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太陽電池以外でのハライドペロブスカイトの活躍

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイトとは鉱物の名前であり、その鉱物の結晶構造を指してもペロブスカイトと呼びます.チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)をはじめとした酸化物材料が特に有名であり、誘電体やイオン伝導体、触媒材料として様々な分野でペロブスカイトが活躍しています.

そして、今となってはペロブスカイトで最も有名な用途が太陽電池です.

「ペロブスカイト太陽電池」の名前を至るところで聞くようになりました.太陽電池で使用されるペロブスカイトは酸化物ではなく、ヨウ素などのハロゲン元素を使用したハライド化合物です.既にシリコン太陽電池や既存の太陽電池を上回るエネルギー変換効率を示しており、他のメリットと合わせて将来的な工業的応用が確実視されています.

「ペロブスカイトと言えば酸化物」という風潮が消え失せた現状に昔ながらのセラミックス屋さんは不満顔.「ペロブスカイトは太陽電池の名前ではない」と火消しに廻る人もいますが、残念ながらもう太陽電池のほうが市民権を得てしまっています.

ペロブスカイト構造およびペロブスカイト太陽電池については以前の記事を参照してください.ペロブスカイト構造を持つ物質はいずれもABX_3の組成を持ち、ABはカチオン、Xはアニオンです.

ペロブスカイト太陽電池において、ペロブスカイトは太陽光を吸収する役割を果たします.ペロブスカイトが太陽電池材料として優れている点として、光吸収力や軽量性、安価かつ容易に作製可能な点が挙げられます.一方で、手放しで実用化できるものではなく、大型化した際の効率の問題や毒性・安定性の問題の解決が必要です.

いずれにしてもペロブスカイト太陽電池の研究は世界的に爆裂な勢いで進行しており、全ての文献に目を通すのは不可能な程度に大量の研究論文が発表されています.そうした中で、ペロブスカイトの太陽電池以外への用途にも注目がされるようになりました.

そもそも、ペロブスカイトは抜群の光特性を示します.組成に応じてバンドギャップを調整可能で電荷の動きやすさにも優れます.このような特性は太陽電池だけでなく、その他の光学デバイスにとっても魅力的です.さらに、作製が容易なペロブスカイトの特徴と相まって、様々な応用先が見つかることは必然でした.

太陽電池以外の用途の可能性として、大きく発光デバイス(LED、レーザーなど)およびセンサー材料という方向性があります.いずれも実用化にはまだ壁がありますが、太陽電池分野における驚異的な研究の進展を考えると、これらの分野でも実用化が見えてくる可能性は高いです.

今回は、太陽電池だけではない、ペロブスカイトの新しい研究分野の進展について紹介します.

ペロブスカイトと発光ダイオード(LED)

発光ダイオードについては過去の記事を参照してください.簡単に言えば、何層か接合した半導体に電圧をかけることで電気エネルギーが光エネルギーに変換し、強い光を発するようなデバイスです.エネルギー変換効率に優れることから、蛍光灯や白熱電球を置き換える「第四の光源」として普及しています.

LEDとして実用化する上で重要なファクターは以下の二点です.

・高いエネルギー変換効率
・長時間使用できるような安定性

LEDでは物質に電圧をかけることで放出される電子と正孔(ホール)が再結合することで発光し、その光エネルギー(色)は半導体のバンドギャップによって決まります.

LEDをいくつか組み合わせることで白色光を作り出すことが可能ですが、現在使用されている材料では各色によって発光効率がまちまちです.

赤色や、青色発光ダイオードの台頭による青・紫色の発光の効率は100%近いですが、間のエネルギーを持つ緑色では発光効率が十分に高くありません.これは「Green-gap」と呼ばれます.有機LEDの発明によってLED材料の選択肢は増えたものの、狙いの色の発光を示す材料を求めてまだまだ物質開発は必要です.

ペロブスカイトを用いたLED(PeLED)は2014年に初めて報告されました.その後、PeLEDの研究が進展し、高い量子収率、小さなストークスシフト、優れた色品質、速い応答時間、低い動作電圧、優れた輝度などの魅力的な特性を兼ね備えていることが示されました.

PeLED の効率を向上させるための戦略がいくつか提案されており、(1)物質の次元性の制御と(2)ペロブスカイトナノ結晶のコロイド合成の2種類に大別することができます.いずれにしても、変換効率と安定性を優れたものにするための研究は欠かせません.

ペロブスカイトとレーザー

レーザーダイオードは位相の揃った高輝度の光を放出することが可能です.自然放出に基づく発光ダイオードとは異なり、レーザーは外部刺激による誘導放出によって動作します.これにより、レーザーからは非常に指向性が高い光が発し、ほとんど広がることなく一直線に進みます.

レーザーの構成要素として、光共振器(キャビティ)、励起システム、放射を増幅するためのレーザー利得媒体が挙げられます.励起装置は、光学的または電気的な原理に基づくもので、ターゲットの励起に必要です.

レーザーダイオードの利得媒体として使用される材料として、ガリウムヒ素 (\rm{GaAs})やインジウムガリウムリン (\rm{InGaP}) があります.ペロブスカイトは、他の既存材料と比べて低コスト、優れたキャリア移動度、小さなジュール熱などの利点を持ちます.

