はじめよう固体の科学

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金属(導体)と絶縁体と半導体の違い:エネルギーバンドと電子の動き

更新 2024-2-23

金属(導体)と絶縁体と半導体(Metal, Insulator, Semiconductor)

物質を分類する方法は多岐にわたりますが、一つの方法は電気抵抗の大きさで区分することです.電気抵抗は電子の流れにくさを表す指標で、物質に応じて数十桁におよぶ違いがあります.

電気抵抗率の大きい物質を絶縁体と呼び、電気抵抗の小さい物質を金属(導体)と呼びます.大きい小さいというのは程度の問題で、極端に大きな電圧をかければ絶縁体も電気を流します*1

電気抵抗が絶縁体と金属の間にある物質を半導体と呼ぶ場合があります.しかし、半導体は電気抵抗の大きいものから小さいものまで存在するので、この定義では不十分です.電気抵抗の大きさの閾値も明確でなく、もっと別の定義が必要です.

さらに分類法を掘り下げるには、エネルギーバンド(energy band)の概念を導入する必要があります.

バンド(band)とは「バンドエイド」のバンドでもあり、「ガールズバンド」のバンドでもあります.すなわち、何かを縛るものという意味と、何らかの集団という意味があります.エネルギーバンドの「バンド」は、物質中において「ある範囲のエネルギーを持つ」電子の集団を意味します.同じ価値観を持った若者達が音楽バンドを組むのと似ていますね(何を言ってるんだ).

エネルギーバンドと金属(導体)・絶縁体

原子は原子核と電子から構成されています.原子中に存在する電子は、勝手なエネルギーをとることができず、とびとびの値のエネルギーしかとれません.このとびとびのエネルギーをエネルギー準位と呼びます.

エネルギー準位には決まった数の電子しか入ることができません.電子は低いエネルギーを持つ準位から順番に詰まっていき、ちょうど原子の持つ電子の数だけ電子を詰めると、それ以上の準位は空席のまま取り残されます.

固体のようにたくさんの原子が集まった物質では、これらのエネルギー準位が隣り合う原子の影響によって重なり合い、ある程度の幅を持つようになります.ある程度のエネルギー幅を持った準位の集まりをバンドと呼びます.

バンドとバンドの間には電子が入ることのできない禁制帯があり、このエネルギー幅をバンドギャップと呼びます.電子が詰まっている中で最高のエネルギーを持つバンドを価電子バンド(Valence band)、そのひとつ上のバンドを伝導バンド(Conduction band)と呼びます.

以上の事実は成書を参照してもらうか受け入れてもらうこととして、話を進めます.

 

絶縁体と金属の違いは、バンドに詰まっている電子の状態を見れば明確です.金属における電子はバンドの途中まで占有していて、それより上の準位は空席になっています.一方、絶縁体ではバンドの一番上まで全て電子が詰まっています.

固体中を電子が動く(伝導する)ためには、外部から電気エネルギーをもらって電子に運動してもらう必要があります.金属では無限小のエネルギーですぐ上の準位に移ることができるので、電子がエネルギーを受け取ることで運動が可能です.

一方、絶縁体ではひとつ上の準位がバンドギャップを挟んではるか上にあるため、生半可な電圧では電子にエネルギーを与えることができません.このため、金属は電子をよく流しますが、絶縁体は電気を流しません.このような理由で絶縁体の電気抵抗は金属のものよりも非常に大きくなります.

エネルギーバンドと半導体

では、半導体は?

半導体のバンド構造を見ると、一見では絶縁体と変わらないように見えます.価電子バンドは全て電子に占有されていて、価電子バンドは空です.

しかし、半導体ではバンドギャップが絶縁体と比べて狭いという特徴があります.このため、価電子バンドの電子は熱や光によって容易に伝導バンドに遷移することができます.

伝導バンドに移った電子はすぐ上が空席になっているため電気伝導が可能です.また、価電子バンドに残された電子から見ても、空席ができるため、この空席を通して電子が移動できます.この空席を正孔(ホール)と呼びます.

エネルギーバンドと金属(導体)・絶縁体・半導体

以上をまとめると、

金属(導体)はバンドギャップのない物質

絶縁体はバンドギャップのある物質

・絶縁体のうち、バンドギャップが狭い物質を半導体と呼ぶ.

電子が入っている中で最も高いエネルギーを持つ準位をフェルミ準位と呼び、絶縁体および半導体ではバンドギャップの中間地点がフェルミ準位と定義されます.

これによって、絶縁体および半導体は、金属とは明確に区別されることが分かります.しかし、絶縁体と半導体を区別するにあたってはまだ「バンドギャップが狭い」の閾値があいまいです.

一説には、室温程度の温度で価電子帯の電子が伝導バンドに移ることが可能な物質を半導体と呼ぶそうです.あるいはバンドギャップの大きさによって区別され、4~5 eV程度以上のものを絶縁体、それ以下を半導体と呼ぶことがありますが、閾値は明確でありません.

半導体の定義とは

以上の説明では、半導体は常温ではある程度の電気が流れると思ってしまいます.しかし、昨今は電気が全く流れないにも関わらず、半導体を名乗る輩が登場しています.

ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれる材料は、その名の通り広いバンドギャップを持つにも関わらず半導体を名乗ります.代表例である\rm{SiC}\rm{GaN}は透明な結晶で、電気は流れそうもありません.さらには、絶縁体の代表格であったダイヤモンドまで半導体に区分されることがあります.

もはや半導体とは何なのでしょうか.思うに、半導体であるかどうかを決定するのは「ドーピングによって伝導度を制御できるか否か」であるように感じます.実際、実用化されている全ての「半導体と名乗る物質」は、ドーピングが可能です.

では、ドーピングとは何でしょう?

一言で述べるのは難しいですが、ドーピングによって伝導度を上げたり下げたり、キャリアの符号を変えたりすることができます.現在では絶縁体に区分されている物質でも、ドーピングができるようになった瞬間に半導体と呼ばれることでしょう.

ドーピングについては、「半導体」の項目で説明します.

まとめ

電子の流れやすさは物質によって桁違いに大きな差があります.伝導性の高い金属は 10^{-10} Ωcmの抵抗率を示す一方、絶縁体では 10^{22} Ωcmにまでおよびます.その違いは、なんと1溝( 10^{32})倍.宇宙の広さが原子核の大きさのおよそ1溝倍と考えると、机の上に収まるスケールにこれだけスケールの違う性質のものが並べるというのが驚きです(でしょ?).

これだけのスケールのものを自在にコントロールすることによって現代の電気文明が成り立っています.

参考文献

化学教育 1966 年 14 巻 4 号 p. 371-375

化学と教育 2008 年 56 巻 12 号 p. 610-611

*1:その前に絶縁破壊かイオン伝導を起こしそうですが