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テルミット反応:炎とともに起こる酸化還元反応

Thermite reaction

テルミット反応 (テルミット法、Thermite reaction, Thermite process)

化学をいくら学んでも、講義室の中ではなかなかイメージをつかみにくいものです.「こんな反応が何の役に立つのだろう」と思うことは多いものの、教師側としても化学反応を教室で実演することは難しく、大抵の化学反応は視覚的には地味で面白みに欠けます.

一方で、今回の主役であるテルミット反応は、応用上役に立つだけでなく視覚的にも面白い反応です.

テルミット反応は、金属と金属酸化物の混合物(テルミット、サーマイト) を用いて、時に爆発的な発光と発熱を生みながら酸化還元を起こす化学反応です.

これにより、原料の金属の酸化物を生成すると同時に、酸化物を還元して純粋な金属を作り出します.金属の精錬や爆薬、花火の起爆装置に用いられるほか、手軽に視覚的な化学反応を起こせることから初等教育向けの教材としてもよく使用され ます.

今回は、テルミット反応の姿とともに、意外にも複雑な反応プロセスについて見ていきます.

テルミット反応と反応機構

まずは実際のテルミット反応を見てみましょう.

テルミット反応は、ドイツの化学者であるHans Goldschmidtによって発見されました.そのため、Goldschmidt反応 (ゴールドシュミット反応)と呼ばれることもあります.当初は純粋な金属単体を得る意図だったようですが、やがて溶接目的で使用されることになります.

テルミット反応は下記のような一般式で記述されます.

  M + A\rm{O} → M\rm{O} + A + ΔΗ

ここで、MAは金属元素、M\rm{O}A\rm{O}は対応する金属酸化物、ΔHは反応熱を示します.

Mとしてよく用いられるのは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛などです.反応の前後で酸化されるため、より酸化されやすい元素が求められます.一方、Aとしてはビスマス、鉄、クロム、マンガンなどの可能性があり、還元されやすい金属元素であることが 求められます.使用される酸化物はAによって様々で、\rm{Fe_3O_4}\rm{Cr_2O_3}\rm{SiO_2}などが使用されます.これら金属と酸化物の混合物を指してテルミット (サーミット) と呼びます.

どのような元素の組み合わせであればテルミット反応が進行するかは、エリンガム図を見れば予想がつけられます.互いの元素の酸素に対する親和力の差によって反応性が決まり、エネルギー差が大きいほど反応熱も大きくなります.

最も有名なテルミット反応はアルミニウムと鉄の組み合わせで、下式のように進行するとされます.

  \rm{Fe_2O_3+2Al→2Fe+Al_2O_3}

特にアルミニウムが出発原料として使用されることが多いですが、これにはいくつか理由があります.

まず、アルミニウムは軽く安価、 かつ安全性が高く扱いやすい金属であることが挙げられます.また、融点が低いため酸化物との反応面積が大きく、一方で沸点が高いた め沸騰でエネルギーを消耗することなく十分高温まで反応を進行させることができます.

テルミット反応は、原料を混ぜ合わせただけでは通常進行せず、加熱か機械的な刺激が必要になります.反応温度に達すると非常に激しい発熱反応が起こり、系は極めて高温(2500℃以上)まで加熱されます.発熱反応であるため、試料のどこかで局所的に始まった反応が別の場所での反応を促進し、温度が短時間で急上昇して一気に反応が進行します.発熱とともに激しい発光が起こり、時として爆発 のようにも見えます.

テルミット反応では反応に酸素を必要としません.酸素は原料の酸化物から自動的に供給されるため、水中であろうが真空中であろうが発火します.そのため、少しの水をかけただけでは反応は止まらず、十分な量の水に沈めて系の温度を冷やす必要があります.

また、予想されるように原料の表面積が大きくなるほど反応性が増します.すなわち、原料粉末の粒径を小さくすることで爆発力が向上 します.これを突き詰めてナノ粒子を用いたナノテルミットは爆発物として使用されます.

より詳しい反応機構

テルミット反応は一瞬で進行し一瞬で終了するプロセスであるため、反応機構を追跡することが困難です.それでも、種々の分析法によ ってテルミット反応の機構が部分的に明らかになっています.

全体の反応は下式であるとされますが、実際にはもっと複雑なことが起こっているようです.