ペロブスカイトとセンサー

センサーは、何らかの刺激に対応した信号を出すことで刺激があったことを教えてくれます.例えば、自動ドアのセンダーは赤外線が遮られることでドアの前に人がいることを感知します.

センサー材料として採用されるには、高感度、高速応答/回復時間、電気または光信号の低ヒステリシスなどの厳しい品質基準を満たさなくてはなりません.

これまで、金属酸化物、グラフェン複合体、フォトニック結晶、高分子材料など、様々な半導体がセンサーとして利用されてきました.しかし、合成手順が複雑であること、動作範囲が狭いこと、感度が低いことなどの問題により用途が限られています.

ペロブスカイト材料は、加工が容易で、優れた光電子特性を持ち、様々なガスや元素に対して高い感度を持つことからセンサー材料として有望です.

湿度センサー

湿度センサーは、食品・気候・農業分野などの分野で必須のデバイスです.

セラミックベースの湿度センサーは高感度かつ高い物理的・化学的安定性を示すことから長らく利用されてきましたが、広い湿度範囲における線形性の低さや水分子の化学吸着などの課題が残されていました.

代わって、ペロブスカイト材料は様々な湿度範囲を感知する新しい湿度センサーとして有望です.

ハライドペロブスカイトの構造は有機物質由来の領域と無機物質由来の領域に分けられ、お互いがイオン結合によって結びついています.湿気中では水分子はペロブスカイト中の有機分子領域を占め、物理・化学的性質を変化させます.

湿気およびそれに伴う形態変化により電気抵抗が減少することが示されており、これにより湿度センサーとしての可能性が見出されました.この電気抵抗の変化は可逆的であり、ヒステリシスも小さく抑えられています.湿度による形態変化は電気抵抗だけではなく、静電容量や発光特性にも影響するため、様々な仕組みによる湿度センサーを作製可能です.

しかし、またしても安定性と毒性が課題となっています.湿度への暴露時間が長くなると分解してしまいますし、材料に含まれる鉛などの重金属はできれば使用したくはありません.鉛以外の元素を使用したペロブスカイトの開発や、表面を不動態で修飾することでこれらの問題を解決する道が模索されています.

温度センサー

温度計をはじめ、温度センサーは日常生活や産業のあらゆる分野で出番があります.温度センサーはセンサーの中でも特に大きなシェアを持ち、世界のセンサー市場の7割以上を占めてます.従来の温度センサーとしては、液封ガラス温度計のほか、熱電対が挙げられます.

しかし、これらの温度計は媒体及び電源に接触する必要があり、生体内の温度を監視する用途には使用できません.代わって、発光によって温度変化を伝える光温度センサーが発展してきました.さらに用途を広げるためには、光温度センサーの空間分解能や材料依存性を向上させる必要があります.

ペロブスカイト材料には、温度によって光学的・電子的性質が大きく変化するものがあります.例えば、\rm{CsPbBr_3}ペロブスカイトは室温では黄色ですが403 K以上では黒い相に変化します.この転移に伴って光学特性が大きく変わるため、温度センサーとして活用可能です.

既に、優れた可逆サイクル特性や広い温度範囲での感度を備えたペロブスカイト材料が実証されており、温度センサーとしての道が拓かれています.

ガスセンサー

ガスセンサー(ガス検知器)は、異なる種類のガスを識別するために使用され、有毒ガスや爆発性ガスの検知などに用いられます.理想的なガスセンサーには、高い感度と選択性、高速応答性と長期安定性を備え、室温で動作することが求められますが、従来のガスセンサーでは高温でしか動作しない酸化物系半導体材料が使用されてきました.

ペロブスカイト材料は、ガスセンサー開発においても注目されている材料です.既に、アンモニア(\rm{NH_3})や酸素ガス(\rm{O_2})、オゾンガス(\rm{O_3})、塩酸(\rm{HCl})などについて、ガスセンサーとしての実証が行われています.

その他の用途

その他、宇宙線やガンマ線の検出、サーモクロミックデバイス、データストレージなどの分野でもペロブスカイトの応用が期待されています

まとめ

ペロブスカイト太陽電池が有名ですが、ペロブスカイトの用途は太陽電池だけではありません.そもそも、ハライドペロブスカイトが有名になる遥か昔からペロブスカイトは「機能の宝庫」と呼ばれ、あらゆる産業分野の発展を促してきました.そう考えると、ペロブスカイトに太陽電池の用途しか無いと考えるほうが間違いでしょう.ハライドに分野を移してもなお、ペロブスカイトは多種多様な応用先を見出しているようです.

ハライドにペロブスカイトは光特性に優れ、作製が安価・容易であるという点も実用化に有利です.一方で、安定性と毒性の問題は重くのしかかります.一昔前であれば多少の毒性があっても特性が優れていればそこまで問題なく使用されていたでしょうが、環境問題が一大トピックの現代社会でそれは許されません.本格的な産業利用にはあと一歩のブレークスルーが必要とされています.

参考文献

Aranda, Clara A., et al. "Perovskites: weaving a network of knowledge beyond photovoltaics." Journal of Materials Chemistry A 10.37 (2022): 19046-19066.