太陽光だけではなく、屋内の照明の波長に適した太陽電池も開発されました.

太陽電池の仕組み

シリコン太陽電池以外にも色々な種類がありますが、動作する原理はそれほど変わりません.最も一般的なシリコン太陽電池の仕組みを見ていきましょう.

まず、大前提としてシリコンは半導体であり、電子にはエネルギー的に占有できない禁制帯(バンドギャップ)が存在します.バンドギャップ直下のエネルギーバンドを価電子バンド、直上のものを伝導バンドと呼びます.

半導体にバンドギャップ以上のエネルギーの光を当てると、価電子バンドの電子が伝導バンドに遷移します.この時、伝導バンドに伝導可能な電子が生成し、同時に価電子バンドに正孔(ホール)が残されます.

この電子と正孔が移動することができれば電力が発生しますが、このままでは電子と正孔が引き合い、移動する間もなく再結合してしまいます.

電力を取り出すには何らかの工夫が必要です.

そこで、pn接合を用います.

pn接合は、電子が主要なキャリアであるn型のシリコンと、正孔が主流のp型シリコンを接合して作成します.すると、n型シリコンの電子とp型シリコンの正孔はそれぞれ引き合い、接合部付近に引き寄せられて平衡状態(空乏層の形成)になります.

その結果、n型半導体の接合部付近は正に帯電し、p型半導体の接合部付近は負に帯電します.こうして、接合部付近には図のように電場の勾配ができます.

太陽電池では、この接合部面に太陽光を照射します.何が起こるでしょうか.

まず、通常の半導体と同様に電子と正孔が生成されます.電場の勾配に従い、電子はn型シリコン側に、正孔はp型シリコンに向かって移動します.両極に導線をつなぐと、電子がn型シリコンから、正孔がp型シリコンから流れ込んで導通します.こうして、光によって生成したキャリアをうまく逆方向に分離することによって、電流が流れます.

p型とn型のシリコンを短絡させると、電流が最大となりますが、抵抗がゼロなので電位差はゼロになります.一方、開回路にすると、電流はゼロですが、電圧が最大の状態となります.間の抵抗を変えることによって、電圧と電流の値が変わり、その積が出力エネルギーとなります.

より高効率な太陽電池開発のためには、出力エネルギーが最大になる材料を選択する必要があります.

太陽電池の開発

太陽電池の効率を上げるためには、太陽光を効率よく電気エネルギーに変換する必要がありますが、単一の半導体を用いる限りでは変換効率はせいぜい30%程度です.

どうしてでしょうか.

太陽光には、様々な波長の光が混ざっています.地表に届くまでに、途中で酸素や窒素に吸収される分もあるので、太陽光のスペクトル分布は歪な形をしています.紫外線、可視光、赤外線などが含まれますが、その大部分は可視光線です.可視光とは、1.8〜3.2 eVのエネルギーに相当します(1 eVは電子1個が持つエネルギー).波長に換算すれば、400〜700 nmの領域です.

半導体に光を照射した時、バンドギャップ以下のエネルギーの光は、電子を伝導バンドに押し上げる力がないので、半導体を素通りします.一方、大きすぎるエネルギーを持つ光の場合は、電子を伝導バンドの上まで押し上げます.しかし、一瞬で伝導バンドの底に落ち、差分のエネルギーは熱として放出します.

つまり、必要以上に大きなエネルギーの光を与えても、電気エネルギーとして利用可能なのはバンドギャップ以下のエネルギーに限られます.効率よく電気エネルギーを取り出すには、いかにバンドギャップに近いエネルギーの光を用いるかがポイントになります.

以上の知見を元に、バンドギャップがいくつのときに変換効率がいくつか算出することが可能です.計算結果を下図に示します.

結果を見ると、1.3 eV程度のバンドギャップを持つときに変換効率が最大値30%に達することが分かります.シリコンはバンドギャップが理想値に近く、加工がしやすく、資源が豊富なので、太陽電池材料としてはうってつけの存在でした.

このままでは変換効率は頭打ちですが、二種類以上の半導体を組み合わせて変換効率を上げる試みもされています.例えば、入射光をバンドギャップの大きめの半導体に吸収させ、吸収しきれなかった光を別の半導体に吸収させれば、光のエネルギーを効率よく使用できます.

実際に複数の半導体を利用したタンデムセルや、光吸収に色素を別に用いる色素増感太陽電池が開発されています.

