更新 2024-3-3
ナトリウム硫黄電池(Sodium-sulfur batteries)
電力の特徴として、「貯めておくことが難しい」ことが挙げられます.発電所で得られた電力はそのまま送電され、家庭や各種施設に届けられます.穫れたて新鮮な電力が届くのは喜ばしい(?)かもしれませんが、このままでは不便もあります.余った電力は捨ててしまうほかないので非効率であり、資源の無駄遣いにもつながります.
不要なときに電気を貯蔵し、必要なときに取り出すことができれば、もっと効率的に電気を利用することができるはずです.
電気の貯蔵は難しいですが、不可能ではありません.
電池は、化学エネルギーの形で電気エネルギーを蓄えることの可能なデバイスです.昨今では容量の大きなリチウムイオン電池が市場にあり、これを用いて電力を貯蔵したいところですが、簡単な話ではありません.リチウムイオン電池に含まれる有機電解液は燃えやすく安全性に問題があり、またリチウムも希少かつ高価な金属であるので、発電所の電力を貯蔵するほど大型化すれば天文学的なコストが必要になります.
代わって注目されたのがナトリウムを用いた電池です.ナトリウムは海中に塩として含まれているように資源的に豊富で、リチウムに匹敵する電極電位を示すことから高出力の電池が作成可能です.このような考えのもと生まれたのが、ナトリウムと硫黄を組み合わせた電池であるナトリウム硫黄電池です.
今回は、電力貯蔵の切り札と目されるナトリウム硫黄電池について見ていきます.
ナトリウム硫黄電池の動作原理
ナトリウム硫黄電池は、1967年にアメリカのフォード社によって基本的な動作原理が提唱されました.その後、世界的な研究開発を経て、日本ガイシ㈱と東京電力㈱の共同開発によって2002年に事業化されました.大電力・大容量貯蔵用の定置型蓄電池であり、日本ガイシ㈱の登録商標であるNAS電池の名で知られます.
NAS電池は、電極にナトリウムおよび硫黄、電解質にβ-アルミナが使用されます.電極はいずれも溶融状態であり、ナトリウムイオンの伝導度を高めるために300 ℃程度の高温で作動させます.
出力電位は2~1.7 V程度で、リチウムイオン電池よりは低いものの充分な値を示します.近年では、常温で動作するNAS電池も開発が進展しています.
NAS電池での電極反応は、以下のようになっています.
すなわち、負極の溶融ナトリウムは電解質(β-アルミナ)界面で酸化され、となって正極に移動し、正極ではが硫黄に取り込まれて硫黄が還元されて硫化物が生成します.
一方、充電反応は以下のとおりです.
すなわち、正極のナトリウム硫化物が酸化されてが生成して電解質(β-アルミナ)を通って負極に移動し、負極ではが還元されて単体ナトリウムを生成します.
セルは円筒形に作成され、内側が腐食しないようにクロムやモリブデンで保護された鋼鉄で覆われています.容器は空気が混入しないようにアルミナ製の蓋で密閉されます.
ナトリウム硫黄電池の性能
ナトリウムと硫黄はいずれも安価・無毒かつ資源的に豊富であるため、大量生産に適しています.一方で、硫化ナトリウムの腐食性や高い動作温度の問題から、家庭用には適さず、主に大規模な定置型の縁ネルギー貯蔵デバイスとして用いられます.大型化によって相対的な(単位体積あたりの)熱損失を減少させることが可能です.
ナトリウム硫黄電池の特徴として、以下のような長所が挙げられています.
・鉛蓄電池の3倍に迫る大エネルギー密度
・高速応答性
・長寿命
・自己放電しにくいことによる高い充放電効率
一方で、以下のような欠点も指摘されています.
・ナトリウムは空気と反応して燃えやすく、かつ水とも反応するので通常の消化器が使用できないこと
まとめ
電気の需要が増え続けるばかりですが、無尽蔵に発電しても使い切れるとは限りません.ピーク時の需要に合わせていたら夜間などの電気が余ってしまいますが、かといって生産を止めれば緊急事態に電力が足りなくなる憂き目に遭います.
可能なソリューションは、電気を貯蔵して必要なときに必要な分を取り出すことです.大規模な電力の貯蔵に向けて開発されたのがナトリウムイオン電池であり、各種電気事業者での利用が進められました.動作に高温が必要なことがネックでしたが、近年では常温で利用可能な新しいナトリウム硫黄電池が開発されています.
参考文献
ナトリウム硫黄電池の仕組みとは?- これからの電気は貯めて使う!- |テクの雑学|TDK Techno Magazine
Electrochemistry 2017 年 85 巻 6 号 p. 342-346
日本エネルギー学会機関誌えねるみくす 2018 年 97 巻 4 号 p. 352-357