  \rm{Fe_2O_3+2Al→2Fe+Al_2O_3}

例えば、J. Mei らによる1999年の報告では、反応前後のX線回折測定(XRD)や走査型電子顕微鏡 (SEM) により、アルミニウムと鉄酸化物のテルミット反応が二段階で起こっていることが分かりました.曰く、これらの発熱反応は960℃と1060℃の二点で起こります.

960℃の発熱反応では、原料の一部が反応しますが、鉄の酸化数が変わるだけでまだ鉄の単体は生成しません.アルミニウムは一部のみ消化されますが、大多数は単体のまま残り、すでに融点を超えているため液体状態です.

  \rm{9Fe_2O_3+2Al→6Fe_3O_4 + Al_2O_3}

一方、1060℃ではさらに反応が進行し、鉄単体が生成するとともに別反応で\rm{FeAl_2O_4}が生成します.

  \rm{Fe_2O_3+2Al→Al_2O_3 + 2Fe}
  \rm{3Fe_2O_3+2Al→5FeO + FeAl_2O_4}

実際、この報告では最終生成物に \rm{FeAl_2O_4}が含まれています.

2007年には、XRD とメスバウアー法を用いたより詳細な報告がありました.ここでは、テルミット反応は以下のプロセスで起こると結論付けられています.

(1) 加熱により原料の\rm{Fe_2O_3}から酸素が脱離することで還元される.

  \rm{3Fe_2O_3 → 2Fe_3O_4 + \frac{1}{2}O_2}

  \rm{Fe_2O_3 → 2FeO + \frac{1}{2} O_2}

(2) 前ステップで生成した酸素が溶融したあるいは蒸発したアルミニウムと反応.

  \rm{2Al+\frac{3}{2}O_2 → Al_2O_3}

(3) 鉄酸化物とアルミニウム化合物の反応により\rm{FeAl_2O_4}が生成.

  \rm{FeO + Al_2O_3 → FeAl_2O_4}

  \rm{\frac{1}{2} Fe_3O_4+Al → Fe + \frac{1}{2} FeAl_2O_4}

  \rm{2FeO+Al → \frac{3}{2} Fe + \frac{1}{2} FeAl_2O_4}

(4) 生成した\rm{FeAl_2O_4}がそのまま残るか、\rm{Al}とさらに反応して\rm{Fe}が生成.

  \rm{\frac{1}{2} FeAl_2O_4 + \frac{1}{3} Al → \frac{1}{2} Fe + \frac{2}{3} Al_2O_3}

いずれにしても\rm{FeAl_2O_4}は反応の中間体として生成するようです.

テルミット反応の利用

テルミット反応は産業的に重要な反応です.酸化還元反応によって局所的に極めて大きな熱量を作り出すことができるので、金属の切断 や溶接に使用することができます.大きな設備を使用することなく現場で作業を行えることから、電車レールや機関車の車軸フレームなどの溶接・切断で用いられます.また、ウランなどの酸化物の精錬でも有用です.

激しい高温と発光を起こすため、爆発物や焼夷弾にも使用されます.単独では炎を出さず影響範囲も小さいため、他の発火物と組み合わせて使用するようです.当然、表面積の大きいナノテルミットを使用した方が爆発力は上がります.

また、手軽に実施でき、爆発や発光など視覚的に刺激的であるため、テルミット反応は初等教育で化学反応の実演としても人気があります.

まとめ

テルミット反応は、全体の反応式を見れば、酸化還元反応のお手本とも言えるくらいシンプルな反応です.その上で、単に粉末を熱するだけで激しい発光と爆発が起こることから、化学反応がいかに非自明で恐るべきものであるかを教える教材となります.一方で、鉄を溶断するほどの発熱を起こし、ナノテルミットに至っては兵器としても利用されるほどの爆発力を示します.化学反応の面白さを教えるとともに、使い方を間違えれば破壊兵器となりうる化学の恐ろしさを教える存在であるかもしれません.

参考文献

Mei, J., R. D. Halldearn, and P. Xiao. "Mechanisms of the aluminium-iron oxide thermite reaction." Scripta Materialia 41.5 (1999): 541-548.

Matteazzi, Paolo, and Gerard Le Caër. "Synthesis of Nanocrystalline Alumina–Metal Composites by Room‐Temperature Ball‐Milling of Metal Oxides and Aluminum." Journal of the American Ceramic Society 75.10 (1992): 2749-2755.

Durães, Luísa, et al. "Fe2O3/aluminum thermite reaction intermediate and final products characterization." Materials Science and Engineering: A 465.1-2 (2007): 199-210.