代表的な太陽電池材料

シリコン太陽電池は代表的な太陽電池であり、稼働中の太陽電池全体の9割以上を占めていますが、欠点もいくつか存在します.例えば、シリコン基板に用いるインゴットは1500 ℃以上の高温で溶融する必要があります.超超高純度である必要があるため合成に手間がかかり、基本的に高価です.

原料のシリコンは安いのにね.

また、シリコン半導体はコンピュータ等への使用とも駒を奪い合うので、昨今の半導体不足のあおりをモロに受けます.

そんなわけでシリコンに頼り切るのは難しいので、新しい太陽電池材料が続々と開発されています.以下では、その一例を紹介します.

アモルファスシリコン

通常、太陽電池に使用されるシリコンは結晶性であり、99.9999999以上の純度のものを使用します.結晶性シリコンは太陽エネルギーの変換効率は高いものの、高価で生産効率に難があります.

特定の結晶構造を持たないアモルファス(非晶質)シリコンはガラス基板中に薄く堆積して作成可能なので、コストを抑えることが可能です.一方で、欠陥が多く含まれるため変換効率が結晶性のものには及びません.

色素増感太陽電池(Dye-sensitized Solar Cell)

色素増感太陽電池は、半導体の光電気化学反応の色素増感により外部回路に電力を取り出すことの可能な太陽電池です.光触媒として有名な酸化チタンに色素を吸着させることにより効率的に太陽光線を吸収させることができます.また.色素を用いることからカラフルな太陽電池を作成することが可能です.

有機薄膜太陽電池(Organic solar cell)

有機薄膜太陽電池は、有機化合物を主な構成要素とした太陽電池です.電子豊富な有機材料と電子不足な有機材料の接合により形成される光活性層を電極で挟んだ構造を有します.有機化合物を用いるので軽量・柔軟であり、材料費が安く、塗布による印刷工程での作成が可能です.

一方で、変換効率と安定性はシリコン太陽電池に及びません.

ペロブスカイト太陽電池(Perovskite solar cell)

今まさにブレークスルーが起こっている真っ最中の材料がペロブスカイト太陽電池です.ペロブスカイト型構造を有する \rm{(CH_3NH_3)PbI_3}薄膜を用いた太陽電池は、微結晶の集合体であるにも関わらず吸収効率が高く、欠陥が少なく高品質の太陽電池を作成することが可能です.

一方で、材料の安定性や \rm{Pb}の毒性に懸念があり、世界中で爆発的に材料開発が行われています.

CuInSe2

 \rm{CuInSe_2}は高い吸収係数を示すカルコパイライト型の半導体です. \rm{Ga} \rm{In}サイトに置換することにより、バンドギャップを 1 eV から 1.7 eV まで制御することが可能です.薄膜でも太陽光を十分に吸収できることから薄膜太陽電池材料として優れます.

一方で、 \rm{In} \rm{Ga}が高価な元素であるとともに、組成比の制御と残留欠陥濃度の制御が難しいとされています. \rm{CdTe}も似た性能を示しますが、 \rm{Cd}の毒性のため特に日本では使用が忌避されています.

まとめ

持続的な開発目標にとって、無尽蔵な太陽エネルギーを無制限に利用可能な太陽電池の高効率化が重要です.

一方で、太陽電池は製造・加工に手間がかかり、高価な金属を使用するため、製造コストをペイするまでに数年かかります.確かに発電の際に二酸化炭素は排出しませんが、製造過程で二酸化炭素の排出があります.卓上用としてはこの上なく便利なのですが、火力発電などのインフラに取って代わるにはまだ時間が必要そうです.

既存のシリコン太陽電池はそろそろ発電効率の理論限界を迎えますが、ペロブスカイト太陽電池をはじめとした新しい材料が近年続々と発見されており、再生エネルギー利用拡大のための研究開発が大規模に進められています.

参考文献

化学と教育 2013 年 61 巻 5 号 p. 224-227

化学と教育 2001 年 49 巻 3 号 p. 142-144

化学と教育 1993 年 41 巻 5 号 p. 317-321

応用物理 2013 年 82 巻 2 号 p. 163-166

応用物理 2013 年 82 巻 1 号 p. 69-72

応用物理 2013 年 82 巻 3 号 p. 264-267

*1:なお、放射線の発見で有名なA. H. Becquerelは彼の息子です.